第46話

 ヴァルを見つつ、俺は作製したハンドガンを取り出す。

 それをゴブリンへと向ける。ゴブリンは俺のハンドガンを見ても、特に怯む様子はない。


 なんなら、指でも向けられているようにしか思っていないのかもしれない。

 この武器は、銃と呼ばれているらしい。

 そういう分類がされているのは、設計図に書かれていたので知った。


 特徴としては、他の銃に比べて軽く、持ち運びがしやすいそうだ。

 その分威力は控えめ、ともあったのだが――つまりそれは、他の銃はもっと威力が高く、大型ということなのだろうか?


 そんなことを思いながら、シリンダーに魔力をこめてから、引き金を引いた。

 銃口からまっすぐに放たれた魔力の弾。


 それがゴブリンに当たり、その体を貫いた。

 ……え? 予想外の威力だった。まるで槍で突き刺したように、いやそれ以上に軽々とゴブリンの体を貫いてみせた。

 い、一体何がどうなっているんだ?


 倒れたゴブリンは、すでに息をしていない。

 胸に当たったので、心臓を貫いたのかもしれない。

 魔物と人間の体内構造が同じかどうかは分からないが、人間で言えばちょうど心臓の部分だったしな。


 一体のゴブリンがやられたからか、もう一体のゴブリンの動きが怪しくなった。

 そこへ、ヴァルが飛びかかる。

 滑空のようにゴブリンに迫り、一体の顔を尻尾で殴りつける。


 よろめいたゴブリンの鼻が曲がっていた。……おいおい、どんな威力だ。

 そのゴブリンに追い打ちを仕掛けるように、ヴァルがブレスを吐いた。


 火のブレスだ。真っ赤な炎が、ゴブリンの体を飲み込んだ。

 ……さっきみせてくれたブレスは、かなり威力が抑えられていたんだな。


 一分も経たず、ゴブリン二体を焼き尽くした。

 焦げてしまったゴブリンに、ヴァルは水のブレスをかけてから、こちらに戻ってきた。

 どう? と首を傾げてきた。可愛いので、頭を撫でる。すべすべで気持ちいい。


「よくやったぞ、ヴァル」

「ヴァル―!」


 やりすぎなくらい強かったが、可愛いから許す。

 焼け焦げている部位にハンマーを当ててみる。

 ハンマーで分解した肉は、新品そのものだ。


 形も残らないほどの火でなければ、俺のハンマーでいくらでも回収できる。


「ヴァル……それがヴァルの戦闘能力か?」

「ヴァル!」


 まだまだ余裕そうな顔である。

 ……これは、思っていた以上の成果だ。


「……竜の卵を量産したら、それこそ――」


 それは最強の軍団が出来上がるんじゃないだろうか?

 そう思った瞬間、ヴァル―がむーっと頬を膨らませる。


「ヴァルヴァル!」


 ぺしぺしと尻尾が軽く俺の頬を叩く。

 

「ど、どうしたんだヴァル」

「ヴァーヴァー!」


 ヴァルは自身を示すように尻尾を動かす。

 ……さっきの会話の流れからして、もしかして――。


「量産なんてしちゃダメってことか?」

「ヴァル!」


 ……どうやら、ヴァルは他にも竜を作るのはダメと言っているらしい。

 魔物にも嫉妬というのはあるようだ。


「わかったわかった。ヴァル以外は作らないから、それでいいか?」

「ヴァルー!」


 わかればよろしい、という感じのようだ。

 今後、他の卵が見つかった場合はどうなんだろうか?

 もう見つかるというわけでもないが。


「ヴァル。俺はもう少しこの武器について試してみたいんだ。手出しはしないでくれるか?」

「ヴァル!」


 こくこくとヴァルが頷いた。

 俺はヴァルとともに、次のゴブリンを探す。

 発見したゴブリンに向かって、銃を向ける。

 

 ここで調べたいのは、威力の増減についてだ。

 魔力をより多く込めたほうが威力があがるのか。また、どれくらいの距離まで届くのか。


 まずは威力からだ。

 これまで以上に魔力をこめて引き金を引く。

 こちらに向かって走っていたゴブリンの胸を貫いた。


 さっきよりも威力は上がっているように感じた。

 次は魔力を少な目にして放つ。

 ゴブリンの胸に当たったが、貫くことはなかった。


 ただ、ぶつかった際に衝撃があるようで、ゴブリンを弾いた。

 よろよろと起き上がったゴブリンは泡を吹いて倒れた。


 そのまま、動かない。

 ハンドガンにも毒攻撃のスキルを付与していたのだが……どうやらスキルが発動するようだ。

 

 これは便利だ。

 これまで、ナイフを必死に投げつけていたが、その必要がなくなるということだ。


 俺はゴブリンの死体をハンマーで解体してから、次の検証に向かう。

 次は、距離についてだ。


 ハンドガンが一体どこまで届くのか。

 視覚強化を発動し、ゴブリンに気付かれるより先に見つけ出し、その方角にハンドガンを向ける。

 距離はおおよそ五十メートル。


 まずは一発。威力を低めにして放つ。

 魔力弾は距離が進めば進むほど、小さくなり、やがて消滅した。

 おおよそ二十メートルくらいか?

 

 次は中くらいの魔力を込める。

 引き金を引くと、先ほど同様に段々と萎んでいった。

 

 ……三十メートルくらいか?


 次はもう少しだけ込めて放つ。

 ……うーん、四十メートルほどか。


 なら、あともうちょっと強めに入れれば良さそうだ。

 そう思って魔力をさらに込めた瞬間だった。


 かたかた、とハンドガンが震えだす。

 ……なんだろうこれ。ウェポンブレイクを発動する際に似ている。


 俺は咄嗟にそれをぽいっと捨てると、次の瞬間ばきんとハンドガンが暴発した。

 ……過剰に魔力を込めると壊れてしまう、ということか。


 だいたい、分かった。

 今俺ができるのは四十メートルまでの射撃ということだろう。


 なので俺は、視覚強化を発動しながら、ハンドガンをそちらに向ける。

 そして、引き金を引く。

 ただし、威力が増加する分反動も強い。


 狙った方角からわずかに弾ははずれ、狙っていたゴブリンの足元に着弾。

 爆発のようなものがおこったため、そのゴブリンは驚いたようにしている。

 ……このズレも修正しつつ、撃とうか。


 俺はもう一度ハンドガンを構え、引き金をひいた。

 銃弾がまっすぐに進み、今度は寸分たがわずゴブリンを仕留めた。

 ……おお、これは便利だ。いや、便利なんてものじゃない。


 最強ではないか?

 他の銃もこのように強いのだろうか?

 また設計図が見つかればいいな。


 最後の実験は、魔物がいなくてもできる。

 俺はウェポンブレイクが付与されたハンドガンを取り出す。

 スキルが、武器で発動するのか、それとも弾丸に付与されるのか……。


 弾丸に付与されれば、今までよりもずっと使用しやすくなるが。

 発動した瞬間、ハンドガンから嫌な魔力が感じられた。

 すかさずぽいっと捨てると、ハンドガンが爆発した。


 ……駄目だなこりゃ。

 ウェポンブレイクとは相性が悪い。それを知ることができただけ、よかった。


「ヴァル。そろそろ戻るか?」

「ヴァルー!」


 俺のほうに飛んできたヴァルが、背中に張り付いた。

 背中に手を伸ばし、ヴァルを捕まえようとする。しかし、ヴァルは俺から逃げるように動く。

 その背中を捕まえ、俺は抱えた。


「ほら、ヴァル。街に戻るぞ」

「ヴァルルー」


 ヴァルは嬉しそうに頬ずりをしてくる。

 本当に可愛い奴だ……。


 抱えながらふと思う。

 少しだけ気になるのは、スキルの付与、アイテムボックスにしまうという行為についてだ。


 これまで作成したもの、あるいは武器と認識されるものにはスキルの付与ができていた。

 ただ、ヴァルの場合はスキルの付与ができなかった。


 アイテムボックスにしまうというのも……できないようだった。

 生命はできないのだろうか? それとも何か別に条件があるのだろうか?


 まだまだ分からないことはたくさんあるな。

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