第62話 陰陽師、ヤキモチを焼かれる
放課後の鈴を今日も聞く事が出来た。
陰陽道部の活動時間になって、部室に行くと先にハノンが部屋の掃除をしていた。
「相変わらず授業が終わると即部室に行くよな」
「うん、部長だから……!」
几帳面なのか、部長だからという自負がそうさせているのか、いつもいの一番に来て掃除やらなにやらしている。
「そういえば聞いた? アルフレッド殿下が……」
「ああ。今日は公務があるから陰陽道部遅れてくるって事だろ」
その公務が陰陽道部やジャスミン先輩達の監視手配とは……言っとくか。
話を秘密にしておきたいエニーも、到着まで時間がかかる。
でも彼女のメイドスキル、クラス日直の仕事なんて一瞬で終わるだろうな。話も一瞬で終わらせるか。
「……ハノン、ちょっと言っておきたい事がある」
俺は伝えた。ハノンの口の堅さまでは知らないが、信じて伝えた。
少なくともハノンに隠し事をするのは、恋人として気が引けたからだ。
昨日、ジャバウォックに狙われた事。
返り討ちにしたものの、まだグレーとハイーロという主力は残っており、これから俺が狙われる事。
それにあたり、俺の身の回りに危害が及ぶ可能性があるという事。
恋人だと分かれば、恐らくハノンが筆頭に挙げられる事。
全部話したうえで、一言一句を黙って聞いてくれたハノンに俺は謝罪した。
「……悪いな。ヴァロンを倒した時、帝国の人間が他にもいないか確認するべきだった。これからハノンまで危険に追いやる事になる」
「ううん、なんで謝るの……!? ツルキ君らしくないよ!」
「謝らずにはいられるかよ。要は命を狙われる要因を作っちまったんだ」
「でもそれはツルキ君のせいじゃない。オール帝国が勝手にツルキ君を怖がってるだけ!」
俺を責めないハノン。
ちょっとは責めてくれた方が、俺としても気が楽なんだがな。
「私も一緒に戦うよ。今度は失いたくないもん!」
「相手はあのジャバウォックだぞ?」
「相手がジャバウォックでも! ツルキ君一人でなんて戦わせない」
ハノンが腰に刺さった剣の柄を撫でながら、心配そうに俺を見つめてきた。
「……ツルキ君は確かに前世で妖怪達から世界を救った陰陽師なのかもしれない。でもだからって、なんでも一人で背負い込まなくていいんだよ」
「ハノン……」
「だから私、話してくれて嬉しかったよ。ちょっとでもツルキ君の苦しみ、恋人として取り除けたかな、って」
いつも取り除いてもらってるよ。
ハノンがいてくれてるおかげで、本当に陰陽師の過酷な世界から転生してきて良かったと思えてるんだ。
だから一ヶ月前、君が死んだと思った時こんな世界滅びてしまえばいいとさえ思ってしまったんだ。
こんな風に俺に寄り添ってくれる恋人を、絶対守る。
俺の周りの世界、全て守り切ってやる。
世界だけを護る事よりも難しいのかもしれないけれど、やり切ってやる。
そう決意した時だった。
「でも、今の話の中で、もっと謝ってほしい事があります」
ん? なんか流れが変わったな。
「そんな夜に……ジャスミン生徒会長と何してたの」
何故か唐突に前世で妖怪に囲まれた時の事を思い出した。
そう、これは“修羅場”という奴だ。思い出した
生死が掛かった最前線だ。易占でも見切れない奴だ。
やべえ。死にそう。
「さっきも言った通り、たまたま向こうが通りかかって、ちょっと話しただけだ」
俺が正直に答えても、頬を膨らませた状態でじーっとジト目で睨んでくる。
そんなハノンも可愛いが、まさか……。
俺は恐る恐る訊いた。
「ハノン様、まさか、浮気カウントに入れてません……?」
「イエスです。私だって見惚れるくらいあんな綺麗な人、夜に二人きりになったら何もない訳ないんだから……」
やっぱそっちの心配されてたのか。
嘘がつけない、素直な性格故に顔に嫉妬が刻まれるタイプだこの子。分かりやすくていいけど。
「……ジャスミン生徒会長みたいな貴族だけど戦士なタイプは、自分に勝ったツルキ君の事認めてアプローチしてもおかしくないもん……」
「よし落ち着こう。へい落ち着こう。やれ落ち着こう。ハノンが心配するようなことは一切起きてない、OK?」
「オーケーじゃないよ! それに一歳年上なのに、あんなにお胸だって大きいし、体ほっそいし……男の子って、やっぱり」
「ハノン、さも自分が貧乳キャラの様に言うけどあなた十分膨らんでるからな?」
「嘘! エニーちゃんとこの前お風呂入った時もっと膨らんでて綺麗だったから……! 同い年の子もっと大きいよ……っ!」
「よし、環境が悪かった! 後男子に他の女子のおっぱいが大きいとか言うの、やめようね!」
俺はこれ以上いけないと、話を断ち切った。
しかしエニー、あの幼児体型でやっぱり胸は大きいのか……!
思い返せばAクラス、皆発育良かったからな。
やっぱみんなちゃんと形になってるのね。
貴族とか多いせいかな。いい物食べてるせいかな。
ハノンはこの二年間奴隷のような生活だったし、それなりに張り合えるくらいに胸が膨らんでいるのはきっと遺伝子のおかげなのだろうけど。
でもハノンも、ちゃんとブレザーを押し上げてくれる胸がある。
おれもまだ見た事ないけれど……うん、これ以上は止めよう。大変な変態になっちまう。
「本当に、何もない……!?」
「天地神明に誓って何もないっす」
真っすぐに暫く見つめ合った結果、ちゃんと本当と信じてくれた様だ。
「……疑ってごめんなさい」
「大丈夫、でも何かそういうハノンも可愛いなって」
「こんな所可愛くたって、仕方ないよ……」
そういいながらめっちゃ顔を赤くしてくれる。やっぱりかわいいね。
「じゃあそろそろ一回離れようか。物凄いエニーが入りにくそうな顔をしてるから」
「!?」
今日一番顔が赤くなったハノン。
部室の入口で、入るべきかタイミングを物凄い見定めていたエニーに気付いた瞬間だった。
家政婦は見た、みたいになってる。
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