第50話
地下水道のあちこちに罠を仕掛けた俺たちは、外に出ていた。
後は、ブラッドマウスが餌を食べ、その毒が効果を発揮するのを待つだけだ。
「服に臭いがついちゃってますね」
地下水道は決して良い臭いはしなかった。
特に女性はであるリニアルさんは気にするのではないだろうか。
「確かに結構臭うけど、そのうち慣れる」
すでに慣れたようだ。リニアルさんはすたすたと歩いていく。
「リニアルさん、これから三十分は自由行動でいいんですか?」
「構わない。私はさっきの部屋で休んでる」
「……そうですか。俺も休みたいんですが、大丈夫ですか?」
「別に気にしないから」
そういってもらえるなら、俺も部屋で休もう。
彼女とともに管理局へと戻る。
二階にある一室に入る。
とはいえ、俺は一度廊下に出てライト、鍵、地図などの複製を行ってから部屋に戻ったので、時間的にはすでに再出発の時間だった。
「そろそろ行く」
「お願いします」
リニアルさんとともに、もう一度地下水道に向かう。
ライトを取り出し、地下水道の道を照らしたときだった。
「え、うそ!?」
リニアルさんが可愛らしい声とともに驚きの声をあげた。
道には、ごろごろとブラッドマウスが転がっていた。
皆すでに、死んでいる。
……よし、実験通りうまくいったな。
「リニアルさん、毒効きましたね」
「う、うん……これなら、凄い楽……ただ、今度は死体を処理しないとだから、運び出すのが大変」
「それなら、俺が解体しましょうか?」
「解体? ああ、そういえば冒険者は時間給とは別に、討伐数での報酬がでるんだっけ?」
「はい。なので、ブラッドマウスの証明として、牙か尻尾を持っていく必要があるんです」
「それなら、解体していくといい。その間に、レリウス。また毒入りの餌は作れる? 私は設置しているから」
「そう言われると思っていましたので、先程の三十分休憩の間につくっておきました」
袋に入った毒入りの餌をリニアルさんに渡す。
「……準備がいい」
「ありがとうございます。餌の設置はお願いします」
「うん、任せて」
リニアルさんの背中が見えなくなったところで、俺はハンマーを取り出した。
あとは、解体していくだけだ。
どんどんハンマーで倒していく。
ブラッドマウスの素材が大量に手に入っていく。
思っていた以上に、ブラッドマウスたちが餌にくいついてくれて助かったな。
俺が合計五十体のブラッドマウスを解体したところで、リニアルさんが戻ってきた。
「……あれ? もう終わっているの?」
「ええ、まあ」
驚いたようにリニアルさんが俺の方を見てきた。
それを示すように、俺は素材として別れたブラッドマウスの尻尾がつまった袋を見せる。
「……解体、得意なの? 凄いキレイな状態」
「毒で死んだのもあると思いますね。一切傷がない状態で回収できますから」
「なるほど……。とりあえず、渡された毒入り餌はすべて設置してきた」
リニアルさんが地図を開き、こちらに見せてくれた。
大まかに、設置した場所がメモされている。
それをしまったあと、俺たちは地下水道から出て、もう一度部屋で休む。
「今日で、五十体……。私、ここ一週間張り付いてやってたけど、それでようやく五十いくか行かないかだった」
少し落ち込んだ様子を見せるリニアルさん。
「ま、まあ……たまたま俺のスキルと相性が良かっただけなので……」
「うん……とりあえずこれなら、予定よりもずっと早く終わりそうだったから助かった」
ほっとした様子でリニアルさんがこちらを見てきた。
「そういえば、神器の他に武器を持ってるの?」
「ええ、まあ」
俺の差している剣に気づいたようだ。
……まあ、彼女に見せるようにハンマーを取り出したからな。
「自分の神器、そんなに強くないので」
「戦闘能力はない感じなの?
けど、そんな武器をどこで手に入れたの? 迷宮とか?」
「えーと……」
鍛冶師くらいなら伝えても問題ないだろう。
「俺、職業が鍛冶師なので」
「え? そうなんだ!」
俺の予想していた反応と、リニアルさんの反応はまったく違った。
リニアルさんは目を輝かせ、こちらを見ていた。
「ど、どうしたんですか突然?」
「武器、作れるんだよね?」
「は、はい……ていうか、鍛冶師なんで武器しか作れませんが……」
……今のところ、逆に作れないものがほとんどないがこう言っておかないとな。
「ううん、それはとっても凄いことだと思う」
リニアルさんが目を輝かせたあと、俺のほうに杖を向けてきた。
「私、武器はこれしかない。けど、これ使い物にならない」
……なんて罰当たりなことを言うのだろうか。
「……いいんですか、神に仕える教会の人間がそんなことを言って」
鍛冶師が不遇な理由の一つに、神に反抗する者という意味もある。
神が与えてくださったせっかくの武器を無視するように、鍛冶師は武器を作製するからだ。
「私は神様にくそくらえって思っているから」
また罰当たりな。
「……はぁ、まあいいですけど。それでその杖が使い物にならない、というのは理解しましたが……なんでこちらに距離を詰めてくるんですか?」
「私の武器をつくってほしい。もちろん、料金は支払うから」
「え?」
俺は彼女の言葉に少し驚いていた。
武器をつくってほしい。まさかそう言われるとは思ってもいなかったからだ。
俺が彼女を見ていると、リニアルさんは嬉しそうに頷いていた。
「結構前の神託の儀の日。鍛冶師が見つかったって、教会では大騒ぎしていたから気になっていた。もしかして、キミ?」
「大騒ぎしていたんですか?」
「うん。鍛冶師は神に反逆する悪い人だからって」
「……悪い人。それは、神器を無視して武器を作るからでしょうか?」
「そう……だと思う」
……知らなかったなそんなこと。
それもそうか。俺に悟られないようにしていたのだろう。
だとしたら、大成功だ。
「この街の司教がそれをなだめていた。武器を作製すること自体は悪いことではない、と。今後、必要になる場面もあるだろう、って。神様が職業と神器を与えたというのは何か意味があるのでは、と」
「そうだったんですね」
「うん。まあ、その話は別にいい。……一体いくら払えば、つくってもらえる? 最悪、体でもいい」
リニアルさんがうふん、と微笑む。
「な、何を言っているんですか!?」
あなた仮にもシスターでしょ! 俺が頬を赤くしていると、リニアルさんが口元を片手で隠す。
その目はからかうように細められている。
「ウブなんだから。まあ、半分冗談で。半分本気。私、やっぱり冒険者頑張りたいから」
「……そうなんですか。その、報酬の話ですが……」
「今ここで……というのは恥ずかしい」
「だ、誰もこんなところで求めませんよ!」
「それじゃあ、夜? 明日も仕事あるから、あんまり夜ふかししない程度にね?」
「違いますよ! ……司教に会って話しがしたいんです。それは可能でしょうか?」
「……司教は男だけど、いいの?」
「何を勘違いしているんですか!」
「それはそれで、私的にはアリだけど……」
「アリにしないでください! さっきの鍛冶師についての見解を、司教に詳しく聞きたいんです」
俺がそういうと、リニアルさんは小首を傾げた。
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