第52話 陰陽師、生徒会室に呼び出される

「今日は陰陽道部の活動を始める前に……やらなきゃいけない事があります」


 陰陽道部の部室で、ハノンは冷や汗をかきながら、重大事態を口にした。

 

「生徒会に呼び出されてしまったので、皆さん、御同行願います……!」




 部活動もあるなら、生徒会室も当然あって然りだ。


 彼女達、即ちこの学院の生徒会室はよりにもよって女子だけで構成される。

 一瞬花畑かと間違うくらいに満開の花で修飾された生徒会室には、腕章をした女子が五人。

 奥にいる金髪碧眼の女子が生徒会長だ。俺が確信したと同時、生徒会長の少女は立ち上がって、歓迎の言葉を口にした。

 

「生徒会長のジャスミン=ハロワルトです。陰陽道部の皆様、生徒会室へようこそ」


 この学院に入ってきてから色んな貴族を見てきたが、こうも一瞬で位の高い人間であることを匂わせた女は初めてだ。

 優雅たれ。上品たれ。たった数秒間でこの女が何を信条にしているのかがわかる。

 正直一瞬目を引きかけた揺れる胸に、何を詰め込んでいるのかがわかる。

 アルフと同じく、酸いも甘いも噛分けてきた貴族だ。

 ハロワルトという家柄も、最上位貴族の一員として有名だ。


「部長はどなた?」


 ジャスミンの質問の矛先は、ハノンだった。

 

「私です」


「ハノン=ローレライですね。陰陽道部に来てもらったのは他でもありません。率直に、陰陽道とは何かを私に教えなさい」


 依頼というより、命令だった。

 きつい視線に耐えながらも、ハノンが命令通りに説明する。


「創部届に書いた通りです。陰陽道とは“星魂論”の――」


「言葉ではなく、実際に私に見せなさい」


 心のシャッターが降ろされてしまった。

 突き放す様なモノ言いにハノンの声がこれ以上出ない。

 確かにハノンが苦手そうな相手だ。というか、おっかねえ。

 言い淀むハノンに、続けて生徒会長としての主意が突き付けられた。


「このグロリアス魔術学院はオール帝国も含めた世界一の教育機関として君臨しています。故に、忌み枝は剪定しなければなりませんの」


「つまり、俺らの部を廃部にしたい、そういう訳ですね」


 俺の確認に、ジャスミンが躊躇なく頷く。

 

「その必要があれば」 


「じゃあ見せてやりますよ」


 俺は真上に紙飛行機を投げた。

 金の属性を付与した紙飛行機が、砂金に変わって落下する。

 どよめく生徒会役員たちの中心に、金の雨が降り注ぐ。


 また手品としちゃ物足りねえな。

 もういっちょ。

 生徒会員の一人が机上にばら撒かれた金を凝視しながら、思わず漏らした声を易占で先読みする。

 

「さ、砂金……!? 一体どこから……!」

「さ、砂金。 一体どこから」


「……!?」


 その生徒会員もジャスミンも、一言一句、口走る速度まで一緒だった俺の言霊に沈黙しきっていた。未来が見えていれば、発言のタイミングを合わせるのは訳ない。

 凍り付いた空間を溶かす様に、ここで一つ嘘を言ってみる。

 

「俺が“星魂論”のファンでしてね。読んでハマってなぞってたら、こんな事が出来る様になっちまいましてね。魔術にはこうやって金を生み出す力も、未来を読む力も、確かなかったと思うんですがね」


「成程、どうやら有象無象の戯言という訳でもなさそうですわね」


 喉を鳴らして、生徒会長に椅子に腰かけるジャスミン。

 だが俺達の陰陽道部の廃部を諦めてくれたわけではなさそうだ。

 

 しかし俺も折角得た、心地よいい場所だ。退くわけにはいかないな。

 今日でもう一ヶ月半になる。

 霊力の基礎だって四人に上手く伝わり、浮遊までなら出来る段階にまで到達している。まだまだ部活動は序の口なんだよ。

 

 生徒会としての事情もあるのだろうが、学院の長としてのプライドもあるのだろうが、こちらにも譲れない理がある。

 いくらだって徹底抗戦してやる。

 だから挑発的に、俺の方から聞いた。

 

「どうすれば俺達陰陽道部の継続を認めてくれるんですかね」


「確かに大したものだっていうのは認めますわ。しかし私の中では魔術を疎かにしてまで極めるべきものなのか、グロリアス魔術学院として誇るものなのかを計りかねている」


 生徒会長らしくきっちり着こなしたブレザー。

 しかしそれを以てしても覆いきれない胸へ、ジャスミンが腕組をする。

 

「ただの手品を芸術品と偽っているとしたら、学院の格が落ちますので」


「お、陰陽道は手品なんかじゃありません!!」


 横で反論するハノン。

 だが生徒会長は冷酷だ。

 

「熱意は買いますが、私は真実として続けさせることが益になるかでしか見ません……例えそこのアルフレッド殿下が王家の力を発動しようとも、生徒会として徹底抗戦しますので」


 アルフの威光が効かない人だった。


 しかしアルフ、今日はなぜかやたらと静かだな。

 なんというかジャスミンと目を合わせたがらないきらいがある。

 思えばジャスミンが唐突にアルフの事を言い出したのも変だな。


「ではこうしましょう」


 そこで、ジャスミンが提案した。

 

「私の魔術と、陰陽道とやらで手合わせをするのです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る