第27話 道中 魔法大実験

村は収穫の季節であり、村は刈り入れに大忙しとなっている。広大な麦畑の中で、一列に並んで大きな鎌を振りかざし、麦の穂を刈り取っている。

麦を刈り取った後の地面には落ち穂がチラチラとみられ、略奪の手でもって、いくつかを拝借させてもらう。

略奪の手で採集すると自動的に内容が解析される。麦だという事以外に、その成分、澱粉だとかグルテンだとか、そんな成分も解析されるのだ。

何のために?

決まってるじゃない、あの魔法のために。

人気の無いところまで行ったら、昨日幽霊に教えてもらった魔法;肉生成と麦生成を試してみたいのだ。


昼過ぎになると、農園の光景が過ぎて、また山・森の中に入る。周囲をキョロキョロしながら歩いているが、だんだんと人気はなくなってきた。

と、森を少し入ったところにきれいな渓流が流れていて、河原は大きな岩のゴロゴロと転がった岩場となっている。

端っこの高場に例の壺ハウスを作り、今日の宿にしよう。


さて、肉生成と麦生成。魅力的な魔法ではないか!

鍋を取り出し、その中にさっそく試してみようじゃないか。


”えいや!”と肉生成をしてみた・・・。

すぼめた両手の間から出てきたのは、とてもお肉とは言えないような、グジュグジュした”何か”であった。少し透明で淡いピンク色をした、ぐじゅぐじゅ。魚のすり身、そんな感じの”何か”である。

生で喰らうのは少し気持ち悪い、でも自分で作ったものである、毒や病原菌は入っていないと思う。

指の先に着けて舐ってみると塩味が足りない、それでは少し塩を混ぜてこねてやり、チンしてみよう。電子レンジはなくとも、熱線を魔法で出すことはできる。熱魔法・熱放射なんて言うのがあって、火ではなく、熱線が当たり前のように出るのである。遠赤外線でじっくりと熱してやる。

出来上がったのははんぺんの出来損ない。うまみなどはなかった、決しておいしいものではない・・・。

失敗作である。

それでも熱を加えて固まるのだから、タンパク質には違い無い。ただこのままでは食えたものではないのである。

・・・大変遺憾に思う・・・。

川に向けてエイヤと放り投げ、魚のえさとなれ!


次は麦生成。

今度は食えるように先程の麦の穂の情報を使って生成してやる。

麦の粒はできなかった、

で、できたのは粉である。

小麦粉か!グルテンは入っているのだろうか。心配だったので先程の肉生成でタンパク質を少しだけ加え、水も足して練り上げる。

コネコネ、コネコネ、・・・、

いい具合だ。

酵母なんぞはないしどうしよう。まあいいや、横の岩の平な部分を魔法の水できれいに洗い上げ、今度は魔法の熱線を当てて熱していく。適当に熱くなってきたところで、薄く延ばして広げる。

ナンではなくチャパティの出来上がり。食してみるに、味のないクレープの皮だ・・・。


さて、次は薬生成。鍋に水を蓄え、エミの木の葉を蒸留した下剤を生成してみる。

うん、できた。

これは使える・・・。

いや、待てよ。この”エミの下剤”は、もっとも初歩的な錬金術の内に入っていて、聖職者たちは自分でこの薬を生成している。

どうと言う事のない魔法ではないか・・・。

いやいや、そんなことはない。

この魔法を使うと組成さえ分かっていれば何でもできるのだ。後は強欲の手で採集して、成分の情報を分析するばかりだ。これで様々な薬物がいくらでも生成できるのではあるまいか・・・。

いや、薬より前に作りたいものがある。

砂糖!、砂糖がほしい。この世界には甘味が足りない!。


肉生成に麦生成、試してみたが、魔力を使う割には食用としてはもう一つだと思う。

いや、そもそもこれはなんの魔法だ。

水生成の発展形の変換魔法として考えると・・・。水生成の魔法は水素:Hの生成である。では麦生成は澱粉であり、炭素が必要で、それを高分子にしている。そして肉とはタンパク質であり、それに加えて窒素と言うことになるが、これは空気中にたくさんあって、わざわざ生成する必要もない。ただ、高分子の組成はかなり複雑になり、それを精密に扱う必要がある。つまり、この魔法は炭素を核変換でもって生成して高分子を合成する魔法ではないか。

そして薬生成!

つまり、高分子を自由にかつ精密に生成することができるということ。きっと、薬剤師・錬金術師にとっては目をむくような魔法なんだ。

キット、ソウニチガイナイ!


もっと凄いのが魔法のインクであった。

ペンのインクとして使うならばそれほどのありがたみはない。

しかしである、魔眼の能力に複写と言うのがある。これでもって書き込むことができるのである。つまり、目で睨めばそこに瞬時にして書き込むことができるのだ。

何を書き込むかというと、魔法陣!。

例えば”着火”の魔法陣を岩に書き込み、その上に薪を重ねる。後は、魔法陣にマナを放出してやると焚火が燃え上がるというわけである。

いい具合に、魔法陣の文法も教えてもらった。もっとも、文法を習得したといってもこれだけですべての魔法陣が書けるわけではないので、これはこれで今後の課題ではあるが・・・。

・・・まあ当面は大した事はできないのだが・・・。


もう一つ試してみたいものがある。力の魔法。

これを使って空を飛べないか・・・。

魔法で空を飛ぶ、これは異世界でやってみたい事No1ではないか。

飛行機に乗って空を旅することと、自分で自由に空を飛ぶ事とは全く別物に違いない・・・。

方法は簡単である。さかさまになって、大地を排斥力でもって持ち上げるわけである。もちろん大地が持ち上がるはずがない。反対に自分が持ち上がるだろう。つまり自分が浮き上がる・・・、はずである。


支点を足の底において、そのまま地面に排斥力を掛ける・・・。

お~っと、

足だけが浮き上がり、姿勢を崩して転んで、しりもちをついてしまった。

う~ん・・・。

支点を足に置くのはよくないか。支点を一点でなく、自分の全身に広げてかかればいいわけだ、・・・。

・・・

「ゲボッ。」

ダメだ、体全体に均等に支点を掛けるなんて、相当器用にやらなきゃいけない。今のは胃袋に強い支点がかかってしまったのだ。

内臓に強い力がかかってしまうと、それだけで”ゲボッ”である。

なんだかな・・・。

・・・、・・・。

飛行はあきらめざる得ないか。


色々遊んでいるうちに、いや、新魔法の実験試行に励んでいるうちに、陽が大分低くなってきた。

野営の準備をしなくては。

まず、薪として河原に落ちている枯れ木を集める。

次に壺ハウス。だいぶん慣れてきたので、15分ほどでできる。


そして晩御飯のおかず。例によって、”略奪の手”を水中に潜らせ、ヤマメかアユを喰っていく。ちょっと小さなヤツしかいなかったが7~8匹ぐらいはすぐに獲れる。壺ハウスの中のかまどに焚火を燃やし、塩をまぶして串刺しにした魚を焼いておかずにする。


街で生活をしていたころは、魚を食べる機会はあまりなかった。こちらの世界では、もっぱら肉ばかりで、魚料理と言うものはよほど高級料理になってしまうらしい。魚を好む人も少ないのだろうか。いずれにせよ、塩焼きの川魚がとてもうれしいのだ。

後はさきほど麦生成で作ったチャパティをもう一度火にあぶって温める。

まあ、こんなもんであろう。


食事を済ませたころ、外は既に真っ暗となっていた。

壺ハウスの天井に開いた天窓からは2つの月が覗いている。

そのまま毛布をかぶって荷物を枕にして就眠する。


夜半、目が覚める。

外が騒がしい、犬の唸る声。野犬が集まってきたらしい。

魔眼を凝らし、心眼を広げて周囲を観察する。

魔眼は、ずっと使いこんできた甲斐があり、暗視・赤外線視もできるようになって夜間の偵察もOKとなっていて、壁の外での野犬の動きがまるまるとよくわかる。

蜘蛛の糸を飛ばして、野犬の意識の中に入り込む。

マズいな、においでここに私がいることがわかっているようだ。中に入ってくるところがないか、壺ハウスの周囲をうかがっているのだ。

よし、ならば・・・。精神魔法だ・・・。

犬に通じるだろうか・・・。

しかし、犬でも感情はあるのだから、多分通じると思う・・・。


まず”混乱”をかけてみる。

・・・、

何も変わらない、ウロウロしているだけだ。元々そんなに大した考えなんぞないのだ。混乱しても同じ事か。

”脅迫”してみる。

周囲が静かになった。ジッと地面に臥せている。恐怖におののいているはずなんだが・・・。恐怖を感じていても、その具体的な対象が居ないからだろうか。

よし、それならば・・・。

前に退治した大蜘蛛のイメージ、姿形だけでなく匂いも全て記録されている。怠惰の刺青の能力に違いない。

こいつを糸を通じて犬の意識の中に送り込んでやる。

”キャンキャンキャイ~ン”と悲鳴を上げるような鳴き声があがり、大慌てで去ってゆく。

と同時に、新たな精神魔法を覚えた。

”幻覚”という名がついていた。


そして、翌朝、眠い目をこすりながら出発。


亡霊の約束を果たすためメルラン神社に行かないと!

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