第83話 それから・・・

それから一週間の間に、森から大勢の悪党共が降伏してきた。

騎士団は彼らに革の足枷を嵌めて拘束し、いくつもある奴隷商の商館に閉じ込めている。これらの建物の中は牢屋や拘束具が造り付けてあって、臨時の監獄としては都合よかったのである。

ランディはそれらの商館に日参して、地図作成のための聞き取り調査を重ねている。悪党どもは降参した身であり、もはや逆らおうという気はないらしくきわめて協力的であった、ただ、この連中を頭から信用することはできない。平気で嘘をつける奴らなのだから・・・このために複数からの情報を合わせて吟味する必要がある。

この作業にもう一週間を費やした。

と言うよりも、この頃になると東門の山城の工事が本格化してきて、これらの悪党どもも当然駆り出されるので、聞き取り調査どころでなくなってきたのだ。

しかしこの調査では多くの情報が得られた。何しろこれまで山の中でさんざんと悪事を働いてきた連中なのだから。

クルスの谷の位置も、そこに至る間道も、ほぼ把握できた。後は実際にそこに行ってみて、彼らのもたらした情報が正しいか、確認するだけである。

大いに収穫があったのだが、ただ連中はこうも言っていた。


「他所のシマに入るのはやめた方がいいぜ。縄張争いになるめんどうだからな。特に、戦闘奴隷には気を付けな!あいつら見境がない、人とは思わない方がいい。」


ようやく、山奥の実地検分ができる状況になり、ランディ達は、まず街の近辺の森を回ってみてガスト一党のキャンプがきれいに無くなったのを確認する。それができたので、山奥まで検分を進めてゆく。もちろん、別セクトの悪党どもや戦闘奴隷の連中がどこにいるかもしれないので、警戒は緩めることができない。ただ、ガストの一味どもが使っていた拠点をそのまま使えるようになったのは大いにありがたかった。ランディたちの森の探索は、まずその拠点を確認して、そこを基地にしながら進めてゆくことになる。洞穴、藪の中にぽっかりと開いた空き地、大岩の隙間、小さな隠し砦になりそうな場所を森の奥に見つけては、簡単な改修を施したりして自らの縄張として記録してゆく。ガストの手下達が、わざわざ街の周囲の森のただの野原でキャンプしていたのは、やはりボスからの指示を待っていたからだったのだ。

普通なら物資の貯蔵もするところで、事実、悪党どものため込んだ物資が多々あったが、ランディ達にはその必要はない。彼らには転生者のギフトなるものがあってアイテムボックスがあり、一人あたりリヤカー一台ほどもの結構な物量を持ち歩いているから。同行しているリリアは初めは不思議がっていたが、アカネからその事を聞くと感心してもう何も言わなくなる。

こうしてガストの縄張であった森を一通り検分して、


「さて、どうするかね。ここまでは順調に来たが・・・つまり、ここまではガスト一味の縄張だったから他所の悪党どもが入ってきていないのだと思うんだが。」


「元々の目的はクルスの谷の偵察と言う事だったが・・・。」


マサキが何を問題なのか、いぶかし気に尋ねる。


「いや、そうさね。ただ、これまでのいきさつでウェルシ内部の様相が大体わかってきたろう。ここまではガストの縄張りだった、これから先は、たぶん他所のセクトの縄張に入る。つまり、連中の勢力争いの渦中に飛び込んでいくわけだ。下手すると他所の悪党どもがこちらに入って来るかもしれない。そうなったら陣地の取り合いになっちまうわね。今の人数でそれに手を付けるよりも、まずは、このガストの縄張を固める方が先じゃないのか・・・それをするにはこの人数ではチト覚束ない。結構広かろう、何しろ300人が固めていた縄張なんだから。まず、人数を入れて足元を固めようって算段さ。」


ランディにリリアが応える


「つまり・・・まずここに私達フィンメール族とギルメッツ族を呼んでくるって事?」


「ああ、来てくれるなら御の字だ。森を取り返す足場としては悪くなかろう。」


「そうじゃな。そうなると・・・今度はどう呼び込むのかって問題になるな・・・やっぱりガルマンたちの伝手をたどるって事になるか。エリーセが言ってたな、連中は王都に居るって。一度、行って話をすべえ。」


タクマの発言がもっともだと言うことになり、一旦引き上げることにした。


ゴムラに戻り、状況の報告のために辺境伯に面会を求めたが、ちょうど来客中であるという。しばらく待っていると、いいから来いと呼ばれて、


「ランディさん、お戻りになりましたか。私の方でもお知らせする事があるのでちょうどよかった。紹介しましょう、こちら王国騎士団のカイル子爵です。」


「ゴムラ駐屯部隊司令に赴任したカイルだ。ガスト逮捕に協力したというのは、貴様らのことか、ボルツ閣下から話は聞いている。今後は軍属として本官の指揮下に入ってもらう・・・ことでいいな。」


いきなりの事で面食らってしまって、ランディは目をぱちくりとするより他ない。


「いえ、ランディさん。私も自分の所を放っておくわけにもいきませんから、王国騎士団にゴムラの防衛と確保をお任せすることになったのですよ。で、たった今、カイル子爵が赴任してきてくれた、と言う訳なんです。」


たしかに、ボルツ辺境伯領はヴォルカニック皇国軍の攻撃の真正面になる。大急ぎでその準備をしなければならない。いつまでもゴムラに居るわけにいかないのはよくわかる。


「で、カイル子爵。このゴムラはなかなかヤヤコシイところです。ウェルシの住民、ドワーフやエルフの森の住民、その間を上手にさばいていかないといけない。それだけではない、この街の防衛についても・・・これはランディさんあなたが詳しいですな、はいどうぞ。」


ランディはようやく発言が許され、ボルツ伯に説明したようにカイル司令にも説明を始める。


「ヴォルカニック軍の後背には広大なエイドラ山地が・・・兵站上の弱みであり・・・今後の戦略上大きな課題となる・・・ただそこにはウェルシと元々いた森の民・山の民がいるわけで・・・つまり広大なエイドラ山地をどう抑えるか、そしてこのゴムラはその重要な戦略拠点としてどう活用すべきなのか・・・

と言うわけですな。」


「ちょ、ちょっと待て。そんな話は聞いていないぞ。俺はここを守ればいいと命令されてきただけだ。だいたい、そうなると森の民・山の民との外交問題にもなるだろう・・・そこまでの責任は俺は持てんぞ!」


「いや、カイル司令、貴官が聞いていようがいまいが、ゴムラはそう言う所なんだ。王国としてはこの問題を無視してゴムラの占領はできまい。」


「・・・ランディ!お前、何者だ!」


前にもこのセリフは聞いた。しかしここで引くわけにはいかない・・・。

二人が険悪になってきたので、辺境伯が間に入る。


「カイル子爵、ランディさんはモルツ侯爵閣下の元で動いているのですよ。なかなか優秀な方でしょう?」


「えっ・・・そっちの筋なのか・・・。ふ~~、それならそうと最初に教えてくださいよ。本官を虐めんでください、ボルツ閣下。」


「いや失礼、話が先に進んでしまって割り込めませんでした。それに、この件は機密に触れますから、私としても口が重くなってしまった。あなたもお願いしますよ、秘密は守って下さいよ、くれぐれも。」


「了解です。しかし閣下、このランディ・・・殿でいいか?いや変か・・・このランディ氏、年齢の割には話す内容が重い、いったい何者なんです?騎士団では聞いたことがありませんが。」


「・・・お話してもいいが、これも秘密を守っていただきますよ・・・転生者ですよ。ですから、前世というものがあって、そちらの知識・経験があるという事です。」


「えっ・・・そんなのが本当におったのですか・・・そして、それを配下に使っているとは・・・モルツ侯爵閣下の手はなんて広いんだ。バケモノですか、あの方は・・・。

で、ランディ・・・君、キミの話をもう少し聞かせてくれ。俺はどうすれば良いんだ?」


「ハ~、ランディと呼び捨てで構いません。お互い武人です、変な気遣いは無用。

こちらの目論見ですが、エルフ・ドワーフの義勇軍ができたら御の字でしょうが、そこまでは難しいと思うので、知り合いの冒険者をできるだけ集めてくるつもりです、将来その連中が核になって義勇軍を結成できるかもしれないから。

とりあえず山の中のガストの縄張を確認してきたところです。今後、そこにエルフ・ドワーフ達を入れるつもりなので、その根拠地としてここゴムラを使いたい、そのバックアップをしていただきたい、と言う処ですかね。」


「わかった、ランディ。それなら俺の事もカイルと呼び捨てでお願いする。

しかし、義勇軍結成か・・・現地だけで勝手にこの話を進めるわけにはいかんな。王都の方に通す必要がある。」


「まったくです。ランディさん、一度侯爵閣下へ報告に行きなさい。あなたの事はちゃんと知らせてありますから。」


と、言うことでランディ達は王都に向けて出発していった。


ゴムラの街を西に向けて抜けると、王都へ向けた道になる。舗装は全くされておらず、馬車・荷車は通れる様な道ではない、足で歩くか馬に乗るか、と言ったところだ。そもそもゴムラへ行くための道なのだ、ウェルシのために整備するのも馬鹿らしいという事だったのだろう。始めは川沿いに歩き、そして峠を越える。王国騎士団のゴムラ駐屯部隊のものだろうか、馬の背中の左右に荷物を分けて乗せて、ヨッチラヨッチラと進む隊列としょっちゅうすれ違う。

まる一日の間、山・森の中を歩き抜けるとようやく平野の街道に出た、しばらく行くと駅があったので、そこで一泊して、そこから先は駅馬車に乗って王都に向かう。


王都には夕方に着いた。宿を取って翌朝、何をさておいても先ずはモルツ侯爵との面談だ。このような高位の貴族に面会を求めるのは、ランディにとってはいささか気が重かったが、そうも言ってられない。成りあがるチャンスなのだから。

王宮に行き、門番にボルツ辺境伯からもらった手紙を見せて取り次いでもらう。王宮の門前で、行きかう馬車の砂埃を被りながら約半時間ほども待たされ、ようやく王宮内に通される。次は、指図された裏口から入ると待合があって、そこには出入りの業者達が大勢待っていた。そこでまた半時間ほど待っている。周りで同じく待っているのは商人達で、退屈しのぎと情報の収集を兼ねたおしゃべりがうるさい。


「おや、あんた、初めて見るね。何者だい?

あたしかい、あたしは床を磨くワックスだとかろうそくだとかを扱ってるんだよ。

まさか・・・あんた・・・商売仇じゃあないだろうね・・・。

えっ、商人じゃあない?じゃあ、なんだい・・・冒険者だって?

なんだってそんなのがここに来るんだい。場違いだろう・・・。」


いや、確かに"場違い"だと思う・・・なんでこんなところに通されたのだろう・・・不安になってきた。ランディとその仲間たちはソワソワしながら、そこからまた半時間待たされる。そして、"もう帰ろうか"などと気が滅入ってきた頃、


「ランディ・・・とか言う奴、居るかい?」


そんな声が聞こえてきた。おばさんの声だ。

思わずピッポが、「ハイッハイッ!」と大声をあげて、手も挙げている。


「おやまあ、ちっこいんだねぇ。」


と言いながら、こちらにやって来るので、「いや、俺の事だよ。」と立ち上がって答えると、「なんだい、自分で返事しなよ!」と、文句を言われる。

普段なら腹も立てるところだが、その時はむしろ救われたような気がした。こんな"ガラの悪いおばさん"が居て、むしろホッとしたのだ。

隣から話しかけてきた商人は、


「へっ、そっちの筋の方(かた)でしたかい。」


と、畏れ入っている。どうやらこのおばさんは"そっちの筋"の人らしい。


「もう・・・次からは私のところに直接来るんだよ、」


そう言って名刺もくれた。この名刺は大事にしないと・・・。

そして、一旦裏口を外に出てしばらく行くと、別の裏口に出る。そこから中に入り、またしばらく廊下をグネグネと進むと、一転して豪華なロビーに出た。中にいる人たちも衣装が豪華で、ここは違う世界だ。気後れして、呆然と立ち尽くしていると、


「ホラッ、つっ立ってると邪魔だから、その辺のソファーに座ってナ。」


と、これまた場違いな言葉で席を勧めてくれる。ランディ達は、できるだけ目立たない様にロビーの隅のソファーに固まって座る事にする。


「閣下はお忙しい方だから、急に来られても困るんだよネ。次からは私を通しておくれ、そうしたら予約を取ってやるからネ。とにかく、あと一時間ほどは待ってもらうよ。」


そう言うと、近くのメイドに手を振って呼び寄せ、


「モルツ侯爵閣下のお客だ。何か、持ってきておくれ。」


と言ってくれる。するとアカネはいつものように、


「私、おなかすいちゃったわ。朝から、何も食べていないのよ。」


と、文句を垂れ、メイドは横目で了解したと合図して、向こうの方に去って行く。何か食べ物を持ってきてくれたらいいのに・・・、そう期待していると薫り高いお茶のに香りがしてきて、ワゴンにサンドイッチを乗せて戻ってきた。

ただ、ここで飲食してもいいのだろうか・・・周囲にいる貴族達が横目でこちらをにらみながらヒソヒソと話し込んでいる。いや、わざわざ持ってきてくれたんだ、喰って悪いことあるもんか!と、周りの視線を遮るようにみんなで小さなテーブルを取り囲み、黙々と喰う事にした。まったくもって、場違いで異様な一団となってしまった。

王宮で出されたサンドイッチだけあって、流石に綺麗に並んでいる。残念ながら、それを楽しむ気分の余裕はない。ただ食べて、それで胃袋が満たされたのは確かだが・・・いや、時間がたつにつれ、胃が重たくなってきた・・・。そんな一時間を過ごしていたが、ようやく、


「ランディ殿、モルツ侯爵閣下までご案内します。」


と、無表情の秘書官がランディを呼びに来た。ランディは一人・・・他の連中は、もうこれ以上先には行きたくないのだ・・・秘書官の後ろをついて行く。ピカピカに磨かれた大理石の床を踏みながら、大層な廊下を奥に進んでゆく。やがて一つのドアの前に到着して、そのドアが開かれる。部屋の中は明るく正面に大きな執務机が据えてある。そこに座っていたのは、いかにも怜悧で頭の切れそうな老貴族であった。ボルツ辺境伯はもっと柔らかなひとあたりの人であったが、そうではなく、口元は柔和に笑っていても眼光が厳しく、まったく隙を見せない。ランディは思わず気おくれしてしまい、戸口に立ち尽くしてしまう。すると、


「どうしました、さっさとお入りなさい。あなたの件は、戸口で話してもいいような話ではないのです。」


と、呼び込まれてしまう。背筋に冷や汗を流しながら部屋の奥に進んで、頬をこわばらせながら挨拶をし、ボルツ伯が書いてくれた手紙を執務机の上に置く。その時、うしろで"バタン"とドアを閉める音がする、秘書官がドアを閉めたのだ。

侯爵は手紙を取るとザッと目を通しながら、


「ランディさん、あなた達のことは既に報告書で、良く存じておりますよ。

なかなかのお手柄でしたな。しかし・・・この手紙や報告書に書かれてあるあなたの行動を見ると・・・正直言って、素人とは思えない。冒険者風情(ふぜい)がこのような事を思いつくでしょうか。」


「実は、前世で軍の指揮をしておったものですから。」


「なる程・・・そう言う事ですか、転生者ならではの話ですな。それなりの人物であった、と言う事ですな。そう言う事ならば是非お聞きしたい、このテルミス王国はいかがです?」


「いっ、いや、批評できるほど騎士団の事は存じません。これまで接触はありませんでしたから。」


「ほほう~、他所の組織の批判は慎重に、と言うわけですか。ますます素人ではありませんな。まっ、それならば騎士団の批評を強いるはやめておきましょう。王国全体についてお聞きしましょう。」


「それなりに良い国だと思います。これまでに、恣意的で横暴な行動をとる貴族と言うのを目にする事はなかったですから。まあ、努力と自重を迫られる貴族達は大変でしょうけど。」


「そうですか、ご評価いただきうれしいですな。貴族が大変なのはあたりまえ、身分に応じて重い義務も負ってもらわねばならないのは当然と言うものだ。 

で、あなたもその重い義務を背負いたい、そう仰るのですな。」


ランディは堅く口をつむって頷く。


「では、その能力と王国に対する忠誠心を見せていただきたい。ボルツ辺境伯の手紙には、私に会うのに手土産を用意する、あなたはそう仰っていたそうですが期待してもよろしいか?」


ふところから地図を出し、机に広げる。それを覗き込む侯爵にランディは説明し始めた。


「ボルツ閣下がゴムラを占拠なさったのは、ヴォルカニック軍の侵攻をボルツ領方面に抑え込むためであると理解しております。王都に抜けてくる道をふさぐようにゴムラがありますから、それを遮断するという意味で。

まったくその通りでありますが、それはあくまでも"点と線"の話でしかなく、周りの山と森という"面"に対する備えが十分とは思われません。ウェルシの兵は森の中を活動しておるわけですから、下手すると森からの攻撃でゴムラが奪回されるやもしれない。これに対抗する備えをしておかないといけない。

それだけではない。今後を考えると森の中を迂回した奇襲や後方かく乱、こう言った戦術上の利益も考えておかないといけない。

ヴォルカニック皇国との間には広大なエイドラ山地が広がっております。今後、この"面"をどう抑えるか、戦略上決定的な要因となってくると考えます。

と言う事で、手始めに森と山の中の地図を作製しておったのです。が、何分にも協力者を十分に得られていないので、まだまだ足らないのですが。」


「なるほど、対ヴォルカニック戦にはまずエイドラ山地の地図が必要と言うわけですか。で、協力者?」


「フィンメール・ギルメッツ族たち、地元の住民であります。バルディの冒険者に結構いたのですが、皆この王都に来ているとかで出払ってしまった。」


「彼らは同族の避難民保護のために走り回っているはず。しかしあれから、ひと月以上も経ちますから、そろそろ落ちついてもよさそうなのですが。王国の各部署が動き出しましたからね。まあ、そうですな、フェンミル国境爵が中心となっていますから、そちらに行ってみなさい。大勢いるはずです。」


「そう致します。で、兵力なんですが、森の中を活動できるように騎士達を訓練するのも必要でしょうが、私としてはエルフやドワーフ達と組みたい。」


「ほぅ・・・そうですか。」


「ええ、もともとエイドラ山地はエルフやドワーフのものですから。彼らを使うのがそこで活動する能力からいっても、後々の政治的に考えても、一番最適解と言えるでしょう。

それに、騎士から見たら私は素人でよそ者でしょうから反感が先に立って、なかなか上手くいかんと思います。なにより森のなかでは平地とは違った戦い方になるので、騎士達が果たして馴染んでくれるか・・・。とにかく今は、そちらに手をかけている時間の余裕がない。来年の春にヴォルカニック軍がやって来るとエリーセから聞いておりますから。

バルディでの顔見知りのエルフやドワーフの冒険者達が居ますから、それを伝手に集めるつもりでいます。」


「つまり、義勇軍を結成していただけると?」


「いや、それはムリでしょう・・・そもそも普人族の平民である私が、かれらの錦旗にはなれない・・・。まあ、今回の集まりをいずれ義勇軍に発展させないといけないのですが、その中心となるのはドワーフかエルフの英雄でないといけない。その時に私のできる役割は、せいぜい軍事顧問と言ったところでしょう。もし、そうなったら連絡は繋ぎますし、情報も流します。

現時点では、戦場と想定される領域はゴムラ近辺と限定されていますから、人数はそれほど大勢いらない、むしろ質でしょうね。森の中を隠密で高機動できるという。」


「なるほど、よくわかりました。それらの活動に必要な金は、こちらで用意いたしましょう。」


「有難い。それでしたら、とりあえず王都に居る連中を募るつもりでいますが、その武装を援助していただけるでしょうか。」


「フム、いいでしょう。どのような武器が必要ですか?」


「森の中で、エルフ・ドワーフはどんな得物を好むのか、まあ、個人によりそれぞれと言う所が大きいので一概に言えないのですが・・・。ただ騎士達とは違う戦い方をしますので騎士団と同じ様にはいかない、と思います。森の中では一人一人が戦う、騎士のように集団戦をするわけではない、ですから画一的には考えられないのです。当面の人数は多くても百人には到底届かないでしょうけど、柔軟に考える必要があるな・・・。」


「そうですか。じゃあ、こうしましょう。私の息のかかった武器屋があります、そちらでたのみなさい、支払いはこちらでしておきますから。」


「おっ、それはいい。それでお願いします。」


「で、この地図ですが、いただいてもかまわないのですか。」


「まだまだ未完成です。まだ書き込むことがたくさんあるはずだ。何をしようとしているか、説明するためにお出ししただけです。もっともそれは写しなので、どうぞお持ちください。」


「では、いただきますよ。騎士団の連中に見せて同様な地図があるのか聞かねばならないし、無いとなれば作らないといけない。今後も、そちらで作った地図をこちらにも回してほしいものですな。」


「了解しました。

それから、ゴムラで騎士団駐屯軍司令のカイル子爵にお会いして話したのですが、こう言ったことは騎士団では聞いていないと言われてしまいました。」


「当然です。山の民・森の民の義勇軍、エイドラ山地の戦略、そんな事はあなたが言いはじめたことなのだから。」


「ええ、ですが、私一人が独走してしまっていいわけでもない。」


「気遣いの多い人ですな、考え過ぎると動けなくなりますよ。

今、ここで、私が聞いたのです。これで十分。梯子を外したりはしません、安心して突っ走りなさい。

今日は有意義な日でした。有望な人材と会う事ができたのですから。末永いお付き合いをお願いしたいものです。」


ランディはニッと笑ってみせ、侯爵の部屋を出る。

帰りもまた先程の大きなロビーに通され、そこでしばらく座って待っていると、秘書官に呼ばれ武器屋に当てた侯爵の指示書と一袋の金貨を渡される。200枚、200万グラン:ほぼ2000万円ぐらいと結構な額である。


「当面の活動費にと閣下は仰っておられました。かさ張りますが、金幣よりも金貨の方が使い勝手がよいとのことで。それから、これからの活動費ですが、王宮で手渡すのはいささか目立ちますので、その武器屋を連絡口としてお使いになる様に、との事です。」


ランディはずっしりと重たい革袋と一通の手紙を受け取り、ロビーで待っていた仲間達と共に王宮を出る。


「なんと言うか、もう来たくないところだな。」


長々と待たされたこともあったが、ランディとしては侯爵との面会そのものに疲れ切ってしまったのだ。まったく無駄のない、そう油断のできない会談であった。すると、


「ナニ言ってんだい、それでは出世できやしないよ。」


と、ピッポに尻を叩かれた。



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