第18話


 俺は家具職人としての立場をもらったらしい。

 クルアさんが師に話を通して、その師のツテを使うことであっさりと承諾されたそうだ。


 家具職人になるには長く険しい道がある……みたいなことを聞いていたので、拍子抜けしてしまった。


 だから、もう何を造っても問題はないそうだ。

 ただ、一つだけ気を付けることがある。

 それは、職人が自分の名前を刻んだオリジナルのものだけは複製してはいけないそうだ。


 それを複製して販売するというのは、絶対にしてはいけないらしい。

 法的に罰せられるとかではないが、職人としてギルドに籍を置くのが難しくなるそうだ。


 ……危なかった。

 俺がこれまでに覚えた家具の中でも、そのようなものはあるかもしれない。


 これからは気を付けないとな。

 もちろん、私的に使う場合での改造は問題ないようだ。


 そんな話をクルアさんから聞かされた。

 そういえば、クルアさんは今頃商売を始めたのだろうか。 


 すでに指示された商品の納品を済ませている。


 今回、俺が作製したものはすべて量産指定されている商品だ。

 オリジナルの一品物と比較すれば値段は決して高くはないが、それでも結構な数を用意した。


 あとはクルアさんの腕次第だろう。

 

 俺とクルアさんの契約に関してだが、ひとまずは一年ということになった。

 これはお互いに不満があれば、それを最後に契約を終わらせられるということだ。


 基本的に、商人から契約解除をお願いすることはほとんどないそうだ。

 報酬の分配を見てもわかるが、職人のほうが立場は上だ。


 俺はメアさんをちらと見る。

 初めは随分とおどおどしていたが、今ではもう立派に仕事をしている。

 

 新人の教育もよくできている。その新人も可愛らしい女の子で、熱心にメアさんの話を聞いて、頷いている。

 あの子も育てば俺の仕事も減るかもしれないなぁ、なんて考えていると義父が俺のほうにやってきた。


「おう、レリウス。うちの新人に見とれてんなよな?」

「……別に見とれてないって。最近は可愛い女の子ばっかり雇っているけど、どうしたんだ?」

「いやまあ、最近は結構応募されるもんだからな。レリウスだってカワイイ女の子がいるほうがいいだろ?」

「まあ、そうだけど……」


 そりゃあ男だからな。

 うんうんと義父が満足そうにうなずいている。


 あとで義母さんに報告しておいたほうがいいかもしれないな。



 〇



 仕事を終え、静かになった食堂を清掃していた。

 今日の遅番はメアさんだ。

 俺は彼女とともに食堂の掃除をしていたのだが、


「……レリウス少しいいか?」

「なんでしょうか?」

「その……話したい事があるんだ。だから、あとで私に時間をくれないだろうか?」

「別に構いませんけど」


 俺がそう返事をすると、メアさんは嬉しそうに微笑んだ。

 一体何だろうか?

 掃除をすませ、仕事は終わりとなる。

 

 明日の朝、滞りなく仕事をするための準備をしてから俺は制服を脱いだ。

 控室で休んでいると、メアさんもやってきた。


 メアさんはすでに簡素な衣服に身を包んでいる。

 メアさんはこの宿に部屋を借りているので、このまま階段を上がれば休める。

 そんな彼女の傍らには、装備品も置かれていた。


 そういえばメアさんは冒険者だった。

 彼女が今身に着けているものは、局所だけを守る程度の防具だ。

 ランクや素材を目で追っていると、メアさんがこちらを見てきた。


「わざわざすまない!」

「別に構わないですよ。それで話って何ですか?」

「ああ……その――この前見かけたのだが、レリウスは冒険者なのか!?」

 

 嬉しそうに声を上げたメアさん。

 ……そういえば、俺は誰かに冒険者をやっているなんて話したことはなかったな。

 両親はなんとなく察しているようだけど。


「見たってどこでですか?」

「宿に戻ってきたとき、装備を持っていたからな」

「……なるほど」


 そういうことか。

 メアさんは照れ臭そうに頭をかいた。


「それで、だ。こほん……も、もしよかったらパーティーを組んでくれないか?」

「……ああ、そういうことなんですね」


 どきりとした心を返してほしい。

 告白とかされるんじゃないかと思っていたが、まさかそんなはずあるわけもないよな。


「ああっ! ま、まあその……私はあまり強くないのだが」

「俺もゴブリンくらいとしか戦ったことないですけど、大丈夫ですか?」

「全然大丈夫だ! 今度一緒に行こう!」

「ええ、分かりました。次に休みが重なったら行きましょうか」

「ああ!」


 嬉しそうにメアさんが微笑んでいる。

 メアさんは俺よりも年上で大人っぽい見た目をしているのだが、こう言ったところはなんだか子どものようだった。


「それでは、今度その……お願いします……っ」


 ぺこりとメアさんが頭をさげる。一緒に犬耳が下がった。

 ……ただ、その耳と尻尾は嬉しそうに揺れていた。


「はい」

 

 俺はじっとメアさんの背中を眺めていた。

 身に着けている装備品、どれも悪いスキルばかりがついている。


 筋力減少や敏捷減少……あれらをつけているのはわざとなのだろうか?

 今度一緒に冒険するときにでも詳しい話を聞いてみようか。

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