28 イメチェンした彼女が……

「橘さん、本当にごめんなさい」


「いえ、そんな気にしないで下さい」


 廊下を歩いていた時、何やら先生が遥花に頭を下げる光景を見かけた。


 先生が尚も申し訳なさそうに頭を下げながら去って行く。


「遥花」


「あ、幸雄」


「何かあったの?」


「うん。あの先生にあたしの髪の色について注意をされたの。新任の先生だから、あたしがハーフで地毛だって知らなくて。『ちゃんと黒髪に染めなさい!』ってね」


「ああ、なるほど」


「……そうだ、良いこと思い付いた」


 何やら遥花が得意げな笑みを浮かべる。


「良いことって?」


「うふふ、放課後のお楽しみ♡」




      ◇




 放課後になると、遥花に付き合って駅前で買い物をした。


 そして、遥花のアパートに帰宅する。


「幸雄、ちょっと待っていてね」


 遥花はニコッとして脱衣所に向かう。


 僕は残暑を感じながら、ボケーッと待っていた。


 しばらくして、脱衣所の扉が開く。


「お待たせ」


「…………えっ?」


 僕は思わず目を疑った。


 普段の遥花はイギリスの血を引くきれいな金髪のセミロング、そして青いきれいな瞳、何より大きな胸が特徴的だ。


 けれども、目の前に現れたのは、黒髪のロングヘアー、黒いきれいな瞳、そして胸の膨らみが目立たない少女だ。


 制服も僕らの学校のそれとは違って、セーラー服になっている。


「は、遥花……?」


「どう、幸雄? 今日からあたしは、清楚系の美少女になるよ♡」


 遥花は両手を後ろに組んで少し前屈みになる。


 あ、何かそれっぽいポーズ。


「ていうか、そのカツラとか高かったんじゃない?」


「カツラって言わないで、ウィッグよ。それから、目はカラコンね。夏休みのバイト代がたんまり入ったから、問題なしよ」


「ああ、そうだったね」


 臨時で一緒に喫茶店のバイトをしたんだけど、遥花を目当てに男性客が急増したこともあり、店長がお給料を弾んでくれたんだっけ。


「そうだ、どうせなら普段と口調も変えてみよう」


「えっ?」


 遥花は軽く咳払いをする。


「……幸雄くん」


「はっ?」


 遥花は楚々とした所作で僕のそばに正座をした。


「私、幸雄くんの彼女になれて嬉しいな」


「は、はぁ……」


「けど、私はそんなに胸が大きくないけど、大丈夫かしら?」


 遥花は恐らくスポブラか何かで押さえているであろう胸に手を当てて言う。


「だ、大丈夫だよ。胸以外にも、遥花はとても魅力的だから」


「やだもう、幸雄くんってば……キスして?」


「いや、えっと……」


 おかしい。キスなんて何度もしているから、そんなに照れることはないのに。


 いつもと違う姿の遥花に激しくドギマギしてしまう。


「どうしたの、幸雄くん?」


 遥花は長い黒髪を耳に掛けて微笑む。


 彼女は役者になれると僕は思った。


「ほら、触ってみて」


 ふいに、遥花が僕の手を取って、自分の胸に触れさせる。


「幸雄くんのことを思って、こんなにドキドキしているの……」


 ド、ドキドキと言うか、ムニュムニュしているんだけど……


「ごめんなさい、何かムラムラして来ちゃった」


「えっ?」


 そう言って、遥花はセーラー服の上をはだけて、ブラウスのボタンを外す。


 僕は赤面する顔を押さえながら、


「ど、どうしたの!?」


 遥花は動揺する僕に構うことなく、シュルシュルとその中身を取った。


 直後、ボン!と押さえつけられていた巨乳が激しく主張した。


「……ごめんね、幸雄くん」


「へっ?」


「私は清純派って言われているけど、本当はこんな大きなおっぱいを持っているの。だから、今まで隠していたの……嫌いになった?」


 遥花は目を潤ませて言う。


「いや、そんなことはないよ」


「大きいおっぱい好き?」


「す、好きです……」


 一体、僕は何を言わされているのだろうか?


「けど、清楚な顔して胸が大きいとか、そのギャップに興奮してくれたりする?」


「す、するする」


「ふふふ、幸雄くんって、エッチなんだね♡」


「ぐはっ……!」


 僕はつい声を上げてノックダウンされかけた。


 は、鼻血は出ていないよね?


「……は、遥花さん。とりあえず、胸のボタンを閉めて下さい」


「あ、うん。よいしょ……あら、どうしましょう。ボタンが閉まらないわ」


 遥花は溢れんばかりの大きな胸を懸命にブラウスの中に収めようと奮闘する。


「あ、あまり無理しないでね?」


「大丈夫、あと少しで……」


 ブラウスのボタンが激しく悲鳴を上げている。


「……よし、止められた」


 遥花が笑顔を浮かべた瞬間。


 ブチッ、ピュンッ、ベシッ!


 僕の額に弾け飛んだボタンがクリーンヒットする。


「あっ……」


 僕はそのまま仰向けに倒れた。


「きゃあぁ! 幸雄くん、大丈夫ぅ!?」


 遥花が慌てて駆け寄る。


「こうなったら、仕方ないわ。人工呼吸をしましょう」


「え? いや、その必要は……」


 僕の制止も聞かず、遥花はムチュッとキスをして来る。


「ちゅ~~~~……♡♡♡」


 彼女の甘々なキスによって、僕はあえなく気絶した。







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