第23話 森の中の朽ち果てた社

森の中の道を、”心眼”と”略奪の手”を試しながら歩いている。

目をつむって、心眼だけで周囲の様子を把握して歩いているのだが、目に見えなくてもつまづくこともない、足元も全てがわかる。

ただ、遠景は見えない。

何しろ心眼の届くのはごく周辺だけで狭い範囲でしかないのだから。使い込んでスキルレベルを上げるともっと遠くまでわかる様になる、と言われたので、こうして一生懸命に”精進”しているのだ。


木々が茂る中は、何かと調べたくなるものが多い。

足元の道の端のキノコ、頭上の木の枝になっている木の実、などなど。

何だろうなと思って採取してみると虫であったことも再々ある。

そんな風に一所懸命に”精進”しながらやってきたのだが・・・。

ふと、目を開けて周囲を見わたすと・・・。

・・・

ここは、もう街道ではない・・・。


いつの間にか獣道(けものみち)に入り、森の奥に来てしまった!

心眼は把握できる範囲が短くて、ごく周囲の事しかわからないので、道を外れても気が付かなかったのだ。


あわてて、元来た道を戻ろうと思ったのだけれども、なんだか森の奥が気になる。

魔眼を凝らして見つめると、マナのいやに濃い場所があるのだ。

それは微かに動いているようでもある。


”何だろう・・・。”

”魔物が居るとは聞いていないけど・・・。”


とても気になって仕方がない。

もう少しだけ進んでみよう、近づいてみよう・・・。


道を迷わない様に草を結んだり、木の枝を折ったりして、目印を付けながら草生す中をそろそろと進んでゆく。

心眼の届く範囲は6~7mと昨日に比べると少し伸びているが、しれたものである。でも、障害物や地面の様子を把握するには十分だ。

魔眼は、あのマナの溜まりに集中させ、足元は心眼に頼って、そろそろと進んでいく。


15分程も進んだころ、距離的には500m程しかないが、ちょっとした広場に出てきた。

森の中でここだけが木立が急に途切れていて、草だけが茫々と茂っている。


”森の中になぜ?”


慎重に周囲の森を魔眼で見回すと、20mほど向こうに、木と木を繋いでおおおきな”網”が張られていた。


”エッ、こんな場所で、誰が?”


魔眼を凝らして、”網”の端から端を観察していくと、左の木の枝の中に何かが居る。そいつは普通の生き物ではない。魔力を感じる。


”魔物だ・・・。”


茂みの中に隠れてジッとしている。


背中に冷や汗を感じながら、いつでも魔法で石弾の攻撃ができるように両手を前に突き出して、じりじりと近づいて行き、10mの距離まで迫った時、ようやく何者かが分かった。


大きな蜘蛛であった。体の大きさは大型犬ほどもあり、足を含めると2mほどもあるヤツだ。

木の中に潜みながら、蜘蛛の網に獲物が引っかかるのをジッと待っている。


思わず後ずさりをして、

「喰らえ!」

と、石弾を発射する。


バシュッ


最初の一発は外れた、しかし続けて打ち続ける。


バシュバシュ!


3発目に命中。でも、致命傷にはならないようだ。もっと魔力を込めて強い石弾を!


興奮してしまい、魔力の調節はわすれている。

10発を続けて打ち込むと、ようやく蜘蛛の体から何かがはじけ飛んだ。蜘蛛は逃げようとするが、今となってはうまく動けないようだ。

続けて、石弾を撃ち込み続ける。

やがて、ドサリと落ちる。

鑑別してみると、既に死んでいた。

近づいて目の当たりに見ると、無残にぐちゃぐちゃとなった大蜘蛛の死骸が地面に転がっていた。

手に触れるのも気持ち悪い。

内臓が死体からはみ出ていて、その匂いが鼻を突く。思わず吐き気がして、顔をそむけてしまう。


そしてその時、すぐ後ろに人の気配がする。振り向いてみると、てっぺん禿げ白髪の爺神が立っていた。


「どうじゃな、初めての”魔物狩り”は?」

まるで楽しんでやっているかのように言いやがる・・・。

「いや、そう言う訳じゃあないんじゃ~。

敵と戦うとなると集中力が違うじゃろ。道なりでブラブラとやっているのとは、精進の密度が全然違うというものじゃ。

じゃろう?

ちなみに今ので、魔眼・心眼共に1レベルアップじゃ。

どうじゃ!。」

「こっちは、殺すか殺されるかなんですから。」

「そんなもんじゃ。すべての生きとし生けるものはすべてそのようにして生きておる。人とてかつてはそのようにして生きておった。そのようにして、己を磨いてきたのじゃ。

それはそうとしてじゃ、

魔物をみてどう思う?」

「こんなデッカイ蜘蛛、気持ち悪いです。」

「いや、好き嫌いを聞いとるわけじゃあない。

どう考えると聞いておる。」

「こんな蜘蛛、生きてることが不思議です。」

「その通りじゃ。

この大きさでもって、蜘蛛の呼吸器・循環器で体を維持する事はできん。マナの力でこの無理を押し通して生きている、それが魔物じゃ。

じゃから、マナを利用できるという条件が無いところでは生きていけん。不完全な生き物じゃ。

魔物はいくらでも強くなれる、しかし生物としてはそれだけ歪になるから、それだけのマナを必要となり、それを満たす場所でしか生きてはいけん。」

「なぜ、そんなのが生まれたのです?」

「うむ、生まれたのではない、人為的に生みだされたのじゃ。

かつての古代魔法王国が生み出した。

家畜の品種改良と言うのがあるじゃろう?それは古代魔法王国流になされた、その結果が魔物と言うわけじゃな。

もっとも、連中が生み出したのは大量の肉を生み出す魔物牛・魔物豚であって、魔物蜘蛛ではないがな。

人間の思い通りにするにはそれなりの制御がなされている必要がある。その制御が外れてしまったら、勝手にこんな魔物が生まれるようになってしまい、

あとは、弱肉強食の法則に沿って、強い事を目的とした魔物が生まれてくるようになる。

それが、今の世界におる魔物、と言うわけじゃ。」

「・・・

つまり、魔物は古代魔法王国の遺物と言う事ですか。」

「そういう事じゃ。

ちなみに、さっきの蜘蛛は儂が造ったのじゃがな。お前さんに見せてやるために。

まあ、ヌカイ河の北側では、魔物が生きるにはマナの濃度がチョットばかり薄すぎる。じゃから、ほとんどおらんから心配せんでええ。

それはそうとじゃ、

ホレ、そこの木立の影を見てみろ。」

そう言って指さすところを見ると、朽ちて崩れてしまい草に埋もれた社がある。

何だろうと、と思ってそちらの方に行って、

調べようとしたその時、背中が熱く疼き、頭の中で声が聞こえた。


”仁愛こそが人々の国の始まり”と。


爺神の声で、「色欲の蜘蛛が覚醒したぞ。」と後ろから聞こえるので、

振り向いても、もうそこにはいなかった。


もと来た道を街道まで戻り、また先に進む。

いくら心眼で足元が把握できても、眼を瞑ったまま歩くと道を違えてしまう。

今度はちゃんと目を開けて前を見ながら心眼を働かすという練習をしながら・・・。





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