第2話
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茹だるような暑さを前に僕と彼女は、疲弊していた。名ばかりの日陰に身を寄せ合い、溶け始めた氷菓を口に入れる。口で飼い慣らすと言うに近い。カラコロと口の中全体に冷気を行き渡らす。
季節は夏。彼女が死ぬ一年前のことだ。この日は、終業式で、運良く学校が予定より早く終った日だった。
アイスを買ったスーパ近くの街路のベンチで僕達は暑い暑いと呟く。
「ねえ、今何時?」
「十一時だよ」
今日やけに時間気にするね、と僕は言う。彼女は、少し躊躇いがちに語った。
「ずっと死に方を考えてたの。このまま十二時に、太陽が一番強いときに溶けて死ねたら楽だろうなって」
「それはまた突飛な」
「でも、暑いのは嫌ね。なんならアイスに埋もれて死にたいわ」
彼女は、シャクっとソーダ味の氷菓を囓る。刹那、ふあっと涼しい風が頬を掠めた。
「たまに涼しいのも気持ちいいね」
「そうだね」と僕は頷く。
食べ終わると、彼女はベンチから立ち上がり、
「もう十二時だっ」と楽しそうに笑った。
「十二時に喜ぶの、お腹すいた人か君ぐらいだよ」
僕も併せて笑った。彼女のロングの髪が、涼しい風にたゆたう。
この頃の彼女は、「自殺」とか「生への嫌悪」とか、積極的な言葉はあまり使わなかった。ただ、「綺麗」を求めていたような気がする。この世界は少しでも綺麗なんだって証明をしたかった。彼女はそう考えていた、気がする。
不思議と、僕は最初に彼女と会ったときのことを思い出していた。
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