第64話 チュートリアルモードは、これで終わりじゃ

久しぶりにタンボで休んだ。たとえ小屋とはいえ、壺ハウスとは広さが違う。こちらの方が随分と楽だ。

じゃあ、今度はもっといい壺ハウスを作ろうか・・・。

そんな事を考えながら、出発の用意をしている。


"まあ、こんなところかな。初期の研修は。

後は、使い込んでみなよ、しばらくの間。"


シュールタロテの杖先生はこうおっしゃっているのだが・・・、要するに修行内容のネタが切れただけじゃないだろうか・・・。

まあ、それならそれでこっちは勝手にやっていけばいいだけだ。

今日はこの道を歩いて行こうと思う。ここ数日、杖先生がうるさくて・・・、いや、修行に専念していて、誰とも喋っていない。人寂しいというつもりはないが、この辺り(あたり)がどの辺(へん)かの情報もない。旅人を捕まえて情報を集めないと。


こうして、山道をのんびりと歩いている。空から降り立った場所両側に景観の広がる尾根道であったが、やがて道は森の中に入ってゆく。もともと街道と言えるようなレベルではなく、まったくもって山道であり、時には獣道と言いたくなるような細い道ともなり、そこを迷わない様に、すこし不安な気持ちで進んでいる。そんな道だが、しばらく歩いているとエルフの旅人とようやく出会ったので、やっぱりこの道が街道である事を知って安心したりする。

出会うと、「やあ」と、まず挨拶を交わして話しかける。そして休息を誘い、例の亜空間調理でお茶を淹れてふるまってやると、この魔法に旅人は驚くが、でも私がイヤリルの巫女と聞くと”なるほど”とばかりに納得してしまう。イヤリルの巫女というものはそれだけ畏怖されているのだ。


「ここをもう少し行くと山手に神社があるさ。小さいが由緒ある社なんだぜ、参っていくといい。」

そんなことも教えてくれた。


辿り着いてみると、森の奥深くに社(やしろ)がひっそりとたたずんでいる、そんな神社だった。

特に神主がいるようでもなく・・・、いや、麓の道の横にエルフの家が建っていた。もしかしたら、そこのエルフが守り人なのかもしれない。狭い境内は森の中にも関わらず、手入れが行き届いていて、雑草の一つも生えていないし、石畳はきれいに掃き清められている。

境内の奥には磐座が鎮座して、周囲を朽ちかけた木の垣が取り囲っている。

・・・そして、いつものように爺神がそこに座っていた・・・。


”ひゃあ、大神様!

へへ~、

かしこみたてまつり~、あなかしこ~。”


シュールタルテがパニック状態である。

 ・・・ばかばかしい。


「お前も、ちっとはかしこみ奉ってもいいのじゃぞ。」

そんな私の様子を見て、爺神はそんな事をいっている。


「顔や態度に出さないだけです。心の奥では、ちゃんと尊崇の念に満ち溢れておりますから。」


「ほんまかの~、まあ、ええ。

イヤリルの2精霊に、お前の魔法の特訓を頼んでおいたが、精霊の分身と仲良うやっとるようで、何よりじゃ。」


「精霊の分身ですか・・・。」


「ほれ、その杖じゃ。」

シュールタルテの事か。


「この数日で、随分とよくなった。一皮むけたじゃろう。

本来ならば、100年くらいかけてもよかったのじゃが、事態が急に動き出してのう。」


「事態といいますと、”アイツ”が動き出したのですか?」


「いや、それほどの事ではない。”アイツ”の方はちゃんと抑えてあるから心配せんでいい。動いているのは人の世界の話じゃ。」

少しほっとした。今の私の実力では、バルディ大迷宮の深層を進むのは難しいであろう。


「そんなことはないぞ。今やお前さんはかなり強うなっておる。その杖と共にある限りはな。」

どうやら、私はこの生意気な杖とセットになっているらしい。


「まあ、これでチュートリアルモードは終わりじゃな。」


「へっ、まだお試しが終わったとこだというのですか?

ふつ~なら、3回ぐらい死んでますよ~」


「フンッ、お前さんがそう易々と死ぬようなタマにも見えんしな。

まっ、とにかくじゃ。これで、わしの敷いた道はここまでじゃ。

あとは、お前さんの好きなように動くがええ。」


「とは言ってもバルディには戻らないといけないし、あんまり好き勝手にも動けないじゃないですか。」


「人生とはそういうもんじゃ!。何の目的もなしに、のほほんと好き勝手しているヤツにロクなのはおらん。

とにかく、ここからはワシの手の中を飛び出すこととなる。

自分の目で見て耳で聞いて、自分で判断して、自分の責任で動くことじゃ。

じゃあな!」

そう言って、ドロンと消えてしまう・・・。


・・・そしてまたドロンと現れた・・・。


「一つ忘れておった。」

やはり認知症が進んでいる様である。


「アッシュの迷宮で憤怒を覚醒したじゃろう。アレで"竜眼"を使えるようになったハズじゃ。」

ああ~、私も忘れていた。ネンジャ・フンだとか、イヤースだとか、大精霊だとか、ホントにいろいろあったから。


「で、なんなんです?竜眼って。」


「なに大したものではない、つまりなんじゃ、ドラゴンのブレス、あれを使えるようになったという事じゃ。」


「え~~~、そっそれ、最強じゃないですか、俺TUEEE~~~じゃないですか、なに言ってんですか。」


「お前こそ何を言ってるんじゃ。考えてもみい、その額からドラゴンのブレスをゴゥ~と吐いたら、その放射熱で、おまえの顔はズルズルに焼けただれてしまうわい。一発で自滅じゃ。あれはドラゴンの様に頑丈じゃからできる力技であって、おまえでは到底マネができるわけないじゃろ。」


「・・・じゃあ・・・何のために竜眼なんてあるのです・・・」


「そりゃぁ、自分で考える事じゃろが。」


「・・・、・・・。」


「慌てずによう聞くがええ。

ブレスと言うのは、オドを大量に噴き出しておるわけじゃ。つまり手の先から魔法を発現させるとなると、経絡を通してと言うことになるから、どうしてもオドを流すのに量的限界がある。いかにオマエであってもじゃ。しかし、魔法の脳中枢たる邪眼から直接オドを放射したら、その限界が無くなるじゃろうが。

ドラゴンのブレスは波の魔法、つまりオドを全部エネルギーに変換して放射しておるわけじゃ。

ブレスと言うものはそう言うものじゃ。

じゃから、あとはどんな魔法のオドを放射するかと言う問題じゃ。精神魔法のブレスを吹くと周りにいるヤツをまとめて狂わせることもできるし、治癒魔法のオドを吹くと大勢を一気に治療もできる。つまりじゃ、大規模広範囲に強力な魔法を発現させることができる、と言う事じゃ。ただし、マナの利用効率が悪いのと丁寧な魔法発現は無理じゃろ、この2点は気を付けねばならんナッ。

それと、竜眼を使うと額が縦に裂けて邪眼を人前に晒すことになるので、まあ外見を気にする必要もあるな。マスクをかぶるか額当てでも巻いて使う事じゃな。でないと、後で"エリーセは悪魔じゃった"と言われるぞ。」


「・・・」


「まあ、その辺は色々と自分で工夫してみることじゃな。

この世界の過去に何があったかについても知らせるべきは知らせた。後は自分で判断して行動するがええ。

また、与えるべき力も一通り与えた。後は自分で考えて強化するなり有効に使うなり、すればええ。

前にも言ったが、使徒の役割とはとどのつまりは"選択"にある。この世界の人々がこれからどう生きてゆくべきかという、その選択じゃ。それが理解できた時、与えた力をどう使うべきなのか、おのずから解るはずじゃ。

こうして話してやるのも今回で最後とは言わんが、これからは自分で考えることだ。儂は、まあ、見守っていてやるから・・・、いや、変な事をしでかしだしたら雷で一発丸焼きだからな!

そうじゃな、生かされておる間は、概ね良しという事じゃな。

じゃあナッ、達者でナッ。」


なんて勝手な事を言う爺神であろうか・・・、言いたい放題言って、後はドロンと消えてしまった。

また神社の杜の静寂が戻ってくる。





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これで起承転結のうち、起と承を終えました。

のこりは転と結ですが・・・一応予告編なんかもつくってみました。





   ------- 予告編 --------




永き平和と安定の時代を経て、そしてやってくる動乱の季節。

数百年の永きにわたり平和の時代を過ごしてきたヘルザ、いまやその平和は空洞化して崩れる寸前にある。

まだ、だれもそのことに気が付いていない。しかし、戦乱の季節は確実に忍び寄っている・・・。


次回、動乱のヘルザ篇、


乞う、ご期待。



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