第102話 ランディとアルメット商会

神聖騎士団の面々は、早々にバルディに戻って行った。でも私には王都で他にも用事がある。

アルメット商会に水晶玉を届けないと、それからランディ達はどうしているのだろう。前に会ったときはゴムラに居ると言っていたけど。これも商会に聞いたらわかるだろうか。


辻馬車をつかまえてアルメット商会まで来たけれども、なんだか愛想のない店の表だ。大店なんだけども、店の表には、無愛想な壁の中に扉が一枚と商会の看板が一つあるばかり。

その扉を少しだけ開けて、中を覗いてみると怖そうなオッサンがこちらを睨んでいた。そして、


「あんた、誰?」


あっ・・・これは接客態度0点。


「わっ、わたしはお客よ。店の人呼んで頂戴。」


「だから、誰?

それで、だれを呼べっての?」


・・・なッ・・・


「知らないわよ、初めて来たのに知ってるわけないでしょ!

私はランディの用事でここに来たわけ。

サッサと偉いさんを呼びなさい!」


ランディの名前を出すと、胡散臭そうな目でにこちらをみながらも、店の奥に入っていった。何の愛想もないエントランスで待っていると、奥から痩せた中年の番頭(?)が面倒くさそうな顔をして出てきた。そして、


「ようお越し、で、御用は?」


と、こいつも素っ気ない。しかし“御用は”と尋ねるのであるから答えてやろう。


「魔法陣に使う水晶玉を納めに来たのよ。」


「ああ、魔道具の・・・で、なんの魔道具?」


ここで切れてしまった・・・


「なんのって、油生成のに決まってんでしょ!

ランディが、ゴムラで(敵に火をつけて燃やすための・・・)」


と、言いかけた途中で口を掌で押さえられ・・・


「あんた、店先でそんな事、それも大声で・・・。」


何言ってんだ、言わせたのはあんただろうが!腹が立ってきたので口を押えてる手を噛みついてやる。


「イテテッ、そんな・・・噛みつきなはんな!」


手代も大声をあげるので、奥から様子を見に何人か出て来る。


「いっ、いや、何でもない。大事なお客さんや、侯爵筋のお方や!

それから、今の話、一切口外無用やで!ええか、みんな。」


・・・と言う訳で、店の奥に通される。応接室でふくれっ面でふんぞり返っていると、ギラギラギトギトで俗物根性丸出しのケバい格好をした親爺が揉み手をしながら出てきた。


「これはこれは、アルメット商会会頭のオットマンと申します。おっとっとのオットマンと申します。」


と、えらく下手に自己紹介するので、


「バルディの冒険者、エリーセよ。ランディに水晶玉を頼まれていたので持ってきたのよ。マイルスさんに託ける予定だったんだけど、量が多いのと少しでも急ぐとの話だから、直接持ってきたわけ。」


「バルディのマイルス・・・ランディさんに・・・なるほど侯爵筋。

講釈なくても侯爵筋。

それはそれは、御無礼のほど・・・。で、水晶玉の量が多いと言いますと・・・」


「全部で千個、大体ね。ほらっ。」


と、巫女の外套の懐から引き出すように・・・千個の水晶玉の入った少し大きな革袋を取り出す。

ビー玉より少し大きめという小粒の水晶玉だけど、千個となると相当にかさ張る。


「なっ・・・なんと。千個。

これは先刻せんこく承知いたしませんで・・・。」


えっ、なにそれ・・・さっきから・・・辺りが寒々してきたわ。


「もう作り直しは御免よ。じゃあ!」


不愉快なのでもう帰ろう。


「いっ、いや、お待ちの程を・・・で、ハウ・マッチ!

これだけの品、当方で受け取るだけとは・・・

チャーリー・ビゲンコフ様にご連絡しないと・・・

ちょっとお待ちを。ハウ・マッチ・・・」


「厭よ、もう用事は終わったんだから。私はおなかが空いてるの!」


そう言って立ち上がると、


「そこを何とか・・・お腹が空いているって・・・私もあなたを好いている・・・

おいっ○×某、おまえもお客様をお止めせんか!」


それを聞くと最初の手代があわてて戸口をふさぐ。そして、


「お客様、今少しお待ちを・・・お腹が空いてるって・・・まだ昼前なのに・・・

そうだ、近くにいいレストランがあります、サムエルで仕込んだ料理長が居て評判の店ですぞ。有閑マダムが大勢たむろしている、そんな素敵な店です。そこ、行きましょう。行って、気の利いた料理を楽しみましょう。」


と言うので・・・振り返って会頭の方を見ると、


「おお、それは良い、そうしなさい、そうしなさい。そう推しの店。

あそこならきっとご機嫌も直る。そうしなさい。そう推しの店。」


と、無理糞過ぎて洒落にもなっていない・・・が・・・そこまで言うのなら、そうしてもいいのかなと・・・

私は賄賂だとか接待だとかは大嫌いだ!そんなのは腐敗以外の何ものでもない!

でも、是非にということなので・・・ちょっとお付き合いするのも致し方のないではないか・・・これが世の中の慣習なんだから・・・。


と、言うことで・・・

辻馬車に乗って、郊外にあると言うその店に向かっている。向いには手代が座っていて、いろいろと話しかけてくるので、こちらの話もしないといけない。


「ええ、でね・・・それから・・・バルディの神聖騎士団と一緒に居るんですよ。ランディ達は、ゴムラに行ってますけどね。」


「ほぅ~それは大変でしたな。で、魔道研究所の大魔導師様たちとは、どんなご関係ですか。」


「・・・ええ、そうなんですよ。あの3魔術師達はねっ、バルディ修道院に放り込まれていたでしょ、その時にね油生成の魔法陣をねっ・・・」


「なんと、それはすごい。あの大魔導師の方々と・・・そして、教えを垂れるとは・・・さすがハイエルフの神命使徒大魔導師だけありますな・・・」


「いえ、それほどでも・・・それで、神聖騎士団の方たちなんですけど・・・いい人たちなんですけどね・・・ちょとお堅い人が居て・・・」


「ふ~む・・・でしょうな~、戒律の厳しい事で有名ですから。」


「いえ、それは良いんですが、ちょっと意地悪な女騎士が居て、」


「え~、そうなんですか。」


「サムエル大公閣下がねぇ、一世一代の大豪遊させてくれるって手配してくれたんですが、その意地悪女騎士が・・・その好意を踏みにじって・・・悔しい・・・」

少し涙が出てきた。

この一ケ月、私がどんな思いだったのか・・・あの脳筋女騎士はわかっていたのだろうか。


「なんと、そんなことが・・・それは、いけませんなぁ~。

サムエルの大豪遊にはとうてい及びませんが・・・さあ、着いた様です。」


と、馬車を降りると・・・そこは確かに気の利いた店だった。どこかの伯爵が閑にあかせて建てた別荘をレストランに改装したものだとか・・・


案内された2階の個室の見晴らしのいいベランダからは田園と森の明るい風景が広がっている。

スマートな給仕がやってきて、今日のコースのメニューを置いてゆき、次にサラダ、スープ・・・と順に料理が続いていく。そして、メインの皿が終わった時、手代が給仕を呼びだし、


「デザートは、メガ盛りで!」

と、指をパチンと鳴らす。


メガ盛り??、こんな洒落たレストランでメガ盛りのデザートって・・・あるんですか?


「いえ、お客が一番偉いのですから、なんだっていいんです、言えば。」


・・・そうなんだ・・・

そして出てきたのは、大きなガラスの鉢に砕いた氷が敷いてあり、その上に・・・

色とりどりのフルーツ、プリン、クリーム、

・・・そこはもうスイーツの楽園・・・。


そしてそれを平らげたとき、私の心はようやく満たされた・・・この一月(ひとつき)の緊張と我慢に疲れ果てて心の奥底に積もっていた滓が・・・全て溶けて流れてゆく。

そう魂が癒され浄められたのだ!!

その清々しい顔を見て、


「そろそろいい時間になりましたから・・・では、戻りましょうか。」


と言う接待役の手代について商会にもどる。

改めて見直してみると、商会の建物は表通りから奥に入った街の裏に、目立たないようにひっそりと立っているが、重厚な造りでその信用の篤さをよく顕している。そして、中に入ると先程の朴訥な門番から「おかえり」との挨拶を受けて、飾り気の無い簡素を形にしたような廊下を進み、応接室のまえには有能ながらユーモアと親しみのあるオットマン会頭が待っていて、会議室に通される。“皆さん、お待ちですよ”と。

すると、


「よぅエリーセ、おひさ!ケケッ」


と・・・えっチビが居た。あっ、チャーリー・ビゲンコフとか言ってたのは3魔術師のチビのことだった。それだけではない、デブもノッポもいる。後ろにはランディとガルマンも居た。


「ランディ達も居たの・・・なんで?」


「なんで・・・って、ひでぇことを言う。たまたま、3魔術師の所に居たからわざわざ会いに来てやったんじゃないか。俺だけじゃないぜ、パーティーのメンツもみんな揃ってる。」


「でも、あなた達ゴムラに居たんじゃないの?」


「ああ、でも旗揚げの準備のために、ちょくちょくこっちに来てんだよ。こいつら(3魔術師)に装備の開発してもらってんだ。油生成の魔法陣もその一つさ。

で、今回は騎士団本営のラムス元帥が招待してくれるってんだから、参加するメンバー全員でやってきたのさ。」


「参加・・・って?」


「ほら、お前さんが言ってたクルスの谷だよ。ゲリラ戦になるからな、騎士達がやるより俺たちの方がうまくやれるぞって、説得したのさ。それなら決死隊になるからって、特別に壮行会をするってんだ。」


「・・・決死隊。そう、やるの。」


「そのぐらいのリスクは承知の上さ。まあ、見てな。」


とその時、おっとっとのオットマン会頭が何か手にもって入ってきた。


「ランディさん、仰ってたポチョン・・・チョポン・・・チョンボ、とかいうのはこれでよろしいですか。」と。


「会頭、ポンチョってんだ。

・・・。

ああ、これで結構。このまだらに染まってんのがいいんだ。」


「これ、蝋引きの綿布よね。厚くて重たいでしょ、どうしてこんなのが佳い訳?」


「雨具・テント・防寒具を兼ねているのさ。別々に持ってたらかさ張るだろう。緑のまだら模様だって森の中では迷彩になるしな。機動力が最優先のエルフの森林部隊には最適の装備なのさ。」


「そういうものなの。

ちょっと待って・・・いい事を思いついたから。」


ポンチョの布地の裏に、【屈折】魔法の魔法陣を書写で書き込んで、渡してやる。

それを被ったランディに、


「ポンチョの胸の辺りにマナを流し込んでみて、そのくらいできるでしょ。」


そう言って「ああ分かった」とマナをながすと・・・

その姿の輪郭がぼやけだす。

みんなは呆気に取られて驚く・・・その顔を前にして、


「【屈折】魔法の魔法陣を書き込んでみたのよ。コ~ガクメ~サイ(光学迷彩)よ、どうっ!」

とドヤ顔を決めてやる。


ランディの姿はぼやけてわからなくなった。その姿が完全に消えたわけではないが、茂みの中や暗闇に入るともう判別することなどできないだろう。

でも・・・頭ははっきりと残っている、まるで首から上が宙に浮いているように。


「なんで首だけが残ってんだい?」


そういうくだらない質問をするので、


「それなら、フードを被ってごらんなさい。そしたら、頭も消えるから。」


それを聞いてランディはフードを被る・・・その途端、


「わぁっ、こりゃいかん、眩暈が・・・。」


そう言って、あわててフードを後ろに脱いだ。

【屈折】魔法というのは周囲の空間で光が屈折して、その姿がぼやけるのだから、内側から見る周囲の視野も当然屈折してぼやかしてしまう。だから、眼のついている頭は出しておかないといけない。


「・・・と言う事は、このポンチョを着てる間は、首だけを晒して・・・まるで生首が飛んでいる様だと・・・」


「そう言う事。」


「・・・つまり、こいつはだなっ」


えっ・・・なんちゅう名前!その時、アルメット商会会頭おっとっとのオットマンさんが、


「えっ、えらい命名ですな・・・生首とは・・・」


えっ・・・じゃなくて・・・洒落にもなにもなっていないんですけど。

・・・どういうセンスなんだろ。これまで聞いた最凶のダジャレ!魂の奥底まで冷え冷えする。

そして、それを聞いたガルマンが、


「うほっ、生首の団体さんで森の中を行くってか。そりゃぁええわい。ウェルシの奴らこれを見たら腰を抜かすぞい、エルフの怨霊が出てきたと。この生首チョンパ!」


という事で、このポンチョは『生首チョンパ』というありがたい名前を頂くことに決定してしまった。

エルフィンはこのやり取りを聞いていて、呆然として何も言わなかった、いや呆れて何も言えなかったのかもしれない・・・。


【屈折】魔法陣を魔導インクで染めた糸で刺繍して、この『生首チョンパ』を作るとして、200枚ぐらいなら春までにできそうだと・・・。

ついでに言うと、フードは普通の布を縫い付けて、【屈折】魔法無しという事になる。

でも名前は『生首チョンパ』のままだ・・・。

ランディは、森の中でエルフの戦士たちがこの『生首チョンパ』を使ったら・・・ステルス山岳猟兵兵団ができる、フフフフ・・・と不気味な笑みを浮かべている。


他にも油生成の魔法陣は当然として、魔道通信を組み込んだ皮鎧に岩生成の“ゴミ箱の蓋”なんかの最終試作品が置いてあり、仕様の詰めをしていた。

いずれも、これから本格的な量産に回されるのだという。


こちらはこちらで戦争の用意が着々と進んでいる。

そして、を組んで戦場に行くのだと。それだから、みんなで会いに来てくれたのだろう・・・。


そう・・・私の王都での用事はこれで終わった、バルディに戻ろう。戻って、私達・・・神聖騎士団の出陣の準備もしないと。



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こうして、エリーセはバルディに戻って行った。


一方、ランディ達は王宮の接待・・・と言うよりも王国騎士団統合本部が壮行会をしてくれるという。

クルスの谷の襲撃に関しては、統合本部と討論を少なからずやり合った。その時の感情的なしこり・遺恨はお互いに残さない様にしておきたい、それに今後長い付き合いになりそうだ、司令のラムズ元帥はそう考えて彼らをもてなすことにしたのだ

ただ、クルスの谷襲撃の機密は厳重にする必要がある。給仕やメイドなどの部外者の耳に入れることは避けたい。だから、騎士団統合本部の会議室と言ういささか華の欠けた会場でこの壮行会をもよおすことになる。酒は良いのを揃えたが、料理は・・・まあ、持ち込みで・・・要するに屋台から買い集めたものばかりであり、しかも冷めている。また、そこに居る参加者も厳つい軍人ばかりで、まったくもって華やかさに欠ける・・・。


「ガルマン・エルフィン有志とランディ有志の壮行の成功を祈念して、ただいまより会を始めたい。」


と・・・しょぼしょぼとやっていた。“まあいい、酔いが回ってきたら裸踊りのひとつでも披露して盛り上げるか”、とはラムズ元帥の腹の内である。見せられる方からしたら迷惑至極な話ではあるが・・・。


ゴンゴン、


会議室の扉に乱暴なノックが鳴る。そして、何か騒ぎ声が聞こえて、ガバッと扉が蹴り飛ばされる。

そして戸口に仁王立ちしていたのは・・・なんと、テルミス王国穴兄弟の長男、イエナー国王陛下であった。


「儂に隠れてこそこそと。けち臭い湿った宴会なんぞしおって。こういうものは派手にやらんといかんだろ!」


一同は慌てて立ち上がり、最敬礼で迎える。

そして、ラムズ元帥が言い訳をする。


「いえ、怖れながら陛下。例の襲撃の壮行会でありますから、万が一にも情報が洩れるのは好ましくなく、故に関係者だけ集まってやっておるわけで・・・」


「・・・しかし・・・儂を差し置いてするのは・・・とにかく怪しからん!

と言う訳で、乾杯の仕切り直しだ!」


と、言う訳で乾杯の仕切り直しとなった。が、穴兄弟の長男がやって来ても地味なものは地味なままで、もう一つ盛り上がりに欠ける。


「は~~、なんじゃな、もひとつパッとせんで済まんな。」


王様ともなるとホストとしての意識がいつもある、だからランディやガルマン達になんとなく申し訳ない気分にもなっている。


「い~や、王様・・・こうして親しゅうお話できる機会なんぞ他にありゃぁせん、でございますからのう・・・これはこれで、いいもんですじゃ、でございますじゃ。」


ガルマンが変な敬語で答えるが、これが穴兄弟の長男に受けたようで、


「おほっ、そうか・・・では、世間話でも興じようかのう、でございますじゃ。

ハァ~ハッハッハ。

しかしなぁ・・・おぬしら森の民・山の民にはどのような報酬がいいのか・・・」


決死隊としてゆくのであるから、十分な報酬の約束でヤル気を起こしておく。根っからの現実主義者リアリストであるイエナー陛下からしたら当然で、そうやるのが王の務めだと思っている。

「わしら逃げて来たギルメッツ族・フィンメール族を保護していただいたことと、ウェルシとの戦いの足掛かりを頂いたこと、それで十分に有難い事ですじゃ、でございますじゃ。」


イエナー陛下は、その予想外の無欲な返事に喜ぶよりも少し焦りを感じた。

欲こそが人を必死に働かせる、それが意欲と言うものだ・・・これこそが穴兄弟の長男が持っている信念であるから。


「避難民の保護と悪逆ウェルシ討伐に対する援助は王の正義である。そのような事はわざわざ言うまでもない・・・そうではのうて・・・なんと言うか、決死の武功にはそれなりの恩賞がないとな・・・。」


それに対して、ガルマンは首をかしげて少し考えていたが、


「テルミス王国は、いにしえの建国王:勇者イヤースの時代に山の民・森の民と盟約を結んでおるじゃろ、でございましょう。わしらはその盟約に従って戦いに参るから、王国も盟約を守って味方になって頂けたら、それ以上の事はございませんですじゃ。」


これを聞くと国王イエナーは上を向いて暫く天井を見つめていたが、ため息をひとつつくと、何か吹っ切れたように大きな声で、


「おう~、これは頼もしい盟友である。そういう事であれば、我が名誉にかけて盟約を守る、このことを約束するぞ!」


それを聞くと、そこに居たドワーフとエルフ達は、一斉に表情をほころばせ笑顔を見せる。

イエナーとて上機嫌になってきた。彼らの高いプライドが、かえって小気味よく、そして心地よく感じられたから。

そして今度は、ランディの方に向きなおし、


「しかしランディ、貴様には褒美はやらん。儂を長男と認めないやつには褒美はなしじゃ。」


「ええ、そっそんな・・・」


全くもって、酔っ払いの社長に絡まれた新入社員・・・いや、バイトと言うのがより正確である。


「どうじゃ・・・じゃあ、認めるか?

穴兄弟じゃと言う事を。

人類皆兄弟!それが儂の信念じゃ!」


人類皆兄弟、大変高邁な理念である。

しかし・・・兄弟となると・・・全くもってお下劣セクハラ以外の何物でもない。が、昔のオヤジが酔っぱらってくだを巻くと、こういう下ネタ話に堕ちていたというのは歴史的事実であり、それをしっかりと記録しておかねばならない・・・そういう趣旨であるので読者諸氏の御寛恕を請いたい、という次第である。


とにかく、王様の言う事には逆らえない。ランディはガバッと頭を下げて、降参したことを伝える。


「よし!それなら今晩、うちに泊まれ。」


うちというのは、上司の自宅と言う事ではない、王宮に泊まれと言っている。


「それで一夜を過ごせば、そちと儂は穴兄弟と言う事になる!」


この王様と仲良くなるのには一晩の儀式が必要なのである。王宮の宿泊所には、奴隷メイドが就く、これは前の方に述べておいた。しかし、詳しい事を知らないランディとしては、あまりにも畏れ多い・・・つまり、王妃が出てきたらどうしよう、ではないか・・・そんな心配で、心の中が埋め尽くされて、呆然としてしまう。

その様子を見て、察しの良い穴兄弟の長男は、


「ちょっと待て、ランディ。貴様何か怪しからんことを考えていないか・・・儂とてそんな無理は言わんぞ。ピチピチの若いメイドを廻してやる、そう言う事じゃ!」


それでホッとしたが、それでも、そんな事をしてもいいのか・・・王宮のメイドと言うのはそれなりの家庭の娘さんが花嫁修業に来ている事も多々あるであろうに・・・と、まだ当惑していると、横からラムス元帥が耳打ちしてくれた。それ用の奴隷のメイドも居るのだと。

ここで、“ああ、ここはそういう世界なんだ”と・・・。

それで、返事にニッコリと笑顔をむけておく。


と、まあこんなぐあいに夜まで壮行会が続いたのである。




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これで、戦争前夜の前置きはおしまいです。次回からは阿鼻叫喚の血なまぐさいお話になります・・・いや、あんまり血なまぐさくないです。



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