21 エッチな子を卒業します?

 僕は駅前で遥花と待ち合わせをしていた。


 正直、人が多い所で遥花と待ち合わせるのは色々と不安だ。


 僕にとっても、周りにとっても刺激が強いし。


 変な男にナンパされないかも心配だし。


 しかも、今は夏だから露出度が高い服を着て、そのナイスバディを惜しげもなく披露するし。


「幸雄ぉ~」


 遥花の声が聞こえた。


 僕は振り向くと、目を疑った。


「……え?」


 いつもの彼女はTシャツにズボンというアクティブな服装だ。


 けれども今日は、白いワンピースを着ていた。


 ノースーリーブではなく、肩から袖までしっかりとあって、ちゃんと肌をガードしている。


 まあ、その胸の大きさは隠し切れていないけど。


 今までの彼女を考えると、大人しいかっこうだ。


「遥花、何かいつもと雰囲気が違うね」


「うん、ちょっとしたイメチェンかな」


 遥花は言う。


「あたしね、最近ちょっと調子に乗り過ぎたかなって。幸雄のことが好き過ぎるからって、公衆の面前でエッチな感じを出し過ぎちゃって」


「まあ、そうだね」


「だからね、あたしはエッチな子を卒業しようと思って。今日も、清楚なワンピースを来てみたんだけど……どうかな?」


 本人も慣れない服装で気恥ずかしいのだろう。


 赤らめた頬と白いワンピースのコントラストが眩しい。


「すごく可愛いよ、遥花」


「本当に? 嬉しい」


 遥花は笑顔で僕に抱き付く。


「今日はどこに行くの?」


「前に遥花がラーメン食べたいって行っていたから、一緒に行こうと思ったんだけど……その服装じゃ行きづらいよね。もっとオシャレなカフェレストランにしようか?」


「ううん、ラーメン行きたい。汚れたら、洗えば良いだけだし」


「そっか。じゃあ、行こう」


「うん♡」


 僕は清楚なワンピース越しに遥花の柔らかい胸の感触を覚えながら、はぐれないように人混みを歩いて行った。




      ◇




 人気のラーメン店は行列が出来ており、並んで30分後くらいに入れた。


「遥花、大丈夫? 疲れたし暑かったでしょ?」


「ううん、平気」


「そっか。で、何にする?」


「あたしはみそ。あ、でも幸雄はしょうゆなんだっけ? 同じが良いな……」


「じゃあ、それぞれ違うのを頼んで、シェアするのはどう?」


「うん、それ良いかも」


 遥花が笑顔で頷いてくれたので、僕は店員さんを呼んで注文をした。


「ふぅ、やっぱり少し暑いね」


 遥花は手でパタパタと顔を仰ぐ。


 服装を変えたせいか、仕草も普段と違う。


 別に普段がガサツという訳じゃないけど、どことなくしおらしいと言うか、お嬢様な雰囲気だ。


 けど、遥花はイギリス人のハーフだし、イギリス人って何か紅茶とか飲んで上品っぽいから、その血も流れているのかな?


「なに、幸雄? あたしのことじーっと見ちゃって」


 遥花が少しいたずらな笑みを浮かべて言う。


「あ、いや……」


 僕はふと、遥花の胸元に目が行く。


 ぴっちりと締まっているため、遥花の大きすぎる胸がとても苦しそうだ。


 ワンピースがゆったりしているから、そこまでパツパツじゃないけど。


「おい、あの子見ろよ。超おっぱいデカくね?」


「しかも可愛いし」


「でも、彼氏は何か冴えないな」


 そんな囁き声が聞こえて来る。


 僕は苦笑するが、遥花は少しムッとした顔になる。


「幸雄」


「ん?」


 呼ばれたと思ったら、顎を掴まれて、テーブルに身を乗り出した遥花にキスをされた。


 ちゅっ、と優しく、けれどもとても甘いキスだ。


 周りの男性客は唖然として、女性客は小さな声で『きゃ~』と言っている。


 すると、


「へい、熱々カップルさんに熱々ラーメンおまちどお!」


 店主らしき人が威勢のいい声と笑顔でそう言った。


「ありがとうございます♡」


 遥花が笑顔でお礼を言う。


 そして、普通盛りを頼んだはずなのに、なぜか大盛りだった。


 店主さんは軽くウィンクをした。


「さすが、ラーメン屋の店主はこうでなくちゃ」


 遥花はワンピースの袖をまくる。


「食べられる?」


「ぺろりよ」


 遥花は笑顔で言うと、男顔負けの吸引力で麺をすする。


「う~ん、美味しい~」


「じゃ、じゃあ僕も」


 遥花よりも少し遠慮がちに麺をすする。


「うん、美味しい」


「ねえ、そっちのスープちょうだい」


「良いよ。じゃあ、そっちのもちょうだい」


「うん、シェアしよ♡」


 そんな風にやり取りする僕らを見て、周りの男たちは『ぢくじょう……』と悔しそうな顔で涙を流していた。







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