第45話 陰陽師、陰陽道部の初活動をする


「ハノンさんだけいきなり浮遊使えるの、ずるいです!」


「そんな事言わないでよ、ほら、さっきツルキ君が教えてくれた通り……!」


 初日の陰陽道部の活動。

 既に一人でも空が飛べるようになったハノンが、エニーに手解きを教えているのを遠くから眺めていた。

 休憩という名目だったが、アルフが俺と話をしたいと、この時間を創り出したのだった。

 ベンチで、二人。女子達のたわむれる姿を眼福にしながら、真面目な話をする。

 

「ヴァロンの地下牢まで、着いてきてくれないか」


「……いいぜ」


 俺は理由も聞かず、アルフからのお願いを受け取った。

 

「俺もヴァロンには聞きたいことが何個かあってな。奴の行動には、ちょっと不可解な点がある」


「君も言っていた、蟲毒こどくとやら……蛇蟲へびみこの事か」


「ああ。あれは陰陽道ではないにせよ、この世界には存在しない筈の現象だ」


 ヴァロンはただ蛇蟲を生み出す為に利用されただけだ。

 その協力者にどうにも興味がある。

 

 俺という異世界転生者の前例がいる時点で、生まれる前に確信している。

 他にも俺の様な異世界転生者がいる、と。

 

 半信半疑の域を出ないが、もし異世界転生者がいるなら、何らかの知識を持ってこの世界の歴史に介入している事も想像に難くなかった。

 

「とはいえ、今は陰陽道部の活動、だろ?」


「ああ。そうだな。勿論行くのは夜だ……さてはハノンとデートだったかい?」


「残念なことにまだ約束も取り付けていない。殿下なら王都のデートコースも熟知してるのでは?」


「ほれ来た。最初からそうやって頼ってくれるのを待ってたよ」


 王都についてはまだ疎い俺に、殿下一押しの散歩道を教えてもらう様約束した。

 ヴァロンの地下牢へ向かう最中に、だが。

 

「王家だと、許嫁とかもいるものなのか?」


「いるよ。しかもこのグロリアス魔術学院に」


「まじか」


「勿論断るつもりだ」


「まじか」


 引く手あまただもんな。実際アルフを囲む女子達は時折見かける。

 王家の威光が無くとも、こいつも今年で14歳とは思えないくらいの清濁を知り尽くした整った顔しているし、俺よりも身長は少なくとも15センチは高い。

 横に並ぶと顕著なんだよ。おのれ殿下。

 許嫁なんて羨ましい人もいながら、それを断ろうとする自由奔放さは何だよ畜生。

 

 自由奔放。

 ある意味、それが一番似合う男だった。

 お忍びで兵士をやるとか、王様を継ぐ気はないとか、許嫁を振るとか。

 

 前世の俺とは真逆の道を進むアルフ。

 しかし傍から見ていると、ただ自由でありたいから、ではない。

 玉座に座っていては、救えない景色もあると言っていたが。

 故に、単純な興味から質問した。

 

「アルフ、お前は何がしたいんだ?」


「意味深な質問だね」


「俺もあまり深い意味は考えないで質問している。一見王様になるよりも、身分を捨てて解き放たれた方がやれる事が多そうだ。でも、王家の力を使ってできる範囲もやっぱり広いと思うんだよ」


「そんな事は無い。権力というのは有り過ぎるとね、しがらみだらけなんだ」


 アルフは思わしくない表情で答えた。

 俺も軽く頷く。


「確かに制限は色々多そうだが……では玉座からでは見えない景色ってのはなんだ?」


「……君も妙な事を覚えているね」


 アルフも自分がかつて、俺にそう言った事は否定しない。

 

「まあ、それも深い意味は無いよ。王位継承権三位なもので、最初からあきらめているだけとも言える」


 いなされた感じだ。

 そんな風に感じたとアルフも悟ったのか、今度は説得力と深みを含めた口調で続ける。

 

「……例えばどうしても救いたい命が一つあるとする。王様になると、その命を見捨てて世界を救わなければいけない」


「だから王様になる事を諦めたのか」


「ああ。王様を目指すままだったら、君にも出会えなかった。陰陽道の存在も、異世界の存在も知らなかった」


「それでその救いたい命ってのは救えるのか?」


「……」


 アルフは黙った。

 救いたい命、というのは嘘じゃない気がする。

 アルフは何かを探しているんだ。

 アルフは何かを救いたいんだ。

 

 救いたい命を、救える方法を。

 

「この陰陽道部は陰陽道を極める部だが、その延長線上にお前の探しているものは見つかりそうか?」


 ハノンがこっちに手を振っている。

 そろそろ休憩も終わりだ。

 先に立ち上がったのは、アルフだった。


「僕は知りたいのはね、呪いの解き方だ」


「呪いの解き方……?」


「陰陽道が果たして鍵穴に似合う、鍵に当たるのか……それを知りたい」


「何の呪いを解きたいって?」


「……ただのギャンブルだ」


 それっきり、アルフは陰陽道部の活動に注力した。

 まるで学生の様に。

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