第123話 画期的な新兵器;櫓ゴーレム
テンテケテーン♪~
おか~ちゃんのま~たがパ~クパ~ク
そぅ~れ
おか~ちゃんのま~たがパ~クパ~ク
トントコト~ン♪~
おと~ちゃんのこ~しがヒ~コヒ~コ
そぅ~れ
おと~ちゃんのこ~しがヒ~コヒ~コ
赤フン(注:鮮やかな赤色に染めあげられたフンドシ)で決めたドワーフ達の一団が、六畳ほどの狭い船倉の中で気合を合わせて8本のオールをこいでいる。いやオールと言うのは正確ではない。これは船の櫂ではなく、ゴーレムの足だから。でも、その形状からはオールと言うほかに表現できる言葉もないので、ここは”オール”ということでお願いしたい。
この船倉中のオールは外に出ると太く短い金属製の脚となって、横に伸びている。長さは2メートルほどで、その先には大きな関節がついていて、そこからは8メートルもある太い丸太が地上に伸びて、この船倉を支えている。
外見から言うと、8メートルの長さの太い丸太の足が8本立っていて、その上に6畳間ほどの大きさの長方形の”箱船”があり、地上を”ドスンドスン”と歩いている・・・のである。
この足一本一本をドワーフ達がオールで操作している。もちろん筋力で動かしているわけでない、マナを流し込み魔力の力でもって関節部を動かすというカラクリだ。
大河ヌカイ河下流の河口部は、いく筋も分かれて大きな砂洲をいくつも形成している。森や畑もあるのでもはや砂洲と言うよりは
そこの中心人物は、もちろん
「ねえダーリン、せっかくの王国の秘密兵器なのに・・・ドワーフ達のあの下品な掛け声はどうにかならないのかしら。」
青のデイジーは甘い言葉とは裏腹に厳しい眼差しで櫓ゴーレムを見つめながら訴える。
「そうでありますね、デイジーの言うとおりでありますが・・・。
このゴーレムですが、”動力”こそはうまく実用化できましたが、”制御”については目処もたっていません。ですから”制御”は操縦者の人力に任しております。
で、8本の足がありますから、8人がよほどうまく息を合わして操作しないといけないのであります。
散々失敗しながら練習を繰り返して、ようやく、うまく制御できるようになった所であります。
気難しいドワーフ達がせっかくヤル気を出してくれているのですから、下手に口を出してへそを曲げられたら・・・、
このゴーレムの開発が遅れて、戦争に間に合わなく恐れもありますし・・・、
なかなか難しい所であります。」
要するに、”こっちの苦労も知らないで、勝手な事をぬかすな”と言いたいのであるが、そうは言えないのだ・・・オソロシイノデ。
デイジーは口では反論せずに、ジロリと睨み返す。デブはこのままではヤラレル・・・と少し焦りを覚え、
「そもそもドワーフと言うものは一族の子孫繁栄を何よりも尊ぶという文化を持っております。子孫繁栄の大元はと言えば・・・あからさまに言うと下品になりますので・・・つまりああいう歌になるのです。
異文化の相手でありますから、気を使って使い過ぎることはない・・・と言うわけであります。」
今度は納得してくれたようで、ホッとした。
「チッ、なんでドワーフなんかにやらせるんだ!。」
赤のノエルはくってかかる。当然ノッポが返答する。
「いや、ドワーフでないとだめなのさ。彼らはもともとハンマーを打つことによってマナを扱うという特技があるんだ。ドワーフの鍛冶が特別なのはこの特技があるからだね。
で、ここではオールを介してマナを調整することにより”足”の運動を制御しているわけだ。
こんなことをできるのはドワーフしかいないよ。普人族やエルフの魔術師なんかではできやしないさ。
何なら、君がやってみてごらん。」
・・・おっと、最後の一言が多かったようだ。
その一言を聞いた瞬間、赤のノエルの拳がノッポの鳩尾に埋まり・・・ノッポはその場でうずくまった。
「おか~ちゃんのま~たがパ~クパ~ク
おと~ちゃんのこ~しがヒ~コヒ~コ
ケケッ、夜のオレ達じゃん、
丁度いいじゃん。」
チビはそう言って卑猥に腰を振って見せる。
その瞬間、
パン!パン!
彼の顔の左右から黒のティナの平手が交互に飛んできた。
次に、その手はチビの頬を左右に引き延ばす。そして正面から睨みつけ、
「オダマリ・・・」
と一言だけつぶやき、チビは両頬を引き伸ばされたまま固まっている。
この櫓ゴーレムの箱舟のような櫓の中には、ドワーフをぎゅうぎゅうに詰め込んである。そして、その上の甲板にはエルフが居て、そこから弓矢を射つ様になっている。
不細工なゴーレムであり、櫓は大いに揺れるかと思いきや・・・そうでもない。足が8本もあるので、少々の揺れは中和されてしまうのだ。辛うじて弓を打てるほどには揺れは収まっている。
そして、エルフ達の射ることになる矢は普通の物ではない。鏃には小さな水晶玉が仕込んであり、そこに【爆破】などの魔法のオドを仕込んで放つのだ。
ファイアーボールは風に流される、あるいは風に吹き消されるので、野外の戦闘では射程距離も短いし安定もしないので使いづらい。ならば、鏃に【爆破】のオドを仕込んで射った方がはるかに使い勝手がよい。
問題は、矢を放つ寸前にオドを念じこむ作業が必要だが、当然ながらそれなりの魔力と魔法の能力が必要なので普人族の騎士には難しい。いま一つの問題は、小さな物とはいえ水晶玉を大量に消費する事だ。
そこで、魔法が得意であるエルフの射手とイヤリル大神社の協力が必要になった。大量のマナを道具を通じて使えるドワーフ、生来の魔術師であり弓の射手でもあるエルフ、これらは国境爵達の部族から募集して選抜した。
そして、巫女や神官達が大勢いて水晶玉を大量に生産できるイヤリル大神社、そちらには盟約をつうじて協力を求めた。
この組み合わせがそろって初めて可能になる戦術なのだ。
ドワーフとエルフそしてイヤリル大神社の協力により、強力な火力を発揮する動く城が実現したのである。
これを見たらヴォルカニック軍は慌てふためくよりほかあるまい・・・。
もっとも若干の問題もある、取るに足らない実に些細な問題であるが。
狭い櫓の中にドワーフを詰め込み、そこで一生懸命に働かせるとどうなるか・・・。
毛むくじゃらの彼らが全身に汗をかき、それが雑菌で発酵(?)して、なんとも言えない匂い、ツ~ンと言うかプ~ンと言うべきか、やや刺激臭を伴う
汗と垢と腋臭とインキンと水虫の匂いを混ぜて強烈にしたもの・・・である。
「これは
赤フンをキリリと締めたドワーフは、そう言っている!
そして、
「エルフどんよ、上の甲板は吹き晒しじゃ。ヤバくなってきたら下に降りて来るんじゃぞ。」
全員が汗でべちゃべちゃになって、ぎゅうぎゅうに詰まってるドワーフが、エルフの射手に向かって、親切心からそう勧めるのだが・・・
それを聞いて、エルフ達は鳥肌を立てながら、
「いや遠慮しとくよ。新鮮な大気、涼しい風はエルフの友人だからね。」
そう返事している。
「なにを言っとんじゃ。そこは吹き晒しじゃろ、
エルフ達はそれを聞くと背筋がゾクゾクとしてきた。
もし負傷して倒れたら、あのドワーフの『漢の香り』の中に引きずり込まれてしまうのだ。そうしたら、その臭さに悶死してしまうのではないか、
いや、そうなるにちがいない!
そして、その臭さに聖天もできずにアンデッド;ゾンビになってしまうのではないだろうか、
いや、そうなるにちがいない!
厭だ!・・・それだけは厭だ!・・・絶対に嫌だ!、
負傷したらそのまま甲板から地面にむけて頭から飛び降りてしまおう。そうすれば首の骨を折って名誉の戦死ということで美しい最後を迎える事ができる。アンデッド;ゾンビになるよりはるかにマシだ、全然マシだと。
そんな固い決意を心の中に秘めていた・・・のであった。
櫓ゴーレムは、ゴーレム自体の開発・生産もさることながら、それを乗りこなすドワーフとエルフの訓練と協調がそれよりももっと大変なのだ。
いまやウェルシ公国は、ヴォルカニック皇国の占領により有って無きがごとくになってしまっている。
その皇国軍は公国の首府であるウェルシ城にまで引きこもって守りを固めている。この城はエイドラ山中のラル盆地の北辺にあって、そこには兵站物資が満タンに貯めこまれているのである。次の決戦の戦場はこの盆地になるに違いない。
そこではバル荒地の会戦の様にこちらが待ち伏せできない、こんどは皇国の大騎馬兵団の駆けまわる戦場となるであろう。
その対策となる切り札の秘密兵器がこの櫓ゴーレムなのだ。
そんなこんなで、なんとか使いものになる
この訓練場で櫓ゴーレムをばらして船に乗せ、ヌカイ河を遡上して近くの船着き場まで運び、こんどは特製の荷車に乗せて山道をラル盆地まで運搬して現地で組み立てる。その山道の拡張工事も今急ピッチで進められている。
本体になる箱舟自体は骨組みだけを持って行って現地で大工を使って作成すればよい。問題は足となる8メートルもある大きな丸太であるが、これが8体分全部で64本ある。これを持ち込むのは大変であろうが、敵もまさかゴーレムの材料とは思うまい。砦を立てる建材と思うはずだ。いざ戦場で、その砦が動き出したら、敵はたちまちにしてパニックに陥るに違いない。
3魔術師達はそれを考えると思わずニヤリとなるのであった。
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