19 約束の天体観測

 僕らは緩やかな丘の道を歩いていた。


 緑豊かなその場所を歩いていると、夏にも関わらず清涼感に身を包まれるようだった。


「きちんと虫よけスプレーをして正解だったわね」


「うん、そうだね」


 僕らは並んで歩いて行く。


 夏で暑いけれども、自然とお互いの手を握り合っていた。


「この先にあるんだよね、天体観測所が」


「うん、そうだよ」


 遥花の問いかけに僕は頷く。


「前に約束したからね、遥花と天体観測をしようって」


「幸雄……楽しみ」


「僕もだよ」


 遥花はそっと僕に寄り添って来る。


 少しばかり、体温が上がった。


 その時、上から何かがボトッと落ちて来た。


「えっ?」


 遥花の声につられて僕も目を向ける。


 遥花の胸の谷間にカナブンだか何かの虫が挟まってもがいていた。


「…………ッ!」


 遥花は声にならない悲鳴を上げた。


「ゆ、幸雄、助けて……」


 そして、涙目で僕にヘルプを求めて来る。


「遥花、落ち着いて」


 僕は努めて冷静な声で言うと、胸の谷間に挟まっているカナブンをつまんだ。


「えいっ」


 投げると、カナブンは宙でくるくる回って体勢を整え、またブーンと飛んで行った。


「ふぅ、もう大丈夫だよ。遥花、災難だったね」


「うん、ありがとう、幸雄」


 遥花は笑顔で言いつつ、何やらモジモジしている。


「どうしたの?」


「えっとね、幸雄におっぱいを触られたら、何かムラムラしちゃって……」


「は、遥花……」


 遥花はチラと木陰の方に目をやる。


「お外でエッチは出来ないけど……ちょっとだけして欲しいな」


 遥花は頬を赤らめて恥じらいながらも、僕のことを真っ直ぐに見つめながらそう言った。


「……分かった。けど、他の人が来たらやめるからね」


「……うん」


 僕たちは人目に付かない木陰に移動する。


 そして、僕は背後から遥花のおっぱいを掴んだ。


「あっ……」




      ◇




 日も暮れる頃。


 丘の上の天体観測所には僕ら以外にも多くのお客さんが集まっていた。


「見て、幸雄。あれが夏の大三角形かな?」


「うん、そうだね」


「きれい……やっぱり、お星さまって素敵だね」


「うん」


 僕らはまたぎゅっと手を握り締め合う。


「また、来年も来ようね」


「来年も僕と一緒に居てくれるの?」


「当たり前でしょ?」


 遥花はぷくっと頬を膨らませる。


 僕はそんな彼女が可愛らしくて、つい噴き出してしまう。


 遥花も同じように笑った。


「ねぇ、暗いからちょっとくらいエッチなことしても、バレないんじゃない?」


「ダメだよ。ちゃんと家に帰ってからにしよう」


「うん。でも、アレを切らしているから、コンビニで買わないと」


「遥花の性欲がすごいからなぁ」


「幸雄だって、エッチなくせに」


「まあね」


 僕らは互いに見つめ合うと、優しくキスをし合った。







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