52 狙われた遥花

 楽しかった冬休みも終わり、新学期。


「幸雄、冬休みはどうだった?」


「ん?」


「あ、いや。みなまで言うな。聞くまでもない。どうせ、橘さんとずっと乳繰り合っていたんだろ?」


「まあ、そうだね」


「少しは恥じらえ、否定しろ」


「だって、隠しても仕方ないし」


「良いよなぁ、あのおっぱいを一人占めできるなんて。世界中の男がうらやむぞ」


「まあ、確かに。遥花のおっぱいはワールドクラスだよ」


「彼女自慢おつ」


 秀彦は苦笑して言った。


「幸雄ぉ、こんな所にいた♡」


 廊下で駄弁っていた僕らの所に遥花がやって来る。


「ああ、橘さん。今、幸雄が橘さんのおっぱいがワールドクラスだって自慢して来たんだよ」


「おい、秀彦」


「え、本当に? 照れちゃうな♡」


「クソ、バカップルめ。俺にもそのおっぱいをおすそ分けしろ」


「って、言っているけど。どうですか、遥花さん?」


 僕が言うと、遥花は小さく唸る……


「ごめんね、あたしのおっぱいは幸雄だけのモノなの」


「分かっています、ちくしょう」


「けど……」


 遥花は軽く胸を反らし、両手を胸の下に添えて制服を引っ張る。


「あたしのおっぱい、これくらいでーす♡」


「ブハッ!?」


 秀彦が速攻で鼻血を噴き出す。


「こら、遥花。ごめん、秀彦。大丈夫か?」


「……むしろ、ありがとう」


 秀彦は仰向けに倒れたままグッと親指を立てた。


「ていうか、下から見上げる爆乳も凄まじいな……ブハッ!」


「秀彦、落ち着け!」


「藤堂くん、しっかり!」


 ボヨヨン!


「グホゥワ!?」


「遥花、君は近付くな!」


「ご、ごめんなさい」


 遥花は大人しく引き下がる。


「はぁ、はぁ……ゆ、幸雄」


「なに?」


「お前、橘さんと付き合って……よく生きていられるな……ガク」


「まあ、僕も何度か死にかけているけど」


 苦笑しながら言う。


「幸雄、藤堂くんは大丈夫?」


「ああ、大丈夫だよ。ただ、遥花はしばらく近付かない方が良いね」


「うん、分かった。もう、あまりおっぱいは見せない方が良いかな?」


「いえ、これからも時たまで良いので見せて下さい」


「おい、アホか」


 目をキランとさせて言う秀彦の額を軽く叩いた。




      ◇




 廊下の曲がり角からその様子を伺っていた。


「あれが噂の橘遥花……予想以上の存在ね」


「はい。あの爆乳に自分も一度溺れてみたいです!」


「お黙りなさい、こまり! あんな品の欠片もない女になびくんじゃないわよ!」


「ご、ごめんなさい、麗子さん」


「全く……」


 長い髪を指で梳きながら、彼氏とイチャつくターゲットを睨む。


「……来年には私たちも受験生よ。けど、あんな危険な女がいたら、学年の成績もガタ落ち。進学率も終わるわ」


「さすが、麗子さん。自分以外のみんなのことを思っているんですね!」


 小柄な少女は両手を前の方で握りながら短い髪とスカートを揺らす。


「当たり前よ。それが、頂点に立つ者の資質よ」


 ニコリ、と口元で微笑む。


「とにかく、あの女は危険よ。『新世紀のエロテロリスト』なんて呼ぶ声もあるみたいだし……野放しにしておけないわ」


「じゃあ、取り締まるんですね?」


「ええ、風紀委員の名にかけて。あのただれたエロ女に厳重な注意と、それから罰を与えましょう」


「麗子さん、すごく楽しそうな顔をしています!」


「あら、そう。こまりも楽しいでしょう?」


「はい! わたしも頑張ります!」


「良い子ね」


 改めてターゲットを見ると、今度はそのご自慢のおっぱいで彼氏を抱き締めていた。


「ちょっ、どんだけイチャつくのよ。羨ましいわね……」


「えっ、麗子さん?」


「な、何でもないわよ。覚悟しておきなさい、橘遥花」


 また、彼女は不敵に微笑んだ。







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