15 聖人モードの彼氏におあずけを食らう彼女は悶々として……

 ここ最近、僕は悩みがあった。


 それは寝ても覚めても、頭の中が遥花のおっぱいでいっぱいなことだ。


 他の男子たちからすれば、全校生徒が憧れる特大のJカップ巨乳をモノにしているのだから、むしろそんな煩悩は抱かないだろうとツッコまれそうだけど。


 むしろ、揉めば揉むほど、その魅力にハマってしまうのだ。


 このままじゃいけない。


 そう決意した夜から、僕は『遥花のおっぱい断ち』を始めた。


 暇を見つけては座禅を組んで瞑想する。


 そして、頭に浮かぶ遥花のおっぱいに対する欲情を捨て去る。


 あれは立派な二子山なのだと、自分に言い聞かせる。


 自分がこれほどまでに心を揺さぶられるのは、決して性的な感情ではなく、美しい景観を見て感動するそれなのだと言い聞かせる。


 初めの内は苦労したけど、意外とすぐに慣れた。


 これで、夏休み前の期末テストも良い結果を残すことが出来るだろう。




      ◇




 いつものように、屋上で遥花とお弁当を食べている時のこと。


「ねぇ、幸雄」


「どうしたの?」


「何て言うか、最近ちょっとスキンシップが少ないなぁ~って」


「そうかな?」


「あたしのおっぱい……触りたくない?」


 遥花は全校生徒が憧れる巨乳をぐっと強調するように突き出した。


 以前の未熟な僕なら、その巨大な膨らみを見ただけで心が大いに揺さぶられ、頬を赤面させていた。


 けれども、ここしばらく己で修業を積んだおかげで、僕の心はどこまでも穏やかだった。


「……大丈夫だよ、遥花。僕は君と一緒にいられるだけで幸せだ」


「そ、そっか」


 遥花はぎこちなく頷く。


「ごめんね、何かエッチなことばかり言っちゃって……」


「ううん、大丈夫。それよりも、今日のお弁当も美味しいね」


「あ、ありがと」




      ◇




 部屋に帰るなり、ドサッと鞄を下ろす。


 それからコップで水道水を飲むと、たたんでいた布団をいそいそと敷く。


 そして、制服を脱いで下着の状態になった。


 布団の上に立ったまま、ブラジャーの上からそっと胸に触れる。


「……あっ……幸雄」

 

 その場にへたり込む。


「幸雄……どうして触ってくれないの……もしかして、あたしに飽きたのかな?」


 美人は三日で飽きると言うし。


 遥花の巨乳も飽きてしまったのかもしれない。


 今まで、散々彼に揉まれたし、揉ませて来たから。


「幸雄のバカ……紳士な幸雄も素敵だけど……あたしは普通にエッチな男子くんで良いのに……」


 止まらない。止めなければいけないのに。


 これ以上エッチな子になったら、彼に幻滅されてしまう。


 けど、止められない。


 彼のことを想うと、彼のことが欲しくて、けど触れられなくて……もどかしくて切ない。


「……こんなに放っておかれたら、浮気しちゃうぞ、バカ」


 と言ってみたものの、それは到底無理だと思った。


 彼以外の男子に興味は無いし。


 仮に無理やり自分の胸に触れて来ようものなら、容赦なく平手を食らわすだろう。


 やっぱり、自分を満たしてくれるのは彼だけだ。


 彼のことを想いながら目に涙を溜めた。




      ◇




 ここ数日、僕は禁欲をしているせいでもっとイライラすると思ったのに。


 むしろ、清々しい気持ちだった。


「今日もぐっすり眠れそうだな……ん?」


 ふと、スマホにLINEが届いていることに気が付く。


 手に取ってメッセを開封した。


「……え?」


 相手は遥花だった。


 そして、記されていた内容は……


『幸雄……もう、ダメ……助けて』


 一瞬、体から血の気が引いた。


『な、何があったんだ?』


 問いかけても、返事はない。


 焦った僕はすぐに部屋を出た。


 両親は寝ているので、起こさないように抜き足差し足で、けれども素早く。


 家を出た。


 夜のアスファルトを駆け抜ける。


 日頃から鍛えていたおかげで、あまり息切れをしない。


 十数分ほどで遥花のアパートに到着した。


 僕は彼女の部屋の前に来ると、チャイムを鳴らす。


 だが、なかなか出て来ない。


 ふと、玄関のカギが開いていることに気が付いた。


 嫌な予感がしてドアを勢い良く空ける。


「遥花!」


 その時、僕の目に映ったのは……


「……ゆ、幸雄ぉ」


 下着をはだけた状態で布団に横たわっている遥花だった。


 僕は畳の上を走って遥花の下に向かう。


「ど、どうした? まさか、誰かに襲われて……」


「ううん、違うの……」


「じゃあ、どうしたんだ?」


 僕が問いかけると、遥花はしばし口をつぐんでいた。


「……あたし、ね。幸雄が欲しくて欲しくて……また一人で慰めていたの」


「えっ?」


「最近、幸雄が全然おっぱいとか触ってくれないから……もう、あたしのこと飽きちゃったのかなって」


「そ、そんなことないよ。僕はただ、いつも頭の中に遥花のおっぱいのことがあって、このままじゃダメだと思って、『遥花のおっぱい断ち』をしていたんだ」


「そ、そうだったんだ……」


 僕に抱き起こされて、遥花は淡く微笑む。


「じゃあ、あたしのこと飽きていない?」


「飽きるもんか。むしろ、日を追うごとに好きになって行くよ」


「えへへ」


 笑顔の遥花を見て、僕は自分の過ちに気が付く。


 確かに、性欲を我慢することは立派かもしれない。


 けれども、所詮は自己満足の世界だ。


 その結果として、大切な彼女を傷付けたら意味がない。


「……遥花」


「なに、幸雄?」


「もうこんな遅い時間だから、エッチをすることは出来ない」


「そうだね」


「だから、今日の所はコレで勘弁してくれ」


 僕は優しく、遥花のおっぱいに触れた。


「……あっ」


「やっぱり、遥花のおっぱいは最高だよ」


「幸雄……好き」


「僕もだよ」


 優しく遥花のおっぱいを揉みながら、優しくキスをした。


「……ねぇ、今日はもう無理だけど……明日はしてくれる?」


「うん。明日は放課後、まっすぐこの部屋に来るよ」


「あ、そういえば、もうアレが切れそうなんだ」


「じゃあ、これから家に帰る途中で、コンビニに寄って行くよ」


「それから、またここに来ても良いんだよ?」


「ごめん。そんな不良少年になる勇気はないよ」


「もう、相変わらず真面目なんだから……でも、そんな幸雄が好き」


 笑顔でそう言ってくれる遥花を心底愛しいと思い、僕は優しく抱き締めた。


「……ていうか、早く服を着なよ。風邪ひくぞ?」


「大丈夫、幸雄が温めてくれたから」


「君は本当に……困った子だな」


「何で何で? 嫌いになった?」


「たぶん、それは一生あり得ないよ」


「一生……何かゾクゾクするね。エッチしよ?」


「遥花さん」


 僕は苦笑気味に言う。


「言っておくけど、あたしがこんなにエッチな子になったのは、幸雄のせいだから。それまで、エッチなことになんて一切興味が無かったんだからね」


「すみません……」


「良いよ、じゃあアレ買っておいてね」


「うん。けど、忘れたらごめん」


「大丈夫。そうしたら、直接つながるだけだから」


「いや、それは絶対にダメだよ。僕らはまだ高校生だし」


「……あたしはいつだって、ウェルカムだけど」


「遥花……本当にエッチな子だな」


「幸雄のせいだよ」


 それからしばらく遥花と話してからアパートを後にして、コンビニでアレを買って家に帰ったものの、僕はしばらく眠れなかった。








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