第54話



 三日目。

 最後の確認として、何度か餌を設置したが、それにかかる魔物はもういなかった。

 職員の探知も完了し、すべてのブラッドマウスが死んだことは確認済みだった。


「ま、まさか……これほど早く終わるなんて思わなかったな……っ。ありがとう、レリウス! キミのおかげだ!」


 喜んだ声をあげる職員が、俺の手を握ってぶんぶんと振り回してくる。

 毒攻撃がこれほど活躍してくれるとは思わなかった。


 ブラッドマウスが大量発生してくれれば、それだけで生活ができてしまうだろう。

 なんなら、すべての街を見て回り、下水道の依頼だけ達成していれば生活できそうな勢いだ。


 それも悪くないが、俺にも新しい目標ができた。


「報酬はギルドを通して支払っておこう。……ただ、予定よりもずいぶんと早くブラッドマウスを討伐してくれたからな。報酬の準備に少しかかるだろうが、大丈夫か?」

「俺は気にしませんから」

「……そうか。ギルドにも連絡しておく。それじゃあ、ありがとうな」


 管理局を後にした。

 

「あー、終わった終わった。レリウスのおかげで、しばらくはのんびり休めそう」

「そうなんですか?」

「うん。もともと、私は一か月程度地下水道の浄化作業にあたる予定だったから。新しい予定を入れられるまではゆっくりできる」

「そうですか」

「レリウスのおかげ、ありがとう。それに、レリウス、武器も作ってくれるんだよね?」

「はい。司教様と話をさせてもらえるのでしょう?」

「うん。話したらいいって。ただ、都合がつく時間が決まったら私を通して後で連絡するって」

「わかりました。色々とありがとうございます」

「ううん、お互い様」

「……少し質問ですが、武器ってどのようなものがいいですかね?」

「剣、かな?」

「……わかりました」


 リニアルさんは軽く伸びをした。


「それじゃ、また今度。『渡り鳥の宿屋』でいいんだよね?」

「はい」


 リニアルさんと別れた俺は、まだ遅番まで時間があった。

 とりあえずは部屋に戻ろうか。


 部屋に戻った俺は、自分のレベルを確認する。

 レベル20か。

 色々作っていたのと、ブラッドマウス狩りでの経験値が関係しているのだろう。


 新しく作製可能になった装備品はシルバーとついたものだ。

 魔石を消費することで作製できる武器なので、早速試してみた。


 同時に、俺は防具を作り出す。

 ゴムドラゴンのレザーアーマーだ。


 こいつを斬れるだけの剣を作り出すことが、第一の目的だろう。

 ……とはいえ、シルバーソードSランクで斬れなければ、現状俺の武器では難しいだろう。

 ただ、色々試してみるといいとも言っていた。


 今までに試していなかった組み合わせなども試していくしかないだろう。

 まずは、無難にシルバーソードSランクを作り出す。


 今まで使っていた剣よりもより銀色に近い。

 シルバー魔鉱石はスチール魔鉱石よりも頑丈だと聞いたことがある。

 ただの銀はそれほど頑丈というわけではない。


 ただ、魔力を含むと加工しやすくなおかつ頑丈なものになるそうだ。

 シルバーソードを使って、とりあえずゴムドラゴンレザーアーマーを斬ろうとしてみる。

 しかし、斬れない。

 

 レザーアーマーは俺の剣にあわせ、伸縮を行う。

 ぐにっと伸びるが身まで届かない。思いきり力を入れても、断ち切ることは難しかった。

 ……凄いなこれ。


 俺も量産したいが、ゴムドラゴンの素材を持っていないからレザーアーマーしか作れない。

 とりあえず、シルバーソードにこれまで手に入れたことのある素材を組み合わせて剣を作ってみる。


 ゴブリン、レッドウルフ、サハギン、ポイズンスネーク……。

 それぞれ、シルバーソードに組み合わせて新しい剣を作製してみるが、駄目だ。

 やはり一番切れ味が増したのはポイズンスネークの牙を混ぜたときだった。


 とはいえ、現状ではこれ以上は難しい。

 ひとまず俺は透銘乃剣を作り出す。もともとは、透明化がついていた剣だ。


 この剣を作製して、振りぬいてみたがあまり手ごたえは感じない。

 感触から察するに、アイアンとスチールの間くらいの切れ味だった。

 

 これではだめだ。

 もっと、切れ味のある剣を作るのが目標だ。


 俺がここまでこだわっているのは、リニアルさんに武器を作るからでもある。

 初めて、他人に武器を作るんだ。

 鍛冶師としての第一歩。それにふさわしい剣を作りたい。


 今の俺ができることはまだあるだろうか?

 ……新しい魔物を倒して、素材を手に入れるしかないのだろうか?


 新しい魔物……。

 ちょうどそのときだった。部屋で眠っていたヴァルが体を起こした。


 俺がいたのに気付くと、嬉しそうにこちらを見てくる。

 

「ヴァー?」


 いや、別にヴァルを倒そうというわけではない。

 俺が思いついたのは、バアさんが素材を二つ以上使っていたという部分だ。

 スライムの液体も少し使った、と。


 それは俺にもできるんじゃないだろうか?

 とりあえずやってみよう。

 シルバーソードにゴブリンとレッドウルフの牙を組み合わせてみる。


 誰も武器を作ったことがないのだから、手探りでやってみるしかない。

 まもなく、シルバーソードが出来上がった。


 ウルフリンシルバーソード Sランク


 軽く振ってみる。普通のシルバーソードよりも軽い。

 それに、切れ味もあがっているように感じる。


 ……なるほど。複数の素材を組み合わせることで、より強力な武器が出来上がるということか。

 なら、さらに追加していけばいいだろう。

 一度分解してから、サハギンを追加する。

 

 しかし、武器は出来上がらず、失敗作の剣が生み出された。

 ……三つはダメなのか? それとも俺の今のレベルが低いからとかか?


 それから何度かやってみたが、三つ以上は難しいようだ。

 仕方ない。二つで最高の組み合わせを見つけるしかない。

 様々な組み合わせを試しては、剣を振ってみる。


 ゴブリンとサハギンでは、剣が少し重くなったが、力強さはあった。

 ゴブリンとポイズンスネークでは、レッドウルフの剣と大差ないものだ。ただし、こちらは毒攻撃が最初から付与されている。毒攻撃Dランクなので使い勝手はあまり良くなさそうだが。

 ウルフとポイズンスネークは、軽い剣で、毒攻撃が追加されているだけ……たぶん、一番よわそうだ。


 そうしてたどり着いたのは、サハギンとレッドウルフの組み合わせだった。

 軽く、力強い剣が出来上がる。

 サハギンの鱗が青色だったからか、僅かに青みがかった剣だ。


 軽く振ってみるが、よく手に馴染む。

 今は自分用に作っているのもあるだろう。

 その剣を使って、ゴムドラゴンレザーアーマーへと振りぬく。


 一度目、手ごたえはあったが破るほどとはいかない。

 連続で振りぬいていく。これまでの武器では傷がつかなかったのだが、今は確実に擦り傷を作っていた。

 ……これが、今の俺が作れる最高の剣かな。


 出来上がった剣は……ひとまず俺用になってしまっている。

 これから作るのはリニアルさんの剣だ。


 リニアルさんのことを強く意識し、剣を作っていく。

 それを何度も繰り返していく。

 作り上げるのは最大のSランクだ。

 

 妥協はしない。

 中々出来上がらないのは、素材を複数組み合わせようとしているからだろうか。

 三十分ほど作製と解体を繰り返し、ようやく出来上がった。


 あとはどのようなスキルを付与するか、だな。

 そのためにも、俺がまずは新しいスキルを含めて把握する必要があった。

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