#1 僕と【彼女】の出会い。
その日、僕は【相棒】と出会った。その相棒はスマホのアプリで謎の電子生命体であるトクヨちゃんと呼ばれた。ー
ある日の月曜日、愛知県警本部で警務部備品係装備課に勤務する工藤俊輔は50代の男性刑事からスマホの修理を依頼された。いつもの如く修理の手際が良く、一昔前の警察無線機も早々で修理を終える腕を彼は持っていた。
「悪いね、工藤君。君にこんな古ぼけたスマホの修理をさせて・・・。」
「いえ、仕事ですから。」
ただ彼はそう淡々と答えた。工藤俊輔はこういう男である。仕事はひたすら出来る、無駄なお喋りは慎む、頼まれた仕事は必ず最後まで責任を持って遂行する。彼は近年稀に見るような生真面目なサトリ世代の青年である。
「じゃあさ、今夜、飲みに行かない?こう・・・。」
「すみません。僕、お酒は飲めませんので、烏龍茶なら。」
こういうお誘いに対しては若干の断りは入れつつ受ける素直さを彼は持っている。
「わかった。じゃあ、君の仕事が終わったらまた来るよ。」
向こうは恐らく社交辞令と分かってても嬉しかったのだろう。サクサクとした足取りで部屋を出ていく。
「『アンタ、イイ所あるじゃんか〜。』」
男性刑事が部屋から出ていくとそのスマホは何故か喋り出した。実は工藤は修理した後にとあるアプリを起動してからずっとこういう調子で話してくる。
「急に喋らないでくれますか?まるで僕が独り言を言ってるみたいじゃないですか、トクヨさん。」
「『何言ってんだい、アタシはね、喋らないと生きていけないんだよ。手より舌があんだからね、アタシには、俊輔。』」
初めて話された時は少し驚いたが、すぐに工藤は慣れた。彼女の名前は【トクヨ】と言い、ケータイが黎明期だった平成初期の頃からネットに住み着いている電子生命体だと言ってるが、正確な正体は工藤にすら分かっていない。
「まぁ、貴方を起動させたのは僕ですから。多少なりとも責任はありますよ。」
「『何だい、案外義理堅いんだね、アンタ。』」
「いえ、面倒な事は嫌いなだけですから。」
そう工藤が言うとトクヨは悪戯っ子な笑い声を出し、こう言ってきた。
「『じゃあ、これからやろうかい?』」
「何をですか?」
「『事件の捜査だよ。』」
そうトクヨが言うと、スマホがまるで意志があるが如く引っ張るかのように総務課の部屋を彼女と共に工藤は出た。ー
続く
※あとがき
どうでしたか?スマホのアプリがもし意思を持った電子生命体でそれを警察官が起動させてしまうという奇妙な警察小説ですが、これからちょくちょく書いていこうと思います。
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