第108話 守城

城の一角に山積みになった100体近くの遺体。全てこの昨日・昨夜の戦いで討ち死を遂げた者達である。扱いがぞんざいなのは、突然の戦いと生きている者への対処が精一杯でそこまで手が回らなかったからで、それだけ激しい攻撃を受けていたからだ。決して死者をないがしろにしているわけではない。

しかし、この遺体の山は早々に処理する必要がある。既に腐敗の兆しがあり、辺りは匂いが立ち込め始めていて、このままにしておくと病がはやる恐れがある。それにこの世界では遺体からアンデッドが生まれることがママあり、これが起きると兵の士気が大幅に落ちてしまう。やはりお葬式、【浄化】・【聖天】魔法で清めてあの世にちゃんと送ってやらなければならないのだ。

横に立つグンケル司令に


「私は世俗の者でありますが、祓魔師でもありますしお葬式で助祭の経験もあります。もしよければ、この方々達をお送りいたしましょうか?」


「しかし、ここに来て直ぐにあれだけ治療を行い、そのうえ、そこまでお願いするのは心苦しい。先に一休みなさったらどうです。

・・・いや、正直、そうしていただけると大変ありがたいが。」


「気力と魔力はまだ少し残っているようです。日もだいぶ傾いてきましたし、時刻もちょうどころ合いでしょう。」


「かたじけない」


「じゃあ、半時間ほどして丁度日没時になったら始めましょう。手の空いている方、特に亡くなった方と親しい方にお知らせください。時間は15分もかかりません。」


そう伝えて遺体の山にワゴン馬車に掲げていた王室旗をかぶせ、時間が来るまでその場にたたずんで前を守る。

魔眼を凝らすと周囲に亡魂が漂っている。蜘蛛の糸を飛ばして記憶を辿ると、いずれも出征の際にはこのような戦になるとは露とも思っていない。まさか第1王妃の母国でもある同盟国のサルマン公国が敵国と示し合わして背後から突然攻めてくるなんて、そんな裏切りを誰も想像もしていなかった・・・。

こうして、空が暮れて月の輝く夜となってきたとき、おいおい参集者も集まってきた。では、はじめるか。

ここで今作ったばかりの出来合いの弔文だけれども。周囲に聞こえる様に声を震わせて弔辞を読む。


「君よ、君よ、

郷土くにの家族の元を、和やかに出で来たる君よ、

国境を守り、常のごとく安寧を保たんと、出でし君よ、

油断なく、抜かりなく、城を守り

郷土の家族の健やかなるを、

思い続けたる君よ、


突如として、国境に現れたる大軍の

裏切りの仇の現れたる、

怒りにたぎりし君よ、


ウンカのごとく城壁に取り付く敵兵

雨のごとく降り注ぐ矢の嵐

怯むことなく戦いし君よ


おびただしい数の敵に力尽き

数限りなく飛び来る矢の雨に臥せ

終に倒れし君よ


郷土にて祈りたる君の父母

家にて帰り待ちわびたる君の妻子

ただ、そのたずきと行く末を思いし君よ


その思いの深きを我らは共にする

その勇気の固きを我らは共にする


既に親征の国軍は途上にあり

山野を埋め尽くし、街道を連なり、

幾万の大軍が、怒りに燃えて、

ひた走りに走り来たらん。


我らはひたすらに固く守り、ここを守り抜き

君が志を貫かん

国の安寧をまもり抜き、人々の安らぎを守り抜かん

必ずや守り通さん!


今はただ、後の憂いなく逝きたまえ、

大神の情け深き懐の、そのもとに逝きたまえ、」


ここまで読んで、杖を両手に高く抱え上げ、そして絶叫する


「おおがみよ!おおがみよ!

我らの勇士を!、テルミスのつわものを!

その、情け深き懐に御迎えたまえ~!

・・・聖天!・・・」


杖は輝きだし、その光が遺体の山に吸い込まれると、多くの光の玉がゆらゆらと天に昇っていった。

次は遺体の浄化である。

今度は、杖を地面に突き立て、両手を前に突き出し、目一杯に浄化をかける。手のひらから強い光が流れ出し、明るくしかし熱の無い焔が遺体の山を包んで火葬する。ほんの数分の内に遺体は灰となり、後には遺品と被せた王室旗が残るのみ。

振り返ってみると、少なからざる騎士・兵士が控えていて、騎士は片膝をつき剣を前に立て頭を垂れており、兵士は左手を胸に合わせて同じく頭を垂れている。全て終えたので黙礼をすると、グンケル司令官が


「葬送の喚声!」


と声を上げる。戦死者への葬礼である。

一同は頭を垂れたまま。「ウォ~~」と喚声を上げ、空気を揺るがせる。

その喚声は一声にとどまらなかった。頭を垂れたまま、ただただ怒りを地に吐くがごとくに、吼え続ける。

いや、この場にとどまらない。葬送の光を見つけてあるいは喚声を聞きつけた者は、城内のあちらこちらでこれに続けて声を挙げる。こうして、城が夜のとばりに包まれる中、憤怒と慟哭の咆哮が殷々と鳴り響く。

・・・


葬儀を終えて城内の食堂にはいると、丁度晩飯時だった。この城には大軍が何か月も行動できるだけの兵糧が備蓄してあるとのこと。存分に腹一杯喰らうことができる。

「飯の心配だけはないのさ!」

そう言って山ほど食わしてくれる。もっとも籠城中で塩漬けの豚肉や干物に燻製・ジャガイモ・根菜・豆など保存のきくものとパンであるが。

腹一杯になって、あてがわれた石壁の小さな部屋に入り、麦わらの山のような寝床に倒れ込んだ。

こうして初日を終えた。


2日目。よく朝、岩の隙間のような狭い部屋で目覚める。

暫くの間、ここは迷宮の中かと寝惚けていたが、夢から現に戻るにつれ自分は籠城中の城に閉じこもっている事が思い出されてきた。

狭い部屋だ。しかし個室をあてがわれるだけでも特別扱いなのだ。城内の建物の多くは戦闘のために使われており、ほとんどの騎士・兵士は大部屋での共用ベッドか、廊下・物置でのごろ寝だから。

でも、意識が鮮明になってくるとお腹が空いているのに気が付く。

「そうだ、とりあえず朝ご飯だ。」


もう陽が高く昇っていて、外は明るい。いそいそと食堂に行き、デカい焼き立てのパンにバターと塩豚を挟み込み口の中に頬張る。そこへ暖かいスープでのどの奥に流し込み、とにかく胃袋が十分に満足できる朝食を済ませて、指令室に駆け込んでいった。中に入ってみると、意外と人気が少なく、副司令と伝令兵が3人いるだけだった。


「よくお休みになったかね?」


皮肉だろうか、きまりが悪くて黙っていると


「はっはっは、寝坊をしたと責めてると思ってるのかい?そんなことはないさ、あなたは、この城唯一の魔術師だ、十分に寝て、十分に食って、存分に魔法を振るってもらいたい、だから起こさんと寝かしているのさ。

司令と他の面々は既に城壁を見回っとるよ、行ってくるがいい。そうだな、今だったら東の城壁あたりかな。」


指令室を飛び出し、東の城壁に急ぐ。

城壁に昇るとまず盾をかざされて、「屈め」と。

「向こうに狙撃手が現れて、ここを狙っているから」と。

そして「司令官一同は東の塔に入っていった」と。


屈んで石造り胸壁の影に隠れて塔に向かいそこを登っていく。頂上まで行くと、グンケル司令・参謀・護衛部隊のベルメル・神聖騎士エミリー・バルマンの5人がそろっていた。戦況を聞いていたのだ。


「一キロほど向こうに荷馬車とテントが並んでいるでしょう、多分あそこに本営と兵站集積所がある。そしてそこからぐるっと、見事に取り巻かれておるというわけです。」


「当面の問題は投石機。7台ほどある。いずれも城門狙いで、ホラ門から100mほどのところに、小さな防塁がポツポツとみられるでしょう。あそこに投石機があってしきりに撃ってきている。城門が割れたら、あそことあそこにいる部隊、大盾を持っているでしょう、攻城槌もある。あの連中が押し寄せてくる。まずは投石機をどうするかが喫緊の問題点ですな。」


「あの距離ならば、魔法の届く範囲。投石機を吹き飛ばして、ひっくり返しても仕方ないし・・・城門の上から抽出魔法で投石機のばねを壊してみましょう。」


神聖騎士の盾に守られながら城門の上の櫓に行き、隙間から投石機のありかを探る。このあたりはさすがにボルト(石弓の矢)が飛んでくるので、神聖騎士の立てる大盾の中から出ない様に何度も注意を促される。だいたいの位置がわかればいいからといって、少しだけ顔を出しておざなりにみているだけで、実は魔眼でばねを探し当てているのである。

”1本・2本・・・。”

大盾の後ろに隠れて、傲慢の光翅で一台ずつ投石機のばねから鉄分を抜き取ってゆく。迷宮で鉱物の【抽出】はさんざんやってきた。お手の物だ。

ばねをきれいに切り落としてしまう必要はない。むしろ、中途半端に抜いて割れ目を入れて置き、ばねを引ききったときに破断するのがいい。


”バチン!”


向うの方で音を立てて投石機が弾けている。

しめしめ。

投石が全て止まるまで、さほどの時間も必要ない。

次は痛んだ城門の修理である。心眼で城門を観察すると、投石で痛んだ部分があちらこちらにあり、鉄の梁が折れているところもある。こんどは【充填】魔法をつかって、鉄を溶接する様にくっつけていく。投石機の対策は当面これでいいだろう。

櫓を降りて城門後ろに出ると、グンケル司令がそこで待っていた。


「派手に火魔法使うのかと思ってたが、地味にやるのですな。」


「100m弱の距離はファイアーボールを飛ばすのに少し遠い。あれ、強風に吹かれてしまうと散ったり、流れたりしてしまうんです。それに投石機を吹き飛ばしても壊れるとは限らないし。でも、爆発力を投射したいならば他の方法がありますが。」


「どんな?」


ビー玉よりも少し大きいくらいの小粒の水晶の球を出して、


「ここに爆破のオドを念じ込めて、これを矢に着けて飛ばせばいいんです。向こうで刺さったら遠隔操作で念じて爆発させます。水晶玉には大量のオドを封じ込められるので、通常のファイアーボールの十倍も威力を出せると思いますよ。城壁に備え付けの大型のバリスタで打てば、遠くまで届くでしょう?」


「ほう・・・で、何個ぐらいあるのです。その水晶玉。」


大小不ぞろいであるが、20~30ケは持っている。以前作った時の不出来な残り。


「まあ、20~30ケといったところです。使うのであれば、後でおもちしますが。」


「バリスタ(大型の石弓)で投射する大矢の鏃は、シャフト(矢柄)のさきにかぶせるようになっている。その中に入れれば問題なく使えるとおもう。その水晶玉、早速いただきたいな、鏃に詰め込む工作をしないといけないから。」


ではと、部屋に戻り革袋に詰め込んで渡してやる。亜空間のアイテムボックスから取り出すところをあまり人目に出したくないのだ。


「さてと、投石機を壊されて、敵さん次はどう動くかな。」


この後、その日は小競り合いが続いたが、大きな動きはなく、私はそれ以上することもない。午後に神降ろしを一度行い(初日に漏れた負傷者がまだいたから)、部屋に帰って亜空間で小さな水晶玉を作っていく。前にランディ達に渡した水晶玉、魔法陣に装着するのではなくて、鏃にくっ着けて爆発させるだけのものなのだから、このサイズで十分だろう。

50個ほども作って眠たくなってきたので、そこで床に就いた。


3日目、明けて翌日、敵側から軍使がやってきた。降伏と開城の交渉。降伏・開城なんぞもとより考えていない、あちらさんも期待していないだろう。しかし、私と言う強力な魔術師が入り込んだのである、どの程度の戦力となるのか少しでも様子を知りたいし、そのために城の中の様子を探ってみようとしているのだ。もっとも守る側としても、少しでも時間稼ぎができることは望ましい、交渉を断る理由は無い。


副指令はぶつぶつと文句を言っている。

「こんなめんどくさい仕事ばかり回してくるのですよ」と。


交渉の担当者とされたので、不足を言っているのである。

降伏するつもりはハナから無い。しかし、交渉期間は少しでも伸ばしたい。だから弱みをわざと見せつけて、条件交渉に持ち込んでだらだらと話を長引かせる必要がある。


「俺には無理だし、そんな器用な話は、俺にできっこないわ。」

司令がそう言って、副指令に丸投げしてしまったのだ。


交渉の初日には、城内の弱り切った様子を演出して見せる必要がある。

そして、どんな魔術師が居るのか、という事をはっきりと知られてはいけない。鑑定のできる魔術師が使者に混じっているに違いないから、サルマン側の使者が来ている間は奥の自室に閉じこもって隠れている事になっている。それだけではない。モップの柄を持たせ怪しげなローブを着せた偽魔術師を3人ばかりうろつかせる予定であると・・・。


”モップの柄だって、それは侮辱だ!”


自室に女騎士エミリーと籠って、そんな話をしていると、誇り高き精霊の杖シュールタロテが念話でそう叫ぶ。


”冗談じゃない、僕をモップの柄でごまかすなんて、そんなこと許せないよ”


”じゃあ、どうすれば良いわけ?”


”ちょっと待って、

・・・、

・・・、

これでいい。とにかく模造の杖を作ったから、これを持たせるんだ!”


アイテムボックスを探ると確かに3本の杖ができている。寝台の奥の方から持ち出すふりをして、この3本の杖を取り出す。見た目はもっともらしいなかなかの出来だ。


「杖はこれまでに敵から見られているから、モップの柄では具合悪いでしょう。これを持たせましょう」


そう言うと一緒にいたエミリーが、

「確かにそうね。でも、その杖・・・一体何処から出したわけ。この城に入るときそんなもの持っていなかったでしょう?」


・・・困った、なんとかごまかさないと。


「いっいえ・・・こぉ~んなことも、あろぉ~かと、この城に入ってすぐに作って用意しておいたのです。」


・・・ひどい嘘だ・・・。


「流石ね、大神様の使徒ともあれば先の事が読めるというわけ。少し見直したわ。」


・・・エミリーは優秀な騎士である。しかし・・・脳筋な方に違いない。


4日目。次の日、こうして交渉が始まった。城内のあちらこちらには、包帯をぐるぐる巻きにした偽負傷者を4~50人ばかり配置し、偽の杖と毛布で促成したローブを被る偽魔術師を3人歩かせている。やってきたサルマン公国軍の軍使は5人で、一人は魔術士に違いないと。

この軍使達を城内を案内して、白々しい友好と弱気を演出する。

そして会議室に入り副指令と会談に入る。こちらにとって都合の良すぎる条件を吹っ掛けられて、のらりくらりとした交渉を受けながらも、昼過ぎには帰って行った。あちらさんとて、色々条件を付けられると軍使の独断で話を決められないのである。


軍使が帰ったあと、私はエミリー・バルマンの両神聖騎士と東の塔に昇り、また敵陣を眺めている。自分達のいる場所がぐるりと敵に取り巻かれて身動きが取れない、こういう状況を想像したこともなかったから・・・変な気分だ。

昨日説明してもらったように、ほんの1Km 向こうに敵の本陣がある。向こうもこちらを眺めているだろうけど、その近くには大量の荷馬車が並んで木箱や樽が積み上げてある。


「あれが兵站物資なんでしょうかねぇ」


「そうだな、あれぐらいなら1万の軍勢が1ヶ月ぐらい頑張れそうだな。」

流石はベテラン騎士のバルマンである。修道院に入る前には、将校であったそうだからベルメルの上司にあたる。


「あれを燃やせたらいいんだけど」


「できるのか?」


「残念ながら遠すぎる。でも、他の魔法なら使えるかもしれない。」


「どんな?」


「薬物の生成」

あの距離ならば『貪食』の分身である『暴食の霧』を飛ばして、なんとか届くだろう。


「毒か!、ちょっと邪悪だな。」


「そうね、毒と言う手段は神聖騎士団としてはね~。でも、モミの薬なら・・・。」


モミの薬と言うのは、小児に使う下剤である。子供で熱を出しておなかが張っていると、この下剤で便を全部出してやる。そうしたらだいたいは解熱する。聖職者ならばみんなよく知っている知識である。


「ぷっ、敵を子供扱いするのか。」


「まあ、おなかがすっきりするでしょうね。でも下痢が続くと、戦争を続けるのがいやになるんじゃないでしょうか。」


「厭になるかはともかく、疫病がはやり出したと思うだろうな。」


下剤が毒の範疇に入らないのかと言うと微妙なところであろう・・・いや、毒薬ではない、ないはずだ!。日頃から子供達に処方しているのだから。


「うーん、微妙なところね。でも、こっちの独断だけで実行するのはマズいでしょう。司令に相談してくるわ。」

潔癖症のエミリーはそう言って、司令の元に聞きに行った。

暫くして戻ってくると、


「下剤なんて生ぬるい!猛毒でもって全部毒殺してくれ!・・・ですって。」

そう言って、肩をすくめている。


効果のほどはとりあえず、モミの下剤作戦をはじめる。名付けて『ゲリら大作戦』。

『暴食の霧』を飛ばして、小麦粉の中に、飲料水の中に、モミの下剤を浸透させていく。明日にも敵陣で下痢がはやるはずである。


5日目、次の日も朝ご飯を食べたらすぐに自室にこもる。じきに軍使がやって来るから。

またエミリーが付き合ってくれる。部屋の中では特に話すこともないので、黙々とモミの薬の『ゲリら大作戦』を続けている。敵の兵糧に十分に撒て浸透させると今度は炊事場にある鍋、水ガメ、タオル、ありとあらゆるところにモミの薬をばらまいてゆく。あっ、井戸まであった。そこにも放り込んでおかないとネ。


「なんだか、気持ち悪い微笑ね。」


一心不乱に魔法でモミの薬を撒いている時の私の顔は、とても悪い笑顔をしているのだとエミリーはわざわざ教えてくれた・・・。


偽の開城交渉の方は今日ものらりくらりと過ごせたようだ。


「あんた、詐欺師の才能があるな。」


司令が副司令に向かって感心している。


「そんな褒め方してもらっても、うれしくはありませんよ。」

副指令は、少しムッとして答えた。


こうして交渉は2日・・・3日・・・4日間にわたった。

交渉会議の中で、敵はこちらにも疫病が発生していないか聞いてきたという。


「ヒ~ヒッヒッヒ~。」


それを聞いて、司令は気持ち悪い笑い声を漏らして腹を抱えている。

私の『ゲリら大作戦』を知っているから。敵は下痢が蔓延して、疫病がはやり出したのかと心配しているのである。


9日目。開城交渉も5日目となり会談は険悪になってきた。つまり、敵方も休戦・会談の意味がないと判断し始めたという事である。そしてとうとう決裂した。次の日の朝に休戦は終わりと言うことになった。


「さあて結構、時間稼ぎができたな。もっとも敵も攻撃準備が整ったという事だ。次はきついぞ!」


10日目。一夜を明けて次の日の朝、城外の風景が一変している。城門の前方に並んでいた7つの防塁から投石機はすでに無く、代わりにその場所にはやぐらが建てられている。多分夜間のうちに急造したに違いない。こちらに向けて分厚い生革の防壁が張ってあり、その後ろではまだ工事が続いている。


「ウホッ、一夜城か!。」


「ほう~、あの上の矢倉から援護射撃しながら、強襲するつもりだな。かなりの猛攻を覚悟しないとな。あんたからもらった水晶玉のバリスタ爆裂弾、さっそく試させてもらう!」


取り合えず、昨晩作った追加の水晶玉を渡し、


「私がマナを込めて遠隔操作で爆発させることになるので、この爆裂弾を打てるバリスタは、私が側に居る一台だけです。」


「となると、城門の上に設置してある奴でお願いすることになるな。」


「城門の上の櫓は敵弓兵から矢の集中射撃の的になる。エリーセ、盾の後ろから出るなよ。」

女騎士エミリーが睨んだ顔でこう戒める。


矢倉を爆破する手段はできた。ならば、その実行は最も効果的な”時”を選ぶべきだ。その”時”とは、矢倉が出来上がり、その上に敵弓兵が並んだ時だ。矢倉を建てる事を邪魔をするよりも、全て用意ができてからそれを叩き壊した方が効果があるし、時間を稼ぐことにもなる。

この日は何もなく、敵は攻城攻撃の用意に没頭している。


11日目。次の日の朝、敵の準備が整ったらしい。動きが活発になっている。城門上の櫓に昇り、敵矢倉爆破の命令を待つ。10時ごろになると、敵矢倉から石弓のボルトが打ち込まれ始める。そうして、向こうの方には大盾を持った軍団が配置を終え、隊形を守りながら詰め寄せてくる。その後ろには屋根のついた大きな攻城槌を押してくる。


「打ち方はじめ!」


バリスタはまず、城門の前に建てられたやぐらを標的とする。

最初の一発がやぐらの足元に打ち込まれ、すかさず爆発させる。大きな爆発音が鳴り響き、一気にやぐらは崩壊した。


「壊すよりも燃やす方がいいんだがな。」


壊しても、翌日には建て直しとなろう。それよりも櫓に入っている石弓兵ともろともに焼き捨ててしまう方が敵の損害が大きいし、次に櫓に入ろうという兵もいないにちがいない。


「じゃあ、爆破でなく放火にします。モロトフカクテルにして10本分の火力がありますよ。」


「モロトフカクテル?」


「いえ、小型の樽ぐらいの油ということで。」


次は別のやぐらに向けて打ち込み、【油生成】と【放火】で燃やす。生革を張り、桶に水を汲んで置いているとはいえ、火矢とは段違いの火力であり、その程度の事で収まるものではない。そのまま上の櫓に燃えしきって兵が悲鳴をあげる。そして業火に耐え兼ね、次々と地上に飛び降りていく。高さがビルの4階ほどもあるやぐらであり、ただでは済まないはずだ。

こんな具合に次々とやぐらを燃やしてゆき、もはや石弓の援護射撃もなくなった。ただ、一旦動き出した何千もの攻城兵団は止まることなく攻め寄せてくる。


「今度はあの攻城槌をやるぞ。」


バリスタの水晶玉を爆破に切り替える。2~3発で命中し、攻城槌の爆破に成功した。

一方で、兵団は城壁の下までたどり着き、城壁にはしごをかけて、取り付き始めた。城壁の上を兵士が忙しく走り回り出す。

今度は水晶玉20ケほどをまとめて渡してきて、


「ここに放火を念じ込んでくれ。城壁の外周にばらまく。そして合図をしたら燃やしてくれ。」


急いで20ケまとめて放火を念じこむ。城門の守備隊長はオドが念じこまれてわずかに赤く色づいた水晶玉を受け取ると、部下に持たせて城壁を走ってゆき、はしごのかかっている足元にこの水晶玉を投げ込んでいく。全て投げ込むと、


「よ~し、たのむ。」


ここで一気に放火をかける。城壁周囲が一瞬にして炎の壁に包まれ、取り付いていた敵兵が悲鳴をあげ、はしごから落ちてゆく。流石にこの炎の壁を前にして攻めることもできず、敵兵団はいったん後退して、大盾を並べた後ろに退避するが、城壁のバリスタがこれを打ち抜き敵兵をなぎ倒してゆく。ついに、これに耐えられず、算を乱して潰走し始めた。


「よし、やった。」


こうしてホッと胸を撫で下ろした、その時。


ガラガラ!


背後から大きな音がして、城壁の一角が崩れた。


「しまった!後ろか!」


予備の兵士と共に守備隊司令は自ら剣を抱え走ってゆく。


「チッ、坑道まで掘っていたのかよ。」


地下に坑道を掘り進み、城壁をその基礎から崩してしまうという戦法である。


「どうすればいい?」

横にいる神聖騎士バルマンに尋ねると


「とりあえず現地に行こう。くれぐれも俺たちの盾の後ろから出るなよ。」


崩れた城壁のがれきの上に、すでに敵兵が群がっており、その下ではグンケル司令以下残った城兵たちが剣と槍を必死にふるっていて、これ抑え込もうとしている。


「エリーセ、あのがれきの上に火焔の壁を燃やせるか?」


「もう少し近づかないと」


護衛のバルマン・エミリーの盾の後ろに隠れながら、崩落した壁に肉薄してゆく。周囲に剣戟の音が響き、怒声やわめきあいが聞こえてきた。

50mまで近づけた、

「がれきの上を燃やします、離れて!」

と叫んで注意を促し、そして火焔の壁を燃え上がらせる。


「ギャー」とがれきの上に侵入してきた敵兵は悲鳴を上げ、その場に居た全員が何事かと振り向いて、火焔の壁に驚く、と同時に城内に入り込んだ敵兵は背後に燃え上がった地獄の業火をみて腰を抜かし、たちまちにして戦意を失い座り込んでしまう。


「よし、次は城壁の修理、応急でいいから。」


「無茶をいう、火魔法と土魔法の同時にやれと!」


「やるしかないだろ、できなけりゃ血と肉でふさぐだけだ!」


火焔の壁を燃やしながら、瓦礫をあつめて壁にしてゆく。4~5mほどの高さになったので、火焔を止め、今度は岩生成魔法で固めてゆく。10分ほどですべて作業を終えて仮の城壁が出来上がり、当座の危機は何とかのりこえた。


“ホ~ラご覧、並行作業の修行をしておいてよかったろう。” 杖先生はご満悦。

・・・・・・。

「他に坑道が無いか調べないと」


心眼で地面の地下を透視してゆくと、他にも2本の坑道がこちらに向けて掘られて、すでに城壁から20mほどまでに近づいている。とりあえず中を放火で埋めて、そこにいる敵の工兵を焼き殺す。こうしておけば警告となろう、これで当面はいいはずだ。


11日目、敵方からまた軍使がやってきた。また休戦の申し込みである。城の周囲に散らばっている大量の遺体と負傷兵を回収したいのだと。こちらとしては、「よかろう!ただしこの間の城の補修はするしバリスタの矢は拾わせてもらうぞ」と、いうことで休戦になった。

そして、城内に残されて捕虜となった兵士を返還せよと。

また、交渉が始まる。


静けさが戻ったとはいえ、私の仕事は山ほどある。

まずは、神降ろし;ディバインヒールである。およそ150人が負傷した。

そして、戦死者の葬儀。80人ほどが戦死した。

最後に城壁の補修の続き。壁をより高くより厚くする。そして上を平らにして兵の歩行に支障ない様にしてやる。

まだある、水晶玉が好評なのだ。バリスタで撃ってよし、そのまま投げてよし、使い勝手も威力も恐ろしく良い。水晶玉をまた作る、山ほども作る。

これら全てを終えた時はすでに夜深く、昼間の激戦で城兵は疲れ切っているはずで、城内は寝静まっている・・・はずであった、

が、そうではない。


「ほいさ、よいやさ!見えそうで見えない!」


城内の広場で大きな焚火を燃やし、酒盛りで盛り上がっている。城内には、酒なんぞは置いていない・・・わけではない。消毒に使うための強い蒸留酒が多量に置いてある。飲むための物ではないから旨いものではないが、毒になるわけでもない。深酔いせぬように少し水で薄めて、コップに一杯ずつ配り、いつもの塩豚をつまみにして騒いでいるのである。


”司令に見つかったらどうするのだ!”

・・・と思ったのは間違いであった。

焚火の傍で裸踊りに呆けているオヤジがグンケル司令その人であったから・・・。

素っ裸で蟹股になり、股間を皿で隠したり・・・隠さなかったり。そのたびに城兵たちはゲラゲラと笑い声をあげている。


「馬鹿馬鹿しい、さっさと寝ることだね。」

潔癖症の女騎士エミリーは吐き捨てるようにそうつぶやきながら、自分の寝床にもどっていった。私も疲れているので裸踊りに付き合う気にはなれない、寝る前の腹ごなしに食堂で何か食べてこようと思う。


食堂はずっと開いている。決まった時間に食事ができるわけでもないのだから当然だ。炊事係はもう休んでここにはいないが、ガランとした食堂の中にはパンや水や豚肉の塩漬けやらがちゃんと置いてある。それをセルフサービスで取って勝手に食えというシステムなのだ。

中には既に先客が一人いる、副司令だ。会釈をしてテーブルの向いに席を取ると、


「使徒エリーセ、ご苦労様です。」


いえ、あなたは私の何倍もご苦労している。表情にその疲れがにじみ出ていますよ。グンケル司令殿は図太い人だが、この人は緻密で繊細なのだ。それだけに疲労が堪えているはずだ。


「あなたは凄い魔法の使い手であることはよく存じています・・・入城の際の火魔法、あんな凄い魔法をお使いだ。でも、城に入ってからは、あの火魔法はお使いになろうとしない。

・・・なぜです・・・。」


確かに・・・確かにもっと強力な魔法はいくらでもある。しかし、それはするという事であり、一旦それを使ってしまうともう後戻りはできなくなる。

・・・答えられない・・・でも、答えないわけにはいかない。


「火魔法を使うと大勢を殺すことになります・・・人殺しの魔法はあまり使いたくないのです。」


「敵を殺さなくては、味方の兵士が死にます。城の兵士は死んでもいいのですか。

神の使徒とはそういうものなのですか・・・。」


そう言って立ち上がり、疲れ切った顔がグイグイと迫ってくる。その眼からは怒りの感情すら窺える。

・・・答えられない・・・少し引いて、副指令の顔を見つめ返す・・・そのまま凍り付いて、ただ、時間だけがじりじりと流れていった。

その時、その疲れた顔に横から拳が飛んできて副指令は吹っ飛ばされる。拳の元をたどると・・・そこにグンケル司令がいた。そして、


「オイ、もっといくさを楽しめよ!」

と言い放ち、こちらに向いてニッと笑う。


そう・・・気持ちに余裕を持たないといけない・・・指揮官が追い詰められてしまっては、軍は持たないのだ・・・。


格好良い言動だが・・・その姿はとってもフリーダムなお姿だった。フリ〇ンのままだったから・・・裸踊りのままこちらに来たようだ。

こちらにも、どう返事していいのか・・・オタオタしていると、クルッと振り返ってカウンターの方に行ってパンを取り、食堂から出て行った。振り向いた後ろ姿は、どぶ川に転がる岩の様なお尻だった・・・少しガニ股なのは、フリ〇ンのせいであろう。

倒れている副指令の方に行くと、鼻血を流して頬を抑えている。ヒールを掛けてやり、


「お疲れなのですね。」

そう言って今度は祝福を掛けてやる。


「ありがとうございます・・・確かに疲れている様だ・・・私は戦場には向いていません・・・。」


「もう3~4日です。国王陛下の率いる軍団はもうすぐ到着します。

私は占いも少しだけ嗜んでいるのです。(嘘も方便なのだ・・・未来予知の魔法はあるけど)

ですから、その事ははっきりとわかります。

そうしたら副司令様、あなたも城兵の皆さんも英雄なのです。司令官様はあんなのですが・・・。」


「あんなの?・・・ハハハ、フリ〇ンでしたな・・・アハハ!」


笑うと気が済んだのだろう、そのまま食堂を出て行った。

その姿を見送って、自分の食餌を済ませて部屋に戻る。


12日目、次の日の朝、すでに日が高く登っており、またもや寝すぎたかと指令室を覗くと、そこには副指令と伝令兵が3人いただけであった。他の面々はまだ寝ていると。

今日は捕虜返却の交渉らしい。だから、それまでは休業なのだ。


「私の休憩は無いらしいのですが・・・。」

副官はそうぼやいて見せるが、昨晩の疲れきった表情はもう消えている。

しかし、彼の仕事はこの部屋に居て司令のバックアップと敵との交渉にあたることにある。当の司令殿は、昨晩の裸踊りで疲れてお休みなのだから、仕方ないだろう・・・。


「それはそうと・・・昨晩、占いができると仰っていましたが・・・できたら、あと2~3日の敵軍も占って頂けたら・・・敵の様子が気になってしかたない。

いえ、あくまでも参考までに」


えっ、それは困る・・・それ、方便だし。

・・・なんて答えよう。


「そっそれが・・・さっぱりわからないのです。

サルマン側のことは・・・」


ああ~~困った。分からないでは占いにならない、でも【未来予知】の魔法でもサルマン軍の動きがさっぱりわからないのだ。

なぜ?・・・【未来予知】;確定的な未来が正確に予測できる・・・つまり未確定、意思決定がされていないと未来は不確定となる・・・つまり、サルマン軍は迷っている。今日明日の行動も決めかねている・・・そう言うことになる。


「迷っている・・・彼らは迷っている。私の占いでは、それしか出てこない・・・。」

と、ごまかした。


「なっ、なんですと!

敵は惑い冥府魔導を彷徨っていると・・・そう、仰るのですな!

あはははははは、

我々の勝ちだ、我々が勝った!」


そこまでは、言ってないけど・・・元気になったから、まあいいか。


昼前になって、グンケル司令殿が起きてきた。そして、


「昨晩はすまん事をした。あいつ(副指令のこと)は少し参ってきているから・・・。

あんたが教会の戒律に縛られている事はよく承知している。その範囲でやってくれたらいい。その結果、たとえ誰が死のうが恨みに思う事はない。

それが戦争屋である俺の矜持だ。」と・・・。


これまで200年間平和であったこの世界で『戦争屋である俺』とは・・・この方はこの方でちょっとハイになっているのかも知れない。


それはさておいて、私としては昨日見つけた坑道2本がちょっと気になる。遅めの朝ご飯を食べたら確認するために城壁に昇ることにしよう。食堂で女騎士エミリーに捕まり、見つけた坑道の事を話すと、やはり護衛についてくると言う。


「停戦中だから大丈夫でしょう。」


「何言ってんだろうネ、この甘ちゃんは。あんたが死ねばこの城はすぐに落ちるんだ。暗殺ぐらいの事は平気でするさ。狙撃されない様に気を付けることだ。」


ということで、城壁の上を盾で守られて屈んで進み、例の坑道の所までやってきた。

上から透視すると、坑道は全く進んでいない。敵は休戦協定をきっちりと守る気らしい。念のために坑道の前の地下に岩生成魔法で岩盤を作っておく。これで一安心である。あとは部屋に戻って、例の水晶玉を作ることにしよう。

昨日の激戦がまるで夢であったような静かな一日だ。


13日目、捕虜の返還が決まった。交換条件は身代金と3樽の葡萄酒である。つまみになる川魚の干物も3俵ついている。当然ながら、モミの薬にまみれているから浄化してからのお楽しみとなる。

こちらに食い物を差し出してくるという事は、下痢の原因として兵糧の中の混ぜ物がないかと、ようやく疑い出したのではないだろうか。

捕虜の返還は次の日の午前中に行なわれ、休戦はその日の日没までと言う事になった。


14日目、午前に捕虜を返還した。捕虜の傷の手当も当然ながら”神降ろし”で行っている。敵に私の存在が明らかになるが、今となっては仕方がない。ここまで引き延ばせたのであるから、よしとすべきであろう。

午後になり、指令室にはスタッフの面々がそろう。今日の日没で停戦は切れる。


「さて、もう一晩、静かにしてくれるかな。」


「停戦中に次の攻撃の用意くらいはしとるだろう。夜襲ぐらいの覚悟はしないとな。」


坑道が2本、城壁から20mの近くまで掘られていると報告する。


「フム、じゃあ今晩、掘り進んで城壁を崩しに来ると、」


「いえ、坑道の前の地面は土魔法で岩盤にしてあります。もう少々のことでは掘り進めないでしょう。でも、そこからどうするつもりなのか警戒はしておくべきとおもわれますが。」


「どうしてくると?」


「それは、私なんかよりも兵法を識る皆さんの方がお詳しいでしょう。」


「色々と使い道はあるとして、とりあえず城壁の上から十分に警戒しておかないとな。」


やがて、日が暮れてゆき休戦は終了する。日が完全に落ちてあたりが暗くなった時、東の向うの敵本営に多数の松明がともり大勢の兵が攻め寄せてきた。数十m程まで近づくと盾を立ててそこで止まり、大声でからかいや挑発が始まった。


「今更、口合戦かよ」


城壁の上から味方兵も悪口を言い返しているが、何せ数が圧倒的に少ない。周囲から見張りの兵が集まってきて、声を合わして怒鳴りあっている。


「待て、相手にするな。少し奇妙だ。警戒を上げろ!」


司令は城壁の上の見張りを増やすように指示した。

私はこれを聞き、魔眼で城の周囲を偵察する。

すると、


「居た居た、城門の前、暗闇にまぎれて敵兵が大勢忍び寄っています。」


「やっぱり、こっちか!」


司令は残りの城兵を城門の後ろに急いでかけ集める。

その時、南の城壁の上で剣戟がいきなり始まり、何人かがうめき声をあげた。そして、そこから少数であるが黒装束の兵が現れ、飛び降りるような身軽さで城内におりてくる。


「侵入されたぞ、気をつけろ。敵が侵入したぞ!」


だれかが大声で警戒の叫び声を挙げた。

城門の前で司令は、


「動くな、侵入者の目的はここだ!この城門を内側からこじ開けようとはいい度胸だ!」


いそいで城門の上の櫓に昇り前方を暗視すると、城門から少し距離を置いて大勢の敵兵が闇の中に潜んでいる。城門が内側から開けられるのを待っているのだ。


「弓兵、水晶玉を打ちこんで!」


鏃にタールを塗った布で水晶玉を縛り付けた矢に、放火を念じこんでいく。弓兵は次々のその矢を放ち、辺り100~200mほどの範囲に水晶玉を撒いていく。

途中、吹き矢が打ち込まれたが、神聖騎士の盾がそれを防いだ。

50矢ほど、水晶玉付の矢を打って撒いた時、放火いや業火を発動させる。”ゴゥ”と城の前面が地獄のごとく燃え広がると、あちらこちらで悲鳴が上がって逃走する敵兵の影が散らばっていく。しかし、その向こうにはびっしりと盾を並べて密集する大部隊が並んでいる姿が炎の光に照り写された。


「バリスタ!爆裂弾を!」


今度はバリスタの矢弾に爆破を念じこみ、爆裂弾を打ち込む。敵部隊は爆発で吹き飛ばされ、潰走してゆく。


「気をつけろ、まだ周囲には敵兵が潜んでいるはずだ!」


そんな声を聴きながら護衛の騎士エミリーは低い声でつぶいた。

「夜襲で城門をこじ開けるのが失敗したから、次の目標はお前だと考えていい。」


城内のあちらこちらではまだ剣戟の音がしている。城兵たちは数人単位に固まり、辺りを警戒しながら敵兵を探索している。

何人かが私の護衛に、城門上のこの櫓に登ってきた。その中に一緒に突入した隊長ベルメルもいる。

「侵入した敵兵はかなり打ち取ったが、黒衣装なんで闇の中のカラス、城内のどこに敵兵がいるのかわからない状態だ。それに、次々と入り込まれてはたまらんから、城兵の多くが城壁の上で警戒に入っていて、城内で敵兵を探している人数は多くはない。だから、今はこの櫓の中があんたの城だ。ここで、朝まで頑張ってもらう。」


ここにいるのは私と聖騎士2名、弓兵として配置されていた5名、新たに来た4名で12名とかなり手厚い人数だ。確かにここにいるのが一番安全かもしれない。

ならば、私の仕事は外の様子をしっかりと偵察把握して城の防御を固めることであろう。

魔眼で城の周囲を見回る。

城門の前から周辺は敵兵は、もういない。先程の燃え盛る業火と爆裂弾に肉弾突撃はあきらめたようだ。

では、黒衣装の敵兵はどのようにしては城内に入り込んだのか。魔眼でもって城壁の外を見ていくとはしご2本が架けてある。そのそばには地面にぽっかりと穴が開いていた。例の坑道のあった場所。坑道で近づいて、あの穴から地面に出て、城壁のすぐ下に潜んでいたのにちがいない。まだ坑道内にいるかもしれないが、ここからは魔法を使うには遠すぎる。とにかく司令にこのことを伝えてもらう、重点的に警戒すべき場所だから。

また、けが人が次々とやって来るのでホーリーヒールで治療していく。侵入した敵兵はいずれもかなりの手練れらしく、こちらの兵も損害がそれなりに出ているとのこと。

しかし、敵の本隊がこれ以上の夜襲をあきらめている現状から、時間はこちらの味方なのだ。ひたすらに櫓のそして城の警戒を固め、ただ朝日が昇るのを待っている。


15日目。やがて、東の空からうすら明るくなり、日の出の時となり空に光が満ちてきた。ついに夜が終わった。


「おまちどうさま、だ。」


司令が櫓の上に上ってきて、かけてきた一声がこれである。その表情からは流石に疲労の色はぬぐえない。しかし、その声には一夜の勝利を勝ち取ったという満足に満ち溢れていた。


「さあ、飯にしよう。朝飯だ!」


司令の一団と一緒になって、櫓を降りて、食堂に向かう。


「俺はね、若い時からいくさがしたかった。でも、碌な戦の無い時代だったから・・・平和で結構な時代と言うべきだが・・・鬱々としてたのさ。そのまま歳を喰ってそれなりの昇進もしたが、このまま耄碌するのかと、やっぱり鬱々としてたのさ。

それが、この戦だ。冥利に尽きるってものさ。」


徹夜明けで、少し興奮している。


「でも、たくさんの方が死にました。また後でお葬式をしないと。」


「まあ、そう言いなさんな。人の世界で諍いが無くなることはない、その諍いで人死も無くなることはない。」


パンを頬張りながら、饒舌に喋ろうとするから、口から中の物がこぼれてくる。ただ、戦いの中でのこの人の妙な明るさが城兵の士気を支えていたのは違いない。


「さて、今日の方針だが、多分敵さんはもう手を出してこんと思うよ。もう、考えられる手段は尽くしたはずだ。昨日の夜襲が最後っ屁じゃないかを思っとるんだがね。」


女騎士エミリーは

「気をゆるすのは、まだ早いでしょう。それに楽観は裏切られると失望が大きいから、そう言うことは考えない方がいい。」


司令は苦笑いしながら

「そうかね、じゃあ今日も気張って過ごす事にするさ!」

そう太い声で答える。


その時、伝令兵がやってきて伝える。

「司令、『西の方に砂塵が見える』と西の塔から報告が来ました。」


「うむ?・・・そうか、すぐに行くと伝えてくれ。」


西の方に砂塵?、味方の方向だ。

行軍の砂塵であるならば!、

待ちに待った援軍の砂塵であったなら!。

そこに居た全員がそんな期待を胸に抑え込んでいる。しかし、これこそ裏切られたなら落胆が大きい。はやる気持ちを押さえて冷静を保ちながら、


「さて、そろそろ朝食会も終わりにして、西の塔に場所を移しますかな。」

司令は、先程の興奮はどこに行ったのかと思うような落ち着きぶりでこう言い渡す。


塔の上にはすでに10名を超える城兵が来ていた。非番の者が、いてもたってもいられずに自分の目で確かめに来ているのだ。

これらを追い返し・・・さて、どうかとみると確かに砂塵が上がっている。先程よりも大分はっきりしてきたと。

多分、先遣の騎兵隊であろうと。援軍がもう近くまで来ていることは間違いない。敵はまだ気づいていないらしく、静かな朝を過ごしている。

城内にこのことがたちまちにして伝たわり興奮が渦巻く。炊事兵には、今日はパンをあらん限り焼き、スープを鍋総出で炊くように命じられる。私は、昨日の夜襲の負傷者を集めて神降ろしを行い、朝から戦死した者の葬儀を執り行う。

昼前になると敵も援軍に気が付いたらしく、兵団の動きが出てきた。


まず、城の囲みを解いた!


城の西側に陣取っている敵部隊が東の本営側に合流してゆく。

そして、この時間になると味方援軍の軍団が視野に現れてくる。

道に沿って幾筋にも分かれて行軍している。前に出てきた部隊は、道から周囲にあふれ臨時の陣を作って佇んむ。そして、それを越えて別の軍勢が道筋に沿って押し出し、前方にあふれ出す。

数知れぬ兵団が後ろから前にと次々と溢れ出してゆき、昼過ぎになると、もう西側の平野に軍勢がびっしりと敷き詰め、数知れぬテルミスの旗が流々と翻っていた。

やがてこれらの一面に広がった軍団が、そのまま平野の上をじわりじわりと地面が動くように寄ってくる。

城壁の上からは、戦い抜いて生き残りの城兵が歓声を上げている。

一方、東の方の敵本営は慌ただしい動きがみられた。やがて、敵兵の数が減っていき、本営から敵の軍旗が消えていく。こちらの軍勢の大軍に不利を悟り、撤退に踏み切ったようだ。

やがて、城の周囲に数百の騎兵隊がかけてきた。周辺の残敵が無いか偵察しているのである。城門を降ろし、先遣の騎兵隊を迎え入れる。


「ご苦労さま!敵の本営は、あの丘のあたりにあったのですが、先程引き上げていったようです。」


「了解!。しかし、城門の前に焼死体がたくさん転がっているが。」


「ああ、それは昨晩の夜襲の後です。遺体を捨てていくとは敵さんよほど慌てて逃げていったと見える。とりあえず、塔の上に!敵の配置を説明します。いや、もう逃げてしまったから、意味ないか。」


「そんなことはない、まだ潜んでいる可能性は十分にある。伺いましょう。」


偵察の騎兵隊隊長を塔の上に案内して説明しているうちに、味方の軍は次々に城の周囲にやって来た。

そして、ことさら華麗な騎兵の一団が現れる。前後に王室旗を流々と流し、白馬に洋々とまたがる小太りの騎士が現れた時、司令も馬上となって合流すべく駆けて行った。

そうして、この一団は城を一周し、城門をくぐって城の中に入って来た。城内の騎士は片膝をつき、一般の兵は左手を胸に押し当て、城兵は全て敬礼で迎えている。

そう、国王イエナー陛下自らが援軍の軍勢についてきた、いや、率いてきたのである。

司令の説明を受けながら、城内の隅々を回っている。

そして、

「ボロボロではないか、よくぞ、この城で耐え抜いた。」

先程からこの言葉を連発している。


そして、城内の広場にやってきて、自分の馬車と私の姿を見つけると、まず馬車の周りを回って見分し

「なんだ、この馬車は!ボロボロではないか、もう修理もできぬほどぞ。エリーセよ、ここまで使い込みおって。」


そして、矢で貫かれ穴だらけになり、戦死者の上に広げて血と膿のシミがついて汚れ切った王室旗をみて、

「この旗は、極上の絹に金糸銀糸であつらえたものぞ。

よくぞここまでボロボロにしおって・・・

・・・礼を言うぞ、これほどの誉れを感じたことはない。

で、この旗はなぜここに?」


「戦死者の上に陛下の旗をかぶせていたのです。」


それを聞いて少し宙をみつめ

「その、遺体は?」


「既に聖天させ、浄化の焔で火葬いたしました。」


「そうか、で、いか程の戦死者が出たのか?」

司令が、

「およそ・・・」

といい淀んだ時、副官が耳打ちする

「全部で225名であります。」


「なにっ、それでは3人に1人が戦死したことになる・・・。重症者は?」


「全てエリーセ殿が神降ろしの術にて復活させてございます。」


「あの神降ろしか?」


「手を失い、腹を裂かれた者も、元の体に戻るという奇跡のような術であります。」


「では貴公らは、手を失い、腹を裂かれ、そして魔法で復活して、また戦い続けたと言うのか。」


「御意。」


「そうか・・・

で、戦死者の名簿は?」


「部屋に置いていますが、」

副官が伝える


「では持ってきて、ここで読み上げてくれ。」


その時、後ろでベテランの騎士が

「君よ君よ

国の家族の元を、和やかに出で来たる君よ、

・・・」

例の弔辞読み始める。


「これは?」


「はっ、これはエリーセ殿の弔辞でありまして、毎日戦死者の葬儀執り行い、この弔辞を聞いておったのであります。」


「そうか、続けてくれ・・・」


「・・・油断なく、抜かりなく、城を守り

郷土(くに)の家族の健やかなるを、

思い続けたる君よ・・・」


ベテラン騎士の図太い声で弔辞が読み終わるころ、戦死者の名簿が手元に来た。王はそれを聞くと、遺体にかぶせていた旗の方に向きなおし、片膝を突いて剣を抜いて前に立て、騎士の礼を執る。


「では読み上げてくれ。」


「まだまとめておりませんので順不同であります、」


「ヨーセフ・エルマー、ロベルト・ヘルツ、

・・・・・・・・・・・・・・・」


順々と読み上げられる名前を、騎士の礼を保ち頭を下げながら聞いている。やがて、全ての名を聞き終えると、


「倒れし勇者たちよ、貴公らの勇戦を称え感謝する我、テルミス国王イエナーの声を聞け。

貴公らの残しし遺族らを王室の名誉をもって守り抜く。露頭に迷わす事は断じてない。

また、貴公らの守りし、王国の人々の平安と繁栄は、我が精魂をもって守りぬく。これを揺るがすことは断じて無い。

このことを大神に約定する。大神よ、この約定に違えたるときは雷をもってわが身を滅ぼしたまえ・・・。」


そして立ち上がり、後ろから見守る城兵に向ってふりかえり、


「よくぞ、敵の猛攻に耐えて生き残ってくれた。諸君らは今日から東の守護者の称号を名乗るが良い。その称号を確かめた時、余は諸君らの名誉を知り、必ずやその助けとなろうぞ。」


城兵は夕陽の中で歓声をもって答えた。


「さあ、日も暮れてきたし腹も減った。晩飯は食わせてくれるのかな?」


「つい今しがたまで城に籠っておりましたので、大したものはできませぬが、御味方の軍勢を見た朝から、ありったけのパンを焼き、スープを大鍋で炊きましてございます。」


「ナ~ニ、それが一番さ。こちらも急ぎの強行軍であったから碌なもんは食っておらん。焼きたてのパンと暖かいスープがあるとは、それで十分にうれしいわい。」


「あっ、それに敵から取り上げた葡萄酒が3樽あります。」


「なんと、葡萄酒の戦利品まであるのか。それは、楽しみだ。ハァ~ハッハッハ~。」


こうして、みんなが食べ飽きたいつものパンと塩豚とスープ、それに一杯の葡萄酒でもって、国王をもてなす戦勝の晩餐会が開かれた。

陛下は司令を横に座らせ、上機嫌である。


「う~む、やはり城の兵站物資には酒もおいとかんといかんなあ。」


「ははっ、それがありましたら、もう少し楽しく籠城できましたでありましょう。」


「ハァ~ハッハッハッ、楽しく籠城か!ハァ~ハッハッハッ。」


参謀がいさめる。

「こ奴、飲んだら敵味方の区別もつかなくなる奴でございます。」


「なんと、それはいかん!ハァ~ハッハッハッ」


「それだけではない、裸踊りを始めて収支が付かなってしまう奴であります。」


「そうか!裸踊りか!城壁の上でそれをしたら敵も驚くぞ!ハァ~ハッハッハッ」


そして参謀が話題を変える。

「それはそうと陛下、次はいかがいたしましょう。」


「ふむ、敵が退いてしまっては戦にならんしのう。このまま、サムエルに攻め込むか?」


「いや、バル荒原ではいまだ皇国軍が控えておりますれば、まだ深入りは禁物かと。」


「ではどうする?」


「この城はもともと守るための城でございません。むしろ援軍を送る際に兵站基地にするための城であり、城壁も低く、地の利もございません。ですから、このまま引き上げるとまたぞろ敵軍が攻めて来ましょう。」


「此処より東に2~3キロほど進んだところに狭隘の地がございます。築城に最適の地かと。サルマン領に入ってしまいますが、もはや義理堅く国境を守る必要もありますまい。」


「なるほど、では明日早々に偵察の騎兵団を出して調べてきましょう。」


「では、そうせい!」


一夜を明けると、城の前の激戦を繰り広げて焼け野原となった平地には、味方の軍勢のテントがびっしりと立ち並んでいる。城からは、城内で焼いたパン・大鍋のスープを味方の軍勢に配っていて、今は厨房が夜昼もない一番の激戦地だ。


生き残った守城の城兵らは任を解かれ、故郷に帰ることとなり、いそいそとその用意をしている。馬車には戦友たちの遺品を大量に積み上げ、自らの荷物を背負って出身地ごとの小隊に別れて、順々に帰郷の旅路についていった。しかし、私もグンケル司令も戦はまだ終わったわけではない。このまま、国軍と共に駐屯して次の戦闘についてゆくのだ。


”狭隘の地”とやらは築城の地として高い評価を得たようだ。片側は川が流れ、片側は急峻な山が迫っていて、その間を街道が通る。水利もよさそうだ。山を削り、ここに15000の兵を収容できる巨大な山城を建てて、街道を遮断する。兵站は背後の東の城に集積して送り、この巨城に大兵団を駐屯させ、サルマン公国を睥睨して圧迫する。これが当面の戦略となる。

まずは率いてきた1万5000の総兵力を動員して、山肌を削り曲輪と土塁を築いてゆく。

土塁のままでは雨で崩れてしまうのではないかと心配になるが、なんと大勢のドワーフ達がやってきて土硬化の魔法陣で土塁を固めてゆく。

そして、その作業に・・・私もこき使われている。

“ゴミ箱の蓋”とか言うのを両手に持たれて、地面にしゃがみ込み

“ウンッ”

と気張って土塁を硬化する。

傍から見ると野〇ソしているように見えるかもしれないが・・・決してそうではない。

魔力量がけた違いに大きな私は使い放題にされることとなり、その重労働たるや、全く持ってケシカランことに他を圧倒することになったのだ。


流石に不満が溜まり、食事そのほかの文句が多くなるのは致し方ないことであり、当然の成り行きと言うものであろう。


「魔力を使うと、おなかが減るんですよね。おいしい食事で栄養を付けないとマナは出ませんから!」


それを耳にした気のいい騎士達が、「魚は無いが、野生の鳥や獣なら任しとけ」と狩りにいそしんでくれた。後方からは葡萄酒や新鮮な野菜も送られてくる。

この時、私は一番の戦功者・神降ろしの使い手として、陣中の騎士達から人気者となってチヤホヤされていたのだ。

うん、いわゆる”戦場に舞い降りた天使”と言うやつ、アイドルになっていたのだ。

で命を拾った騎士は大勢いる。そして、貴族のボンボンである騎士達には、こう言った戦場のアイドルが大好きなヤツが多いのである。

美人だし・・・当然だネ。


滞陣が長期にわたると疲労や士気のゆるみから、喧嘩が増えたり厭戦気分が蔓延したりしてくる。陣中をアイドルがひらひらと回っていると、みんなの気が紛れて、指揮する側からも都合がいいのだ、文句を言われることもない。いや、「ありがたい」と言っていい酒を回してくれる。一人では飲み切れる量ではないので、これを騎士達にプレゼントする。そうすると、今度は皆さんよけいにお熱を上げるというものである。

まことにもって、せっせと狩りに勤しみ獲物を貢いでくれる、また野営料理の腕も振るってくれる。

そこでいい酒を開けて、

オー!。

みんなで宴会だ!

オー!。

オ~~!。


「エリーセ、いい加減にしな。まだ戦の途中なんだ。」


しかし、合流した神聖騎士団員たちは質素を旨とする修道士でもある。とくに生真面目生一本の脳筋女騎士エミリーは私のお目付け役を自任しているらしく、口うるさい。


「何言ってんですか、これから長戦ながいくさになろうってんですから、我慢なんぞしていたら身が持ちませんよ。皆さんも翅を伸ばしたらどうです。」


そう言い返すと、ムッとした顔で睨み返してきた。

うしろではベテランのバルマンがニヤニヤしながら、


「まあ、何事も程々をわきまえるという事が肝心だろうな。」


と、もっともらしい事を言う。

バルマンは一介の騎士ではなく、将校の経歴もある。このあたりにもなると軍団全体の状況が見えていて、まあ、指揮側の思惑と神聖騎士の立場をはかりにかけてものを言う。


一ケ月ほど前までは自然の山であったが、今や、人工の台地に変貌した。下の方は土硬化魔法で既に巨大な城壁がそそり立ち、その上にはこれまた魔法製の岩ブロックが積み上げて岩造の城郭が建ち上がっていく。

急造の愛想もない城郭であったが、色鮮やかにはためく無数の軍旗がこれを補っている。全てが岩で、そびえ立つ巨大な山城であり、その圧迫感は尋常ではない。そして、その巨城に無数の旗が流れて大兵団がここに居ることを示している。

その威容はサルマン公国の国境の街からも十分に眺められるはずだ。


城が竣工して間もなく、ヴォルカニック軍との間で休戦交渉が始まった。

バルマン曰く、「この城ができてサルマン方面が固まったので、ヴォルカニックにしたらこれ以上バル荒原で頑張る意味がもはやなくなってしまったのだろう。」と。

そして、私たちバルディ組もようやく軍役から開放された。しかし、まだバルディに戻るわけにはいかない、王都に呼ばれている。王都で褒賞の公聴会があるのだ。公聴会といっても戦勝のお祭りの儀式のようなものらしいけれども。




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