第5話 博士、がんばれ


 A2Z回路。時空移転式。位相計算。


「ぜんっぜん分かんないんだけど」

「アレマ=ソリャタイヘン」


 サマーシャ(in博士の身体)は、巨大機械のモニターと大量の手書き資料とを、交互に見比べていた。


 見たこともない言語で書かれたそれの、意味するところは何故かなんとなく分かる。

 意味は分かっても、内容が分からない。読めるけど理解ができない。


 なんだか頭が痛くなってくらくらしてきた。


「これをもう一度動かせば良いんだよね。でも、設定を調節しなきゃいけないって……どこをどうすればいいの?」

「ソノ演算処理ハ=ワタシニハ=不可能デス・ワタシハ=予定通リノ帰還操作=シカ=デキマセン」


「予定通りの操作じゃ駄目なの?」

「前提条件ニ=相違ガアリマス・駄目ナ確率=97.6%=デス」

「けっこう駄目ってことだよね、それ……えぇー、困ったなぁ~。早く戻らなきゃいけないのに」


 今日は初唄祭の日なのだ。精霊様に唄と舞を披露して、部族の一員として認めてもらう日。太陽が沈むまでに帰らなければ――絶対に。


「がんばれ博士! なんとか思い出すの! むむむむむーっ!」


 モニターぎりぎりまで顔を近づけて睨みつける。


「なんとなくこっち! たぶんこう!」


 ぱっと思いついたままに、適当に数式を書き替え、並び替える。もう身体の記憶と感覚を信じるしかない。


「やるしかないよ、サンパチ!」

「幸運ヲ=祈リマス」

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