第3話:天才高校生は異世界に降り立つようです

急に視界が変わって目を大きくぱっと見開く。天候は晴れ、太陽が真上からぎらぎらと地面を照らしている。真上にあることから季節は夏、時間は昼ごろであると想像できる。そこは遠くの方に円い形をした町のようなものがありその周りには壁がぐるりと囲んでいてそこから四方に道が伸びている。そんな町が見える小高い丘だった。近くには街道がありその町まで続いている。小高い丘の上から見る景色は壮大で、髪の毛を撫でるような穏やかで温かな風が吹いており、まるで大自然がケンタの異世界転生を祝っているかのようだ。健太は息を吸う。大きく息を吐いて、自然を堪能する。


「これが異世界か。随分のどかで暮らしやすい気候だな。俺はもう変なしがらみに邪魔されず自由に生きることができる。ステータスボードにもあったが、職業なしってのは流石に気になるからあそこに見える町に行って仕事探してお金を稼ぐか。運のレベルも高いようだしなんとかなるだろ。」


そう言ってケンタは街道に出て先ほど見えた町へ向かおうと歩を進めた。






街をぐるりと囲む壁の近くを歩いていると門らしきところに人が並んでおり、兵士らしき人に見せて、門をくぐっている。


「俺、何も持ってないけど大丈夫なのか?」


ちょっと不安になりつつもお金を稼ぐためにはまずその門から町に入らなければならない。覚悟を決めて、ケンタは列の最後尾に並ぶ。どうやらほとんどの人が剣を持った人か馬車を引いている人だった。


(総司が言ってたけど、もしかして冒険者ってやつかな。ちょっと聞いてみるか。)


「あのーちょっとすまない。聞きたいことがあるんだが少しいいだろうか?。」


そう言われて振り向いた男は大剣を腰に装備した。


「ああ、いいぜ。で何を聞きたいんだ?」


「ああ、この町のことについて聞きたいんだが、なんか知ってるか?」


「まあ、教えてやる。この町の名前はエアフルト、お前は田舎から来たのか?何も持ってねえじゃねえか。もしかして冒険者志望か?」


そこで冒険者というワードが出てくる。

すぐさまケントは


「ああ、そうだ。名前もないど田舎から歩いてきたんだ。長い距離を歩くから荷物を軽くしないといけなくてな。おかげで手持ちはもう何もないんだよ。」


と嘘を並べ立てる。この手の嘘は相手に見破られない自信がケンタにはあった。何故なら森崎家の長男だったケンタは、上流階級の一通りの作法を身につけており、思ったことを顔に出さない技術にも長けていた。余談であるがケンタはトランプを使うババ抜きで負けたことがない。ポーカーフェイス、言葉遣い、息遣い、目線、その他諸々を使って相手の意識の深層まで欺く。そんなケンタからしたら、通常の一般人など相手にならない。


「よく歩いてこれたなあ、あ、自己紹介がまだだったな。俺の名前はカイロだ。冒険者ランクはCランクだ。」


「俺の名前はケンタ。さっき言った通り冒険者志望だ。」


「冒険者になって思うことがあるが、一応言っておくと、本当に死にやすいから、気を付けろよ。お前みたいな若者が減っていくと俺たちみたいな中年は引退し辛くなるからな。

命を大切にしろ。」


「ああ、分かった。忠告ありがとう。」


そんな会話をしているとカイロの順番が来る。


「話はここまでのようだな。じゃあなボウズ。先に失礼する。」


そう言って兵士にカードを見せ、門をくぐって行った。


そして健太の順番が来る。

兵士は、じっと健太を見つめたあと口を開く。


「少年、冒険者志望かい?」


「ああ、冒険者になるためにこの街へ来た。」


「そうか、最近、魔物が活性化しているらしいから気を付けろよ。」


(魔物か…総司と一緒にやったゲームのオークとかいうやつか?)


そんなことを思いつつ返事を返す。


「活性化、か。重要な情報ありがとう。感謝する。」


そういうと兵士から通ってよしと言われてケンタは門をくぐり町へ入ることができた。







門を潜ると、町並みが見える。門の前には広場があって人がたくさんいた。

町の景色は中世ヨーロッパの街並みを想像してほしい。文明は地球よりも遅れており、どうやら魔法が発展している世界のようだ。

屋台があちこちと並んでおり、そこらじゅうから鼻をくすぐる良い匂いがする。するとケンタは屋台の店主と目があった。


「おーい、そこの少年、ちょっと食べてくれや!」


「すまない、あいにく今手持ちがないんだ。」


「おっ、その服装からするに冒険者志望かい。なんならこのオークの串焼きをくれてやるよ。もちろん金が入ったらこの店をひいきしてくれや。」


(悪くない取引だ。さすがは商売に通ずるもの、先に投資し後で利益を上げる、いいやり方だ。でもオークって食えるんだな。総司とやったゲームは食用には向いてないという設定だったんだが今は歩いたせいか、腹が減った。仕方ない、一口味見してみるか。)


「わかった、金が入り次第、できるだけこよう。オークの串焼きありがとな。」


そう言いつつ一口食べる


「はむっ、っなんだこれ!?うますぎるよ。

噛むと肉汁が出てきて、その肉汁が、さっぱりしていて、口当たりが程よい。何本でも食えるなこれは、飽きがこない味だ。」


「少年、わかってるじゃねぇか。なかなか見どころあるなぁ、さっきの約束ちゃんと守れよなー。」


「ああ、わかってるよ。で、すまない冒険者ギルドってどこだ?」


「この広場を通り抜けて、真っ直ぐ進んでいくと、剣が二つ重なり合ったエンブレムが見えるんだ。そこが冒険者ギルドだ。頑張れよ少年。」


「期待に応えられるようせいぜい足掻くよ、じゃあな」


そう言って別れ、先ほど店主が言ったエンブレムを探しに歩を進めた。



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