第19話
クルアさんと近くのお店で待ち合わせをしていた。
……今日は俺の休日だったので、新しく家具を作ってほしいということだろうか?
そんなことを考えながら待っていると、クルアさんがこちらへとやってきた。
「レリウスさん、申し訳ございません。お待たせしてしまって」
「いえ、別に待っていませんので……それで、これから新しく家具を作ればよいのでしょうか?」
「い、いえそれは大丈夫です! まだ前回の物が残っていますから!」
慌てた様子で首を振るクルアさん。
「そうですか……」
結構売れているとクルアさんは言っていたが、俺を傷つけないための嘘だったのかもしれない。
別に俺は家具専門の人間ではないが、やはり自分が作ったものが評価されないというのは少し悲しいものだった。
ただ、その道の職人が頑張っても売れ残ってしまうのだ。
俺のような人間がそううまく行くわけもないだろう。
「レリウスさんの作ったものはすべて高い評価を受けているんです」
どうやら、表情に出てしまっていたようだ。
クルアさんが元気づけるような言葉を言ってくれた。
「……そうなんですか?」
「滅茶苦茶売れていますっ! ……ただ、以前お話した通り、あまりたくさん流通しても値段が落ちてしまいますから、ある程度様子を見ながら販売しているんです。それでですが、本日はまずレリウスさんに報酬の支払いをと思って持ってきたんです」
そういってクルアさんは一枚の紙を見せてきた。
そこには、俺が作製した家具がびっしりとのっていて、売れた個数と金額が書かれている。
品物によって金額は違う。
「私の師が持っている店舗の一角に商品を置かせてもらっています。あとは、私が直接販売したものもありますね」
「店舗に置かせてもらうというのは、タダではないんですよね?」
「えーと……まあそうですね」
「それでしたら、その分の金額は折半で構いませんよ?」
彼女が見せてきた紙には、店舗代は入っていないように見えた。
「いえそれは私が勝手にしたことですから」
「けど、俺が職人として活動できるようになったのは、クルアさんのおかげですから。その分のお礼はできていませんし」
俺の報酬はおおよそ金貨三枚相当になっていた。
大人が不自由なく一か月暮らすには、おおよそ金貨五枚ほど必要と言われている。
ていうか、俺が宿で仕事をしている金額がおおよそ金貨三枚だった。
逆にいえば、クルアさんの報酬は良くて金貨一枚相当だろう。
そこから店舗を借りた料金を払うとなれば、今月暮らせるかどうかも不安で仕方なかった。
「いや……でも……」
「とりあえず、安定するまではお互いの支払いということでお願いします。クルアさんにもしものことがあったら、俺が嫌ですから」
俺の懐にお金も入らなくなってしまう。
そうなったら、すべて無駄になる。
真剣な目で訴えると、クルアさんは唇をぎゅっと結んだ。
「……わかりました。もっと稼げるようになりましたら、きちんとお返ししますね」
「わかりました」
こう言っておいたほうが、クルアさんは素直に受け入れてくれるだろうな。
俺は報酬の金貨と紙を受け取り、彼女を見た。
「クルアさん、家具以外にも何か必要なものはありますか?」
「え? どういうことですか?」
「いえ、色々と作れるものがありますから」
俺の言葉に、クルアさんは目を見開いた。
「か、家具以外も作れるんですか!?」
「はい。まあ一応俺は『鍛冶師』ですから」
「そ、そういえばそうでしたね……けど、鍛冶師って、そんなに何でもできるんですか?」
「一番得意なのは武器を作製することですね。ただ、アクセサリーや防具などの作製も可能ですし、ポーションなども作れますね」
「ぽ、ぽぽポーションですか!?」
「はい」
「そのポーションってまさか、魔力だけで作ることって可能ですか……?」
「できますね」
クルアさんはあんぐりを口をあけ、それから俺に顔を近づけてきた。
「今、ポーションの素材であるヒール草があまり手に入らないということで非常にポーションが高値でやりとりされていますが……知っていましたか?」
「知りませんでしたね」
「ですから、ポーションを量産できるのであればそれを売却するだけでかなりの金額になります」
「……なるほど」
「おまけにポーションは冒険者ならだれでも持っているものです。ですから、別に商人である私を通す必要もありませんよ?」
「つまり、俺が直接ギルドに買い取りをお願いしてもいいということですよね?」
「はい」
俺が金を稼ぐだけならそのほうがいいだろう。
ただ、クルアさんが店舗を借りて販売しているのと同じで、先行投資は大事なことだ。
俺が行えるクルアさんへの先行投資といえば、彼女の知名度をあげることだ。
「それでしたら、俺に良い考えがあります。協力してもらってもいいですか?」
「……良い考え、ですか?」
「はい。一度場所を移しましょうか」
注文していた唯一の飲み物を飲んだところで、俺たちは店を出た。
「クルアさんの倉庫に行ってもよいですか?」
「はい、大丈夫です」
彼女の許可ももらったので、倉庫に向かう。
倉庫にはびっしりと椅子やテーブルが並んでいた。埃をかぶらないように布がかけられている。
俺はひとまず、倉庫の隅に一つの箱を作っておいた。
そこに、魔力を用いて大量のポーションを作製していく。
「こ、これ……っ! こんなに一瞬で!」
箱にあったポーションを見て、クルアさんは驚いたように目を見開いている。
これらはすべて魔力で作り出したポーションだが、効果は正規のものと同じだ。
「どうですか?」
「……凄すぎますよ! それにこのポーション、すべて質もかなりのものみたいですねっ!」
まあ、ほとんどがBランク以上だったしな、
俺は神器を取り出し、同時に左手にポーションを一つ用意した。
俺がそれをハンマーで叩くと、ポーションは砕け散り、素材である薬草が回収された。
俺はその薬草を取り出し、クルアさんに渡す。
「これって、先ほどレリウスさんが作ったポーションが素材に、なったんですか?」
「はい。ハンマーを使って破壊すると、俺が作り出したものも素材に戻して回収することが可能なんです」
「……やばすぎですよそれは。無からたくさんのものができるってことですよね!?」
そういうことになる。
ただ、武器や防具はどうしても魔石が必要だ。
完全な無から作り出すことができないため、魔物狩りを行っていた。
金に余裕ができれば魔石は購入することもできる。
けど、体を動かすのが好きだからたぶんしない。
「レリウスさん。その力、凄すぎますから隠しておいてほうがいいですよ?」
「……そうですかね?」
「そうですよっ! 命狙われますよ!」
……それは嫌だな。
こほんとクルアさんが咳ばらいをして、
「……とにかく、素材が回収できることはわかりました。レリウスさんはこれらも販売したいということで間違いないですか?」
「そうですね。ただ、今回に限っては素材とポーションを用意できるルートを確保したということをクルアさんからギルドに伝えてほしいんです」
「……私から、ですか?」
「はい。そうすれば、クルアさんの商人としての格があがりますよね?」
俺の言葉にクルアさんははっと目を見開いた。
「……まさか、すでにそこまで考えていたんですね」
「たまたま、さっき思いついただけです。できますか?」
「……わかりました。ありがとうございます」
クルアさんが頭を下げる。
これで、クルアさんが有名になれば、俺の作った物も売れていくことだろう。
これはそのための先行投資だ。
〇
クルアさんと別れた俺は、宿に戻る。
……初めて手に入れた両親が関わっていない仕事で得たお金だ。
とりあえず、両親を食事にでも連れて行こうか。
バイトの人たちに相談して、両親が宿から離れて問題ない日を作ってもらい、俺は二人に夕食をごちそうした。
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