第52話
「昨日、調査した結果。残りは百体ほどみたい」
管理局につくと、すでにリニアルさんがいて、昨日の調査結果と書かれた紙を渡された。
「……そうなんですね。思っていたよりもまだまだ残っていますね」
「うん。とりあえず、昨日のように罠を設置しにいこうと思う」
「それでしたら、罠を用意しておきました。行きましょうか」
俺が袋を見せると、リニアルさんは頷いた。
お互いに地下水道へと入り、一度二手に別れる。
罠をあちこちに仕掛けたところで、地下水道を離れた。
「それじゃあ、罠の効果を確かめるまで防具を見に行こうか」
「よろしくお願いします」
管理局のある中央区には、ギルドもある。
管理局からは少し離れていたが、ギルドに向かう通りに防具はいくつかある。
リニアルさんと並んで歩いていく。
「どんな防具が欲しい?」
「どんなとは……どんなですか?」
「戦闘スタイルに合わせて、防具は選ぶもの。機動力を重視するなら、重装備はしない。軽装備でどちらかといえば回避に重点を置いて、攻撃は極力食らわないように。けど、急所だけは守るみたいな」
「……なるほど」
「遠距離攻撃を得意とするなら、やはり似たようなもの。ただ、こちらはなるべく魔鉱石に含まれた魔力の多い装備を選ぶようにするべき。自分の魔力に影響を与えるから」
「ミスリル、とかですよね?」
「さすがにまだ早いと思うけど」
リニアルさんの言う通りだな。
「確か、魔鉱石って一般的なものと、特殊なものがありましたよね?」
「うん。一般的に多くの人が使っている防具は、ブロンズ、アイアン、スチール、シルバー、ゴールド、プラチナ魔鉱石」
……そのあたりは、俺も作製可能になったものがいくつかあるため、分かっている。
ただ、俺が作製する場合は魔石の消費だけでできたんだよな。
解体しても、魔鉱石は回収できず、魔石だけが帰ってくる。
いずれはシルバー、ゴールドなどの武器も作れるようになるのかもしれない。
「一般的ではないレア魔鉱石が、ミスリルやオリハルコンですよね?」
「うん。あとは、ヒヒイロカネ、アダマンタイト、ダマスカス魔鉱石とか。それらは、迷宮で極稀に回収できる。もしも手に入れたら、自分専用の防具を作ってもらうといいかも」
……俺の場合、防具も作製可能なのだろうか?
ミスリルなどで防具を作れれば、神器にも並ぶほどの力を手に入れられるのではないだろうか。
「とりあえず、FからEランク冒険者はブロンズや魔物の素材を組み合わせた防具がいいと思う」
「お金には結構余裕があるので、できる限り良いものが欲しいですね」
「それなら……たぶんスチール系の防具までは店にあると思う」
「でしたら、それらで固めたいですね」
「なら、店に行こっか。ついてきて」
リニアルさんとともに通りから一本道を外れた裏路地に入る。
……あまりこの辺りに来たことはなかった。
見るからに柄の悪そうな男たちがたむろしていたりする。
浮浪者と思われる人もいる。彼らのどんよりとした目を見ると、思わず足を止めたくなる。
リニアルさんのような美少女なら、彼らに狙われるのではないだろうか。
そう思っていたが、誰もこちらに絡んでくることはなかった。
「ここの人たちは一度ボコしているから安心して」
「リニアルさんって強いんですね」
「今はCランクだけど、ポイントは溜まってるから試験さえ受けられればBランクに上がれる予定」
「……そうなんですね」
CからBランクにあがれる冒険者は少ない。
……リニアルさんはかなりの腕前を持っているようだ。
リニアルさんとともに入ったのはある一軒家だ。
……見たところ、お店というよりは普通の家のように見えた。
ただ、中に入ることで防具屋であることがわかった。
入ってすぐに置かれた人形には、青色の全身鎧がつけられていた。
……カッコいい。
それにじっと見てみると、スキルが付与されているのがわかった。
ダメージ増加Sランクだ。
へぇ。デメリットのある装備だが、相手に付与できれば強そうだ。
これは欲しいな。よく見れば、店の装備品には上から下まで結構なスキルが付与されているのが分かった。
「おやリニアル。お客かい」
店主は老婆のようだ。彼女はまるで魔女のようないでたちであった。
……彼女がここの装備品を作っているのだろうか。
「まあ、そんなところ。こっちの子の装備を見繕ってあげてほしい」
「へぇ、リニアルが男を連れてくるなんてねぇ」
「たまにはいいでしょ?」
「そうだねぇ。男っ気ゼロだったからね。ヒヒヒ、それでお兄さん。防具を欲しいと言ったね?」
「……はい」
俺に質問が移った。老婆はちらとこちらへとやってきた。
「それじゃあ、まずはこの二つのアクセサリー。どちらがいい?」
「……え? どういうことですか?」
「おまえさんの目を確かめてみたいと思ってね」
じっと老婆の持つアクセサリーを二つ見る。
……右の魔石と左の魔石。
どちらもマイナスのスキルが付与されていた。
「どちらも、鑑賞するにはいいですが身に着けたくはないですね」
俺の言葉に、老婆は目を見開いた。
同時に、リニアルさんも驚いたようにこちらを見た。
「……リニアル。おまえさん、事前に話していたのかい?」
「毎回、バアの質問違うんだから教えられない。私は何も伝えていない」
「へぇ……ひひひ、そうかい。おまえさん、ここで仕事をしないかい? その目だけで、生活していけるよ」
……どうやら、マイナススキルが付与されていることを見破ったのが驚かれたらしい。
「あー、今はその、あまり興味ありませんね」
「そいつはもったいないね。いい目を持っているんだが。この二つは私が適当に作ったものだからね。あまり良い効果は持っていないだろう?」
「……そうですね」
「世の中の商人の八割は、大体目を持っていないんだ。だから、おまえさんは商人としても十分すぎる才能があるよ」
……確かに。世の中には思っている以上に、価値のない物が出回っている。
逆に価値あるものが正当に評価されていないことも多い。
「それは嬉しいですけど、俺はどちらかといえば職人なので」
「職人? なんだい、あんたも職業『職人』かい?」
「……いえ、俺は鍛冶師ですね」
「あー、そうなのかい。そいつはまた残念だね」
バアは心から落ち込んだ声をあげる。
それからバアはちらとリニアルさんを見た。
「それでリニアルが気に入ったのかい。専用の武器でも作ってほしいってことだね?」
「うん」
リニアルさんが頷くと、バアがくすりと笑った。
「『職人』はなんでも作れるけど、唯一作れないものが武器だからね」
『職人』という職業は、それこそなんでも作製できる。
俺とは違って、一瞬で物を作ることはできないそうだが、彼らは器用になんでも作製できる。
「武器を作れないんですか?」
「そうだね。作ろうとすると、胸が苦しくなるんだよ。精々、木剣や刃のついていない剣、日常的に使う包丁とかそのくらいが限界だね」
「……そうなんですね」
実戦で使用できるようなものは作れない、ということだろうか。
「話がそれたね。防具だけど……おまえさん、この店の中で気に入ったものはあるかい?」
「そうですね……少し、店を見て回ってもいいですか?」
「ああ、構わないよ」
俺は店をざっと見て回っていく。
……なるほどな。
色々な装備品がある。
スチール系の装備品が多いが、それに竜の鱗を組み合わせるなどしている。
竜にも色々な種類がいるようだ。
……俺もあとで、ヴァルの種族も調べたかったが、今は忙しいからなぁ。
と、そのときだった。
隅に置かれた埃をかぶっていた防具を見つけた。
「……これ――」
シルバー系で作られた装備なのだろうが、見た目はただの麻でできたようなものだった。
スキルも付与されている。ダメージ軽減と、斬撃耐性というものだ。
どちらもSランクであり、この店の中ではもっともよいものだと思った。
「これが、いいですかね」
俺がいうと、バアは驚いたようにこちらを見てきた。
「……やはり、おまえさんの目は天がくれたものだね」
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