第154話 万歳! 国王イヤース

【長老ピピンより勇者イヤース宛の書簡】

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とにもかくにも、愚人フンの壮絶な討ち死に・・・お悔み言わせていただくよ。

彼とは直接会う機会がなかったけど、君の手紙を読んでいいヤツだったというのはよく分かっている。

だから、僕と長老会のメンバーで彼のために祈りをあげた。きっと大神様に優しく迎えてもらっているはずだ。


それから、邪神がもう一匹?

いや、これでおしまいだよ。

えっ、そんなはずがないって?証明してみろって?

たとえ居たとしても、別に悪さをしてるわけじゃぁないんだからそれでいいんじゃない?


それよりも、後始末だ。


つまり人々にとって大事なのは邪神の首でも心臓でもないんだ。

平和だよ!

みんなが望んでいるのは平和なんだ。そのための戦いなんだ。


わかるかい?


平和のためには秩序が必要なんだ。秩序のためには何が必要かわかるかい?

正義だよ!

正義を体現する存在、王様なんだよ。


やったじゃないか。


君は王様になるんだ!

威張り放題になるだぜ!

ヤッタネ!


おとぎ話でも、最後はそう云うおしまいになってんだ。

メデタシ、メデタシ!ってネ。


何をしたらいいんだって?

何もしなくていいんだよ!

威張ってりゃぁいいんだ。

あとはこっちでやるからね。


じゃあネ。

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ごっ・・・強引な!

“あとはこっちでやるからね”

・・・恐ろしい事言ってる。わかってんの、イヤース。



【勇者イヤースより長老ピピン宛の書簡】

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王様⁉

ンなもんになりたかねえヨ。

おれはのんびり、のびのび生きていたいんだ。

面倒くせぇのは嫌なんだ。

昔はなりたかったもしれねぇよ。

でもねぇ、これまでさんざん面倒なのを見てきてんだ。土豪の連中やら、邪神の民とか、それに教団関係者とか。そんな連中が自分らの我を張って延々と言い争ってるのをね。

そして言い負けたヤツは恨みつらみをお返しする機会を虎視眈々と狙ってやがる。

王様ってそんなのをいちいち相手にしないといけないんだろう?

俺はヤダね、めんどくせぇ~。


それからフンのために、みんなで祈ってくれたとのこと・・・ありがとうよ。

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まあ、そうなるわなぁ~

でも、なんかイヤースってお人好しなのよ。



【長老ピピンより勇者イヤース宛の書簡】

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いいかい、世の中にはなりたくても、なれないジョブがある。

そして、なりたくも、ならなくてはジョブもあるんだよ。


王様ってのはそういうジョブなのさ。


もし、君が「嫌だっ」と突っぱねたらどうなると思う?

君の廻りの人達、君と一緒に命を懸けて戦ってきた人達、苦難を供にした仲間、そんな人たちが争い合い、憎しみ合い、殺し合うことになる。

そんな未来が見えているんだよ、絶対そうなるんだよ。

それでいいのかい?


そんな姿を目にするのは、君は嫌だろう・・・だったら断れないはずだ。

だから君が王様なのさ。


なに、心配することはないよ。

君の王国だ、君の好きなようにすればいいんだよ。


礼儀作法だって君が決めたらいい。

握手の前には鼻くそをほじくらないといけない。

おならが出たら挙手しないといけない。

君がそう決めたら、みんなはそうしないといけないってことさ。


どうだい、簡単な事だろう?


じゃあネ。

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今度は脅しにかかった。

う~ん、ピピンってやっぱり強引。

状況・相手により言葉を変え、へ理屈をつけて、強引に押しまくる。

海千山千の人だったんだよね~。長老ピピンって言われるだけあって。



【勇者イヤースより長老ピピン宛の書簡】

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ヴァルカン・モルツ坊主・山賊ハゲ・・・それから諸侯とかいうその他大勢の有象無象、そんなのが俺を取り囲んで強訴してきやがった。フィアナちゃんに話を向けたら、「私はエルフよ、普人族の王様選びなんか・・・知~らないわ。」だとよ。

「俺はヤなんだよ。そういうの。」と、言っても誰も聞いてやしない。

一晩中、突き上げられて・・・俺も疲れちまって・・・結局のところ、面倒ごとは俺に持ち込まないって約束で引き受けさせられた・・・。

知らね~ヨ、どうなっても。

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どうでもなれって、それでいいのかイヤース。



【長老ピピンより勇者イヤース宛の書簡】

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なにはともあれ、目出度い。

まったくもって、目出度い。

聖ネンジャ・プ聖天以来、こんなにうれしい事はなかったよ!


新王国万歳!

英雄王イヤース万歳!

・・・万歳!万歳!万歳!・・・

君が何を言っても万歳!

・・・万歳!万歳!万歳!・・・


と、いうわけで、君にお嫁さんを世話することにしたヨ。

えっ、そんな事を頼んだ覚えはないって?

君が頼もうと頼んでいなかろうと、そんな事は関係ないよ。

うん、そう言うもんなんだよ、王様ってのは。


いいかい、君の王国の『忠勇なる臣民達』の切なる願いって何だか知ってるかい?

王国がこれからもずっと続いて、自分の地位・財産を代々安泰してくれるって事なんだよ。

そのためには何が必要かわかるかい?

あ~と~つ~ぎ。

子供だよ。イヤース2世だよ。

君は綺麗なフィアナちゃん・・・気も強いけど・・・が居て満足だろうけど、エルフと普人族の間では子供はできない。まったくの別種族なんだよ・・・生物学的に。

だから君は王様として、子供を作るために普人族の女性と結婚するがある。


でも心配しなくてもいい。このピピンが紹介するってんだから、美人で君の好みにピッタリのお姫様に決まっているからね。

サムエル大公ってのが居るんだけど、うちの世俗代表者って立場なんだけど、ここの娘さんが親爺さんとは違って可愛いくて・・・、

そして、とっても活発なお嬢さんだ!

どうだい、君の好みにぴったりだろう?

彼女についてもうちの国中で、いろいろと噂が流れるほどだからね。

例えば・・・

許嫁の決めるお披露目のための舞踏会で、その候補者たちを大勢の面前で「この軟弱者!」って罵倒して、その頭の毛を掴んで引き摺りまわしたり・・・

求婚して跪いている男性を前にして、「キモいわ!」って、その頭にハイキックをくらわしたり・・・

そんな無責任なうわさが流れているが、

それは全部、根も葉も・・・ない嘘・・・いや・・・ある本当の話だ!


でも気にすることなんかないよ。そんな無責任な噂が広がっていても求婚者の後が絶たないってんだから、どれほど美人か・・・わかるだろう?

とっても頭がよくて、剣や魔法も嗜んでいて

・・・お茶や社交ダンスは嗜んでないよ。


まあ、しっかりとしたお嬢さんだからネ、こちらの貴族達はチョッと合わないのかもしれない。文弱の優男ばかりだからね。


ねっ!君にピッタリの花の18歳のお嬢さんだろ~


期待して待っていてね!

彼女もに嫁ぐってことで、もう、心は上の空さ。


うん、それから持参する財産も凄いよっ、たんまり持っていくように言っておいたから。

多分、お宝がザックザックさ。

それだけじゃぁないんだ。大勢の人間もオマケに付けておくからネ。

貴族家の次男坊・三男坊たちさ。

家に居ても仕方ないんで、教団に学校を作って連中を仕込んでいるんだ。ピンからキリまで居て、優秀なのから・・・そうでないのまで、いっぱいそろっているからね。

それなりに使って欲しい。君の出来上がったばかりの王国の官僚としてねッ。


ほんと、君の王国はどんどんと充実していくじゃないか!

騎士ヴァルカンもこの話を聞いて喜んでいたよ。

みんながハッピーなんだ。誰も反対なんかしないからね。


と、そう言う事なんだ。

じゃあね。

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相手が怯んだところで、“お嫁さん”で固める・・・すごいね・・・こんな坊さん、居たら堪らないよね。



【勇者イヤースより長老ピピン宛の書簡】

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オイ!ちょっと待て。

それ、そっちで勝手に進めていい話なのか。

ヴァルカンにその事を言ったら・・・そのまま酒盛りの宴会が始まった。

どういうこった?

真昼間から・・・大勢集まってきて、飲み始めて・・・俺が何か言ったら、「万歳!万歳!万歳!」と合唱するだけで、誰もまともに返事しない。そして・・・酒杯を渡されて、次々と渡されて・・・酔い潰される。

で、また次の日になって、その事を言うと・・・また、酒盛りが始まった。

モルツ坊主なんかも、坊主のくせにずっと酔い潰れて、返事もしない。

こんな事をずっと続けるつもりだ!

どうなってんだ・・・お前ら示し合わせているだろ!

フィアナちゃんなんか、「来るなら来ればいい・・・負けないわよ!」とか言ってんぞ。

なんか怖い事になりそうだが・・・俺は知らん!どうなっても知らんからナ。

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イヤース君、もう遅い。



【長老ピピンより勇者イヤース宛の書簡】

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うんうん、それでいい、それでいいんだよ。

全てうまいこと行っている。すべてこちらに任せておいてくれたらいいからね。

誰も反対なんかしていないからね。

これでみんなが幸せになれるんだよ。


万歳!バンザイ!\(^o^)/!

万歳!バンザイ!\(^o^)/!

万歳!バンザイ!\(^o^)/!

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あとはこのまま強引に押してゆけばいいってわけか。



【勇者イヤースより長老ピピン宛の書簡】

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フィアナが出て行った。


サムエル大公の姫様がやってくるのだから、大謁見室にてみんなで迎えたんだ。

そしたらこの姫さん・・・こちらをキッと睨んで、


「邪神を斃し、ヘルザを守りし勇者イヤースよ!

わたくしを孕ませ、世継ぎをつくりなさい。

そして、王国の末永き礎を固めるのです。」


第一声がこれだった・・・ちょっと、何というか・・・中二病というにはだいぶんと過ぎている年齢なのだが・・・平和日本でこんな事を言ったら、よほどの美少女でも・・・相当病んでいるのではないかと、悩むところだが・・・ここは異世界ヘルザだ!

廻りで立っていた『臣下』達・・・『臣下』、いつの間にかそう自称しているんだ、この連中・・・も、「おお~、さすが大公の姫!」と感心している。


で、俺は初っぱなから気圧されてしまったわけだ。

それで、横に座っていたフィアナちゃんの顔をそっと覗いたのだが・・・顔を真っ赤にしていた。そして彼女、スクッと立ち上がり、そのまま部屋から出て行ったんだ。

俺は慌ててその後を追っかけたよ。

彼女は大股の速足で部屋まで戻ると、そのまま荷物一つを持って・・・用意してあったんだろうか・・・馬屋のほうに行き、馬に乗って城門から出て行った・・・。


「やってらんないわ」というのが最後に残した一言だった。

それ以外一言も口をきいてくれなかった、言い訳も聞いてくれなかった。

・・・オオ~~


仕方ないので、みんなの所に戻ってみると・・・なんと、大謁見室の中はそのまま固まっていたよ。大勢の『臣下』たちも、姫さんも・・・半時間ちかく経っていたんだけど。


で、姫さんの方に行ったんだ。そしたら、流石にプルプルと震えていて目には涙を浮かべて立っていた・・・いや、あんたの発言の結果なんだけど・・・仕方ないので、そっと肩を抱いて、


「よく来られた、わが妻となる姫よ・・・」


と、小さな声でそう言ってやったんだ。それで何とか・・・凍り付いていた大謁見室が一気に溶けていったワ。


その一週間後、モルツ坊主が結婚式を挙げてくれたよ。


なんだか、軽薄でイヤな野郎になっちまったが・・・仕方ないだろ・・・。

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これはキツイ。



【長老ピピンより勇者イヤース宛の書簡】

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フィアナの事は、本当に残念なことになってしまった。

でも彼女はとても誇り高く聡明で、そして・・・経験豊かな女性だ。

わかっているんだよ。

君のこれからの人生の事、そしてこの新しい王国の未来の事を。

そして、自分のいる立場。

だから・・・熟慮の末に、身を引いたんだと思う。

君・・・いや、おもに王国の人々の幸せのために。


僕は、ネンジャ教団を代表してイヤリル神社に丁重な礼状を送り届けるつもりだ。

山と森の民との同盟から普人族がどれだけ多くの恩恵を受けたのか、借りがどれだけ大きいのか、その事を手紙に書くつもりだ。

そして彼女にも、普人族とネンジャ・プ教団の代表として礼状を書くつもりだ。彼女の貢献・名誉を末永く歴史に残るよう記録すると約束するつもりだ。


君としてもいろいろ言いたいこともあるだろうけど、世界は・・・もう、新しい世界は廻り始めているんだ。

そして、君がその主人公なんだ・・・残念ながらネ。

だから君には立ち止まるなんてことは許されない。

この新しい世界、平和で豊かな・・・素晴らしい世界を花開かせるために。

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