9話 あくまで部活仲間のコミュニケーションです

 最終下校時間まで十数分ほど。みんな作業に一区切り付いたため、仲よくお菓子を食べながら雑談を交わしている。


「ふぅ、悩ましいわ。悠理の使用済みトイレットペーパーの入手方法だけが、いつになっても思い浮かばないのよねぇ❤」


 作品のアイデアにでも悩むようなノリで、姫歌先輩がとんでもないことを口走った。

 動揺のあまり咳き込みそうになるのを堪え、咀嚼中だったお菓子を飲み込む。


「もし可能だったとしても、命懸けで阻止しますよ」


 ティッシュやペットボトルもいかがなものかと思うけど、トイレットペーパーは是が非でも死守する。

 そもそも使用済みの品を入手されるのに慣れてしまっただけで、べつに認めているわけではない。


「うふふ、頑張ってね❤ どんな手を使っても、手に入れてみせるけど❤」


 あどけなさの残る精緻な顔に、この上なく純粋な笑みが浮かぶ。

 心を奪われるのは必然であり、なにも言い返せなくなってしまう。


「あーしは悠理のおっぱいを延々と揉みたいな~っ。休みの日に朝から晩まで絶え間なく、ず~っと揉んでいたい!」


「それ、どう考えても葵先輩の方が負担大きいですよ?」


 揉まれ続けるのも困るけど、一日中手を動かし続けていたら筋肉痛になるだけでは済まなそうだ。

 加えて経験上、この人は途中でお尻も触ろうとするに違いない。


「あ、アリスは、運動後の、む、蒸れたブーツと、汗で湿った靴下、そ、そして足の裏を、嗅いだり舐めたり、したい」


「自分の体とはいえ、想像しただけで鼻が曲がりそうですよ。だいたい、ブーツ履いて運動なんてしませんから」


 正論を突き付けると、アリス先輩は見るからにしょんぼりした様子でテーブルの下に潜り込み、例のごとく私の股間付近で深呼吸を始めた。


「ふっ、どいつもこいつも考えが浅はかね。失笑を禁じ得ないわ」


 空気イスをしてぷるぷる震えながら、真里亜先輩が得意気に言い放つ。

 鍛えるためではなく苦痛を味わうのが目的だと聞いたときは、あまりに理解不能すぎて苦笑することしかできなかった。


「あらあら、ひどい言われようねぇ❤」


「そーだよ! 真里亜だって悠理に軽くあしらわれるくせに!」


「もごもご」


 姫歌先輩と葵先輩が不服そうな声を上げる。

 アリス先輩もなにか言っているようだけど、パンツに顔を押し付けているので聞き取れない。というか、その状態で口を動かされるといろいろ危ないから自重してほしい。


「仕方ないから教えてあげる。押してダメなら、引けばいいのよ!」


 あまりにも自信満々な発言に対して、本人を除いた全員が「は?」と疑問符を浮かべた。

 アリス先輩は親戚として心配になったのか、テーブルの下から再びイスに戻り、真里亜先輩に向けておそるおそる口を開く。


「あ、頭、大丈夫?」


「あんたには言われたくないわよ!」


 お互いに失礼な物言いだ。

 ただ、片や私の下着に顔を擦り付けて深呼吸、片や私に暴言や暴力を要求。

 真に残念ながら、二人をフォローする言葉を私は知らない。


「とにかく聞きなさい! あんたたちは悠理が使った物を欲したり、悠理の体を触ろうとしたり、悠理の香りを嗅ごうとしたり。悠理にとって一定の覚悟を要することを求めているのよ」


 確かに、どれも羞恥心や抵抗感が強く、簡単には受け入れられない内容だ。

 一億歩譲って承認するとしても、相当な覚悟を決めなくてはならない。

 まぁ、だからどうしたって話だけど。

 呑気にお菓子を頬張りつつ周りを見回すと、姫歌先輩たちは神妙な面持ちで真里亜先輩の発言を待っていた。

 え、くだらないって思ってるの私だけ?


「あたしが閃いた名案、それは――悠理、あたしの胸を揉みなさい! 自分から触るなら、気持ちは楽なはずよ!」


 室内に凛とした声が響き渡り、私以外の聞き手は天啓でも受けたかのように瞠目する。

 名案という言葉に異を唱える者はおらず、尊敬にも似た眼差しが真里亜先輩に向く。もちろん、私を除いて。

 後輩の私が言うのもなんだけど、この人たちはアホだと思う。


「さぁ、悠理! 思う存分、好きなように好きなだけ揉んでちょうだい!」


 真里亜先輩は体をこちらに向け、両手を後ろに回す。

 ただでさえ主張の激しい巨乳がことさら強調され、引き寄せられるように動く手をどうにか自制する。


「で、でも、さすがに胸を触るなんて……」


「そんなの、女子校では日常茶飯事のスキンシップよ」


 反論できない。他校は知らないけど、少なくともこの学校においては明確な事実だ。


「じゃ、じゃあ、遠慮なく」


 断ろうと思えば、いくらでも理由は用意できる。

 それをしなかったのは、真里亜先輩の胸を触りたいという欲求の方が強かったから。


「んっ」


 正面から手を押し当てると、扇情的な声が発される。

 ブレザー、ブラウス、インナー、ブラジャー。これだけの衣類越しでありながら、手のひらに伝わる確かな柔らかさ。

 自分の胸を揉んでも、決して得られることのない感触。

 絶大な格差を思い知らされ、日頃から私の胸やお尻を嬉々として触る葵先輩に申し訳ない気持ちが生まれる。


「おぉ~」


 無意識のうちに感嘆の声が漏れた。

 むにむに、むにむに。

 不規則に指を動かして感触を楽しんでいると、幼い頃にスライムで遊んだのを思い出す。


「あっ、乳首勃ってきちゃった。悠理、どうせなら直接触る?」


「だ、大丈夫ですっ。ありがとうございましたっ」


 生々しい発言を受け、我に返って手を離す。

 さすがに先端の感触までは分からなかったけど、以前に生で見た記憶を元に想像してしまう。


「うふふ。悠理、次はわたしの番よねぇ❤」


「あーしもお願い!」


「あ、アリス、も、してほしい」


「へ?」


 余韻に浸る間もなく、三人が我先にと声を上げる。

 断るわけにもいかず、じゃんけんで順番を決めてもらうことに。

 現実離れした美少女たちの胸を揉めるなんて、私は一生分の運を前借りしているのだろうか。前世で相当な徳を積み、来世で凄絶な業を背負わされるに違いない。


「やった~っ、大勝利!」


「うぅ、負けちゃった」


「さ、最後だなんて……」


 じゃんけんの結果、葵先輩、アリス先輩、姫歌先輩の順に決定。

 真里亜先輩と同じく私から見て手前に座る葵先輩はこのまま、アリス先輩と姫歌先輩のときは移動してから揉ませていただく。


「悠理に揉まれるなんて、なんか新鮮だな~っ」


「いつも私が揉まれる側ですからね」


 なんてやり取りを交わしながら、胸に手を当てる。

 手のひらサイズの乳房は、軽く触っただけで美乳であることがハッキリと分かる。

 大きさは私と大差ないけど、揉み甲斐は段違いだ。

 心から断言できる。葵先輩は私なんかのより、自分の胸を揉んだ方がいい。

 ほどよいところで手を止め、アリス先輩のそばに歩み寄る。


「ち、小さくて、ごめんね」


「ちっぱいも素敵ですよ」


 私はなにを言ってるんだろう……。

 年上だと分かっていても背徳感が否めない、小学生のような体躯。

 微かな膨らみにそっと触れ、壊れ物を扱うように細心の注意を払って指を動かす。

 舐めてかかったつもりはないけど、小さいからと心のどこかで油断していたらしい。

 小ぶりながらも確かに柔らかく、お腹や背中とは一線を画す耽美な触り心地が私に感動をもたらしてくれる。


「待ち侘びたわぁ❤ 時間の許す限り、いっぱい触ってね❤」


「今日だけは調子に乗らせてもらいますよ。覚悟してください」


 ここまで来たら、もう遠慮なんてしてられない。

 大人顔負けのボリュームを誇る規格外の爆乳。童顔や幼い声質とのギャップがもたらす破壊力は、もはや兵器と言っても過言ではない。

 改めて対面すると、非現実的なまでの魅力に圧倒される。

 頭部を凌ぐサイズでありながら、重力を嘲笑うかのように見事な形を維持している。

 意を決して手を伸ばす。

 指を目一杯に広げたところで、到底収まるはずもなく。

 軽く揉むと優しく受け止められ、やや強めに押し込めば弾むように押し返される。

 ときに指を使い、不意打ちのように手のひら全体を用いて、力加減や場所を変え、一心不乱に揉みしだく。


「こうして見ると、姫歌のおっぱいってホントにすごいよね~っ」


「う、うん、心の、そ、底から、憧れる」


「あたしもけっこう自信あるけど、さすがに勝てないわ」


 様子を見守っていた先輩たちが、口々に感嘆の言葉を並べる。

 そんな中、姫歌先輩は先ほどから柔和な微笑をたたえたまま一言も発さない。

 ふと我に返ってみれば、いくらなんでも調子に乗り過ぎている。スキンシップの範疇を逸脱して、欲望の赴くままに堪能してしまった。

 失礼という言葉で済ますには、いささか無理があるというもの。

 いまさらながらに手を離し、叱責を覚悟する。


「……あれ? 姫歌先輩?」


 一向に反応がなかったので、呼びかけてみる。

 まさか寝ているわけはないと思いつつも軽く肩を揺さぶると、ハッと目が覚めたように目を見開いた。


「だ、大丈夫ですか? もしかして、寝てました?」


「寝てた、とも言えるかしらぁ。悠理に触られるのが気持ちよすぎて、絶え間なく絶頂してたら失神しちゃった❤」


 誰もツッコミを入れず、疑問も抱かない。

 姫歌先輩の下腹部からイスを伝って滴る粘着質な雫が、すべてを物語っている。

 今回の件はコミュニケーションの一環として幕を下ろすことになり、私は責任を持って掃除を手伝った。

 柔らかくて弾力のある感触と鮮烈な甘い匂いは、しばらく頭から離れそうにない。

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