第25話:天才高校生は国王とお話しするようです

俺はニコラスに執務室についてこいと言われ、イエスと返事をしたが、なぜ執務室に連れて行かれるのか分からなかった。

 理由を聞こうと思ったが、聞くにも相手が相手だし、遠慮しておいた。


 そうしてニコラスの後ろについて行くこと数分、ようやく執務室にたどり着いたようだ。ついていって思ったが、王城はやはり広いなと改めて感じさせられた。廊下の壁には偉大な人だと思われる肖像画や、時が過ぎているのを忘れてしまうくらい見入ってしまう絵画もあった。


「ここが我の執務室だ。入れ」


 そう促されて俺は入っていった。執務室の中は、さっきのような豪華な肖像画や絵画はなく、書類のようなものが上に散らかっている机と壁に取り付けられた本棚そして日光が程よく差し込む窓があるのみだった。


 意外だな……。もっと豪華なイメージだったが……。


 そんなふうに思っているとニコラスが察したのか俺に話しかけてきた。


「意外だと思っている顔だな。まあ無理はない。廊下や謁見の間は国外からの客人や貴族が見ることが多い。つまり王族の権威を示すには目に入るところに豪華なものを置いていたりした方が効率がいいのだ。しかし執務室は違う。我の側近の宰相や家族しか訪れない。だから何もないのだ」


「なるほど、その考えには至りませんでした」



 効率的な考え方だな。しかしなぜそんなところに俺を呼んだのだろうか?この流れだと聞いても良さそうだ。


「あの……陛下、すこしお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「その前に一つ。敬語はやめてくれ。ここは非公式の場だ」


「分かりました、陛下」


「我の名はニコラスだ」


 顔を俺に近づけて言う。意外とフレンドリーな人なのかもしれない。


「……分かった、ニコラス」


 ニコラスは俺の言葉に納得したのか、嬉しそうにしている。


「……で、ケンタは何が聞きたかったんだ?」


「ああ、そうだった。なんで俺をここに連れてきたんだ?」


 そうニコラスに聞くと答えが返ってきた。


「単純に興味を持ったんだ。ケンタと肩の力を抜いて話すことができるのはここぐらいしかないしの」


 興味? もしかしてグロリアとの関係がばれたのか?


「従兄弟のジャクソンとは子供の頃よく遊んだものだ。もちろん学園では切磋琢磨した。そんな中でライバル意識が芽生えた。あいつには負けたくないとね。そうして時がたった今でも互いに意識している。あいつがあいつの娘をお前に託したのには何か理由があると思って単純に興味を持った。もちろん魔力量もだが」


……うーん、ジャクソンじゃなくて妻のサーシャがゴリ押しで決めたんだけどね。ジャクソンの出る幕なんてなかったし。


「……ははは、理由なんて俺には分からない。魔力量は生まれ持った才能なのかもしれないな」


「どうやらお前にはティアを任せられそうだ」


「任すって、どう言う意味だ?」


「そのままの意味だ。ティアを安心してお嫁に出せるということだ。お前以外のゲス野郎共に任せられるわけがない」


ん?なんかさっきまでと態度が急変したんだが……。しかもお嫁ってどんだけ話が飛躍してるんだよ。てかまず俺たち初対面なのにどうしてそんなことが言い切れるんだ?



そんな事を思っているとニコラスは俺に話しかけてきた。


「お前は、見たところ身分にそれほどこだわりを抱いていない。ちがうか?」


「ま、正直に言えばそうだ」


「我もそう思っている。貴族たちは己の地位に満足し、好き勝手に生きている奴も多い。表向きは我に恭順を示しておるが。そう、表向きはだ。だからそんな奴らに我の娘を差し出すわけにはいかん。お主には勲章も与えたし、貴族のような地位はないが、名声は得られるだろう。名声を上げて影響力のある人間になってほしい。そうすれば誰もが認めるだろう。ティアとの結婚を」



ん? まず大前提として俺の気持ちは? 



「お前しかいないのだ。だから頼む!」



そうしてニコラスは俺に向かっていった。



王にそんなこと言われたら断りようがない。しかし俺の気持ちが考慮されていない。


「ま、まあまだまだ先のことだし、学園生活もあるし」



「むむむ、それもそうだな。つい熱くなりすぎた」


 そんな時だった。部屋の扉がノックされる。


「失礼します。書類を持ってまいりました」


「ケンタ、どうやらここまでのようだ。我にも仕事があるのでな。数日は王都で過ごせ。宿の料金は我がだそう。それでは」



「分かりました」




そうして話し合いが終わった。あっという間だったな。




俺は外で待っていたソフィアさんに案内してもらい王城を出た。

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