31 ただ読書をするだけなのに……

「幸雄、あたし真面目っ子になるから」


 いつも通り二人で遥花のアパートにいた時、彼女が突然そんなことを言い出した。


「え、どうしたの?」


「だって、幸雄がいつもあたしのことをエッチな子って言うから。ちょっと改めようと思って」


「そんな別にけなしている訳じゃないのに……」


「それにね、未だにあたしのことを怖いヤンキーだと思っている人がいるんだよ? だから、真面目っ子になるの」


「ていうか、前にも似たようなこと言ってしてなかったっけ?」


「今回もチャレンジするから。ちょっと待っていて」


 そう言って、遥花は脱衣所に向かう。


 僕がポカンとして待つことしばし……


 脱衣所の扉が開く。


「お待たせ」


 現れたのは変身した遥花だ。


 髪が黒髪になって、目の色も黒くなって、さらに今回はメガネをかけている。


「えへへ。前はロングヘアーだったから、まるで別人に見えたかもだけど。今回はいつものあたしの髪と同じ長さの黒髪ウィッグを付けたから。本当に更生した感じでしょ? そして、何よりポイントはこのメガネ、伊達だけど」


 遥花は得意げにくい、くいとメガネを動かす。


 ちなみに、服装もまた清楚系というか、大人しめの女子が好むようなファッションだ。


「何か図書館にいそうかも」


「えへへ、正にそれを狙ったの」


「あ、もしかして図書館デートしたいの? ちょうど、読書の秋だし」


「うん、それも良いけど。図書館だとお喋り出来ないでしょ?」


「まあ、そうだね」


「それでね、前もって図書館に行って本を借りて来たの。だから、ここで一緒に読も?」


 文学メガネっ子モードになった遥花は言う。


「うん、良いよ」


「言っておくけど、今のあたしはエッチな子じゃないから。いつもみたいに幸雄にエッチなことはしてあげないからね?」


 確かに、今の遥花はそのご自慢の巨乳が隠れていらっしゃる。


「分かったよ。ていうか、メガネも似合うし可愛いね」


「いやん、嬉しい♡ じゃあ、このまますぐ抱いて……」


 言いかけた遥花はハッとする。


「幸雄のエッチ」


 そして、ジト目で言われる。


「何で?」


 僕は苦笑しながら言い返す。


「もう、そんな煩悩は捨てて。読書に集中するよ」


「分かったよ。で、どんな本があるのかな?」


「はい、どれでも好きなモノを読んで?」


 と遥花は言うが……


「みんな恋愛ものだね」


「ダメかな?」


「ダメってことはないけど……ほら、ムラムラしちゃうかもしれないよ?」


「もう、幸雄は本当にスケベなんだから」


「今はじめて、軽く君にイラっとしているよ」


「え、やだやだぁ。幸雄に嫌われたくないよ~」


「落ち着いて、遥花。嫌ったりしないから」


「本当に?」


「うん。だから、読書しよう」


「うん」


 頷いた遥花は本を手に持った。


「じゃあ、読書タイム……スタート」


 遥花の合図で僕らは本を読み出す。


 正直、恋愛小説を読むのは少しだけ抵抗がある。


 何か甘ったるいから。こっぱずかしくなってしまう。


 それからしばし、二人の間に静かな時が流れる。


「……あっ」


 僕が良い具合に集中していた時、ふいに遥花が声を漏らしたのでハッとして見た。


 遥花は口元に手を添えてマジマジと恋愛小説を読んでいる。


 その頬が薄らと赤く染まっていた。


「ここで、そんな、ダメよ……あっ」


「は、遥花さん」


「え、なに、幸雄?」


「声がダダ漏れです」


「う、嘘? ごめんね、変な子みたいだよね」


「いや、僕は気にしないけど……」


「ご、ごめんね。つい夢中になっちゃって」


「良いよ、二人だけだし。好きに読んで」


「ありがと」


 微笑んだ遥花はまた読書に集中する。


「んっ……す、すごい。こんなことされちゃうんだ……」


 遥花はまたすぐに呟き出すが、僕は気に留めないように心がけ、自分の読書に集中する。


「あ、ダメ、そこは……女の子はデリケートだから、優しくして……」


「は、遥花さん」


「え、どうしたの?」


「ちょっとだけ、お口チャックしてくれないかな?」


「ご、ごめん。うるさかった?」


「うるさいと言うか……」


「気を付けるね」


 遥花はきゅっと口を引き結んで再び読書を始める。


 僕もまた読書を再開するが……


「……んっ……ふっ……」


 引き結んだ遥花の唇の隙間から、声と息が漏れる。


「んぐっ……んっ……んんぅ」


「は、遥花さーん」


「へっ? 幸雄、どうしたの?」


「いや、君がどうしちゃったの? もうさっきからエロ過ぎだよ?」


「え、何で? 普通に読書しているだけだよ?」


「これが普通なんだとしたら、君はまあまあの変人だよ」


「ガーン!」


 衝撃に身を打たれた遥花がうなだれる。


「うぅ、幸雄に変な子って思われた……嫌われちゃうよ~」


「いや、嫌わないから。むしろ、エッチで可愛いって思うし」


「本当に?」


「うん。遥花はいつも通りで良いんだよ」


 僕が言うと、遥花はニコっと笑う。


 それから、ウィッグを取り、カラコンも外し、更には……


「えいっ」


 スポブラを外すことで、ご立派な胸がドーン!と現れた。


 元の遥花に戻るが、メガネだけかけていた。


「幸雄、今日はメガネフェチの日だよ♡」


「え、読書の日じゃないの?」


「うふふ。このメガネは結構高かったから。あまりペロペロしないでね?」


「僕はそこまで変態じゃないよ」


 やっぱり、僕の彼女はエッチな子だ。







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