54 この世のモノとは思えない

 密着状態を楽しんだ僕と遥花は、少しばかり遅れて風紀委員の部屋にやって来た。


 遥花がコンコンとノックをして入る。


「失礼します、2年B組の橘遥花ですが」


 僕も一緒に入ると、その部屋には二人の女子がいた。


 一人はロングヘアーのいかにも優等生な少女。


 そしてもう一人は、小柄でショートヘアの少女だ。


 彼女たちはしばし、重い沈黙を守っていた。


「あの、一体何の用であたしを……」


「……何をしていたの?」


「はい?」


 遥花は軽く眉根を寄せて聞き返す。


「風紀委員長たるこの私の呼び出しを無視しようとしたの?」


「いやいや、そんなことはしないよ」


「じゃあ、何で遅れたの? まあ、正当な理由であれば私も鬼ではないから……」


「彼氏とエッチなことをしていました」


 室内にまた沈黙が訪れる。


「……ごめんなさい、よく聞こえなかったわ」


「だから、彼氏とエッチなことをしていたんです。ちなみに、今あたしの隣にいる彼がそうなの♡」


「は、遥花」


 遥花は頬を赤らめてご満悦な顔をしている。


 一方、デスク腰を下ろしている風紀委員長さまはメラメラと静かに怒りの炎を燃やしていた。


「ふ、ふふ……この私の呼び出しを食らっておきながら、彼氏とイチャつき、しかも遅刻をしても一切悪びれないなんて……橘遥花さん、あなたやっぱりとんでもないヤンキーなんじゃないの?」


「違うもん! あたしはハーフなの!」


 遥花は言う。


 強めに言葉を発したせいか、胸がブルンと揺れた。


「わっ、すごい」


 風紀委員長のそばに控えていた小柄な女子が思わず声を漏らす。


「くっ、何と忌まわしい……」


「れ、麗子さんドンマイです。胸が小さくても、麗子さんだって魅了的です!」


「このおバカ娘!」


「あいた!」


 何やら目の前で息の合ったコントを見せつけられる。


「あの、大した用が無いならもう帰っても良いかな? あたし、もっと幸雄とエッチなことがしたいの」


「ふん、その溢れんばかりの性欲……『新世紀のエロテロリスト』の異名は伊達じゃないよね」


「えっ、それってあたしのこと? 何か照れるなぁ」


「ぐっ……これだから巨乳の女はバカで嫌いなのよ」


「あたしバカじゃないもん! 学年の成績だってずっとトップ10に入っているもん。ダーリンと一緒に♡」


「そ、そうだね」


「ぐっ……ち、ちなみに、私は1年生の頃からずっと学年トップよ! おみそれしたかしら!」


「へぇ、すごいね」


「何よ、その無関心な反応は!?」


「だって、風紀委員長さん。見た目は美人だけど、何かモテなさそう。彼氏いないでしょ?」


「ぐふううううぅ……」


 うなだれた風紀委員長が口から物凄い吐息を漏らす。


「お、おい、遥花。ちょっと言い過ぎだぞ?」


「あ、ごめんなさい」


 遥花は素直に謝る。


「……ふ、ふふ。良いのよ、事実だから。私はどうせモテない女なのよ」


「れ、麗子さん、しっかりして下さい!」


 小柄な女子に揺さぶられ、風紀委員長は意識を取り戻す。


「ハッ、こんな下らないことでへこたれている場合じゃないわ!」


 そして、改めてこちらを睨む。


「橘遥花、あなたに警告します。あなたは自分のエロさに自覚があるわよね?」


「ええ、もちろんです」


「堂々と言わないでちょうだい。そのエロさで、多くの男子の血液を奪い取っている自覚は?」


「え? あたしは別に吸血鬼じゃないですけど……」


「このバカおっぱい娘! 話の流れで理解しなさい!」


「ゆ、幸雄ぉ~、あのヒステリック女が怖いよぉ~」


 遥花が僕にぎゅっと抱き付く。


「ぐぬぬ、うらやま……」


「えっ?」


「ゴ、ゴホン! とにかく、あなたの存在は他の生徒にとって非常に不利益をもたらします。特に来年、私たちは3年生よ。大事な受験シーズンに、あなたのようなエロ女が好き勝手に暴れ回っていたら、みんなの将来が危ないの」


「まあ、それは僕もちょっと心配していたんだよね……」


「えっ、幸雄!?」


「だって、秀彦とかいつも瞬殺だし」


「そんなぁ~!」


「オーッホッホッホ! 愛しの彼氏に呆れられてざまぁ!」


「麗子さん、何だかイキイキしてますね!」


「お黙りなさい、こまり♪」


 少し立場が逆転して、風紀委員長はすっかりご機嫌な様子だ。


「改めて、2年B組の橘遥花さん。あなたのそのエロさを封じるために、対策を講じさせていただきます。2年A組、風紀委員長たるこの西園寺麗子さいおんじれいこがね!」


「あ、わたしは1年の藤野ふじのこまりです! よろしくお願いします!」


 高笑いをする西園寺さんの隣で、藤野さんはお辞儀をした。


「……何か面倒くさいなぁ」


 遥花がボソリと言う。


「ちょっと、それは私のことを言っているの!?」


「いやいや、違うよ。その対策みたいなのがね。決して、西園寺さんが面倒だとは言っていないよ?」


「くぅ~、いちいち腹の立つエロ女ねぇ~!」


 西園寺さんはギリギリと歯噛みをする。


「こまり、例の物を!」


「あ、はい!」


 指示をされた藤野さんは慌てて箱から何かを取り出す。


「こ、これですね」


「ええ、そうよ」


 そのブツは、何だかブラジャーの形をしているような……」


「ふふふ、これはタダのブラジャーではないわ。我が西園寺グループが英知を結集して作った、『どんな巨乳も小さく見えるブラジャー』よ!」


 ドドーン!


 西園寺さんは胸を張って言う。


「ちなみに、このブラジャーは胸が小さいことがコンプレックスな麗子さんのことを想って、麗子さんのお父さまが経営する下着メーカーに作らせた品物なんです!」


「こまり、余計なことは言わなくてもよろしい!」


「ひぅ! ご、ごめんなさい!」


「コホン。さあ、橘さん、コレを付けなさい。言っておくけど、あなたに拒否権はないわ。もし拒絶するようなら、私の持てる全ての力を持ってあなたをどうとでも出来るのよ?」


「そ、そこまで遥花を……」


 僕は軽くたじろぎつつ、遥花を見た。


「……仕方ないわね」


 遥花は肩をすくめる。


「今この場で着替えれば良い?」


「ええ、そうしなさい」


「分かった」


 遥花は制服のブレザーを脱ぎ捨てる。


 それからリボンを解き、ブラウスのボタンを外して行く。


 ブラウスも脱ぎ捨て、さらに自前のブラジャーも躊躇なく脱いだ。


 その豊満すぎる胸を惜しげもなく披露する。


「ちょっ……生で見るとこんなに大きいの……?」


「うわぁ、すごい……」


 西園寺さんと藤野さんは遥花の爆乳にすっかり見入ってしまっている。


 遥花はツカツカと歩みを進める。


 その度に、ノーブラ爆乳がぷるん、ぷるんと揺れた。


「コレを付ければ良いのね?」


 遥花はその特別なブラを手に取る。


「え、ええ、そうよ」


 半ば動揺しながら頷く西園寺さん。


 遥花は素直にそのブラを装着した。


 すると……


「……うわ、すごいな」


 最近ではスポブラでさえ押さえきれなくなっていた遥花のワガママおっぱい。


 それが、しっかりと包まれていた。


 しかも、そのネーミングに違わずちゃんと小さく見える。


 お金の力ってすごいんだな……


「ふ、ふふふ。橘さん、よく似合っているわよ」


 西園寺さんは立ち上がり、髪を掻き上げながら遥花に歩み寄る。


「とりあえず、そのデカすぎる乳を封印さえすれば、エロテロリストとしての力も半減するでしょう。ああ、ちなみに、もし外したらもっとキツい罰を与えるからね?」


 西園寺さんは不敵に微笑む。


「うん、分かった。外さなければ良いんだよね?」


 遥花は言う。


「ええ、そうよ。物分かりが良いじゃない」


 西園寺さんはご機嫌な調子で笑う。


「は、遥花……」


 心配げに見つめる僕に目配せをすると、遥花は小さくニヤリとした。


 次の瞬間――パァン!と弾ける音がした。


「「「……えっ?」」」


 遥花以外の3人が目を丸くする。


 遥花の足下にはちぎれた布きれがハラハラと落ちている。


 遥花の爆乳がボヨヨン!と再び激しく主張した。


「……は? な、何が起こったの?」


 西園寺さんは唖然としている。


「あはは、ごめんね。何か破れちゃったみたい。普通に付けていただけなのにね」


 遥花は言う。


「そ、そんなこと……きちんと耐久性も完璧に仕上げているのよ!?」


 西園寺さんは動揺を隠せない。


 一方、僕は納得していた。


 遥花はただ胸が大きいだけじゃなくて、特別に鍛えていた。


 これまでの僕とのちょっとイケナイお遊びによって。


 そのパワーであの特製ブラを破壊してしまったのだ。


 我が彼女ながら、恐ろしいおっぱいだ。


「ふぅ~、やっぱりノーブラが一番気持ちい良いな♡」


 遥花は自分の胸を下から持ち上げ、たぷたぷと揺らして言う。


「あ、あの、橘さん!」


「えっと、藤野さん? 何かな?」


「で、出来ればで良いんですけど……そのおっぱいを触らせて下さい!」


 藤野さんはいじらしい目を向けて言う。


「だって。幸雄、どうする?」


「あ、うん。ちょっとくらいなら良いんじゃないかな?」


「じゃあ、良いよ」


「わーい、ありがとうございます!」


 藤野さんは嬉々として遥花に近寄り、


「で、では失礼して……」


 むぎゅっ。


「ふ、ふわぁ~! 何コレ、こんなおっぱいを触るの初めてですぅ! この世のモノとは思えません!」


「こ、こまり! はしたない真似はおよしなさい!」


「で、でも麗子さん! 本当にすごいんですよ、橘さんのおっぱい!」


「そ、そんなに凄いの?」


「はい! 麗子さんも触ってみて下さい」


「いや、私は……」


「良いよ、遠慮しないでどうぞ」


 遥花が言う。


「じゃ、じゃあ……ちょっとだけ」


 西園寺さんはためらいつつも、遥花に歩み寄り、そして意を決したように彼女の胸に触れる。


「…………っ!?」


 西園寺さんは無言のまま、遥花の胸を弄っている。


「どうですか、麗子さん? すごいですよね、橘さんのおっぱい!」


「え、ええ、そうね……」


 遥花の胸から手を離した後も、西園寺さんはその余韻に浸っているようだ。


「……とても同じ人間とは思えないわ」


「やだもう、人を宇宙人みたいに言って」


 遥花は言う。


「じゃあ、今日はもう帰っても良いよね? 早くお家に帰って幸雄とエッチがしたいから♡」


「は、遥花……」


「行こう、ダーリン♡」


「ちょっ、遥花。ちゃんと制服を着ないと!」


 僕は慌てて遥花に制服を着せる。


「じゃあ、お邪魔しました~!」


 遥花はご機嫌な調子で言う。


 僕は軽く会釈をした。


「…………」


 西園寺さんは無言のまま、まだ遥花のおっぱいの余韻を噛み締めていた。








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