黄金尻尾のサマーシャと天才博士の鳥飼進

維夏

第1話 世界初の大発明

「はっはっは! ついに! ついに完成したぞっ!!」


 町工場を改造した研究所。その八割以上を占める巨大な『完成品』を前に、鳥飼進は両手を広げ声をあげた。


「人類初! 新たなる一歩は、ここから始まるのだ!!」


 パソコンやタブレットなどの電子機器、洗濯機や電子レンジ、古いブラウン管のテレビなどの家電、かと思えば、大学や研究施設にしかないような精密電子機器まで、ありとあらゆる機械が適当に積み上げられたように見えるソレは、まるで粗大ゴミの山だった。


 巨大な機械の正体は、『異次元空間転送装置』――仮称:N-LAND世界へと物質を行き来させる夢の装置だ。N-LAND世界の研究は広く行われているが、生物の転送が成功した例は未だ報告されていない。


「オメデトウゴザイマス・サスガ博士=人ノ道ハズレテルダケ=アリマスネ」

「その単語の用法はおかしいぞ、38。後で言語データを修正してやろう。まずは試運転をしてみなければ!」


 38(サンパチ)と呼ばれた棒読みの電子音声を発する物体――博士の腰ほどの高さの直方体に二本の長いアームと小さな車輪が付き、見ようと思えばロボットに見えなくもない――は、チキチキチキと数秒の演算処理を経て言い直した。


「オメデトウゴザイマス・人知ヲ越エタ博士・イヨッ=コノ人デナシ!」

「無駄な処理してる暇があったら、D-2の確認をしてくれ。うまく動いているか?」


 巨大な機械の一角に埋もれたモニターとキーボードの前で、博士は38のほうを見ることもなく言う。指示を受けた38は、機械の周囲をチョロチョロと動き回った。


「ハイ・問題アリマセン」

「位相の揺らぎ値は?」

「0.86=想定範囲内デス」

「よーし」


 博士は大きくうなずいた。巨大機械の一部、古いゲームセンターで手に入れたミュージックゲームの筐体へと、ゆっくり足を踏み入れる。


「私の理論は完璧……失敗する要素は何もない。『異世界』への扉を開くのは、この私だ……!!」



 バリバリバリッ、と空を引き裂く雷のような大音響。

 真っ白な閃光。

 落ちているのか、浮いているのか、分からない浮遊感。



 すべての感覚は『透明』に塗りつぶされた。





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