第8話 オタクな魔術師3人組 Ⅱ
翌朝、一番に起きて、湯を沸かし、パンを切って、かまどの火を保ったまま3人が起きてくるのを待っていて、起きてきた順に、パンを焼き、お茶を入れ、干し肉と卵を焼いて出してやる。
チビがもじゃもじゃと食べながら、
「今日は俺の日なんだから、俺の服を着てくれよ、」
とわがままを言いだす。
しかたないので一旦部屋に戻り、チビの箪笥を開けて、その服を見てみたが、・・・どれも露出が大きい。
背中が出ていたり、肩が出ていたり、胸の谷間が出ていたり、おへそが出ていたり、しかもスカートも一段と短くて、メイドカフェから、風俗メイドのレベルにまできているのだ。
この世界は地球の歴史でいうなれば中世なのだ。オタク屋敷の中ではともかく、外にでると公序良俗を乱す輩として逮捕されそう、そんなメイド服である。
うしろを振り返ると、部屋の中までチビがついてきていて、期待を込めた眼差しでジッとみつめている。
仕方なく希望に沿って、
「じゃあこれにします」、
と一番マシそうなのを選んで示し、それでもエロ過ぎるので、前にエプロンを付けてごまかそう。
「うん、じゃあさっそく魔法のトレーニングだ、庭で待っているから。」
と。
今日はチビの順番らしい。
「いいかい、まず手を合わせて、中を少しだけ開けて。」
私に両手を合わさせて、その両側から自分の手で挟み込む。
「水生成のオドを感じ取るんだ!」
というと、両手の間から水が流れ落ちる。
しばらく目をつぶって、一心不乱にオドの感触を味わい、自分も同じようなイメージをする。
ふと目を開けると、チビの手は離れていた。
”アッ”と、これに気が付いてしまうと、魔法で流れていた水が途切れてしまった。
「ハハッ、ダメじゃないか、せっかく上手くできていたのに、さあもう一度。」
・・・。
「うん、いいぞ、もうできるようになった。」
昨日の火生成よりも簡単だった。経絡にマナをめぐらす、これがコツなのだ。これさえ習得できたら、あとはイメージだけの問題になる。
この後、土の生成もこの日のうちに習得できた。
次々とできるようになって
「凄いな!ほんとう、あんた才能あるよ、」
とチビがえらくほめてくれたのだった。
午後からは屋敷の掃除・洗濯物の処理と家事に過ごして、夕方は昨日と同じく銀熊亭である。夜は、チビのご希望タイムで、この日も終える。
3日目のトレーニングはデブの順番である。
このデブは少し気取り屋で、自分の事を”小生”と称し、私の事を”あなた”と呼ぶ。彼の好みの服装はゴシック風である。それではスカートはロングかと言うと、やはりミニであるから、その正体は知れている。
「魔術と言うものは、マナをイメージ通りのオドに活性化・変換させて魔法を発現させる、というものであります。
あなたはそのすばらしい才能でもって、この魔術の基礎を瞬時に習得されました。
本日小生が伝授するのは、もう一歩進んだ魔法であります。
基礎の4元素生成を複合して発動する魔法であります。
例えば、水生成に火生成すなわち熱を追加してやれば、湯を湧き出させることができるわけなのであります。
やや複雑ではありますが、この段階に到達して、初めて魔術が実用的になるわけであり、ぜひとも習得していたかねばなりません。」
直立不動で拝聴する。
「それではまず、手を合わせて水生成をお願いします。」
昨日、教えられたように手を合わせ、その間から水をちょろちょろと流す。合わせた両手を自分の両手で挟み込み、
「いいですか、水を出したまま感じてください。」
デブの手からオドが突き抜けてゆくのが感じられた、すると手の中が暖かくなり、水ではなく、暖かいお湯が出ているのがわかる。
「できますか?」
自分でしようとすると、水の流れが止まり、手の中が
”あっちっち”。
水生成が止まり、両手掌の中で火を生成したのだ。一瞬の事なので、やけどにもならなかったが。
「同時に2つの魔法を発動させるのは、少し難しいかもしれません。意識の中で2つのイメージを同時に思念する必要があるからです。つまり、魔法を実際に使うに当たっては、いくつかのイメージを一つの形に構築して、ここにマナを流し込んでこのイメージ通りにオドに活性化させる、という作業をしているわけであります。
このために、高度な魔法になると、多数のイメージの構築となるために魔法の難易度が飛躍的に増すわけであります。
さて、これを行うにはどうすればよいのか。一つはひたすら繰り返し、無意識のうちにこの一連の作業ができるようになることであります。これは習得するのに多大な努力が必要でありますが、一旦習得してしまうとその魔法は無詠唱で瞬時に発動できるようになるという、きわめて妙味があります。
今一つは、呪文を唱えることであります。呪文を覚えて唱えることにより、知らず知らずのうちに複数のイメージが湧き出て構築されていくわけであります。非常に複雑な魔法になると、複数の術者で呪文を詠唱しこの作業を行います。聖職者たちの儀式の中には、このような魔法の発動を時に見せられます。その情景はまことに壮観といわねばなりません。
では、ここに一つ呪文を伝授いたしましょう。
”流れ来たる水の聖霊よ、ひそやかにともる火の聖霊よ、共に交わり、ここに我が手のうちにて、温め流れ出でよ。”」
何回か、口ずさみ覚える。
「ハイ、覚えましたか?あくまでも呪文は便法であり、一言一句正確に覚える必要はありません。重要なのは言葉の内にこもるイメージなのです。
精霊という言葉は、マナと4元素のイメージの融合を意味するので呪文によく使われる言葉であります。また間の言葉は発動されるそれぞれの魔法の強度を思慮させているわけであります。
そのことをよく理解し、呪文を唱えることが重要なのであります。
さあ、練習いたしましょう。」
長々と講義を拝聴したが、それでできるならば苦労はしない。
ただひたすらに頑張っている。
半時間ほど繰り返したが、流石に疲れて集中力が続かなくなってしまう。
「疲れたら、お茶としましょう。」
ということで、2人でお茶の時間となる。
デブは楽しそうに、ひたすら魔法の話をしている。わたしは、ただひたすらにうなずきながら拝聴しているわけであるが、たぶん、このデブは人生で初めてのデートを経験して、舞い上がっているのではないだろうかと想像したりしている。
お茶の後、お湯の魔法はすぐに成功して、デブは、”お見事、お見事”と、手を叩きながらほめてくれた。
そして、
「そうですね、今日は風呂桶一杯のお湯をためることができるか挑戦してみてください。あなたの保持する魔力で可能かどうか、たぶん難しいとおもわれますが、魔力を全力で使い切るというのも大事なトレーニングとなるのです。お湯の足らない分は私が補充します。」
それから小声となって、耳元で呟く
「そして一緒にお風呂に入りましょう、もしよければ・・・。」
結局のところ、夕方には私だけで風呂桶一杯の湯を張ることができ、デブとふたりで風呂に入ることになった。ノッポとチビが唖然としていたが・・・。
風呂上りのさっぱりしたところで、銀熊亭での晩御飯であり、
そのあとは・・・。
デブは紳士の嗜みと言っていたが、ありていに言えば、スカトロ臭のする変態君であった・・・。
なお、お風呂であるが、次の日はノッポと一緒に、その次の日はチビと一緒に入ることになったのは言うまでもない。
次の日、一周廻ってまたノッポの日がやってきたのである。
「早いね、この調子で魔法を習得していくとじきに僕たちを追い抜かす日が来るよ。フフフ、楽しみだな。
今日は、もう1ランク上の火魔法を教えてあげるよ。見てごらん。」
手を広げて前に突き出すと、1mほど離れた所にゆらゆらと火が燃えている。
「火生成とおんなじだよ、ただ距離を意識するんだ。離れた所にオドを放出して燃やしているだけだからね。」
これは簡単にできた。
「よし!、じゃあ次はこれだ!」
そういうと、ノッポは両手を広げて斜め下に向け
こうしてオドを放出してゆく・・・
そして・・・”ボン!”と1m先に小さな爆発が起こる。
「爆発だね。最初に火魔法を織り込んだオドを放出してゆき、そして一気に発現、爆発させる、という魔法だよ。まあ、マナ・オドを器用に使っているだけだけどね。さあ、やってみよう。」
そして、後ろに回ると背中にピッタリと張り付き、左右の手掌を握る。
「さあ、この前と同じ、マナとオドの放出を感じて・・・
火生成と同じさ、
でも中途半端で、そのまんまの感じがあるだろ、
そうして、最後に着火!」
ボン!
これはちょっと器用で難しい。
でも練習しなきゃあ。
・・・・・・、プシュン!
小さな爆発がおきる。後ろで、プッと噴き出す声がして、
「まあ、カワイイ爆発ということで、」
今度はもう少し大きなのをやってみるさ。
・・・・・・、ドカーン!!
グヘッ、
あたりに爆発音が響き、背中のノッポと一緒に後ろに吹っ飛ばされた。
「ちょっと大きすぎるじゃないか、危ない!」
怒られたので、今度は小さめに
。
プシュン
う~~ん、何度やっても、うまくいかない。
大きすぎるか、小さすぎるか、どちらかか。
ということで、この日のトレーニングはこれでおしまい。
夕食時の銀熊亭でこの問題を相談した。
「大きすぎるか小さすぎるか、う~ん、困ったものだな。」
「わたし、やっぱり不器用で魔法に向いていないのでしょうか、」
「小生思うに、そうであれば、これほど早い魔法の修得はありません。
問題点は、程度の調節がうまくいかないという事であります。
別の要因を考えてみる必要があります。
通常ならば、つまずく様な事ではないのですが・・・。」
「元がデカいんじゃないのかい?
いいかい、5の魔力が必要とすると、魔力が10しかないやつは、5割の魔力を放出すりゃあいい、だからだいたいのところでできる。
でも、1000あるやつはどうだい、その100分の一だ、相当な微調整が必要になるぜ。」
「そんなことありえるかい?100倍も魔力があるなんて!」
「まあ、あくまでも仮説であります。100倍は極端でありますが10倍だって同じことが言えるのではないでしょうか?
何よりも彼女は普人族ではなくハイエルフという存在なのです。」
う~~ん、と沈黙が支配する。
耐えきれなくなって、
「私、そんな・・・、邪悪な事考えていません!普通の人です!」
チビがプッと噴き出し、ノッポがかばってくれる。
「いや、決して君に怯えたり恐れたりはしていないよ、ゾクゾクしているのだよ。もしかしたら、とんでもない才能が目の前にいるのじゃないかと思うとね。」
「そうであります、強大な力を盲目的に恐れるのは教会の坊主どもであり、魔術師はそのような考えを持ちません。
ただ、あなたの魔法修練ですが、方向を訂正する必要を感じます。程度の調節が苦手なうちは、火魔法の”爆発”はやはり危ない、もっと、魔法に熟達してからにしましょう。」
「じゃあ、明日は土魔法かな。」
その晩、ノッポに添い寝して寝息を聞きながら、火魔法の事が頭の中を巡る。火魔法って何なんだ。オドをまるでプロパンガスのように扱う。ガスをちょろちょろ燃やす、いっぺんに爆発させる、ちょうどそんな感じだった。確かに、コントロールできないで大量のガスを爆発させると、う~ん、ガス爆発だ。これは危ない・・・。
次の日、チビが教えてくれたのは岩生成だ。
土を固めて岩にするという魔法。土を生成し、その中にまた土を生成する。初めは、土の山が盛り上がるだけだが、その山の中に土を生成し続けると、やがてその中に塊ができ始め、大きくなり岩になる。
これは気楽だ、いくらマナを込めても爆発はしない。気持ちよく岩が成長する。
本当に心地よい。
岩を造ると言うのは、無から有を生じさせている感じで、何だか達成感がある。機嫌よく岩を育てていると、
「ちょっと待った~
調子に乗って大きくすると後で邪魔になるだろ。」
「でも、楽しいし、もっと大きくしたいし。家くらいの岩を作ってみたい。」
「何考えてんだよ、デカけりゃいいってもんでもないよ。
・・・いや、ちょっと待てよ、もっと面白いことさせてやるから。」
そういって、裏の倉庫に連れていく。
「ホラッ、これ、」
と大玉のスイカほどの鉄球を指さし、
「コイツはね、中が空洞になってるんだ。周囲に大きなねじがついてるだろう・・・、ねじを外すと2つに割れて・・・、ほら。」
ゴロンと割れた鉄球の中はメロンほどの空洞が開いている。
「錬金術の道具さ。魔法炉というんだ。これを使って高温高圧下の反応を起こすのさ。こいつの中に土生成・岩生成をやってみなよ。何ができるか、面白そうだろ!」
うん、確かに面白そうだ。
魔法炉を台車の上に乗せて、庭までゴロゴロと引き出して来て、さっそく試してみることにする。
まず、炉の内側にタールをぬり、炉の上下を閉じボルトでしっかりと締める。岩生成実験の再開だ。
中に土を生成していく。
中の様子は魔眼の透視で見ることができた。中には直に岩で充満してしまうが、その真ん中にまた岩を生成、ギシギシと隙間が詰まってゆく。
と同時に岩の生成に使う魔力が増えるのがわかる。それでも無理矢理に生成していく。中心部は熱く真っ赤になってきた。だんだん詰め込むのが難しくなってくる。
それでもそれでも無理矢理に充填・・・。額から汗が出るほど頑張る・・・。
ダメだ、これ以上は無理だ。
炉自体もかなり熱くなってきたのだ。実験はここまでとして、冷めるのを待つことにしよう。
一晩おいて翌日、中を開けてみると、球形の石がごろんと出てきた。タールが煤となって表面にこびりついている。表面からは石に見えるが外殻と中心部は違うはずだ。
チビと一緒に中を割ってみた。
”パカン”と割れた中は不透明なガラス状となっていた。
「なんだろなコレ。ガラスはもっと脆いし、水晶の出来損ないかな?」
銀熊亭での夕食後、ノッポとデブにも披露してご意見拝聴。
「ほほう、こんなものができるのですか。興味深いですね。水晶にならないというのは不純物の問題ではないでしょうか。」
「僕が思うには、タールを塗るのはよくないと思うな。タールの成分が混じるからね。代わりに石膏を塗ればどうだい。」
ご意見を取り入れて、またやってみる。おなじ物しかできない。意地になってどんどん作ってみる。3日間ほどこれをやっていたが、大した差はない。
また銀熊亭での相談。
「小生思うのですが、同じものをたくさん作ることがあなたにとってどれほどの意味があるんだろうか?と。
確かに素晴らしい技ですが、基本的には魔力の力技であり、使う魔法そのものは単純なものでしかありません。あなたはもっといろいろな可能性に挑戦してみるべきだと思うわけであります。
ですから、そろそろ見切りをつけて他の魔法に取り掛かってはいかがですか?」
デブにたしなめられる。
「水晶のような鉱物の結晶は魔道具の中でマナ・オドを込める心臓部だからさ、とても重要な素材さ。いろんな魔道具を作るとき、欲しい形・大きさ・種類のちょうど具合のいい水晶や宝石がなかなか手に入らないんだ。
だから自分でこれを作れるというのはとんでもなく素敵なことなんだ。
でもエルちゃん、同じことを繰り返しても無駄だと思うよ。他にも学ばないといけないことがあるというのは同感だな。」
チビにもたしなめられた。
「君のあの石を作るのにはとんでもない量の魔力を使っているよね。あれは、魔術の基礎トレーニングとして効果的だと思うよ。だから決して無駄なことをしているわけじゃない、続ける意味はあるよ。
でも、他にすべき事もたくさんあるというのも、真実さ。」
ノッポは少しかばってくれる。
結局のところ、結晶作成はこのまま続けるとしても、午後からの決められた時間だけということで、他の時間はほかの魔法の修練ということになった。
ということは、家事をしている時間が惜しくなるわけで・・・。家事は通いの使用人を別に雇ってくれると、ありがたく決定したわけである。
さて使用人をいかにして雇うのか?この辺になるとこの3人組はサッパリなのだ。果たして、まともな人がこの怪しげな屋敷に来てくれるだろうか?。
また雇う際に、この3人に使用人として受け入れるべき人柄を見分けられるのであろうか?
当の3人に尋ねてみても、”さあ、どうしよう?”と言うばかりなのである。
挙句の果てに、
「まあ、エルちゃんがいいと思う人を連れてきたらいいよ。」
と、なんとまた投げやりな返事が返ってくる。
私の伝手(つて)なんてほとんどないじゃない。王宮にいる元締めにでも相談するほかない。
「久しぶりだね、どんな具合だい?」
「ハイ、よくしてもらっています」
「ハァ?あんたの事じゃない、3人組の事だよ。」
私の事は二の次らしい・・・
「いやいや、悪いネ。あんたの事はもちろん心配だよ、だけどわざわざ報告にきたから、何かあったのかとおもってね。」
報告?何やら私の立場は、自分で思っているものとは違うようだ。
まあ、それよりも、使用人の件である。これまでの事情と、新たに通いの使用人が必要になったことを説明する。
「ほう~、それはそれは。よし任しときな、いい連絡員を送ってやるよ。それから、あんたはあんまりここにきてはダメだよ。怪しまれたら仕事がしにくくなるからね。」
連絡員って・・・、いったい、どういう仕事をさせているつもりなんだ。
「まあ、給金はこのぐらいかね、相場より安くても変に勘ぐられるからね。相場どおりの金額だよ。これでいいか、聞いてきな。」
その日の夕方、銀熊亭での夕食時にこの話を出すと
「へえ、そんな話どこでしてきたんだい?」
「王宮のメイドのまとめ役をしている人にお願いしてみたんです。」
「えっ?あのメイド長!あの堅物がそんな話を聞いてくれるのかい?」
「いえ、それより下の人です。」
「ふ~ん、まあいいや。王宮の伝手ならちゃんとしたヤツが来るんだし、いいんじゃないかい?」
給金の額はそれでいいかと尋ねても、”そんなもんだろう”、と・・・。
絶対に相場なんてわかっていない。
元締めに了承の返事をしてから、3日ほどもすると、初老の夫婦がやってきた。
”長年小さな木賃宿をしてきましたが、歳をとって疲れてきたから宿の経営は息子に譲って引退したのですが、やっぱり仕事をしたくなったので”、とのこと。
老人の話は長くてややこしい・・・。
こちらをチラッと見て目配せする。明らかに隠密である。
しかし木賃宿をしていたという経歴は本当らしい、隠密と宿屋、どちらが本職なのか。実際は木賃宿をしながら、隠密もしていて、いろんな保護や利権を回してもらって稼いできたというのであろう。前に元締めの部屋で聞いたことがある。これがこの世界の隠密人生なのだ。
この魔術師3人組を隠密が見張る必要があるかどうかはわからないが、これでみんなが満足するのであれば、これでいいんじゃないかと思われる今日この頃なのである。
次の日、ノッポがさっそく新たな土魔法を教えてくれる。
土消滅である。
特定の場所に穴を掘る魔法だ。この世界にきて最初、そう野生のおじさんたちのPTで、山に行って熊を捕った時、魔術師が使った魔法がこれだ。
足下に穴を作り、熊の下半身をそこに落とし込んだ魔法がこれだ。
今となっては遠い昔だけど。
ノッポが地面に手をあて、”エイッ”と気張ると穴が開く。今度は私が地面に手を当て、ノッポが上から手を重ねて、同じようにエイッと穴をあける。その感じを真似て、自分でもやってみるが、これまでと同じだ、すぐにできるようになる。
ノッポが言う。
「この魔法は土生成と別の魔法というよりも、その発展形というべきだね。単に方向が違うだけで。こういうこともできるんだ。」
立ったまま両手を両側に上げて掌を下に向けて・・・、右手からは土が落ち、反対に左側は地面が掘れていく。
「土生成と土消滅は別の魔法というよりも、同じ魔法の裏表だと思うよ。だから、同時に発現させることも容易なのさ。」
土生成と土消滅。片方で生成し、もう片方で消滅させる。これは、移動させている?
つまり、左側から抽出して右側に召喚している?
ただ、物体の形象を保ったままの召喚はできないから、バラバラになって、形のない土として召喚されてしまっている・・・。
もしそうだとすると、今努力している”水晶の生成”にとても都合がいい。
横に純粋な原料を置いて、そこから抽出・召喚してやると、純粋な成分の結晶が出来上がるはずだ。うん、結晶生成の実験を進めてみよう。
純粋な成分ということで、磁器粘土を使うことにする。この世界でも磁器はある。磁器を作るためのきめの細かな粘土だ。大きな麻袋一杯の粘土を買ってもらい、よこにそれを置いて、そこから召喚して魔法炉の中に充填していく。
魔法炉がいっぱいになり、中心部が赤熱してくる。
頑張って充填していく。
ここで一つ気が付く。最初は楽に魔法炉の中に召喚できる、この時に生成している粒は結構大きい。後になり、ぎゅうぎゅうに充填していくときは生成している粒は小さい。いや、小さいというものではない、分子レベルの大きさになっているのではないだろうか。そうしないと充填できない。
ここでまた気が付く、充填する粒のサイズを選んでいるんだ、分子に細かく分けて充填できるんだ、と。
こうしてつくった結晶は、この前よりもかなり透明になっていた。しかしまだ、不純物がある。
また繰り返す、今度は最初から細かな粒子で充填していく。
また、気が付く。詰め込んで充填していると、その成分がわかるのだ。成分の名前まではわからない。しかし、不純物が入ると違うものだとわかる。また、同時に成分を選ぶ事ができる。
これは、土魔法だろうか?
土魔法ではできないと思う。魔眼の鑑定と強欲の子宮の分析の力が加わっているんじゃないかと思う。
純粋な成分を選んで、充填していく。赤熱してくると、分子レベルで充填していく。
もうここまで、これ以上はできない。そう思ったときは既に夜も更けていた。
3人組は一生懸命になっている私を見て、銀熊亭の夕食を誘うこともなく、そっとしたままで食事に出てゆき、帰りにサンドイッチのお土産をくれた。
次の日になっても、魔法炉はかなり熱いままだった。
まだ開けるのはためらわれ、冷めるまで放っておく。
その次の日、ようやく冷えていたので、御開帳だ。3人組もみんな揃い、ドキドキしながらボルトを緩めていく。
開けると丸い石がごろんと出てきたので、チビがやすりをもってきて、外殻を削り取っていく。
「おっ、透明だ!。」
中が出てくると覗き込んでチビが叫ぶ。
フムフムこれは成功かな。後は出入りの職人に頼んで磨いてもらうこととなった。
3日後、銀熊亭で披露されたのは透明な水晶の玉であった。
そこで、3人に説明する。
「繰り返しやっていると、成分を充填する際に細かな粒で、どんどん細かな粒で充填できるようになってきたんです。また、成分がわかるようになり、特定の純粋な成分だけを充填できるようになったんです。」
デブが口火をきる。
「う~ん、磨き上げておられますね、結晶生成の技術。なるほど、成分の抽出もできるようになったわけですか。その成長ぶりには、小生驚いております。あなたのなさっていることは錬金術の精髄ともいうべきであるがゆえに。
少し提案があります、今度は距離も考えてみてください。召喚元が離れていても抽出できるということは、自然界から自由に望みの物質を抽出できるということであります。奇跡のような技ではありませんか。」
チビが言う。
「とにかくいろんな物質を抽出してみるんだ。いろんな結晶や金属を作ってみるんだ。それができるとほんと凄いよ。」
ノッポも言う。
「結晶や金属だけでなく、液体からも抽出してみるんだ、そうすると薬学の習得だってできるはずだ。」
その後はちょっとした宴会になった夜であった。
翌日からは残った粘土で片っ端から水晶を作っていく。この実験でつかめた魔法の感覚を忘れないようにするためだ。
ちょっとしたテクニックも覚えた。わざと特定の不純物を混ぜるんだ、そうすると結晶に色が付く。紫水晶なんかはこうして作る。
同時にデブの言っていた距離を離す実験・修練もしてみた。
結構いける、10mまでなら可能だ。この距離はもっと伸ばすことができるんじゃないだろうか。
一ㇳ月もすると、屋敷内には水晶の玉がゴロゴロしていて、チビは貴重な素材の在庫が増えたと歓喜狂乱している。
そして、自分の事に気が付いた。初めて結晶を作った時よりもずいぶん楽にできるようになったということを。
夜更けのベッドの中で、自分を鑑定してみる。
火魔法 並み
水魔法 並み
土魔法 熟達
風魔法 初心者
土魔法が熟達に上昇している。水晶の作成が土魔法を鍛えたのに違いない。他の魔法はそれほど上がっていない。
マナの魔法 Lv2(+1) マナ認識Lv4 マナ吸収Lv3 マナ貯蔵Lv2 マナ消費Lv1
精霊魔法 Lv1 魂認識Lv3
悪霊魔法 Lv1 魂認識Lv3
肉体魔法 Lv0 生命認識Lv1
精神魔法 Lv0 精神認識Lv1
時の魔法 Lv1(+1) 時間認識Lv3 高速知覚Lv2 高速思考Lv1
空間魔法 Lv1(+1) 空間認識Lv3 領域操作Lv2 亜空間形成Lv1
質量魔法 Lv1 質量認識Lv3
波の魔法 Lv1 波動認識Lv3
熱魔法 Lv1 熱認識Lv2 発熱Lv1
力の魔法 Lv0 力場認識Lv1
変移魔法 Lv1 変性認識Lv2 水素生成Lv2
召喚魔法 Lv2 個体認識Lv4 形象認識Lv3 質量召喚Lv2
合成魔法 速度認識 抽出 充填
また、例のわけのわからない魔法が強化・増加している。これら魔法のほとんどは使っているという意識は無い。パッシブ・スキルなんだろうか?
抽出・充填は水晶作成で実感している。この魔法は強力だ。でも、抽出・充填が合成魔法になっている。土魔法でなく・・・。
デブの言うとおりに、色々な場所から、色々な対象から、色々な物質を、抽出する修行に励むことにしようと思う。
3人の魔術師は、山の中、森の中、川原、色々な場所に喜んで連れて行ってくれる。そこでいろんなものを召喚・抽出してみるのだ。
そうすると、周囲にどのような物質があるのか、だいたいわかるようになってきたのである。魔眼・心眼の働きと強欲の子宮の分析力によるのだと思う。
また、同時に限界も見えてきた。抽出元との距離は2~30mくらいが限界だ。これを超えても抽出はできるが、効率は著しく落ちる。
それと生物、つまり生体が対象になると、抽出はできなくなる。死体からならできるんだけど。多分、生命力や魂の関係と思われる。
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