第61話 陰陽師、本質を突く
「アルフ、オール帝国とこの王国は、確かに一触即発ではあるけれど今すぐ戦争が起きるって訳じゃねえんだよな」
「その通りだ」
ジャスミンが去り、俺とアルフが残った教室。
俺は変わらず人払いの平方完成を解かないまま、一対一になったアルフと会話を続けていた。
「……やっぱ解せねえな」
「どうしたんだい」
「だとすると、オール帝国は何で俺を消しにかかってきたかな。それがずっと引っかかって仕方ない」
「というと?」
「……俺の意見を言うとな。正直俺を暗殺しようという企みは、ただのブラフに見える」
「僕も同じことは考えていた。君を処理したいという帝国の動きは分からなくも無いが、それに世界最悪の暗殺ギルドなんてジョーカーを切ってくるのが、という事だろう?」
「その通りだ……帝国には別の戦略がありそうな気がする」
「……つまりジャバウォックは暗殺ギルドではなく、全体の眼を集める為の囮として活用しているという事か?」
「俺を殺せればそれでOK。そうじゃなくとも、ジャバウォックに学院が、王都が狙われているなんて知られれば間違いなくパニックになる。結果、為したい何かの隙が出来る」
「成程ね。君がこの件について広めたがらないのは、そういう考えがあってか」
一体全体、狙っているのが何かまでは見抜けないけどな。
俺の易占も、俺に起きるほぼ直ぐの未来しか見えないし、こういう時には弱い。
だがこういう嫌な予感って言うのが当たるのも、陰陽師の嫌な性だ。
「……それに、少しタイミングが良すぎだとは思わねえか?」
「ヴァロンか……」
「一ヶ月前、あのまま俺が見逃さなければ、すんなりとヴァロンは帝国に行くはずだった。多数の
「帝国は大量の
「ああ。世界的に当然違法行為な訳だし、オール帝国はヴァロンを受け入れるからには何か目的があった筈だ」
「貴族合議会でも議論に上がっていてね。オール帝国が何を企んているのかは、目下調査中だ」
「既に暗殺ギルドを使うまで帝国もしてきてんだ。はっきり言って本筋の行動を起こすまで一週間とかからねえだろうよ」
「分かっている。だからこそ迎撃の準備を――」
「心当たりはねえかって言ってんだ」
俺はアルフの眼を真っすぐ見て話す。
こういう時、アルフも真っすぐ俺を見返す。
だが俺には、心のどこかに何か踏み込めない領域があるような気がしている。
「一ヶ月前、ヴァロンが死んだと知った時お前は手掛かりを失ったように憤っていた」
「あれは……一ヶ月前の話だ」
「お前の許嫁のジャスミン先輩が言ってたぜ。4年前の794プロジェクトってので姉さん亡くしてんだろ?」
アルフが一瞬だけ目を逸らした。
「姉上は勇敢に戦った。今更復讐なんて気持ちもないさ」
「……だとしたらお前は一ヶ月前、何故あんなに怒っていた?」
「……」
「一ヶ月前、言いたくないと言っていた事があったな。更には“呪いを解く”という事を願っていたな」
一ヶ月前、ヴァロンが殺された時の話だ。
確かにアルフは悔しそうに壁を殴り、どこか様子もおかしかった。
「更にはお前とエニーに何かあったら、エニーを助けてやってほしいとも言っていたな」
「そうだったかな」
いつもアルフの横にいる小さな少女。
挨拶をすると、無垢に礼儀正しく挨拶を返してくる。
知識量は学院一どころか大人顔負けで、あらゆる学問に精通している。
この陰陽道部の活動の中で、自然に気遣いある行動を繰り返してくれた、小動物の様な生き物を回想した。
信じたくはないが。
「……“呪われている”のはエニーか」
「呪われてなどいない……!」
「その呪いを解く人間を探して、お忍びを繰り返していた。そこまでは何となくわかるさ」
「あの子は……!」
気づけばアルフの声は荒げていた。
深呼吸を繰り返して、いつもの冷静さを取り戻そうとする。いつもの余裕満々の大人としてのアルフに戻ろうとする。
だが、俺はさせない。
“かっこいいアルフ”に戻させる気はない。
「“あの子は”、エニーは……何だ?」
「……」
「なあ、エニーも陰陽道部の一員で。俺の親友だ。そしてお前にとっては許嫁なんて目じゃない、家族のようなもんだろ……だからそんなに焦ってんだろ」
アルフは暫く顔を抑え、何かを追想するように天井を仰ぐ。
「アルフ。言ったろう。何かあったら俺に頼れ、お前はもう、俺の一番の親友なんだからな」
……だが間の悪い事に、授業開始の予鈴が鳴り響いてしまった。
十分な時間は用意していたつもりだったが、時間切れか。しかし空気の読めないタイミングで成りやがって。
「アルフ。陰陽道部の活動後に続きだ。絶対な」
「……どうやら僕は、とんでもないのを連れてきてしまったらしいな」
「今更かよ。俺はしつこいぞ。納得できない不自由があったらその秘密、力ずくでこじ開けてやんよ」
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