第30話 ついに空を飛ぶ スズメ飛行

貰った6尺棒はモップの柄をもう少しだけ太くした程度のもので、武器としてはやや頼りない。思いっきりぶっ叩いたらボキッと折れてしまいそう。しかし、太くなると当然重くなり、道中邪魔になろう。

そんな棒を担いで、いや、杖にして南に道を歩んでいる。

道すがら、棒術の型通りに振ってみたり、光刃を纏わせて草を薙いでみたりもしてみる。確かに光刃を纏わせると草や小枝ならばスッと切れる。ただ木の幹に当てると光刃は砕けてしまい、木の皮を傷つけるのが精一杯だ。この辺はまだまだ修練次第なのだと思う。

もちろん、光の翅に光刃を纏ろわせて振るよりはかなり切れていると思うが・・・。


今日の昼ご飯は試したいことがある。あのエルフ達が作っていたパンというかナン。パン種はもらってきたので、自分でもできるはず。小鍋を取りだし、小麦粉に少量の水とパン種を加えてこね回す。適当に出来上がったら麻袋にしまい、懐に直す。肌のぬくもりで発酵させるのだ。


パン種が膨らんでくるまでの時間で、ナンを焼く窯を作っておこう。土魔法で石の円筒形の筒を作り、かまどの上にかぶせる。これで、簡単な石釜が出来上がり。この石釜の内側はつるつるにしてやらないと。

そして下から火を焚きこの石窯を、そう、中の温度は200度ぐらい。(温度は、摂理の魔法の熱魔法;熱認識とかいう魔法が知らないうちに身についていて、それでわかってしまうのだ。)

かまどで炊いている薪が熾火となって安定したら・・・いよいよパン種を平たく伸ばして、石釜の円筒の内側に張り付ける。

すぐに、香ばしいにおいがしてきて、パンの表面に焦げ目もつき始める。

もう、このぐらいだろうか・・・、

・・・・・・、

いや、ここまで、これ以上は焦げすぎ。

そして、パンをはがすと・・・、

上手く剥げない、下に落ちて焚火の灰がついてしまう・・・。

えい、力の魔法だ!念力だ!

こんな風に無事取り出して、鍋の上に置いて、熱を冷ます。

こんな要領で3つほど焼き上げて、その内の一つにバターを塗り付け、干し肉を挟み、ようやく昼ご飯となる。出来具合はパン職人Lv1である。まあこれも経験という事であろうか。


こうして昼ご飯を済ませ、おなかも膨らんで食後の休憩に、地面に座って空を見上げている。

雁が列を作って、空高くを飛んでいる。この地:ヘルザにも渡り鳥がやって来るんだ。

こんな光景を見ると、子供の頃の夢を思い出す。

大空を飛んでみたい!

この世界では魔法が使える。魔法で空を飛ぶ事ができないのだろうか。

この前に念力魔法で体を持ち上げようとした、しかしその方法では力の支点を体のどこに置くのかと言う問題でうまくいかなかった。アレでは”空を飛ぶ”と言うにはほど遠い。

念力魔法?、風魔法の事。そう言えば、新しく覚醒した能力は光の翅。正確には”傲慢の光翅”とおどろおどろしい・・・。

20mもの長さの翅が16本・・・、その一本一本に風を纏ろわせたら・・・。

パラグライダーなんてものがある。山の上から風にのって滑空するヤツだ。大きさはせいぜい10mほどだろう。光の翅を左右一杯に広げると幅40mになる。4倍以上の広さがあり、その範囲で自由に風を吹かせれるのだ。十分に飛べるのではないか。

では実際にするとして、なにか問題は無い?

・・・・・・。

やっぱり支点の問題だ。風魔法で風を吹かせる時は、その支点を体のどこに置くのかは考えていなかった。所詮小さい力なのだから、気にもしてなかったのだ。

でも今度は体重がかかる。この前の様に内臓が支点になってしまうと、内臓損傷で倒れてしまう。と、なるとやっぱり骨に力がかかる様にしないと、それも分散して。

骨盤骨・大腿骨・腰椎・胸椎・肋骨・鎖骨・頸椎、こんなところか。

で、骨盤に片側2本づつで左右だと4本、腰椎に片側1本づつ、胸椎と肋骨で片側2本づつ、大腿骨・鎖骨/肩甲骨・頸椎で各々片側1本づつ。これで全部で両側16本になる。

骨盤・腰椎・胸椎/肋骨の10本はもっぱら体重をささえ、大腿骨、鎖骨/肩甲骨、肩甲骨の6本でバランスをとったり動いたりする、と言う寸法だ。


光の翅を一杯に広げる。この翅は物理的な存在ではないので、周囲に立っている木々は邪魔にもならず、貫いて広がっている。

風を吹かせてみる。

そよ風のような風で、ふわりと体は浮かび上がる。

おお~

が、・・・風の調整が上手くいかない。そのまま森の樹冠の上まで一気に跳びあがり、そのまま上昇する。

危ない!

今度は風を弱めると下に落ちる。

危ない!

今度は風が強すぎて上に飛び上がる。

飛び上がったり落ちたりしている・・・。

いか~ん!

風の強さの調節が上手くいかないのだ。

慌てた頭の中で、必死に考えをめぐらし、風魔法から地面との念力魔法;排斥力に切り替えた。地面に支点を置いて排斥力を働かすのだ。

これで安定した。

風を吹かせる事よりも、地面;引力に対する排斥力の方が調整しやすい。実際に引力を感じてそれに合わせるためだろうか。

予定と大分と違ったが、安定して空中に居れるのだから結果オーライである。

ところが・・・、この方法だと高く飛べないのだ。地面からの距離が離れると、排斥力が弱くなってしまうから。距離の二乗に反比例しているのか・・・。森の樹冠より少し高いぐらい、高さ20mぐらいが精一杯というところ。

う~ん、これだと雁のようには飛べないな、せいぜいスズメか・・・、スズメ飛行なのか・・・。

それでもイイヤ!、

16本の内の4本、肩と大腿に支点を置いている光の翅で、前進するための風を発生させる。今度は風の強さが少々強かろうが、あまり関係ない。方向は翅の向きを変えることによりできる。

秒速10m、つまり時速にして36Kmばかりのスピードで飛んでいる。この世界ではかなりの高速と言える、馬でも長距離を走らすときはこの速度では走らない。駆け足程度のはやさなのだ。ましてや、森を飛び越して一直線に飛んでいくのだから、くねくねと曲がりくねっている道を進むよりはるかに速い。


一時間ほど飛び、街道の近くに少しだけ開けた空き地があったのでそこに着地。これだけで、まるまる1日分ぐらい進んだと思う。


それから午後は街道をゆくので、普通に歩く。街道では、通りがかりの人と時々すれ違うのだ。”スズメ飛行”とはいえ、空を飛んでいる姿は、あまり人に見られない方が良いのに違いないから。


夕方にはまた壺ハウスを作って野宿。

今夜の壺ハウスは少し凝ってみる。かまどを大きな円錐にして頂点は煙突にする。そのかまどの周囲に壁を作り、自分の寝床を囲う。これまでのように天窓ではなく、天井を作り、上の方の横向きに出入口を開ける。出入口は地表から2.5mほどの高さであるが、もう念力魔法を使って宙に浮かびあがれるので、全く不便はない。

これまでは雨の対策がなかったから、天井を作ってみたのだ。正直、形をもう少し工夫する必要があるな。


寝床ができて横になり、落ち着いてくるといろんな事を考えてしまう。

この世界における神社って、何なんだろう。

ミュルツに昔あった神社は”あいつ”の出先機関であり文化や商業の拠点であったと、

森の中の幽霊の話では富貴の蔵から魔法の力で食料や資源が産出していたのだと、

メルラン神社はドワーフ・エルフたちと普人族の仲介の役割をはたしていた。

そしていずこにもグリルモワールが置いてあった。

神社というのは、信仰のためだけでなく、政治的・産業/経済的・学問:魔法の拠点なんだ。そしてあの爺神がデデーンと現れて、人々に神託を与えていたのだ。

まあ、古代の神政というものはこういうものなのかもしれない。

でも今のテルミス王国は違う、国王という”人”が統治しているのであって、ネンジャ教会も”神の名”でもって政治に干渉する事はしない。

ではかつての古代魔法文明の王国はどうであったのか、古誓書によると神から与えられた聖なる王が統治していたと。多分、幽霊の話や神社の有り様からいって、その王様が神の名と魔法の力でもって、爺神の代理人として君臨し、神社を介して統治していたのではないだろうか。王国というものの理念からいうと理想像とも思えるけども、幽霊の話では、王様がいなくなったらいっぺんに滅んでしまった、と。

そして、世界が変わってしまった。

では、ネンジャ教会とは何なんだ。教会はその名前が示す通りに、聖ネンジャ・プを教祖として新誓書にその言動を記し、教義の根本にしている。

でも、彼の実際の行動は、敵となる神社を叩き壊したり、ドワーフ・エルフと普人族を和解させて盟約を結んだり、現実的で政治的で攻撃的でもある。また、爺神いわく闇の魔法と言うのはネンジャ由来という、じゃあ、彼は魔術師だった?決して哲学者や宗教家だっただけではなかったのは違いない。どういう人であったのか?

そんなことを考えながら、この日は寝てしまった。


次の日、前日に作ったパンを平らげてしまう。冷えるとぱさぱさして、おいしくない。

やはりパン職人レベル1のパンである。

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