第2話 どこかの森で

 最初に回復したのは触覚だった。チクチクと肌に触れるもの、ごつごつと背に触れるもの、ふわふわと頬にふれるもの。


 次いで嗅覚。しめった土の匂い。青々とした葉の匂い。ほんのりと甘い花の匂い。


 さわさわと木の枝が葉を揺らす音、鳥と虫の鳴き声が聞こえてきた。明るい日差しがまぶたの裏から透けて見える。


 彼は目を開いた。はっと息をのみ、起き上がる。


 そこは森の中だった。大きな木の根元に倒れていたらしい。木も草も、色が虹色だったりぐねぐねと曲がっていたりというような異世界っぽさは見あたらない。


 しかし研究所近辺の山ではなさそうだった。あえて言うならテレビで見た屋久島の森に似ているだろうか。しかし南国にしては、気温も日差しも穏やかだったが。


「うぅむ、世界の壁は越えられなかったか……しかし、研究所から外への空間移動には成功。設定の調節をすれば成功も間近だなっ!」


 そう叫んで、違和感を感じた。


 声が変だ。まるで女子高生のように高い。それだけではない、『言葉』が変だ。


「あー、あー、あー? 本日は晴天なり。え? 『晴れ』。なんだ、どういうことだ?」


 普通に喋っているつもりなのに、自分が話しているのは完全に『日本語ではない』。しかし、自分が発したその言葉を理解できる。


 想像した言葉と実際に発した言葉を単語ごとに比較しようとすると、言葉の認識がごちゃごちゃと絡まり合って頭が混乱した。軽く頭痛や目眩までしてくる。


 彼はわしゃわしゃと自分の頭をかいた。ふわふわと髪の毛と、そして何かヒダのような感触を感じて、ビクッと手を止める。


「…………っ!?」


 なんだこの柔らかい髪は。なんだこの細くて白い手指は。なんだこの白い花で飾られたヒラヒラとした衣装は。なんだこのすらりとした足と革紐で編まれたサンダルは。なんだこの腰の後ろから伸びるもふもふとした尻尾は!!


「一体どうなっているんだ!?」


 自分の姿を確認した獣の耳と尻尾を持つ少女は、可愛らしい声で叫んだ。


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