第63話 陰陽師、陰属性の陰陽道を教える
「これだけ反射率が高い剣なら鏡の性質もあるから、それを利用した陰陽道も活用可能だ」
俺とハノン、そしてエニーは外に出て、ハノンから借りた剣の刃を指しながら説明していた。
デートする時、いつも武器屋がデートコースに含まれる程に剣オタクな事はある。
非常によく手入れされている。太陽を反射する刀身はまるで鏡の様だ。
「陰陽道って、媒介は紙じゃなくてもいいの?」
「単純に一番携帯も楽で、多種多様に応用できるのが紙ってだけだ。剣なら剣の、盾なら盾の性質、そして鏡なんか特に素晴らしい性質を持つ」
「鏡の性質……?」
「女子なら手鏡とかも持ってるだろ。あれも陰陽道にとっちゃ十分武器になる……、まあ鏡も紙と同じくらい陰陽道の基本にして究極だ」
ただし勿論今日は触れる程度だ。
実際鏡は陰陽道の媒体としては奥が深い。
少なくとも鏡について最初に極めてもらうのは、この陰陽道だ。
「“
俺はハノンの剣にある属性の陰陽道を仕込んだ。
「何をしたの?」
「ああ、“陰”の属性を仕込んだ」
「この前お話ししていた五行とは別ベクトルの、
「その通りだエニー。五行も陰陽も事象の全てを表す概念だ。とはいえ陰陽の方は五行とは違い、事象を具現化出来ない。炎を出したり、水を出したりだとかは出来ない。その代わり、物体の性質に作用する」
「物体の性質に作用?」
「今ハノンの剣に陰の属性を仕込む事で、鏡としての性質を強化した。という訳でハノン、この剣目掛けて魔術を何かしら放ってみな」
「う、うん……」
流石に自分の剣を傷つける事を躊躇したのか水魔術を放つ。
そして俺の目論見通り、水は“反射した”。
付着し潰れる筈だった水塊はその形を保ったまま剣から跳ね返り、明後日の方向で弾ける。
「は、反射した……」
「今のが“鏡己乱舞”。込めた陰の霊力によって跳ね返せるエネルギーには限りがあるが、例えばその辺の硝子や手鏡でも同じことが出来る……これからは陰陽についても段々と慣れていこうか」
それから暫くは鏡己乱舞の練習に二人は明け暮れた。
勿論二人の持ち物を壊す訳にも行かないので、鏡は俺で用意する。
八百万の紙で無限に出せる、銀色の紙で。
最初の内は魔術が全く跳ね返らず、次々に紙が燃えては濡れては切れては泥まみれになって行く。
まあ五行よりは難しいからな。でも一度コツを掴めばそこからある程度までは習得できるはずだからな。
それから暫くして、少し疲れた様子でエニーが戻って来た。
比較対象のハノンが遊奈の魂引き継いでいるからかもしれないが、エニーは霊力が弱い気がする。
正直、人並みと比べても弱い気がする。
とはいえ霊力は鍛えられる。そのコースも現在検討中だ。
「うーん、どうもやっぱりこういった実践というのは上手くいかないものですね」
「大体そんなもんだ。魔術と同じで反復練習が必要だ」
「魔術の練習も同じ感じでしたから、根気はあるつもりです」
「同じ感じ?」
「魔力はあるんですけど、その扱いが難しいというか……その制御の会得に時間をかけました」
「えっ、って事はいつも魔力セーブしてんの?」
「そうなります。ある一定以上を超えると自分でも歯止めが聞かないというか、魔術の構成にムラが出来てしまうのです……でもそこは宮廷魔術師の指導もあって、何とか自分なりに克服しました。こういう根気比べは初めてじゃないんです」
「じゃあエニーが陰陽道部に入ってよかったと思えるように、色々教えまくるとするか。俺の指導は厳しいぞ?」
「ツルキ君は自由な人ですが、人に厳しくするのが苦手なタイプだとお見受けしましたので、多分大丈夫です」
「さらっと言ってくれるね」
まあ陰陽道を人に教えるなんてこれが初めてなんだけどね。
前世じゃ、自分で身に着けるものだったし。
「やったぁ!」
ハノンの掛け声が合った。嬉しそうにぴょんぴょん跳びはねている。
“反射”が、成功してる……。
「早っ」
「ハノンちゃんみたいに、魔術や体術、ああやって陰陽道の要領がいいのも羨ましいのです」
ハノンは流石遊奈の魂を引き継いでいるだけあって、確かに素養はあった。
勿論僅かだが、一日で出来るとは思えなかった。
「けどな。ハノンはエニーの知識量が羨ましいって言ってたぞ? 実際先月だって、君がハノンの親父さんの病気を見抜いていたし」
「……あれは偶々です。そして知識だけじゃ、アルフ様は守れません」
「付き人ってのは時には盾にもなれって言われてんのか?」
「アルフ様からは逆に逃げろと言われていますけどね。でも私は、アルフ様を放ってどこかに逃げられません。いざという時は私がアルフ様が逃げられるよう、殿を務める所存です」
「アルフが望んだ事じゃないとしても?」
「あの人に、私は死んでほしくないから……」
「きっとアルフも同じこと考えているよ」
「知ってます。でも、あの人のいない世界なんて、私には想像できないですから」
本当に心からアルフの付き人で在り続けたいんだな、と感じた。
確かに家族の様な絆を感じた。同時に外の世界を知って欲しいというアルフの気持ちも分かる気がした。
「エニーは、どうしてアルフの付き人を始めたんだっけ」
尋ねた俺に返ってきた答えは、少しずれたものだった。
たった一言で答えられない事を示すかのように、物語で回答を示してきた。
「……私には、六年前までの記憶がないんです」
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