第45話


 名前をつけ終わったので、俺は餌をやろうと思い、素材を取り出した。

 アイテムボックスから取り出された餌は魔物の肉を基本としながらも、普段家畜などが口にしているという肉も用意しておいた。


「ヴァル、ほら何か食べたいものはあるか?」


 用意した皿に肉を乗せていく。

 しかし、ヴァルはあまり興味を示そうとしなかった。

 ……うーん、どういうことだろう?


 肉食じゃないのだろうか?

 草食の竜がいることも知っていたのだが、その数は極めて少ない。

 薬草くらいなら用意できるが、それで喜んでくれるのだろうか?


 何も食べないままではまずい。

 餓死なんてさせるわけにはいかない。

 仕方ない。

 俺はポーションを取り出し、それを薬草に作り変える。


 それをヴァルのほうに渡すと、ヴァルはむしゃむしゃと食べた。


「ヴァー!」


 おいしそうにヴァルは目を輝かせていた。

 手にのせた薬草はすぐに終わり、おかわりを要求するようにこちらを見てくる。


 草食、ということなのだろうか?

 俺がもう一度薬草をヴァルに向けたが、ヴァルはぶんぶんと首を振る。


 そうして、のざらしにされていた生肉をヴァルは指差す。

 食べたいのか? けど、ヴァルは口にしない。


 じーっとこちらを見てくる。

 ……まさか。


 一つの仮説が浮かんだ。

 俺はのざらしにされていた肉をハンマーで破壊し、肉を回収する。

 それから、魔力を用いてその魔物肉を作製して、ヴァルのほうに向けた。


 ヴァルは目を輝かせ、その肉にかぶりついた。

 ……おいしそうに平らげたヴァルがおかわりを要求してくる。


「いやいや、あんまり食べすぎても駄目だぞ」


 ヴァルに注意をすると、ヴァルはがっくりといった様子で頭を下げた。

 ヴァルが部屋の中を走り回っているのを眺めながら、俺はたどり着いた答えを思い出す。


 恐らくだが、ヴァルは俺の作製したものを食べたかったのではないだろうか?

 ちらとヴァルを見ると、まだ置きっぱなしだった肉をぱくっと食べた。

 

 いや、食べられるんかい。

 ただ、俺のつくったものを食べたときと比べて、反応は特になかった。


 俺の作製した肉は、高ランクになる。

 対して、魔物を倒して得た肉は、ランクの低いものばかりだ。

 単純にヴァルの舌がよりおいしいものを食べたいと思ったから、俺に要求してきたのかもしれない。


 ……ただ、気になるのはヴァルが俺の能力を知っていることだな。

 俺が作成したから、という理由なら考えられなくもないが。

 まあ、なんでもいいか。ヴァルが可愛い。それだけだ。


「ヴァルは戦闘能力はあるのか?」


 生まれたばかりの竜でもそこらのゴブリンよりも強いと聞く。

 足をとめたヴァルがえへんと後ろ足でたって胸を張る。


「ヴァルー!」

「自信はあるってことか?」


 こくこくと首を上下に動かす。


「今日俺は一日休みなんだ。外に魔物狩りにでも行くか?」

「ヴァル!」


 ヴァルはしゅっしゅっと前足を振り抜く。

 ……どうやって戦うのか少し興味もあったし、一緒に行こうか。

 それほど強い魔物と戦うつもりはない。


 いつもの通りゴブリンでも倒しに行けばいいだろう。

 もう一つの設計図の武器も試してみたかったしな。

 俺は作製したハンドガンを取り出す。


 使い方は設計図を破壊したときにおおよそ理解している。

 このシリンダーという部分に、魔力をこめ、引き金を引くことで弾が撃てるんだったよな?


 ヴァルとともに廊下に出る。ヴァルはパタパタと一生懸命に小さな翼を動かし、俺の頭に乗ってきた。

 普通に重いので、俺はヴァルを抱きかかえるようにして歩いていく。


 職場の人はちょうど誰もいない。

 みんなにはあとで教えようか、と思っていたのでいいが。


 俺が裏口から出ようとしたところで、ゴミをまとめていた義母さんと出会った。


「あれ、レリウス! その子が飼いたいって言っていた竜なの!?」


 義母さんが目を輝かせていた。俺がヴァルから手を離すと、義母さんの前でパタパタと一生懸命飛んでいた。


「ああ。名前はヴァルなんだ」

「ヴァルちゃんね! 可愛い!」


 義母さんがぎゅっと抱きしめる。

 ヴァルは初めこそ少し緊張した様子だったが、すぐに義母さんに慣れた。


 ……ヴァル、かなり人懐こいと思っていたけど俺以外には緊張してしまう部分もあるようだ。

 一応俺が作製したからなのかもしれない。


「あれ、レリウスは今日外に行くの?」


 義母さんが首を傾げながらこちらを見た。


「ちょっと魔物狩りでも行こうと思っているんだ。ヴァルも結構戦えるみたいだし」

「えーそうなの? やっぱり竜なだけあるんだね」


 義母さんがヴァルの頭を撫でると、ヴァルは心地よさそうに鳴いた。

 義母さんとはそこで別れ、街を歩いていく。

 さすがにヴァルを飛ばしているとみんなに驚かれてしまうかもしれないので、俺の腕の中でじっとしてもらった。


 腕の中でじっとしている間は、トカゲのようにしか見えない。

 ヴァルは街を興味深げに見ていた。大きな建物を見ると、嬉しそうに鳴いて首をぐいっと向けるのだ。

 門をくぐり、外を出たところで俺はヴァルを解放した。


 ヴァルが翼を動かし、近くを見ていた。

 戦闘前に一つ確認しておかないとな。


「ヴァルはどうやって戦うんだ?」


 竜といえば、その屈強な体を活かしての近接か、ブレスなどによる攻撃が基本だ。

 ただ今のヴァルはまだ子ども。

 生まれたばかりでとてもじゃないが、近接での戦いは難しいだろう。


「ヴァー」


 そう鳴いた次の瞬間、ヴァルが火を噴いた。

 

「ブレス攻撃ができるってことか?」

「ヴァー!」


 ヴァルがさらにブレスを何度か吹いた。

 火、風、水、土……様々な属性のブレスを吐いていく。

 へぇ、竜ってそんなに色々できるんだなぁ。


 ヴァルのブレスを眺めていると、ゴブリンを発見した。

 

「ヴァル!」


 戦ってみたい、と言った様子でヴァルがゴブリンを睨みつけている。

 すでにゴブリンはこちらに迫っていた。

 数は二体。

 

 ちょうど、実験したかったし、試してみるか。


「それじゃあヴァル、俺が一体引き付けてるから、まず一体と戦ってみるか?」

「ヴァル!」


 ヴァルが頷くと同時、パタパタと近づいていく。


「危なくなったら、高く飛んで逃げるんだぞ?」

「ヴァー!」


 俺もヴァルの後を追って、ゴブリンへと接近した。 

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