36 遥花のアート

 秋というのは本当に色々な楽しみ方がある。


 僕と遥花は今日、美術館に来ていた。


 スポーツの秋、読書の秋とくれば、次は芸術の秋だから。


「あたし、美術館に入るのは初めてだな」


「そうなんだ。僕もだよ」


「じゃあ、お互いに初体験同士だね♡」


「うん」


 僕らは受付で入館料を払って中に入る。


 そこは図書館よりもシン、と静まり返っていた。


「僕らも私語は控えようか」


「うん」


 遥花は頷く。


 それから、二人でゆったりとした空間の中、芸術作品を見て回る。


 素人目に見ても良さが分かる物から、玄人にしか理解できない物まで。


 千差万別の作品たちを眺めていた。


 不思議と飽きることはない。


 最初はあまり興味が無くなっちゃうかもと思ったけど。


 ドンドンとその世界観に沈んで行くようで、心地良かった。


 すると、途中から遥花が小さく手を握ってきた。


 僕は特に気に留めることなく、作品に見惚れている。


 と、遥花は僕の手を握ったまま、今度はもう片方の手で脇をつねって来た。


 僕は顔だけ振り向き、声は出さずに目を丸くした。


 遥花は僕にジト目を向け、そのままスライドして絵の方を睨む。


 今し方、僕が見ていたのは裸婦の絵だった。


 僕は声を出したい衝動を抑えて、身振りと手振りだけで遥花に気持ちを伝える。


 そんな嫌らしい気持ちなんて微塵も無いよと。


 けれども、遥花は『どうだか?』とでも言いたげな目を向け、ツンとそっぽを向く。


 でも、手はしっかりと握ったまま、その場から僕を引き離すように歩いて行く。


 どこに行くのかと思っていると、人があまりいない物陰に僕を連れて来た。


 一体、何をするつもりなのだろうか?


 そう思っていると、遥花が握っていた僕の手を持ち上げて、胸に触れさせた。


 思わず声が出そうになるのを寸前で堪える。


 僕が目を丸くして口パクで『ダメだよ!』と言っているにも関わらず、遥花は僕の手をその大きな胸に沈めさせる。


 相変わらず、凄いおっぱいだな……って、いかん、いかん。


 ここは神聖なる美術館だ。


 そんな場所で、こんなふしだらな行為をしてはいけない。


 僕はやんわりと遥花の手を振り払おうとするが、そのまま胸に手を挟まれてしまう。


 ていうか、服の上からなのに谷間があるとか……いや、そうか。


 今日の遥花は斜めがけのバッグをしている。


 いわゆる、パイスラ状態であって。


 それが食い込むことで服の上からでも谷間が強調されていて。


 僕の手はそこに捕らわれてしまったのだ。


 こ、これは……遥花ってば、周りの芸術に触発されて、自分なりの芸術……アートを編み出したのだろうか。


 さすがは僕の彼女……って、違う、違う。


 僕は慌てて谷間から手を引き抜こうとするが、遥花は両手で胸きゅっと寄せて離さない。


 すると、職員らしき人がこちらに歩いて来た。


 まずい、こんな姿を見られたら追い出される。


 最悪、警察に突き出されるかも。


 僕は必死になって遥花のおっぱいから手を引き抜こうと力を込めた。


 抜けない、抜けない、抜けない。


 そんな僕の様子を見て、遥花は何だか嬉しそうにしている。


 クソ、可愛いけど、何なんだ君は。


 そんな文句を言ってやりたい気持ちだ。


 僕は少し苛立ったせいで、より力を込めて手を引き抜く。


 その衝撃のせいだろうか。


「…………あっ!」


 遥花が小さく声を上げたので、僕はギョッとした。


 ちょうど近くまで来ていた職員が、


「どうされましたか?」


 問われて僕は激しく冷や汗を流す。


「す、すみません。何でもないです」


「そうですか。恐れ入りますが、館内ではお静かにお願いいたします」


「は、はい」


 職員はスタスタと去って行く。


 大きくため息を漏らした僕は遥花を睨んだ。


「……ダメじゃないか、こんなことをしたら」


 小声で囁くように注意をした。


「だって……ムラムラしちゃったから」


「君は年中発情期なのか?」


「幸雄の前でだけよ……♡」


 赤く染めた頬を両手で押さえる彼女が可愛くて、僕はつい照れて視線を逸らす。


 すると、先ほどまで僕の手を捕えて離さなかったイケないおっぱいが目に映る。


 ていうか、改めて見ると、このパイスラの破壊力が半端ないな……


「……遥花、パイスラ禁止にして良い?」


「ダメ♡」


 結局、どこに行っても遥花はエロかった。







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