40 デキる男は静かに爪を研ぐ
修学旅行の夜と言えば、ちょっとイケない非行に走るのが定番だ。
「おい、幸雄。女子の部屋に行こうぜ」
他の男子と一緒に浮足立っていた秀彦が言う。
「いや、僕は遠慮しておくよ」
「うわ~、出た。彼女持ちリア充の余裕。ていうか、俺らの目を盗んで橘さんと二人きりになるつもりじゃないだろうな?」
「そんなことはないよ」
「おーい、藤堂! 早く行くぞ!」
「分かったよ!……じゃあ、俺は行くからな」
「先生に怒られるぞ」
「上等だよ」
キランと歯を輝かせて秀彦は部屋から出て行った。
「ふぅ……ん?」
すると、スマホがLINEを告げる。
『幸雄、こっそり抜け出して二人きりになろ♡』
遥花からのメッセージだった。
彼女もまた、修学旅行のテンションで浮き足立っているようだ。
僕は冷静にスマホのボタンを操作する。
『今日の所はやめておこう。先生に怒られて罰則を与えられると、明日の自由時間に思い切り遊べなくなっちゃうよ』
『……うっ、確かにそうだけど。他のカップルとかは密会しているよ?』
『遥花、約束する。必ず、後悔させないって』
『幸雄、男らしい……分かった、信じる』
『ありがとう』
こうして、僕は賢者モードに入り一足先にベッドで横になった。
◇
修学旅行2日目の朝も、沖縄の空は快晴だった。
しかし、それに半比例するようにテンションがた落ちの連中がいた。
「マジかよ……一番の楽しみだった自由時間が……まさかの先生同伴だなんて」
秀彦を筆頭とした男子たちが沈んだ顔で言う。
また、一部のカップルもすっかり肩を落としていた。
「うわぁ、可哀想だけど、悲惨だね……」
僕の隣で遥花が言う。
「幸雄の言う通りにして正解だったね」
「うん。じゃあ、行こうか」
僕は遥花の手を取る。
「ちくしょう……幸雄め」
秀彦が恨めしい目で見て来るが、僕の忠告を無視した自分を悔い改めて欲しい。
それから、僕は遥花と一緒にバスに乗った。
沖縄の景色を堪能しながら揺られることしばし。
「ここは……アメリカンビレッジね!」
「うん。やっぱり、若者の僕らが楽しめるのはここかなって」
「わーい! 幸雄、行きましょう!」
今度は遥花が僕の手を引っ張って行く。
「遥花、時間はたっぷりあるから。落ち着いて行こう」
「はーい!」
笑顔で頷く遥花が落ち着くまで、時間がかかりそうだった。
◇
「ふぅ~、満喫したなぁ」
お昼ご飯にソーキそばを食べた遥花は言う。
「まだ時間はあるけど、ずっとここにいる? それとも、また別の所に行くの?」
「僕に付いて来てくれ」
「うん♡」
今度はバスに乗らず、歩いて移動する。
遥花はずっと僕の手を握りながらご機嫌な調子で歩いて行く。
「何か、ひっそりした場所だね」
遥花は辺りの光景を見ながら言う。
「ここだよ」
僕がとある建物の前で止まると、
「えっ?」
遥花は青い瞳を丸くした。
「ここは……お化け屋敷か何か?」
「宿だよ。まあ、休憩所みたいなものかな」
「休憩所って……」
「じゃあ、行こうか」
僕は少し困惑気味の遥花の手を引っ張る。
「いらっしゃいませ」
玄関先で少し腰の曲がったおばあさんが出迎えてくれる。
「すみません、二時間ほど休憩したいんですけど」
「はいはい、部屋はたくさん空いていますよ」
おばあさんは言う。
「ありがとうございます」
僕は笑顔で言うと、遥花を連れて奥の部屋へと向かう。
ギシギシと軋む廊下を歩いて行く。
ふすまを開けた。
「あっ、部屋の中は意外とまともだ……」
遥花が言う。
「あれ、真ん中にお布団が敷いてある……一つだけ」
「遥花」
僕が呼んで振り向いた彼女にキスをした。
唇から彼女の動揺が伝わって来る。
けれども、決して拒むことはしない。
戸惑いつつも、僕を受け入れた。
「ぷはっ……ゆ、幸雄?」
遥花は軽くとろけた目で僕を見る。
「修学旅行で遥花と二人きりでエッチなことをするために、どうしたら良いか僕なりに考えたんだ。普通の元気ハツラツな高校生なら夜にイケない行動をしちゃうだろうけど。それだと、先生に見つかって絞られるリスクが高いから。みんなが非行に走る夜は大人しくしておいたんだ」
「な、なるほど……」
「ああ、そうだ。さっき、お店でこれを買っておいたんだ」
僕は袋からその箱を取り出す。
「えっと……ゴーヤって……」
遥花はそれが例のアレだと分かり、目を見開く。
「そ、そんなのあるんだ……」
「沖縄だからね。ちなみに、イボイボがあるんだ」
「イ、イボイボ……」
「あ、もちろん、遥花が嫌なら使わないよ」
「ゆ、幸雄……」
「どうしようか?」
僕は遥花をじっと見つめながら言う。
「……昨日の夜からずっと、幸雄に焦らされていたから……ビショ濡れなの」
遥花は上目遣いに僕を見る。
「僕も、今日はちょっと手加減できないかも。久しぶりに、本気を出しても良い?」
「ほ、本気……良いよ、あたしをメチャクチャにして……」
赤面しながらもハッキリと言う遥花の胸を軽く押した。
布団の上にふわりと寝かせる。
お互いに既に準備は整っていたから、すぐだった。
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