第106話 プ~ン・・・そしてクラゲダンス
バル荒原のテルミス王国軍は第一日目の戦闘をひとまず終えて、兵士たちは教会主催の宵の聖歌ロックコンサート『ザ・奇跡』を大いに楽しんでいた。一方、幹部たちは程々のところで本営に戻って作戦会議をやらないといけない。
とりあえず、本日の講評・反省から。
「今日は7分の勝ちかな。」
ひとりの参謀が語る。
「いやいや、使徒のおかげで軍が崩れなかっただけだ。あれがなきゃあ、負けていた。特にあの重装騎兵の大部隊は頭が痛い。」
「3000ほどもいるぞ!」
「なに心配するな。敵の布陣を狭い山の中に押し込んでおる。最初の布陣が終わった時点で、我々の優勢が決まったのだ。あとは、負けない様に
「それはそうと、冒険者どもの奇襲はどうなっとる。」
「今夜辺り・・・のはずだが、」
ランディ隊が奇襲をかけるのは、まだこの後の予定だと聞いている。その結果が知らされるのは、まだまだ先の事になるはずだ。
となれば、今日はこれ以上話し合うこともない、空気は一気に緩んでしまう。本営の中は作戦会議なのか立食パーティーなのか、もうごちゃまぜの様相で、中にはゴロリと横になって寝ているヤツも居る。
作戦中は、指揮陣はできるだけ一緒に居た方が良いだろうと、本営のテント内では会議だけでなく食事・睡眠もとれるようになっているのだ。神経質なのは自分のテントに戻るが、イエナー陛下はこういうのが好きで、ずっとここに居る。
国王以下将軍・参謀・伝令の騎士、そしてなぜかエリーセも、みんな一緒くたになってゴロゴロと過ごしている。エリーセはバルディ神聖騎士団の代表格の扱いなので、本営に置かれているが、本人は軍事の事など露知らぬ。「居ろ」と言われたからただ何となくそこに居て、他所よりも少し旨い飯を食って寝ているだけだ。
そしてその深夜も開けようとしている夜明け前、本営ではイビキの大合唱が鳴り響いている頃、ラルフは鞍の上で「ひ~ひ~」と悲鳴をあげていた。
クルスの谷奇襲の後、ランディに報告を命ぜられたラルフは必死で夜の森を走り抜き、ゴムラのカイル司令の元に行った。司令は就寝中を叩き起こされたにも関わらず、直立不動でその報告を聞き届け、
「ご苦労であった。貴公らの奮戦は戦史に刻まれるほどのものになろう。」
そう言って、王都に早馬を走らせるよう命令を入れる。王都から魔道通信で北城を介してバル荒原の本営に知らせを入れるためである。
・・・そこまではよかった。
その後ラルフを外に連れ出し一頭の馬を引いてくる。立派な馬だ。
「俺たちエルフには、こんな馬を頂いても・・・使い道がないです。」
褒美をくれるという気持ちはありがたかったが、ラルフは率直に断りを入れる。エイドラ山中に住む山の民・森の民には馬に乗って旅行するという習慣がないから。
でも、それは誤解だった・・・。
「マアマア、遠慮なんかせんでいい」とか言いながら、ラルフをその馬に跨らせて・・・そのまま彼を鞍に括り付ける。
ええっ、どういう事?
と混乱しているラルフのまえで、カイル司令は3人の兵士に、
「バル荒原の本営まで、急ぎ送り届けてさしあげろ。」
そう厳命したのだ。
ラルフを背中に括り付けた馬は森の中の道を掛けてゆく。彼は徹夜で走ったので疲労でふらふらしており、それを見た兵士は、
「そのまま、寝てもいい。俺たちがちゃんと連れて行ってやるから。」
と親切な言葉をかけてくれる。
そして、喉が渇いて喘いでいると、「これを飲め」と革袋を差し出してくれる。吸い口を咥えて飲んでみると甘い。ブドウ汁を煮たものだと。そしてわずかに酒精分があるようで、胃の吸収もいい。
ただ馬の走る振動がもろに腹にくるので、飲み込んだ半分ぐらいは吐き戻してしまった。
「気にするな、なにも気にするな。」
兵士はそう言って慰めてくれる。そして、そのまましばらく仮眠を取った。
次に眼が覚めた時、すでに日が昇り始めていて辺りはうす明るくなり、いつの間にか森を通り抜けて街道を走っている。
北の方には山からもうもうと煙が上がっていた。もうあの辺りは山火事の様相を呈している。
“エルフィンとガルマン、まだ、燃えているんだ”そんな感慨もわいてきた。
・・・が、ここでちょっと問題が生じた。お腹がゴロゴロと・・・ラルフの個人的排〇習慣では朝一番に爽快なモノが出てくるのである。そろそろ、その時間なのだ。
「ちょっと、下ろしてくれ。」
そう言うが、兵士には通じていない。
「がんばれ、もう少しだ」
というばかりだ・・・いや、そうじゃないう○こが出そうなんだ・・・と、叫ぶわけにもいかない。詩を愛するエルフにとってはそんな言葉を吐くのは死ぬよりも辛い。
馬の揺れは腸に響き・・・ついに抵抗むなしく、お尻の辺りがヌルッと温くなってしまった。プ~ンと匂いもしてくる。
それに気が付いた兵士は鼻をつまみながら、
「気にするな、なにも気にするな。」
と・・・とても優しい。
やがて、大勢の兵士たちが駐屯している陣の中に入ってゆく、お尻に大きなシミをプ~ンと匂わせながら、ラルフの馬は進んでゆく。
やがて大きなテントの前に出てきた。
ここで、ようやく馬から降ろしてもらってふらふらしていると、両脇からがっしりと抱えられ、そのテントの中に引きずってゆかれる。中では大勢のお偉いさんがいた。そして、
「クルスの谷奇襲隊の伝令!」
そう声が挙がると、一同一斉に立ち上がってラルフの方を注目した。かれは大声で、
「奇襲成功。クルスの谷を炎の海に沈めり。」
と、叫ぶ。
「おお~、あの煙はやはりそうなのか!」と声が挙がり奥の小太りの人物・・・あれは王様だ、宴会の時にいた・・・が、
「見事である!
で、当方の損害は?皆は無事であったのか?」と。
「ガルマン・エルフィン戦死。両名、自ら人柱となりて炎を挙げ、その中に散り果てり。」
そう叫ぶと目から涙が溢れてきた。
「あっぱれである、朕はその軍功を忘れることはない。」
との返事が返ってきた。そして、
「貴公の懸命の働き、伝令にも感謝する。
そうじゃ、貴公にふたつ名を進呈しよう。名は?」
穴兄弟の長男は、森の民が何よりも名誉を重んじるのを知っていたから気を使ってそう聞いたのである。
「ラルフ」と一言答えると・・・長男はしばらく考えていたが、ちょうどラルフの方からプ~ンと臭ってきたので、
“そうか、トイレにもいかず垂れ流しで走ってきよったのか・・・よくぞ頑張ってくれた。”と感心したので、
「では『垂らしのラルフ』と呼ぶことにしよう。」
と、
ラルフは精神的打撃と疲労のために、気が遠くなって、そのまま倒れてしまった。
・・・・・・
・・・・・・
・・・さて、それはさておき、
バル荒原では、この日も早朝から両軍とも並んで睨みあっている。
しかし、昨日と同じ様にぶつかっても同じ結果になるだけである、という具合に敵味方双方共にそう考えていたから、そんな”くたびれ儲け”は敢えてしようとはしない。ただ、にらみ合うのみだ。
もっとも最前線ではにらみ合っているだけが、後方では空堀・土塁を作り始めている。
この会戦は決着のつかぬままに膠着の様相を呈してきた。
本営での軍議では、
「さて、このまま長引きそうであるが・・・。」
イエナー陛下が口火を切る。
「しかし陛下、敵を山側に押し込んだままにしておけば、この戦は我々の勝ちであります。あちらはエイドラ山地を延々300Kmも遠征してきているのであり、補給にしても将兵の交代にしてもままならないのです。対してこちらは、日々1000の兵が増強されていき、日々有利になっていくのですから。まあ、敵襲をいち早く察知して有利な場所に布陣で来た時点で、勝利は確定したと同じですな。
それに、ランディら冒険者達の働きで、敵の補給物資も相当に焼失せしめています。敵さんはかなり苦しいはず。じきにお手上げになるでしょう。」
ひとりの参謀が楽観的な意見を述べる。
「いや待ってくれ。と言う事であるなら、敵は撤退し始めるか、休戦の交渉に来るか、と言うことになる。それならそれでよい。そうでないとするとどうなるか、それを考えておくべきだろう。
そもそもだ、敵の動きで解せぬところがある!」
何処にでも、悲観的で疑り深い奴が一人ぐらいは居るものである。彼の言い分は以下のごとしであった。
「敵軍には際立った特徴がある。騎兵を大勢連れてきている、と言う事だ。
一頭の軍馬は一日に13Kgの糧秣を喰う。3000の騎兵が居るとすると、一日に40トンの飼い葉を費消する。荷馬車80台分。これが、ヴォルカニック本国から300Kmの山道;多分20日間の距離を通って、ここまで持ってこなければいけない。往復で40日。つまり、80×40で3200台の荷馬車が動き続けていることになる。無駄もあるし、荷馬車の馬も飼い葉を喰う。実際はそれの2倍も3倍も要るはずだ。ウェルシ公国の城の中に備蓄していたとしても、これからずっとこの兵站を保たないと3000の騎兵は維持できないのだ。ヴォルカニック帝国の騎兵がいかに精強であっても、この用兵には無理がある。兵站上、どう考えても無理があるのだ。
それにも関わらず、彼らは3000の騎兵を連れてきた。
しかもだ、クルスの谷の兵站物資を焼失して相当に苦しいはずであるのに、ああして頑張っている。
何かがある、もう一つ隠し札が隠されている。」
作戦参謀たちはその隠し札について様々に推論をたてる。
「一つは奇襲を狙っている。」
しかしこれは戦場が限定された場所でしかなく、しかも空堀・土塁をめぐらせて、硬い陣営が出来上がりつつある今となっては、かなり難しい。
「一つはサムエル公国に侵攻する。」
テルミス王国の東側に向かって
ただ、このサムエル公国の東端には、ヴォルカニック帝国の衛星国である選帝侯国が数か国並んでいて国境を接していた。選帝侯とは、ヴォルカニック皇帝の選定をする資格のある侯爵たちで、当然ヴォルカニックの手下なのだ。そこで、テルミス王国とヴォルカニック帝国がにらみ合っている間に、選帝侯国からサムエル公国に攻め込んでくることは十分に考えられるのである。
もっとも、その時の援軍のために東城には大量の物資が蓄えてあり、いざとなればヌカイ河を船で遡上して援軍を送れるように用意は万端整えてある。
今回もヴォルカニック帝国軍を察知した時点で、警戒するように伝えた。
その時も、
「ご心配なく。急ぎ動員して、準備・警戒に入りましょう。」
と、頼もしい返事が返ってきたので、今、王国の兵力はこの戦線に集中している。
参謀たちは、見落とした危険が無いか、想像力を膨らまして討論していたが、これと言って大したことは思いつかず、その疑問は晴れなかった。
しかしその次の日の早暁、その疑問は解けることとなった・・・。
北城から伝令がすっ飛んできた。サムエル公国との国境守備の東城からの魔道通信が来たと。
”サムエル公国、
サムエル公国より侵攻を受けり。
軍勢は1万を超えるものと概算せり。
敵はサムエル公国軍なり!”
「げぇ~」
その場で寝転がっていた作戦参謀たちはいっせいに立ち上がって悲鳴を上げた。
そもそも東城というのは、防衛のための城でなく、サムエル公国に支援を送る時の兵站基地として建てたものなのである。
サムエル大公は第一王妃の実父であるからイエナー国王の岳父にあたり、王太子ヨーゼキとは血のつながる祖父に当たり、両国は代々血縁で結ばれた深い同盟関係にある。
サムエル公国の東端の国境は、ヴォルカニック皇国の選帝侯諸国と接している。万が一、皇国からサムエル公国に攻撃があると、直ちに支援を出さないといけない。そのための兵站倉庫としてこの城は建ててある。だから、備蓄物資が大量に積んであるだけで、城壁は低く薄い。守備兵も700足らずである。
であるのに・・・であるのに、当のサムエル公国から攻めて来るなんて!
全くもって、これはあり得ないほどの裏切りだ!。
サムエル公国軍に東城を抜かれると、テルミス王国軍は両側から挟み撃ちにされる。
当然そちらにも対応しないといけない。
そこで、戦線を後退することとなる。すると、ヴォルカニック皇国軍は前進して、テルミス東部の肥沃な穀倉地帯に入ってしまうことになる。
そうなると、軍馬の糧秣やら兵站の問題はことごとく解決する。現地調達すればいいだけだから。倉庫の食料は燃やせても、草原や麦畑までことごとく灰にしてしまうことはできない。馬の糧秣なんかはそこで十分に得られるであろう。
そうしたら、ヴォルカニック本国から続々と騎兵がやって来るに違いない・・・。
国王イエナーは怒りのあまり、顔面蒼白となり唇も震えている。
続信がきた。
”東城は攻撃を受けり。乞う、緊急の援軍を。当
方、治癒師・魔術師を欠きたり。”
確かに守城には、魔術師が欲しいであろう。また小兵力であり、兵士の消耗は激しいので治癒師も欲しい。人道的な意味においても。
「なんとか、なんとか、ならんのか。
誰か、何か言わんか!」
イエナー陛下は、ふらふらと立ち上がって、うめくように吼え、両手をゆらゆらと漂わせて宙を掴んでいる。
隣ではモルツ侯爵が、頭を抱えながら、
「ヒャ~ハッハッハ~
これで分かった、これで分かった、
エリーセが帰ってこれた理由も、
開戦を急いだ理由も、
サムエルの方に我々の注意を向けたくなかった。
サムエルとの申し合わせの時間を守りたかった。
ヒャ~ハッハッハ~
なんと、律儀な!
律儀な国じゃないですか~
ヴォルカニックは謀略の仲間に最適じゃあないですか~
ヒャ~ハッハッハ~」
いつものクールな様子からは想像もできない有様である。
参謀達も、あまりに想像外の悪事に誰も対策を具申できない。ここで一つ間違えれば破滅しかないのだ。
我が軍の中枢はゲシュタルト崩壊そして集団ヒステリーに陥っていた・・・のであった。
もっとも、作戦の事などトンと関心のない私は、本営の隅で大あくびをかきながら、
穴兄弟の長男の様子を"まるでクラゲダンスだな~"と冷静な目で観ていたのであった。
が、まだ眠気が重く・・・
「ふぁ~ぁ~~、」
と、あくびをしていると・・・
「あっ」
と、長男と目が合ってしまった・・・。
・・・・・・。
「・・・エリーセ、なんとかならんか・・・。」
陛下の視線は完全に宙を泳いでいる。目についたので、藁をもつかむような思いでだれかれとなく声をかけてきたにちがいない。
私に作戦の事を聞かれても困る。しかし、ここでなにか返事しないと・・・。
なんと言っていいかわからないので、とりあえず両掌を胸の前でギュッと握って、景気の良い大声で返事を返す。
「ハッ、ハイ!頑張りマッス!・・・」
解っていようがいるまいが、こういう場合は、とにかく気合が大切なのである!
・・・
すると、それを聞いた陛下の表情は救われたように崩れて、
「そっ、そうか、行ってくれるか!
・・・すまん!
・・・すまん!
いやっ、たのむ!」
陛下はそう叫び、手前の机に両手を付けて、ガバッと頭を下げてしまった・・・。
おつむのてっぺんが少し薄毛になっているのが印象深い。
・・・・・・
「へっ?」
わけがわからないままこの風景を眺めて居ると・・・、
「近衛騎兵、第15分隊、護衛につけ!」
参謀の誰かが叫ぶ、
そして陛下がつぶやくように言う、
「昼夜を徹して走ることになる、儂のワゴン馬車に乗っていけ。」
ここで、ようやく理解できた・・・。
・・・私が東城に派遣されることになったんだと・・・。
こうして重大な決断が下された。
東城の死守を国王自ら決断したのである。そして、切り札たるハイエルフの英雄???が、そこを死守すべく雄々しく名乗りを上げた???のである。
なんかちょっとチガう、そう思われる読者もおられるかもしれないが、世間というものはコンナモンである。
会社で突然の難題が降ってきたら、何も知らないバイト君に丸投げしておっかぶせてしまう。よくある話だ・・・。
重要なのはこれで方向性がしっかりと定まった、と言う事なのだ。
そこまで決定したのであるならば、後はいかにそれを為さしめるか、ただひたすらにそれを考えるだけだ。俊英の参謀たちの頭の中は回転し始め、次々に声が上がる。
「ヌカイ河を遡上して、1日1000の兵が到着してきます。時間は、我々の味方であります。2週間すれば14000の兵が増えることになる。」
「この一週間で、戦線築城を進めて固めるのです。2万の兵で壕を掘り柵を立て、敵騎兵を防ぐ防御陣を築くのです。」
「増えた兵力と防御陣でここの戦線を膠着させ、その一方でサムエル公国を迎撃、いや反撃して打ち破る!
報告によるとランディ隊の働きは甚大で、敵は大量の兵糧を失っています。ですからこの急場をしのいだら、敵は一旦後退せざる得んでしょう。サムエルを叩く時間は稼げるはず。」
「東城方面にはとりあえず兵站輸送部隊を先発させます。途中で補給拠点をいくつも作り、糧食を補給させ、武器等もそこで渡す。本部隊は後から裸のまま強行軍で走らせましょう。」
「いや、まず騎兵部隊を走らせ、次に動かせるようになった兵を順次走らせましょう。そして東城から15キロほどにあるベルギン村周辺に集結させる。そうすれば最速で部隊を送れるはずです。」
「何とかなる!、何とかなる!」
そして一通りの方針を決めると、彼らは慌ただしく席を立ち本陣から出ていく。各部隊に命令を出し、2万を超えて膨れ上がった軍団を大車輪で動かすべく活動を始めたのである。
いきなり人気のなくなった本営の中で、ポツンと残された陛下と私であるが、
「返す返す、すまん。
なんとか持たしてくれ!
儂も必ず、必ず行くから。
何とか20日間、いや2週間、持たしてくれ。」
そこに居るのは、既に国王の姿ではなく、正念場を乗り越えようと奮闘する一人の騎士のそれであった。(小太り薄毛であるが。)
私の手は、彼の両手で固く握りしめられている。騎士としては柔らかな掌であるが、強く握られたその痛みが、”腹を括れ、覚悟を決めよ”と迫ってくる。
その時、後ろから声がかかった。
「ワゴン馬車の用意ができました。」
振り向くと30才過ぎほどのベテラン騎士が一人立っている。少しばかり口元をゆがめて、ちょっと皮肉っぽい表情をするヤツである。
「近衛騎兵、第15分隊隊長ベルメルと言います。良しなに。」
そして、護衛の騎士隊に連れられて国王のワゴン馬車の前に来ると、馬車は6頭立てで、大きな車体の前後にこれまた大きな車輪がついている。豪華な外見であるが、中を見ると、備えてあったはずの家具や座席は既に外されてあり、床に藁が分厚く敷かれているばかりである。
「重いものは全て捨てた。馬車の床で順番に休息・仮眠・食事を取りながらぶっ通しで250キロをつっ走る。途中駅が2つある、そこで馬を取り換え、トイレタイムもそこでだ。明日には着きたい。いいですな。」
「ハイヤー!」
馬に鞭が入り、5騎の騎兵に守られてワゴン馬車が走り出す。
私は天井から頭を出して後ろを向き、陛下たった一人の見送りを受けている。2万人の大忙しのなかで、見送りをできるほどに閑なのは、イエナー陛下だけなのだ・・・。
馬車がずいぶんと進んでも陛下は立ち尽くしたまま、遠くからこちらを向いて突っ立っている。私も馬車の天井から頭をつき出したままそれを見続けている。
間抜けな光景であるが、互いに何もすることない者同士なので、そうしているより他ない・・・。
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ここのところギャグネタがなかったので、頑張って入れてみました。下ネタになってしまったのは悪しからずであります。
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