第3話
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彼女と出会ったのは、高二の春だった。始業式が終り、新しいクラスに移ると、隣の席だったのが彼女だった。
「一年間よろしく」
彼女の朗らかな笑顔が僕を迎えた。僕にはその笑顔が意外で驚いた。彼女は、傍から見れば落ち着いていて孤独を好んでいる雰囲気なのに、そうでもないようなので僕は慌てた。
「よろしく」
彼女との会話をどこに持って行くか思案していると、まだこの言葉を言っていないのに気がついた。
「私は、
「
「ちょっと女の子っぽい名前だね」
「おばあちゃんがつけてくれたんだって」
「そうなんだ」
おばあちゃん、センス良いね、とちょっといじりながらも僕達は次第に打ち解けていった。だけど。上手く笑えない。彼女は自然に笑うのに、僕はどこか不自然。自分でも分かる。
やっぱり、人付き合いが苦手だ。ほんの数瞬の彼女とでさえ、僕は嫌気が差していた。慣れ親しんだ友達と話すことでさえ、骨が折れるのに、初対面の女の子となんて。
母が死んだのは、中学二年の頃だった。ちょうど春休みにさしかかるぐらいに。交通事故で。人って簡単に死ぬ。
だから僕は、それから人との付き合いが苦手になった、心の弱い人間の小説にありがちな、クズみたいな設定。母親を亡くした悲しい自分。二度と人を失いたくない。よくない、よくない。そうして僕は外界との扉を閉じて、自分に沈んでいく。
だから、彼女を救いたいと思っていたのは確かに僕の中にあった。
「去年は何組だった?」
彼女がそう訊く。このまま僕達は、去年に担当して貰った先生達の話をしながら、その日を終えた。特別何か意味のあったことなど起きていない。ただ、少し可愛い女の子と話をした、それだけのことだった。まあ、そのせいでクラスの波に乗り遅れた感があったんだけど。
今思うと、彼女は、新学期当初は純粋な少女だったように思う。彼女を何が変えてしまったのか、僕にはわからない。
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