第51話
「どういうこと?」
「あー……なんていうか。どうして庇ってくれたのかなって思いまして」
俺は多少濁して答えた。
鍛冶師のなんでも作れる力に関して、リニアルさんにはまだ話していないからな。
「私も詳しい事情は知らないけど、それで司教と話してみたい、と?」
「はい」
俺の言葉を考えるようにリニアルさんが頷いた。
「わかった。少し相談してみる」
「本当ですか?」
「司教がわざわざ鍛冶師を気にかけてああいったのだから、その鍛冶師が話したいと伝えれば、もしかしたら興味を持ってくれるかもしれない」
リニアルさんの言葉に、現実味が出てくる。
「仕事が終わってからも会いたい。どこか、拠点にしている宿とかはある?」
「それでしたら、俺は『渡り鳥の宿屋』で仕事をしています」
「『渡り鳥の宿屋』……聞いたことある」
「え、そうなんですか?」
「最近冒険者たちの間で噂になってる。一般的な宿の値段なのに、凄い体が休めるって」
「……ええ、まあそうですね。うちは、そうですね」
「うちは? もしかして、仕事している側の人?」
「はい。従業員として入っていますよ」
「なるほど。わかった。とりあえず、司教に話をしてから、また『渡り鳥の宿屋』に行こうと思う」
「……お願いします」
リニアルさんがちらと時計を見る。
そろそろ三十分だ。
俺たちは再び地下水道へと向かう。
その途中、俺は一つ気になったことを訪ねた。
「あの、リニアルさん。武器を作ってほしいと言っていましたが、別に俺に拘らなくてもいいですよね? 迷宮から武器などは回収できますし、実際市場に並ぶこともあるじゃないですか」
「……いくつか、試してみたことがある。けど、なんだか合わなかった」
合わなかった、か。
武器の長さや重さなど、その人への相性は確かにあるだろう。
「けど、俺が作る武器が必ずしも合うかどうかわかりませんよ?」
「合うまで作ってもらいたい」
「……まあ、司教と話ができれば、いいですよ」
「頑張る」
……まあ、ある程度の報酬を用意してもらえればその限りでもないだろう。
武器、か。
こうして作ってほしいといわれるなんて思ってもいなかったな。
……けど、実際そうだよな。
俺だって、自分の神器が初めは残念だった。
世の中にはそういう人もたくさんいる。
戦いたいのに戦えない人が……そんな人たちも、神器は神が与えてくれた武器だからって自分を納得させるものだ。
もちろん、不満を内に抱えている人もいるだろうが、そんなことを口にすれば教会が黙っていないだろう。
……武器屋。
俺の中に一つの考えが浮かんでいた。
世の中の、武器を求める人たちに、武器を届けるような仕事はできないのだろうか。
それが、鍛冶師としての生き方の一つなんじゃないだろうか。
けど、それって反感も買いそうだよな。
難しいところだ。
〇
「い、一日でこれだけの量のブラッドマウスを討伐したのか!?」
討伐したブラッドマウスの尻尾を職員に見せると、彼は驚いたように目を見開いていた。
「はい。たまたま、自分が持つ神器の毒が効きましたので」
「……な、なるほど。それは本当に幸運なことだ……ただ、これなら! すでにかなりのブラッドマウスが減ったはずだ! 私の神器が魔物の探知だけならできるんだ。あとで確かめて報告しよう!」
「お願いします。それでは、また明日も来ますね」
「ああ! ありがとう、レリウス!」
職員が嬉しそうに声をあげる。
俺とリニアルさんはそれぞれ持っていた地下水道のカギと魔道具のライトを返却して、管理局を後にした。
「……レリウスのおかげでかなり楽にすんだ」
「お互いに協力できたからですよ」
俺が餌を作り、俺が解体を行っている間に、リニアルさんが新しい餌を設置しにいく。
この繰り返しだ。
「数はたぶん、三百くらいだったよね?」
今日の討伐した数だ。
これはギルドに持っていくことで、精算できる。
「はい」
「……前回大量発生してしまったときも確かそのくらいの討伐で済んだから、今回もそれで終わると思う」
「それだと三日分の仕事がなくなってしまいますね」
「けど、ちゃんと三日分で支払われるはず」
「……それだったらいいですね」
別にお金に困っているわけではないが、それでももらえるものはもらっておきたい。
「レリウスって、今冒険者ランクF?」
「はい」
彼女にギルドカードは見せていないが、この依頼を受けに来たということで判断したのだろう。
「防具、整えたほうがいいと思う。今のままだと少し心配」
「……そうですかね?」
「もう少し、魔鉱石を入れた装備にしたほうがいいと思う。じゃないと、これから先のランクアップは難しい……というか危険がふえるとおもう」
「……確かに、そうですね」
頭、腕、胸、脚。これらの部位を守る装備は大切だ。
今回のブラッドマウスも、人に噛みつくような反撃をしてくることがある。
例えばそれらの攻撃だって、防具をつけていれば貫通しない程度の弱いものばかりだ。
「どこかオススメの防具屋ってありますか?」
「うん。明日、罠を仕掛けたあとにでも見に行ってみる?」
「……仕事中ですよ?」
「罠がかかるまでの時間潰し。賢く生きよう」
ずる賢く、ではないだろうか?
にやり、と笑ったリニアルさんに、しかし俺も防具には興味があったからな。
……ていうか、メアさんにも聞いておけば――。
いや、メアさんの紹介する店はあまり良い品物は置いていない可能性がある。
「けど、リニアルさんって修道服ですよね? 防具って持っているんですか?」
「この下にちゃんとつけてる。ほらこれタイツじゃないから」
「……あっ、そうなんですね」
ぴらっとリニアルさんは太ももの部分をめくった。
……た、確かに中に魔鉱石で作られたと思われる防具が着こまれていた。
タイツのようなものだと思っていたが、じっと見てみると、確かに防具であることがわかった。
「それじゃあ、私はこれで帰る。んじゃ」
「はい」
リニアルさんは修道服をふわりと揺らすようにして片手をあげた。
……そういえば、リニアルさんの修道服って少し派手というか、なんというか。
足を隠す部分に切れ込みが入っている。
歩くたび、タイツに隠れた足がさらされる。
……本当にシスターなのか? と思うような人だったな。
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