第11話:天才高校生は公爵令嬢と2人で歩くようです

ケンタとリディアは王立魔法学院入学の決定という話題に花を咲かせたあと、執務室を出た。ジャクソンとサーシャは領地の至る所から上がってくる文書を確認しなければならないといい、執務室に残った。



ケンタとリディアは部屋を出た後、屋敷の中庭へ向かった。なんでも、リディアがケンタと一緒に散歩をしたいといったそう。

ケンタは中庭に案内される途中リディアに質問を投げかけられた。


「ケンタさんって、やっぱり誰にも言えないような秘密ってあるんですか?」


誰にも言えない秘密と聞いて、ケンタは内心焦ったが、そこは表情に出さずすぐに誰でもいいそうなことを言った。


「ん?なんだ急に。」


「いえ、単純に聞いてみただけです。でも普通の人とは少し違う気がするんです。」


ケンタはそう聞いてふと思った。


(どうやらリディアは直感が優れているようだ。こういうタイプの人間はかなり厄介だ。

何しろ、直感という曖昧な感覚を使っているから、否定しても信じてもらえない。自分の目で確かめるまでは。俺の苦手とするタイプだ。)


ここでいう苦手というのは性格ではなく、自分のことを直感という曖昧な感覚を頼りに勘違いされ、その前と後で態度が変わる人のことだ。


前世でケンタは天才高校生と呼ばれていた。通っていた私立の中高一貫校の名誉校長はケンタの祖父である森崎慎一郎。慎一郎との関係は良好で、家族で唯一ケンタと対等に接してくれた人だった。中学を卒業する頃には高校で学習する内容はすべて頭の中に入っていた。それに天文学や物理学、経済学、法学など多岐にわたる学問を学んでいた。父や母はケンタが賢くなるにつれ次第に距離を置いた。自分たちより力をつけた子供が怖かったのだろう。

ケンタは中学校に入学した当初、周りの人間は、


「よろしく!健太!」


「健太くんって、賢いよね!」


とか色々話しかけられていたが


次第に遠ざかっていった。


直感で


「もしかして、森崎ってあの森崎?」


「だから賢いんだ?」


とかケンタからしてみれば森崎という名字なだけで、そんなことを言われるのだから、嫌だろう。ずっと一緒にいてくれたのは総司くらいかな?


そんなこともあって苦手意識を持っていたケンタであった。


(俺は対等な関係の友達が欲しかっただけなのにな。)




友達を作るのは簡単だという人もいるかもしれないが、ケンタにとってどんな問題よりも難しいことだった。


そんなことを思い出していたケンタを見て、リディアは言った。


「なんだか、悲しい顔をしていますね。」


「ん?そうか…。」


そう言って思う


リディアはこの事を知った後、対等に接してくれるのだろうか?と。


そして、創造神に会って、チートスキルをもらったと言ったら、リディアはどんな反応をするんだろうか?と。


ケンタは言いたかった。でも過去の記憶がそれを邪魔する。


そんな事を思っていると目の前にリディアがいた。相当物思いにふけっていたのだろう。


目の前のリディアが口を開く。


「ケンタさんになにがあったのか、なにを隠しているのか、そしてなにを悩んでいるか分かりませんが安心してください。言いたくなかったらいいのです。私は詮索しません。もし言いたくなったらその時には教えてくださいね!私はどんな事があってもケンタさんの味方ですから!」


と満面の笑みで言った。



この世界ではじめてすべてを打ち明けてもいいと思った瞬間だった。


だがケンタは思いとどまった。


勢いで言ってしまうのは危ない。

この世界の常識を理解してからでも遅くないだろう。


「ああ、ありがとう。」







そんな会話をしていると目的の中庭に着いた。

中庭と聞いてどんな大きさを思い浮かべるだろうか?


ケンタとリディアの目の前には学校のグラウンドくらいの広さの中庭があった。そこには大きな木が数本、その下には青々した芝が生えていて、池らしきものも見える。芝は管理がいきとどいているらしく、同じ長さでカットされていた。


貴族ってすごいんだね。規模が違うもん。



そんな光景を見たケンタだが全く動揺していなかった。


だって森崎財閥だもん。普通でしょ、そのくらい。


そうして特に何も中庭に感じるところもなく、2人は歩き始めて、リディアが会話を切り出した。


「こうやって2人でゆっくりと歩いてみると、で、デートのようですね?」


と、顔を紅くし、手をもじもじさせながら言うリディア。


そんなリディアを見てケンタは


「そうか。デートか。」


と、特に動揺する事もなく落ち着いた表情で言う。


「えへへ、ケンタさんと一緒に歩く事ができて幸せですぅ。」


頬に手を当て嬉しそうに笑うリディアを見てケンタはこころが暖かくなった。


そうしてケンタはそんなリディアを見て特に会話をすることもなく歩いた。

リディアがずっとこの状態のままなのだ。

相当嬉しいのだろう。


結局何も話す事なくただ2人揃って歩いていた。


それを屋敷の中からたまたま見たメイドは


「お、お嬢様が、笑っておられる~!?」


と叫んだ。


実はリディア、姉のソフィアがいなくなってから、極端に家族以外に笑う回数が少なくなっていた。


そんなリディアがケンタと笑い合っているのを見たら普通びっくりするでしょ?




そんな事がありながらも特に何もする事なく歩き終わり、屋敷の中に入った。





しばらく歩いていると、サーシャがいた。

どうやら文書を確認し終えたようだ。

まあ、ジャクソンに丸投げしたという線も捨てきれないが…。


そんなサーシャは突然言った。


「ケンタさん、今日はうちに泊まりなさいね~。」


「「えっ?」」


ケンタとリディアの声が重なった。

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