第55話



 最近、レベルがあがったことでか、スキルの良し悪しがわかるようになった。

 青く表示されるものは良いスキル、赤く表示されるものが悪いスキル、のようだ。

 今回、俺が購入した装備品の中にあるスキルは、以下のとおりだ。


 まず注目すべきなのは、バアさんの才能なのか、作製したものにスキルが付与されているということ。

 これは完全なランダムではなく、一定のものが付与されるという認識で良いだろう。


 ただ、バアさんも話していたがすべてのスキルは見えていないため、実際の性能は確かめてみるしかないだろう。

 それでも、職人の人たちは会心の出来などはある程度はわかるようだった。


 まず、良い能力と悪い能力を分ける。

 今回購入したものでは、ダメージ軽減、敏捷強化が良い能力のようだ。


 悪い能力はダメージ増加、ヒールアタック、ポーション範囲拡大だ。

 そして――レベルが20に到達したからか、スキルの効果もわかるようになっている。


 ただし、あまり賢くない。はっきりいって馬鹿と言っていい説明しかない。


 ダメージ軽減。攻撃の負担を軽減する。

 ……いやまあそうなんだろうけど、それだけか?


 敏捷強化は、敏捷を強化する。

 ……たぶん、素早く動けるようになるのだろう。


 つまりあまりアテにならなかった。

 この二つをとりあえずは試してみる。

 ダメージ軽減、敏捷強化を今着ている服に使用してみる。


 ダメージ軽減が一体どのようなものか。

 

「ヴァル、突進してきてくれるか?」

「ヴァール!」


 ヴァルが目を嬉しそうに見開いた後、俺のほうにパタパタととびかかってきた。

 それはじゃれるような一撃だ。ヴァルの頭突きを胸に受けた俺は、そのまま布団に倒れこむ。


 直撃した瞬間は、体の奥から息が漏れそうだったのだが、倒れるころにはその痛みが和らいでいた。

 ……これがダメージ軽減なのだろうか? 目に見えるようなわかりやすさはないが、滅茶苦茶優秀だな。


 試しに、ダメージ軽減を外してからもう一度受けてみようか。

 まだヴァルはベッドで横になっている俺の胸に頬ずりをしている。


 そんなヴァルの頭をなでながら、体を起こす。


「ヴァル。もう一回同じ力加減でやってみてくれないか?」

「ヴァル!」


 一度起き上がり、距離をとる。片手で触れてスキルを解除してから、ヴァルの突進を受ける。


「ぶべ!? ……はっ! おえ!」

「ヴァル―!?」


 思いきりむせる。

 耐え切れない痛みに、何度も咳きこむ。

 呼吸が乱れ、よろよろと体を起こした。


 さ、さっきとまるで違う。

 これが竜の一撃……! 小さいからってヴァルの本気の突進はシャレにならない。


「ヴぁ、ヴァル……?」


 心配そうに首を傾げてくる。

 

「だ、大丈夫だ! 俺が頼んでやったんだからな! そんな悲しそうな顔するなって!」


 出来る限り明るい声で笑い、その体を抱きしめる。

 取り出したポーションを二本ほど飲んでから、俺はダメージ軽減を服に付与する。

 これは重ね掛けできるのだろうか?

 

 ひとまず、三つほどつけてみる。服と指輪にだ。

 それから攻撃を受けてみるが……効果は一つのときと変わらない気がする。

 ……何か悪いのだろうか? それとも、一つしか発動しない?


 しばらくヴァルとたわむれ、ダメージ軽減について調べていく。

 ……そして、一つ分かった。

 もしかしたら、攻撃を受けた部位でダメージ軽減が発動しているのかもしれない。


 これは常に発動しているスキルではなく、攻撃を受けたときに自動で発動するスキルのようだ。

 自動帰還と似たようなものなんだろう。なら、自動ダメージ軽減となってくれればわかりやすいのに。


 レザーアーマーと服の重ね着をしたところで、効果に気づくことができた。

 つまり、めっちゃ厚着すればまったくダメージを受けないということだ。


 試しに、部屋にあった下着をとにかく着込んでみた。

 合計十枚だ。体は一回り大きくなり、若干の息苦しさを覚えた。


 その状態でヴァルの突進を胸に受ける。

 弾かれはしたが、まったくといっていいほど痛くはなかった。


 さすがに、ここまでやると動きを阻害してしまうが、うまく邪魔にならない程度に服を着ようか。

 とりあえず、ダメージ軽減は食らった部位によって発動することはわかった。


 使い道としては、先ほどのように重ね着をするのが一番だろうか。

 ダメージ軽減はこんなところで、次は敏捷強化だ。


 敏捷強化を付与したネックレスを身に着けてみる。

 こちらはつけた瞬間でわかった。

 体が軽くなったような気がする。


 筋力強化、とはまた違う。例えば、足の蹴る力があがったとかではなく、本当に単純に速く動ける。

 もちろん、速く動けるため、突進などの威力は加速した分だけ増すかもしれないが、何かを蹴る力が変わっている様子はない。


 これも、装備品の余ったポイントで付与しても損のない装備だな。

 とりあえずこれで、プラス効果のあるスキルの確認は終わった。


 問題はここからだ。

 これから先はマイナス効果のスキルだけだ。

 まずは、ダメージ増加か。


 スキルの効果をまずは調べる。

 ……ダメージが増加します。だけね。本当にポンコツスキルだ。


 さっきのダメージ軽減の真逆と考えていいだろう。

 防具についていたら大外れも大外れなはずだ。


「ヴァルー?」

「いや、この装備の検証はしないからな」


 試しにダメージ増加防具を作ってはみたが、さっきのヴァルの一撃を食らったら骨に支障をきたす。

 下手したら、命だって危ういだろう。

 だから、絶対に試さない。


「……ヴァルー」


 残念そうな声をあげないでほしい。

 元気づけるために試してみたくなるからな。


 それじゃあ、次だ。

 ヒールアタックだ。

 

 まずは効果を確認する。

 攻撃した際に、回復させます。


 ……これは、武器についていたら大外れだな。

 要は、回復剣が出来上がってしまうってことだろう?


 実際はどのような感じなのか。試してみたいものだな。

 俺は特にスキルのついていないナイフを一つつくり、指をつつく。

 ぷくっと血が出てきた。


 それから別のナイフを作り、ヒールアタックSランクを付与する。

 そして、その傷のついた先をつつく。

 スキル名を言う必要があるのかどうかの検証だが……必要なかった。


 俺の指を何やら優しい力が包んだ。

 それから少しして、指の傷が塞いだ。


「それなりに回復力もあるんだな」

「ヴァル―」

「武器についていたら大外れだけど……」


 そこで俺は思いだした。

 スキルを発動せずに使えるのなら、ハンドガンと相性が良いのではないだろうか。

 さっそく試してみたいが、発動しなかったときが怖いので、実際の魔物で試してみたほうがいいだろう。


 最後はポーション範囲拡大だ。

 スキルの効果は、ポーションの回復範囲が増えます、とのことだ。


 ……どういうことだ? ポーションは傷口につけることで、傷をふさぐことにも使われる。

 その範囲が広がるということだろうか?

 

 ただ、デメリットの効果なんだよな。

 よくわからん。


「とりあえずヴァル。魔物狩りに行ってみようか」

「ヴァル―」


 まだ夜まで時間もある。少し狩りに行ってみよう。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る