第63話
リニアルさんと来た店は、俺が時々は足を運ぶことがある店だ。
冒険者の姿もちらほらとある。
リニアルさんを知っている人もいるようだ。
……まあ、今日も彼女は修道服だからな。
これで冒険者活動をしている人なんて少ないだろう。
もちろん、教会の人間がまったく戦わないということはない。
それなりに旅をする彼ら彼女らが、戦闘能力を有しているというのは決しておかしくはないが、だからといって修道服のままギルドまでくる人は少ないだろう。
リニアルさんとともに席についた俺は、それから料理を注文した。
パンとスープ、それに魔物肉を使ったものだ。
お互いに同じものを注文した。
「リニアルさんのお口にあうかはわかりませんが」
ここはそれなりの値段の店だ。
……もっと高額な店だっていけないことはなかったが、俺のランクを知っている彼女からすれば、あまりそういった店に行っても変な気を遣わせてしまうのではないかと思った。
ここならそれなりの量を食べたとしても問題ない。
だからこそ、彼女とここに来たのだ。
「大丈夫。私、なんでも好きだから」
彼女はそういって微笑んだ。
……そういってくれるならうれしい限りだ。
「それで、さっそくですが聞いてもいいですか?」
「うん。なんでも聞いて」
「ラビットカンガルーとはどのような魔物なんですか?」
「……まず、ラビットとカンガルーは知っている?」
「……そうですね。野生の魔物であればそれぞれ見たことあります」
「その二つを合わせたような感じ。ただ、どちらの長所でもある足がかなり強くなっているから、足技には気をつけないといけない」
「……足技ですか。となると近接戦闘を行う人は注意しないといけませんね」
「うん。あと、ラビットが持つ角を使っての攻撃もある」
「……なるほど」
「カンガルーが持つ前足による拳もあるから……前衛で誰か一人が囮になって、周りが仕留めるのがいいと思う」
「わかりました」
敵の攻撃方法がわかれば、こちらとしても対応しやすい。
俺は彼女の話をメモしていく。
「ラビットカンガルーで一番厄介なのは、逃走があること」
「……逃走ですか」
「うん。ある程度弱ったところで逃げ出す。弱らせる前に一気に仕留めるか、逃げられても大丈夫なように準備しておく必要がある」
逃げられないようにする、か。
逃走すると思われる先に罠を仕掛けておくとかか。
だが、そう簡単に行くとも思えない。
どちらかといえば、一気に仕留めてしまうほうがいいだろう。
……その場で出会ったメンバーでうまく連携できるだろうか?
思っていた以上に難しいかもしれないな。
「今回、ラビットカンガルーが出現したのってどこ?」
「場所は、森みたいですね」
「……ああ。そっか。それなら、ラビットカンガルーを狙う魔物も出ると思う。気を付けて」
「どのような魔物ですか?」
「ウルフ種の魔物。まあ、このあたりのウルフなら大きな問題はないと思うけど」
「確かにそうですね。けど、別の場所から移ってくる場合もありますよね」
「うん。用心するに越したことはない。ただ、Eランク依頼として出ているのなら、一度調査はしているはず。だから、今のところは別の種類の魔物の心配はない」
「……はい、わかりました」
「それと、ラビットカンガルーは魔鉱石を食べる魔物だから、気を付けて」
……そういえば、そういう魔物もいたな。
「確か、魔鉱石を食べると能力が変わるんですよね?」
「うん、凄く強くなる。食べた個体は体に魔鉱石があるからわかるはず。食べた魔鉱石で強さも変わるから、気を付けて」
「……わかりました」
俺がメモをとっていると、彼女がぽんと手を叩く。
それから彼女は一枚の紙を取り出し、ペンで何かを描き始めた。
……それは絵だ。
「そ、それはなんですか?」
「ラビットカンガルー」
なんだと?
あまりにも……その、独創的でわからない。
しかし、リニアルさんは自信満々な顔とともにその絵をこちらに向けてきた。
「これ、渡しておく。何かの役に立つといい」
「……あ、ありがとうございます」
自信満々なんだから、受けとっておく。……も、もしかしたら実際の魔物もこんな感じなのかもしれない。
まだ、実物を見ていないのに、あれこれ言うのは失礼だ。
メモに挟み込むようにして、その紙をしまった。
俺はさらに質問を重ね、必要な事項をどんどんメモしていると、リニアルさんがくすりと笑った。
「なんですか?」
「真面目」
「……そうですかね?」
冒険者として、このくらいは当然なんじゃないだろうか?
「冒険者になりたての人はそこまで色々調べるって人少ない。そこまで念入りにするのって、もっと後だから」
「できる限り、早くランクアップしたいんです。一度失敗するとまたポイントがマイナスされちゃいますよね?」
ランクアップに必要なポイントは、昇格依頼を失敗した際に50ポイント減らされる。
再びためるまで、最少でも五回は依頼を受ける必要がある。
「うん。そんなに急いでランク上げて何か目標があるの?」
どこまで話すか迷ったが、リニアルさんには俺の初めての武器を渡した。
簡単に、夢を伝えてみようか。
「俺……鍛冶師として一流になりたいんです。リニアルさんの装備もそうですが、まだまだもっと強い武器を作れると思うんです。そのためにも、色々な素材に触れたいし、それに魔物に合わせた武器を作っていきたいんです」
「……もっとつよい武器。それに、魔物に合わせた……?」
「はい。いつかは、神器に並ぶような武器を、神器を超えるような武器を作りたい、と思っています」
「……」
さすがに、大きく出すぎてしまったか。
恥ずかしくなって誤魔化そうとしたところで、リニアルさんが手を掴んできた。
「凄い、夢。……私もそれを全力で応援する」
「ほ、本当ですか?」
「うん。私みたいに、武器を欲しい人もきっといるから」
……そういってもらえるのならうれしいかぎりだ。
「頑張ります」
「うん。私も、ギルド本部で試験合格してから、また戻ってくる。また今度、武器のお願いをするかもしれない」
「……そのときまでにはもっといいものが作れるようにしておきます」
「私も頑張って活躍して、あなたの武器を少しでも多くの人の目にとめられるようにする」
リニアルさんがそこまで協力してくれるのなら、なおさら頑張らないとだな。
「そういえば、リニアルさん。ギルド本部って確か王都ですよね?」
「うん」
「王都から北にある……ユーバルサ学園って知っていますか?」
「もちろん。特に今年は、勇者が五人もいるからそれはもうお祭り騒ぎと聞く」
「リニアルさんは行く用事はありますか?」
「久々の遠出だし、そっちの教会にも用事あるから行かないことはない」
「もし暇だったらでいいんですけど……勇者とかの情報が何かあったら覚えておいてくれませんか?」
「勇者?」
「はい。俺の幼馴染が勇者になったので。一応、手紙のやり取りはしていますが、苦労していないかな、って思って」
もしかしたら手紙には書けない悩みとかもあるかもしれない。
特にリンの場合、そういったことは隠しておくような子だからな。
一人で抱え込んで全部解決しようとする。悪い癖だ。
「そうなんだ。わかった。でもまあ、風の噂、とかそういうくらいでしか聞けないと思う」
「それでもいいので、何かわかったら教えてください。あっ、一応勇者の名前ですが、リンといいます」
「あっ、それは聞き覚えある。うちの街で出た勇者の子……レリウスの幼馴染だったんだ」
「……鍛冶師は覚えていて、勇者は覚えていなかったんですか?」
「だって、私と基本的に無縁だし。鍛冶師のほうが大事だったし」
教会関係者なんだから、どちらかといえば勇者のほうが大事だろうに。
料理が運ばれてくる。
出来立てのパンとスープから湯気があがっている。
どちらもおいしそうだ。
お互いに向かいあい、神に軽く祈りを捧げてから食事をいただいた。
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