第3話 一方その頃

 一方その頃。山のように積み上がった機械が鎮座する、郊外の研究所では。


「いぃやぁぁぁっっっ!? ナニコレぇぇぇぇっ!?」


 博士がテノールボイスでその姿に似つかわしくない悲鳴をあげていた。


「アレマ・博士ガ壊レタ・ワーコリャ=テーヘンダ」

「なんか言ってるぅぅぅ」


 38が両方のアームを上にあげて電子音声を発すると、博士の姿をした何かは床を這いずるように距離をおいた。しかし、巨大な機械にぶつかってうまく逃げられない。


「アナタノ使用言語ハ日本語デス・ワタシノ言葉モ=理解デキルハズ」

「来ないでぇぇぇぇ!?」

「精神混乱中・アレマ=コリャコマッタ」


 チキチキチキと演算処理した38は、突然、くるりと博士に背を向けた。


「……ウワアアア・コッチニ来ルナアアアア・壊サレルゥゥゥ」

「……え」


 急に目の前から逃げ出し、両方のアームで頭(?)を覆いながら壁際で震えだした38に、博士の姿をした何かは縮こまっていた腕を解いた。


「べ、別に壊そうなんて……」

「動イタァァァァ」

「ちょっ、大丈夫だって! 何もしないから!」


 ぴたりと震えるのをやめる38。そうっとアームの間から目(カメラ)を覗かせる。


「……アナタノ=オ名前ハ?」

「アイルグランテのサマーシャ」


「オ国ハ=ドチラデ?」

「国? ヒト族が決めてるやつ? さぁ、なんだったかなぁ……」


「アナタハ=人間デハ=ナイデスカ?」

「そんなの見れば分かるで……あああ、そういえば私、なんか変な姿になってるんだったっ!?」

「オオット・コリャ失敗」


 プシューと音をたてて、38がひっくり返った。ピクッピクッと二、三回、アームと車輪を痙攣させて、動かなくなる。


「う、嘘、壊れた……!? 私何もしてないのに……!」

「サ、サマーシャ氏……オ願イガ=アリマス……」

 息も絶え絶えに(ロボットだから息はしていないのだが)言う。


「何? どうすればいいの?」

 四つん這いのままゆっくりと近づいて、心配そうに38の様子をうかがうサマーシャ(in博士の身体)。


「イイデスカ・説明ヲ=ヨク聞イテ=クダサイネ」

「うんっ」


「アナタハ・オソラク・ウチノ博士ト=身体ガ入レ替ワリマシタ・ソノ身体ハ=ウチノ博士=鳥飼進ノモノデス・三十二歳独身・イワユル馬鹿ト天才ハ紙一重ナ研究者デス・今回=空間転送ノ実験ヲシテイテ=アナタヲ巻キ込ミマシタ・代ワリニ謝罪シマス・申シ訳アリマセン・死ンデオ詫ビヲ」


「いや死ななくていいからっ!」


「アリガトウゴザイマス・ソレデ=デスネ・アナタハ・オソラク・別世界ノ住人デス・僭越ナガラ=ワタクシ=アナタガ元ノ世界ニ帰レルヨウ=ゴ協力イタシマス」


「本当? ありがとう! ……って、あれ? 私、何かしなくちゃいけなかったんじゃ……」


「ハイ・コレカラ・シテイタダキマス・ア=ワタクシノ事ハ・サンパチ・ト=オ呼ビクダサイ」


 先程まで壊れかけの様相をしていた38は、スルスルと滑らかに動いて巨大な機械のモニター部分へと向かう。


 サマーシャ(in博士の身体)は首を捻ったが、幸か不幸か、サマーシャはあまり物事を深く考えない素直な性格だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る