第36話


 結局、あの後はクルアさんを宿まで連れて帰り、また俺の部屋に泊めることになった。

 俺は以前と同じように更衣室でぐーすか眠ったあと、クルアさんを起こしに向かった。


「クルアさん、起きてますか?」

「……はい、起きてます」


 良かった。今日は問題なさそうだ。


「中に入っても大丈夫ですか?」

「はい」


 クルアさんの許可がおりたので、扉をあける。

 クルアさんはちょうど髮をまとめていたところだった。

 後ろですっとポニーテールに縛った彼女が、髮を整えるようになでていた。


「……すみません昨日もまた酔っ払ってしまったようで」

「飲みに行っただけなんですから気にしないでください」

「はい……ありがとうございます」


 クルアさんは以前のような連続謝罪はしてこなかった。

 元々、仕事で行っていたわけじゃないからなんだろう。


「今日もお仕事ですか?」

「……そうですね」

「頑張ってくださいね」

「……」

 

 クルアさんは俺のほうを見て、目を見開く。

 ……な、なんだ?


「あ、あの……嫌だったらいいのですが、一つお願いしてもいいですか?」

「なんでしょうか?」

「……い、行ってらっしゃいと言ってくれませんか?」


 そういった後、クルアさんは顔を真っ赤にした。

 ……行ってらっしゃい? それに何か特別な意味があるのだろうか。


「い、いやですよね! も、申し訳ありませんでした! それでは――」

「……行ってらっしゃい」


 これでいいのだろうか?

 伝えた瞬間、クルアさんが目を輝かせた。


「……行ってきます!」


 嬉しそうに声をあげ、クルアさんが部屋を飛び出した。

 ……なんだったんだろうか?

 ごきげんな様子のクルアさんの後ろ姿を眺めた後、俺は部屋に入った。


 さて、そろそろ新しい武器を作製してみようか。

 鍛冶師のレベルは現在15レベルだ。

 15レベルになったことで、装備品へのスキル付与がよりやりやすくなった。


 例えば、装備品を持ったまま、そこにスキルの付与を行えるようになったのだ。

 つまり、戦闘を行いながらスキルの切り替えができるということだ。


 ……まだ、使えるスキル自体がそれほど多くはないので、そこまで実感はできないが、悪くはないだろう。

 条件として、触れている必要があるようだが、どうせ自分の装備にしか使わないだろうしな。


 あとは、スチールとついた武器が作製可能になっていた。

 たぶん、アイアンの次に出てきた武器なので、アイアン系より強いのだろう。

 魔石を消費して、スチールソードを作製する。

 ひとまず、Sランクのスチールソードができるまで繰り返す。


 ……よし、出来た。

 スチールソード Sランク 0/250


 今のところ、こんな感じか。

 スチールソードでも、限界値は250か。これが、普通の剣の限界なのかもしれないな。

 つけるスキルとして、体力強化、筋力強化は基本だ。

 これで100/250になってしまう。


 残りは3つだが……特にこれだ! というものが今はないんだよなぁ。

 新しいスキルも探しているが、中々見つからないのが現状だ。

 自動回復Sランクをとりあえず付けておこうか。

 

 自動で修復できるので、切れ味が落ちることがなくなる。

 ……まあ、俺の場合、作り直せるのでそこまで重視するものではないが。

 一応、装備者の傷も時間経過で癒やしてくれるので、つけておいて損はないだろう。


 あとは自動帰還も、付けておきたいな。これはDランク程度でも十分すぎる。

 ……透明化Sランクはどうだろうか? 近距離で攻撃するとき、武器が見えないというのは相手にとってやりづらいだろうが……俺も難しいよな。

 

 残っているポイントは80だ。

 やはり、何かこう……攻撃系スキルがほしいところだな。


 とりあえず、今持っている装備をすべてスチール製に切り替える。

 それだけで、午前中一杯を使ってしまった。


 とはいえ、やりきったという感覚はあった。

 軽く伸びをしてから、昼食を食べた。


 午後は店を見て回ろうか?

 とはいえ、最近はまったくスキル付きの装備が見つからないんだよな。

 

 いや、今までが見つかりすぎたのもあるだろう。

 ただ、ひょんなところで見つかることもある。


 やはり、どんなスキルがついているのか、他に誰も見えないからだろう。

 午後、何をするか考えていた俺だったが、やはり新しい装備の試し切りをしようか?

 以前攻略したEランク迷宮にでも足を運んでみるのも悪くないだろう。


 あそこの低階層の魔物なら、俺一人でも十分に戦えるしな。

 そんなことを考えながら部屋を出たところで、リスティナさんを発見した。

 ……そういえば、今日は休みだったな。


 これからデートでもあるのだろうか?

 おしゃれをして外に出かける様子だった。


「あれ、レリウス先輩じゃないですか。どうしたんですか?」

「これから、魔物狩りにでも行ってこようと思っていました。それじゃあ」


 逃げるように片手をあげる。

 がしっと、手首を掴まれた。


「……なんですかリスティナさん」

「いえ、その……ちょっと頼みたいことがあるんです」

「なんですか? 何か買ってきてほしいとかですか?」

 

 別にそのくらいの買い物ならな。

 リスティナさんは、瞳を潤ませる。


「私と、デートしてくれませんか?」

「で、デート!?」


 想定外の言葉に、思わず声を荒らげる。

 リスティナさんはそれはもう満面の笑顔だ。


「はい。先輩と、どこかに一緒に行きたいなーって思ったんです」

「……あ、えーと」


 ぜ、絶対からかっているぞこいつ!

 わかっているのだが、俺はなんと返そうか迷っていた。

 くそ……攻め込まれるのに弱いな俺……っ。


「先輩、駄目ですか?」

「……いや、いいですけど。何か……理由があるんですよね?」

「……はい。先輩との仲を深めたいなって」

「嘘ですね……?」

「バレちゃいました?」

「……いつものからかいですよね?」

「ええ、まあ。……その、先輩ってお客さんにしつこくアプローチを受けたことってありますか?」

「いえ、俺はありませんね」


 だいたいそういうのは女性店員のほうが多い。

 昨日クルアさんも散々愚痴っていたからな……。


「その、私……プライベートで歩いているときとかにも最近良くお客さんに絡まれるんです」

「……あー、そうなんですね」

「……さすがにちょっと、心配で。ストーカーっぽいこともされているような気がして……」

「なるほど。つまりは護衛ってところですか」

「はい。けど、先輩的にはそれだとつまらないでしょうし、デート気分でいいですよ?」

「別にいいですよ。後輩を守るのは先輩の役目ですし。そのくらいのわがままなら聞きますよ」

「……」


 リスティナさんが驚いたようにこちらを見てくる。

 それから彼女は、自分の体を守るようにさっと距離をあける。


「そんな優しい言葉かけても、私にエッチなことはさせませんよ?」

「しませんよ。冗談いってないで、行きましょうか?」

「……はい」


 リスティナさんが俺の隣に並び、笑顔で歩き出す。


「とにかく、その……ありがとうございますね、レリウス先輩」

「はいはい」


 どこを見て回るか分からないが、もしかしたらスキル付き装備とも出会えるかもしれないからな。

 俺としては予定を少し変えるだけだからな。 


 別に感謝されるほどではない。


「もう、もう少しくらい楽しそうにしてくださいよー」


 そういって、リスティナさんが微笑んでいる。

 ……とりあえず、笑顔になってくれてよかったな。

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