第12話:天才高校生は公爵家に泊まるようです

ケンタとリディアは口を開けて呆然と立っていた。


聞き間違いだろうか?


いや、そんなことはないと俺の頭は理解している。


ケンタはサーシャの意図が分からず、理由を聞いてみた。


「なぜだ?俺とは知り合って日も浅いし、そんな間柄でもないだろう?」


「そうね~、でもケンタさんはしがない冒険者なのでしょう?もっと知りたいんじゃないの?町のこととか、歴史とか?」


「それはそうだが…」


ケンタはそう言いつつ引っかかった事があり、少し物思いに耽る。


(知りたいとすると、人から聞くこともできるが、多くは本から学ぶのではないだろうか?そうするとこの世界の識字率はどれほどなのだろうか?俺はグロリアからもらったチートスキルのうちのひとつである『言語理解』を取得している。それ故言語関係は問題ないのだが、他の人はどうなのだろうか?恐らく公爵家の人達は文字が読めるのだろう。各地から上がってくる文書があるのだからそれを理解できないと話にならない。しかし、平民はどうなのだろうか?学院に行く者は恐らく入学試験の筆記試験で文字を使うから読み書きはできるだろう。しかし、街に出てこず田舎で過ごす人たちは文字と触れ合う機会がないとは言い切らないが少ないはずだ。そう仮定すると、俺は文字を読み書きする事ができないということになる。念のため聞いてみるか。)


「少し聞いてもいいか?」


「ええ、なんでも構わないわよ~」


「なら聞くが、平民の識字率はどのくらいなんだ?」


「そうね~、だいたい全体の9割が読み書きができるわね~。学院に通っていなくても、大体の人はできるわ~。辺境の人達は旅人なんかが訪れたりして泊まらせてもらったお礼として読み書きを教えてもらったりする事があるらしいわね。」


「そうなのか。」


といいつつケンタは胸を撫で下ろした。


それなら町のことや歴史のことが学べるな。


「さっきの件に戻るが、この町のことや色んな歴史を知りたい。」


「ならこの家に泊まったほうがいいわ~。うちには王都の大図書館には及ばないけどそれなりの量の本があるわ~。ちょうどいいんじゃないかしら?」



別に泊まらずまたこればいいと一瞬考えたケンタだったが、しがない冒険者でしかない者が毎日公爵家を出入りしていると噂されれば公爵家の品位が疑われるだろう。



「わかった。泊まらせてもらおう。だが俺は宿屋をとっているんだがどうすればいい?」


「それはこちらでどうにかしておくわ~」


そういってケンタとリディアの前から去っていった。





リディアといえばそんなケンタとサーシャの会話は耳に入っておらず、ずっと頬を押さえながら


「ケンタさんとお泊まり…ふふふっ。」


と言っていた。


もうやばいよ、ケンタ。

いい加減気づいてあげなよ。


そんな声が何処からともなく聞こえたような気がした。








そんなことがあってから時は進み時刻は夕方、太陽はゆらゆらと地平線に没し、その儚い残光が町を照らしている時、ケンタは公爵家の屋敷の中にある大きな食事部屋にいた。

そこは長いテーブルがありその上に色とりどりの料理が並べられていた。


ケンタはサーシャと目があった。


「どうぞ、お食べください。アナタ、ご馳走になりましょうか。」


「ああ、そうだな。ではいただくとしよう。」


そういってジャクソンは続ける


「我らに恵みを与えてくださり感謝します。グロリア様。」


ケンタは何事かと思ったが黙ってみていた。


サーシャとリディアもそれに続く


「「我らに恵みを与えてくださり感謝します。グロリア様。」」


そうして3人は食べはじめた。


しばらくしてケンタは近くにいたリディアに聞いてみた。


「さっきリディア達が言っていたことはなんなんだ?」


「ああ、知らないのも無理ないですね。さっきのは私達が信仰しているノルト教のものです。名前の由来はノルトライセン神国の神都ノルトから取っています。この世界を創造された創造神グロリア様にお祈りしているんですよ。」


ケンタは思った。


グロリアは創造神と言っていたが本当のようだ。でもこの世界を創造したんならもっと歳をとっているんじゃないのか?と。


「ノルト教、か。」


「ええ、あ、そういえばもうすこししたら勇者様が異界から召喚されるそうですよ?誰しも勇者様は生きている時に一度でもいいから見たいものなんですよ。」


「そういうものなのか?」


「そういうものです。」


そんな会話をしながら食べているとあっという間になくなってしまった。


いったい誰がそんなに食べたのかって?


それはご想像にお任せする。








ケンタは食事を終えてから執事に風呂へ案内され大きな風呂に入り、その後書庫へ案内してもらった。着替えは用意してくれていた。

さすが執事である。


書庫の扉を開けるとそこは無数に本棚があり、そこに本が敷き詰められていた。

本の独特な匂いがケンタを出迎える。


案内してもらった執事に聞いてみた。


「魔法を学べる本はあるか?」


「ええ、そこの本棚にあります。他に何か質問はありますか?」


「いや、特にない。」


「わかりました。何かありましたら外に待機しておりますので声をかけていただければ大丈夫です。では、ごゆっくり。」



そうして執事は出て行った。



ケンタの考えていることはただ一つ。

魔法についてもっと知りたい。ということだった。


グロリアからスキル『無詠唱』を貰ってるから魔法の名前をいえば発動するが、この世界の魔法とはどのような位置付けがされているのか、それがわからなかった。


ケンタは目についた本を取った。


「魔法学の基礎」


という本の名前だった。


そこには色々なことが書かれていた。

簡潔にまとめると、こうだ。


•魔法とは魔力によって発生する現象のこと


•魔力の元になるのは魔素であり魔素はどんな属性にもなれる。言い換えると魔素は魔法の根幹であるということ


例 魔素→魔力→火魔法


•魔法の威力は発動させた者の魔力量と魔力密度に依存するが魔法陣の効率により変化することもある


魔力量とは魔力の量で多ければ多いほどいい

魔力密度は魔力の密度で密度が大きければ大きいほどいい

魔法陣は人が作り上げた者で魔力の通る道を作ることで効率化を図ることができる


とざっくり書いてあった。


ケンタはそれをみて理解し、覚えた。


本は分厚く結構読んでいたのか、書庫の窓からは月明かりが差し込んでいた。ケンタは本を閉じ、書庫を出た。


今日は一日色々あったのか眠くなり瞼を擦っていると執事が寝室にお連れしますと言い向かった。


そうして連れられてこられたのはこれまた広い部屋だった。ケンタは何も考えることなくベットに飛び込むやいなや、意識を闇の中に落とした。

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