第34話 城郭都市バルディ Ⅱ

遺跡探索は終わってしまったが、時間はまだ昼時と早い。

他にすることもないので、バルディ大迷宮の入口がある大迷宮会館に行って、中の飯屋で遅めの昼食をとっていると、ドワーフやエルフがちょろちょろとやってきて話しかけてくれる。ガルマンがみんなに伝えてくれていたようだ。

愛想よく返事して自己紹介を交わし、手を重ねて証明鑑定も交わす。冒険者同士ではこれがお決まりの挨拶なのだ。どんな奴が混じっているかもしれないのだから。

種族がハイエルフとなっているのを知ると、手を重ねた瞬間、ギョッとする。

そして話し始めるが、結末は、

「やはり、地元の神社まで行って、調べてもらうのが一番じゃないか。」

だいたいそういう結論に落ち着く。

それから、

「エイドラ山地には狼なんかもいるし、東部の方には盗賊もいる、エイドラ山地に行くならば、それなりの装備をバルディでそろえておいた方がいい。」と。それは、身に染みてわかっている。

ここバルディは冒険者のための街であり、場所柄そこそこの値段の装備が豊富にそろっているのだ。


昼食が済んだ後は、何人か治療の依頼があったのでかけてやる。治療所が足らないのだそうだ。治療費は金貨1枚(10000グラン;10万円ぐらい)から銀貨1枚(100グラン;1000円ぐらい)まで色々だ、こちらは治療費の相場などは知らないし、金回りのいい奴はホラッと金貨を投げて来るし、困っているヤツを見たらなかなか金はとれないので、銀貨1枚のツケで治療をしてやることになる。別にこれを本職にする気もないし、そんなもんだろう。


というわけで、この日の午後は、防具の店を回ることにした。

昨日、女騎士エミリーの見繕ってくれた装備一式をより軽くした様なものがいいな。武装であるが、旅装としても使うわけだから。

腹巻は固い革製の物で、その下には革のベスト。

肩~手はいわゆる指貫籠手、左右の繋がった長手甲にする。

下半身はごつい革のズボン、腰の所で左右両端が切れて前後に分かれており、ズボンというよりも革袴だな。脛はひもで括って締めるようになっている。

足には大きめのブーツ。

頭には、革のキャップで前半分に鉢金がついているものがあったのでそれにしよう。

この上から、巡礼者用の分厚いフード付きのローブを羽織っていればよかろう。

武器はいるだろうか?長柄の得物をもって歩くのは大変だ。また今度でいいや。

防具一式を金貨10枚と大枚をはたいて、購入。


一通り買い物を終えて、修道院に戻ったが時間はまだ早い。

修道院所蔵のグリモアールを触れさせてもらう。

光魔法がいくつか。遺跡で使っていた、光明。これはぜひ欲しい。光浄化、光を当てて浄化するという魔法だ。聖魔法の浄化とは違い、紫外光をあてて化学反応させるものなんだろう。そして光線。レーザービームだ。もっとも威力はそれほどでもない、うるさく飛んでいる蠅を焼き殺すには十分かもしれないが、詠唱している時間があり、狙いも難しいので、多分当たらない。

あと、鎮静・奮励など精神魔法である。修道院なので、もちろん聖魔法もある。祝福・解呪である。この魔法は、使いかたを変えると、呪詛・消福にもなるという・・・。

それから、聖水の作り方も教えてもらった。聖水と言うのは本来ならば儀式に使うぐらいでたいした需要もない。ただの水でもばれなければよろしい。ただ、ここバルディでは特別な需要がある。迷宮にアンデッドの魔物が居るのだ。このために修道院では聖水を瓶詰め・樽詰めにして販売している。金額はそれなりである。

作り方はごく簡単だ。水魔法できれいな水を生成して、そこに聖魔法のオドを溶け込ましているだけ。祝福・解呪・浄化・聖天、なんでも良い。そしてこの聖水をアンデッドにぶっかけると、黒い炭に固まったり、溶けていったり、灰になったり、色々の効果を及ぼす。もちろん高等な聖魔法ほど効果は強烈となるが、祝福・解呪など初等の聖魔法でも十分な効果があるので、実際にはこの辺で聖水を作るとのこと。


次の日、この日は特に用事がなかったので、昼前にバルディ神社へ参拝に行くことにした。

神社・教会は信仰の対象となる神も同じであり、そして神の痕跡は神社に残されている。だから教会の聖職者も神社にはよく参拝に行くし、当然巡礼者も同くお参りに行くのである。

バルディという城郭都市は、バルディ川がヌカイ河に合流するところにできた洲が台地となって、その上にある。

この洲の一番上流側に行くと、バルディの台地は川に向かって絶壁となっており、この絶壁の上にバルディ神社が建てられている。

この神社の歴史は浅い。ここにあった遺跡の調査で、かつてここに神社があったということがわかると、神社関係者から請願があり、バルディ神社が復興されたのだそうだ。100年ほど前の事だ。

猥雑なバルディの街頭を抜けて、しばらく歩いたところにバルディ神社がある。新しいとはいえ100年が過ぎている、周囲に小さな杜(もり)をめぐらした立派な神社だ。

参道を進んでゆくが人気はまばら。祭りや行事となると人まみれになるらしいが、普段は静寂の中にあるごく普通の社なのだ。

境内に入ると老人が一人佇んでいるばかりで、ここが野心の都市バルディの中とは忘れてしまいそうである。

銅貨を一枚、賽銭箱に投げ入れ、手を合わす。

目をつぶって祈ると、この地にきてからのこれまでの記憶が走馬灯のようにかけめぐる。


祈りを終えて目を開けると、先程見かけた老人がすぐ横に立っていて、こちらを見つめている。

見たことのある老人・・・、これはあのてっぺん禿げ白髪の爺神ではないか。


「もうちょっと良い名前で呼んでくれんかの!てっぺん禿げ白髪の爺神ではあんまりというもんじゃろ。

こうして、せっかく祈っていてもありがたみが薄れてくるというもんじゃろうが!」

「口に出して呼んでいるわけではないじゃん。頭の中でそう思い浮かんでしまっているだけなんだから、どうしようもないじゃない!」

「いや、まあそうじゃが・・・。

まあええわ。

先日、タルクスで”暴食”の覚醒があったじゃろ。」

「”暴食”?富貴とか言ってましたけど。今までも、傲慢でなく栄光、嫉妬ではなく憧憬、強欲ではなく探求心、とそう言ってましたけど?」

「気にせんでええ。

それらは昔の名前じゃ。時間が立てば名前も変わる、そういうもんじゃ。

それはそうと、今回は暴食の腸(はらわた)が覚醒したわけじゃ。

これによって、”ドレナージ”と”分泌”が使えるようになったわい。

これはじゃな、”霧”を発生させて、その霧の中に入ったものからドレナージしたり、霧の中で分泌したりするという、ちょっと凶悪なスキルじゃ。

つまりじゃ、敵を霧で取り巻いてマナを吸い取るというのが”ドレナージ”じゃな。魔物はマナでもって生きておるわけじゃから、これは効くぞ!

そしてじゃ、”分泌”という力でもって、毒を撒くことも、逆に薬を撒くこともできる、と言う事じゃ。

まあなんだ、暴食の腸(はらわた)の働きが外環境でもできるようになったという事じゃな。

この霧はかなり遠くまで流すことができる。だから、敵から離れたうちに攻撃をかけることができるというなかなか妙味のある手段じゃな。とはいえ、これは暴食の腸(はらわた)で作ったものを遠隔地でばらまくというだけで、そこで魔法を発現させるとういうわけではない。じゃから、何でもできるというわけではないからナッ。」

はい、わかりました。要するに毒ガスを自由に撒けるということですね・・・。

でもちょっと疑問がある。

「ところで、この霧ってどこで発生するのです?」

「もちろん暴食の腸(はらわた)じゃ。」

「で、何処から出て来るんです?」

「もちろん腸の出口じゃな。具体的には尻の穴と言うことになる。」

「それでは”霧”と言うよりも”おなら”と呼ぶ方がより正確ではありません?」

「・・・、・・・、

”暴食のおなら”ってか。」

「微妙な能力ですね~」

「なッ何を言うか!これは毒ガスをばらまくという、最凶の殺人兵器じゃぞ!。」

ますます、おならである。”最凶のおなら”と呼ぶことにしようと思う。

「かっ勝手にせい!。とにかく、危険な能力じゃから取り扱いは慎重にな!」

・・・・・・。

「それはそうとじゃ、」

爺神は、ぱちんと指を鳴らした。

すると頭の中で、また声がする。


”広がれ広がれ、我が空(くう)よ、

広がれ広がれ、わが身の空(くう)よ、”


そして、

”流れる流れる時の流れ、その先を観せてよ、

流れる流れる時の流れ、その元を観せてよ、”

別の呪文が流れる。


これは初めての魔法の呪文?グリモアールには触れていないのに、なぜ?


爺神の方を見ると、ニヤニヤしている。

「わかるかね?

いよいよお約束の魔法、アイテムボックスを手に入れたわけじゃ。正確な名前は”亜空間作成”という。自身で亜空間を作り、そこにものを閉じ込める魔法じゃ。もちろん作った亜空間を解消して中の物を取り出すこともできる。

どのようにして覚えたかじゃと?前に教えたはずじゃ、怠惰の刺青に大量のグリモアールが含まれておると。

お前は、嫉妬の魔眼を使いこみ、そのレベルを上げた。魔眼と言うのは空間魔法と時間魔法を強化するという働きもある。その結果、この2つの魔法を覚える条件を満たしたので、怠惰の刺青に入っておったグリモアールを発動させたというわけじゃ。

まあいい、この魔法は空間魔法であり、根源魔法の一つじゃ。普通の人間でここにたどり着くことは到底できん。当然、遺跡を探してもグリモアールなんぞないからな。

お前は古代魔法文明の遺産から直接手に入れたわけじゃ。

この魔法は古代でも禁忌の魔法であった。根源魔法じゃからこれを覚えて乱用するととんでもないことになるからの。したがって、人間でこの魔法を知るのはお前だけじゃ。

せいぜい慎重に取り扱うことじゃ。ほれ使ってみろ。亜空間作成をして、そこにアイテムを閉じ込めるんじゃ。」

「・・・そんなもん、できるわけがない。」

「なんじゃと!それでは猫に小判ではないか。せっかくの根源魔法なのに。しょうがないな、この小石を握って・・・

そう、そして念ずるんじゃ、亜空間に閉じ込められろ!ってな。・・・」

小石が消える。

「そら、できたじゃろ、つぎは、亜空間よ消えてしまえ!って念じてみろ。・・・」

小石が手の中に現れる。

「ほうら、できた。

手を煩わせる奴じゃ。創造神であるわしに魔法のコーチまでさせおって。

いいか、一つ言っておく。亜空間の中では時間が流れておらん。じゃから、命あるものを放り込んではいかん、時間無きところでは命は直ちに吹き飛んでしまうからの。

今は一つしか亜空間を作成できんかもしれんが、じきに慣れる。そうしたら、いくつでも亜空間を造る事ができるじゃろ。

もう一つの魔法は、やはり根源魔法の一つ、時の魔法じゃ。

過去と未来参照じゃ。なんでもいい、対象を決めて、念じてみろ。

それの過去と確定的な未来の様子を観ることができる。

どれほどの過去にさかのぼれるか、未来をたどれるかは、魔法のレベル次第じゃ。

魔眼を使って色々試してみることじゃな。」


えっ、と思って、爺神を見直そうとすると、もう消えていない。質問も返事も何も聞く暇をくれない。

いつもながら、突然現れ、突然消える、身勝手な爺神である。

と、思ったその時、頭の上に鳩のフンがペチッと落ちてきた。


まあいい、そんなことより、新たに覚えた魔法の練習だ。

これを忘れてしまうととんでもなくもったいない。

境内の長椅子に座り、小石を何度も出し入れしてみる。また、神社の中の事物の過去未来を観てみる。大方は何も変わらない。それほどの昔も未来も見れるわけではないから。


この日は、これだけで疲れてしまった。

暴食の腸が覚醒して、根源魔法を2つも覚えたのであるから仕方ない。

しかしである、他の誰も知らない魔法を知っているというのは何とも言いようのない高揚した気分になるのだ。

しかし・・・、

爺神には秘密にしておけと言われたが、やはりそれが無難なように思う。


次に自分自身を鑑定してみよう。

種族は当然ハイエルフであるが、種族スキルと言うのが全ての種族分一通り全部ある。強欲の子宮のせいである。どれもLv2~3であるが、これだけあると能力値のかさ上げはかなりになる。また、職業も多々ある。修道士・隠密・メイドのLvが5~6で、他はLvは2~3と低い。

当たり前である。何をするでもなく、うろうろしているだけなのだから。

隠密のLv5なのは王宮での仕事が実は隠密であったからであろう。

変わった職業では、統治者というのがある。これは陛下とエッチをたくさんして、強欲の子宮が手に入れたものに違いない。

将軍というのもある。騎士団のあのオッサンである。あのオッサンいわく、”陛下と穴兄弟になるのは、忠誠の証である”とか言って自由恋愛にえらく熱心だった。

それから預言者というのもあった。預言者?そんな職業の男とナニをした覚えはないが・・・。

その時、頭の中に爺神の声が響く、

”時の魔法を覚えたからじゃ。何とも頼りない預言者じゃ。”

ほっとけ、なりたくてなったわけじゃないやい・・・。


魔法スキルでは4元素の魔法は変化ない


マナの魔法 Lv4(+2) マナ認識Lv4 マナ吸収Lv4 マナ貯蔵Lv4 マナ消費Lv3 マナ固定化Lv2 マナ提供Lv1 マナ変換 Lv1

精霊魔法 Lv5(+1) 魂認識Lv4 祝福Lv1 解呪Lv1 浄化Lv5 聖天Lv3

悪霊魔法 Lv2(+1) 魂認識Lv4 呪詛Lv1 消福Lv1

肉体魔法 Lv4(+1) 生命認識Lv4 疼痛緩和Lv2 ヒールLv7 キュアーLv5 ハイヒールLv7

精神魔法 Lv2(+1) 精神認識Lv3 混乱・興奮Lv2 鎮静・脅迫Lv1

肉体魔法のレベルアップが見られる。タルクスで頑張ったから。浄化・聖天も伸びている。


時の魔法 Lv3(+2) 時間認識Lv4 高速知覚Lv4 高速思考Lv3 高速運動Lv1 過去/未来認識Lv1

空間魔法 Lv3(+2) 空間認識Lv4 領域操作Lv4 亜空間作成Lv1 空間圧縮Lv1 

質量魔法 Lv1(+1) 質量認識Lv3 質量生成Lv1  質量形成Lv1

波の魔法 Lv1 (+1) 波動認識Lv3 波動生成Lv1 波動放射Lv1

熱魔法 Lv1(+1) 熱認識Lv2 発熱Lv2 放熱Lv1

引力魔法 Lv2(+1) 力場認識Lv3 力場形成Lv3 念力Lv2 力熱変換Lv1

変移魔法 Lv1 変性認識Lv2 水素生成Lv2

召喚魔法 Lv4 個体認識Lv5 形象認識Lv4 質量召喚Lv3 個体召喚Lv1

合成魔法 速度認識 心眼 抽出 充填 金剛力 名乗り 光刃 千の手 韋駄天 反熱 反精神 反オド アイテムボックス

これらの魔法は、上がっているものもあり、そのままのこのもある。ただ、内容がよくわからないので、なんで伸びているのか、伸びていないのかもわからない。あと光魔法や闇魔法と言っていたものが全部合成魔法となっている。アイテムボックスと言うのもこの一群の魔法になるのか。


魔器の状況は

憤怒の邪眼 Lv2

傲慢の光翅 Lv3 光翅Lv2

怠惰の刺青 Lv3

嫉妬の魔眼 Lv4 心眼Lv3

強欲の子宮 Lv5 略奪の手Lv2

色欲の蜘蛛 Lv3

貪食のはらわた Lv3 霧(ドレナージ・分泌)Lv1

邪眼と光翅と蜘蛛とはらわたが少し伸びている。他は変化ない。

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