第3話 盗賊;胡散臭い仲間達
無茶苦茶なジジイ神に振り回される、なんというブラック派遣人事。
いまとなってはもう愚痴を言ってもどうしようもない。この世界には労働基準局は多分無いだろうから。
仕方がないので、言われたとおりに”親切なおじさん”とかがいる方に向かって歩いていくことにする。
どう考えてもろくでもない運命である。かといって、ふさぎ込んでいても仕方がない、少しでも前向きに、そして現実的に考えて行動しなくては。
そうだ、スキルとかいうものをまず確かめることがまず第一じゃあないか。
まずは”鑑定”だ。これはうまくやると商売につながりそうなスキルではないか。
川沿いの田舎道を歩みながら、道すがら片っ端から鑑定を試して見よう。
川の透明なせせらぎの中では、魚が飛ぶように泳いでいる。
鑑定;ニジマス、おいしく食べられる
道の横に大きな木が立っている。濃い緑色の細い葉が風に揺られている。
鑑定;モミ、常緑針葉樹
そのさきの道端には、初夏の強い日を受けて、うっそうとした草叢がしげり、くさいきれが立ち上がっている。
鑑定;ブタクサ、アレルギーの原因になる草
ふと、足元に目をやると草むす中に大きな石が土に埋もれている。
鑑定;礫岩、堆積岩の一種
空を見上げると、まぶしく光が照り注ぎ、蒼天の中を白い綿菓子のような雲がたくさん流れている。
鑑定;積雲、・・・
あたりは静けさにつつまれ、遠くの木で鳴く鳥の声がひびく。
鑑定;カッコウ、森林や平地に生息する、動物食の鳥。
なんじゃこりゃ、日本とおんなじものばっかりじゃないか。もうちょっとましなものがないのか。いや、知識がないものは鑑定しても出てこないということか。
う~~ん意味がない。
ただ、一生懸命鑑定したせいか、鑑定スキルがレベル3となっている。こんなに早くレベルが上がるのは麒麟児とかいうスキルによるものであろうか。そして、敬虔さと知力が1ずつ上がり、13と16になっている。
おお!努力の甲斐があったではないか。スキルレベルを上げると、能力値も少し上がるらしい。
そして、思い出した。
魔法スキルがあったはずだ!
この魔法スキルで危機を切り抜けて成長し、チートになって、無双する。それがファンタジーの王道ではないか!
魔法スキル
根源魔法
時の魔法Lv0(+2);時間認識Lv1
空間の魔法Lv0(+2);空間認識Lv1
マナの魔法Lv0(+2);マナ認識Lv1
根源魔法!
いかにもチートそうで素敵な名前だ。
まずは時の魔法。
そう、”時間よ止まれ!”。まさしく無双スキルである。
ナニナニ、時間認識Lv1、フムフム。
では発動してみる!
”ただ今、正午から56分すぎた頃です”
えっ・・・、便利だな。時計なしでも時間がわかる・・・。
ただの時計なのか?!
”今日は、春分から2週間たった日です。”
なに、カレンダーも兼ねているのか!。
ナント、スゴイマホウデスネ・・・。
まあいい・・・、
まだ空間魔法が残っている。
ワープして敵の急所に必殺の一撃を打ち込む!それが空間魔法の醍醐味であろう。
逃げるのにも使えるしね。
空間認識Lv1。
発動!
”目の前の木の根元まで2m35㎝です。”
えっ、メジャーなのか!
悔しさのあまり、思わず手に地面の土を握る。
”一握り、48㏄です。”
なっ何だって、計量カップにもなるのか!
・・・・・・。
最後にマナの魔法。
なんだかよくわからない魔法だよ。しかし、よくわからないものが実はチートであった、というのはファンタジー物語でよくある話である。
・・・と言うか、これだけが最後の望みなのだ。
マナ認識!!
・・・、
・・・なにもおこらない。
”アホ~~アホ~~”と遠くでカラスが鳴いているばかりである。
なッ、なんてこった・・・。
詰んだ!。
そして、今、気が付いた。自分の姿格好に。
デ〇ズニーのティン○ー・ベル、例のボンキュボンな妖精の着ているボロボロの超ミニのワンピース、
あれである。あれ一枚なのである。
下着は履いていなくてなくて、下はスポポポーンで・・・。
なにしろ野生のティン〇ー・ベルなのだから・・・。
妖精ならそれでもいいだろう。でも私は等身大の美少女なのだ・・・!。
とってもファンタジーなのだが、現実にそうなってみると、かなりマズい格好である。
これで、”親切なおじさん”と出会ってしまうとどうなるか、考えたくもない。
とにかくこれをどうにかしないと。
立ち止まって、周囲をうろうろ見回してみるも、いい案は出てこない・・・。
戸惑いながらもノロノロと歩いていると、ついに現れた!。
おじさんが。
少し背を丸めて、ちょっと胡散臭げで、暗い色の服装で、髪はぼうぼうの、野生のおじさんが現れたのである。
これはパスしたほうがいい、あわてて道端の木の後ろに隠れようとしたが、見つかったらしい。こっちに向かって歩いてくる。
あわてて、鑑定をかけて人物を調べる。
種族 普人族 名前 ロス・ムンバス 職業 盗賊
年齢 31歳
HP 245 MP 3
種族スキル 学習
短剣 Lv4 投擲 Lv4
だまし討ち Lv3
火つけ Lv3
探索 Lv4
罠 Lv4
詐欺 Lv2
なっなんだ、こいつは。犯罪者に違いないぞこのスキル。アカン、アカンやつや。
ああ、こっちにやってくる、逃げなければ・・・。
「よう姉ちゃん、どうした?そんな恰好で。
盗人はお前だろうが・・・、
腰が砕けて、へなへなと座り込んでしまう。
と、
「どうしたんだ?困ってんだろう。助けてやるから、ホラ何か喋ってみろ。」
何も言えない、うつむいてしまう。
「困ったやつだな、まあいいさ。飯でも食うか?腹が膨れたら、少しは元気になるさ。」
ホラと背中に担いで、ゲットされてしまう。
「すぐそこだ、俺っちの小屋は。まあ、来い。」
道のはずれの木陰に小屋があり、そのままそっちへ担いでいかれる。
小屋の中には、そう、いうなれば囲炉裏があって、小さな焚火の炊く上には大きな鉄鍋がぶらさげてあって、そこからは湯気が昇っている。
蓋をあけて粥を掬い上げ、どんぶりほどもある木の椀に粥を一杯に掬って、渡してくれる。
「ホラッ食いな」と。
少しいいにおいがする。
この世界にきて初めての食事だ。中身は、なんかの肉となんかの山菜と大麦の炊き上げたものらしく、塩で味をつけただけのごくシンプルな麦がゆだ。
木のしゃもじですくって口に入れても、そう、普通に食べられる。
一口入れると空腹に気が付き、あとは夢中でたべる、ひたすら食べる。
一息ついたので男を見ると、鍋に麦やら肉やら野菜やらを足していた。
こうして足しては食い、足しては食い、とつなげているとのこと。
よく飽きんなとも思ったが、腹が満ちてくるとこのおっさんがそれほど悪い奴でもないような気がしてきたから、現金なものである。
「もうじき、仲間が帰ってくるから紹介するよ。」
「仲間?、へ~、あんた達、何してんの?」
と聞くと、このあたりでは、薬草や獣、特に狼の毛皮なんかを採集して、集まったらギルドにもって行くとのこと。
いわゆる冒険者か、
じゃあ、盗賊といっても犯罪者とも限らない。RPGではテクニカルな職業ではないか。
そう思って、
「あんたの職業は何してんの?」
と聞いてみる。
なんと答えるか、これで安心できるかもしれない。
ちょっと考えてから、
「・・・そう・・・ちょいとばかしテクニカルな職業さ!」
この返事は怪しい、怪しすぎる返事が返ってきた。
小屋の戸口からがたがたと戸の開ける音がして、振り向くと、3人が帰ってきた。
鑑定してみると
獅子人族 ガムジン・ジュルー 戦士
30歳
Hp350 Mp2
種族スキル 瞬発
片手剣 Lv4
両手剣 Lv3
盾 Lv3
槍 Lv5
解体 Lv4
普人族 ユルキン・エルロス 魔術師
37歳
Hp240 Mp75
種族スキル 学習
両手杖 剣 採集
火魔法 並み
土魔法 並み
水魔法 並み
ハーフリング ポルテ・ソルミ 盗賊
42歳
Hp200 Mp15
種族スキル 器用な手
短剣 Lv4
開錠 Lv3
罠 Lv5
採集 Lv6
小屋に入ってくると、隅においてある大きな壺に貯めた水をひしゃくですくって、手や顔をぬぐっている。
ようやく、囲炉裏の側に来た頃には、もう鍋の中で粥が湯気を上げており、各々椀に掬って黙って食い始めた。
飯を食い終わると、どぶろくを順番に飲みまわして、ご機嫌となって駄弁り始める。
「もう飽きたな、この飯も。そろそろ、街が恋しいねえ。」
「まあ、そういうなよ。まだ薬草の時期が終わってねえ、もう少し稼がないと。それに狼だってまだ12匹だ。今日は小っけいがイノシシもとれたんだ、当分肉には困らんぜ。」
「そう、それにこんな綺麗なネエチャンも来てくれたんだし、頑張らねえと罰が当たるというもんだ。」
どぶろくを飲んで少し赤くなった顔をこちらに向けて、ニタ~と笑う。
ハーフリングがやれやれといった表情で肩をすぼめると、
魔術師のユルキンは、
「お前はサイズが違うんだかもしれんが、俺らにはちょうどいいんだよ!」
というと立ち上がり、残りの2人も立ち上がって、私を取り囲み・・・・、
そのまま、小屋すみに積み重ねた麦わらの所へ引きずっていって、
一人が手をおさえ、一人が上着を捲り上げ、もう一人がズボンを下してかぶさってくる。
初日でレイプだ!暴れてみるも詮無く、次々と交代で・・・。
こいつら、前の奴のぶちまけた中を、気にならないのか!
まさしく野獣としか言いようがない奴らだ!。
こちらが呆然としてる中、する事が済んで満足した連中は、何の悪びれもなく既に高いびきをかいて眠っている。
”寒いだろ、”と言って渡してくれた蓆(むしろ)を体に巻き、小さな窓から外の夜空を眺めると月が2つ輝いていた。
なんでこんな目に合わないといけないのか。情けなくて涙が出てくる。
悩んでも仕方ないか・・・、もう一度自分を鑑定してみる。
種族 ハイエルフ 名前???
年齢 17歳
HP150
MP1000
能力値
筋力 9
耐久力 9
素早さ 11
器用さ 15
敬虔さ 19
知力 24
カリスマ 12
特別スキル
不動心
種族スキル
麒麟児
瞬発
学習
固有スキル
嫉妬の魔眼Lv2;鑑定Lv3・遠視・透視・転写
強欲の子宮Lv2;探求Lv2・複写
スキル
火魔法 初心者
土魔法 初心者
マナの魔法 Lv0(+2) マナ認識Lv1
時の魔法 Lv0 (+2) 時間認識Lv2
空間魔法 Lv0(+2) 空間認識Lv2
合成魔法 速度認識Lv1
片手剣 Lv1 両手剣 Lv1 盾 Lv1
短剣 Lv1 投擲 Lv1
火つけ Lv1
探索 Lv1
レイプされたあげく、スキルが増え、能力値も上がってるのに気が付いた。強欲の子宮の力とはこういうものらしい・・・なんてこった。
・・・・・・
翌朝、みんながぞろぞろ起きてきて、硬いパンと鍋の残り汁をスープにした朝飯を終えると、まず、話し合いとなった。私の扱いについてである。
昨日の夜の事はなんと酒で酔っぱらってしまったためということである。
「30過ぎの男盛りが一月近く森に籠ってきたんだ、少し酒も入ってほろ酔い加減になったところに、太腿も露わな可愛い女の子がいたら当然そうなる、ならないとおかしい、むしろ女性の美貌に対する冒とくというもんだ!」
まさに一方的な男の都合というものである。
こんな身勝手な理屈に、皆;つまり加害者の連中である、一致して、なんと!『仕方のなかった事』と決定する。
ただ、今後はあのようなことがあってはいけないと、日毎に順番で一人づつということになる。
なんだって!、それで反省してることになるのか!野生のおっさんとはそういうものなのだ、冒険者などと言っても無頼の徒であり、所詮そういうやつらなんだ。
読者諸氏においては若い女性もおられるかもしれないが、冒険者でなくとも男とはこういうものであり、よくよく気を付けるよう老婆心ながら忠告しておきたい。
で、とにかく私の服装をどうにかしようということになり、各自、古着を提供してくれることになった。
上はシャツ、下はズボンであるが、いかんせんサイズが大きい。
まず、胸をさらしのような布で巻き付け、締め付けてしまう。
シャツの袖は袖口を折り、大きく余った丈はズボンの中に押し込む。
ズボンには太いバンドが付いていて、これを腰で締めると、下は袴のように膨らんでしまうが、膝から下の足元はズボンのすそが余って邪魔になるので、ゲートルのような布でぐるぐると巻いてしまう。そのまま足首から足まで巻き付けてしまうので、なんだかサポーターの様でもある。
このゲートル+サポーターの上から、草鞋とサンダルの合いの子のような革の履物を履く。長いひもが付いていて、足・足首・脛にこの紐を巻き結ぶ。
これで御衣装の出来上がりだ。
このあたりは日本でいえば東北ぐらいの気候なんだろうか、初夏の割には少し涼しい。それでも、この服装ではちょっと暑いと思う。
そう訴えると、
「いや森では藪の中にも入る、暑いとかいう前に、しっかり着ておかないとダメなんだ、ケガしてしまう、」
と。
どうやら、今日は森の中に連れて行くらしい。
それぞれ大きな籠を背負い、中には昼食のパン・採集やら解体の道具・蓑なんかが入っている。ほかの面々は腰に剣やら短剣を履き、手には短槍や弓も持っている。私は籠は背負うものの両手は手ぶらだ。
こうして森の中を進むも、目はキョロキョロと周囲・足元を見回しながらで、足取りはのんびりで、なかなか進まない。
一人がしゃがみ、何やら草を指さして、"こっちに来い"と呼ばれた。
行くと、
「これがニモ草と言って薬草の一つだ、根っこから掘り返して丁寧に採集するんだ、乾燥して持って帰ると金になる。」と。
別のところでは、腐葉土に隠れたキノコを目ざとく見つけ、
「こいつも丁寧にとって。ムール茸といって薬の原料として売れるからな、」と。
次は、大きな木の下に行き、
「こいつを今晩の晩飯にしようか。」と。
木を食うわけではない、木に巻き付いたツル植物、この根本(ねもと)を掘り始める。半時間ほども掘って、太い根っこをきれいに取り出し、”今日はこの芋を炊くぞ!”。
特別な料理をするのかというとそうでもないらしい、麦の代わりに芋を切って放り込み、芋粥なんだそうだ。自然薯(じねんじょ)のような物か。おっさんの料理なんてその程度である。
ところで、ここで魔眼の効果を知ることになる。一度(ひとたび)教えてもらった薬草やキノコが勝手に目に飛び込むように見つかるのだ。まるで、欲しいものに目印がついているように。
「あそこにある、向こうにもある、」
と、指をさして教えると、
「お前さん、薬草採りの才能あるな。」
と、言われてしまう。
魔眼は単によく見るだけでなく、探すという能力が付加されているらしい。
森を抜けると、くさ原が開けていた。
ここが一応の目的地で、私は薬草の採集をするように言われ、おっさんらは弓や槍をもって、四方に分かれていく。
一人残され、先ほど教えられた薬草がないか、周囲を目をうろつかせて探している。
静かだ・・・、風の音や鳥の鳴き声しか聞こえない。
突然、ハーフリングの盗賊:ポルテの行った方から何匹かの獣の吼える声が、そして指笛が鋭く鳴り響き、残りの3人がそちらのほうへ走っていく。
向こうのほうでは怒声とうなり声がしばらく騒いでいたが、やがて鎮まり3体の狼の死体を引きずって4人が戻ってきた。
前日に仕掛けていた罠に足を取られていた狼と周囲で見守っていた群れの狼を狩ったのだ。
「大漁大漁!。」
戻ってくるとご機嫌で解体を始める。狼は毛皮が第一の売り物とのこと。丁寧に皮を剥いでいく。そして、刻んだ肉片を今日の昼めしにと渡してくる。私は、焚火を炊き、鉄鍋に渡された狼の肉を香草とともに放り込んで昼ごはんの用意をする。
種火を付けたり、鍋に水を入れたりは魔術師が魔法でサッとやってくれるので、とても便利だ。
魔法を発動するとき、魔術師の全身がぼんやりと光り、次に手元が強く光る、火をつける時は赤く、水を出すときは青く。
これは、他の人では見えていないらしい。どうやらこれがマナの魔法:マナ認識の働きなのだろうか。
それにしても、なんか朝飯とよく似た昼飯なんだが、みんな文句も言わずに楽しそうに食っている。連中にしたら毎日のことなんだ、
「ハッハッハ、楽しいだろ!、」
無駄にボケてる。
「オメーじゃねえんだ、ねーちゃんが楽しいはずはなかろう、」
別のおっさんがツッこむ。
「狼の肉は臭くて固いんだ、腿や背中のとこがまあ食えるくらいさ、」
そう言って串焼きにした狼の焼き肉を喰らう。あたりには、焼いた肉の香ばしいにおいが広がり、さながらバーベキューをしている様。
その時、ふとハーフリングの盗賊;ポルテが、風上を見つめる。その様子を見て、他の3人も腰をあげた。
ポルテは見つめていた方向の地面に素早く罠を置き、残り3人は武器をもって周囲に散る。
何が起こったのか!、
呆然として見ていると、20メートルほど先の草叢から大きな獣が現れた。
熊だ!。
こちらに向かって突進してくる。腰が抜けて立てない。
熊は3~4メートル程まで近づいて、いきなりひっくり返る。罠にかかったらしい。熊はそこで立ち上がって、大声で吼えて威嚇してきた。
「ヒ~~」
私が腰を抜かしてのけぞった瞬間、熊の背後からその首に縄の輪が飛び、首が絞まって引っ張られる。
同時に魔法なんだろうかいきなり熊の足元の土がほれ込み、熊の下半身がこの穴に落ちて上半身は煽り返った。
その時、
「キェー!、」
後ろから獅子族の戦士ガムジンが槍を突き出して吶喊してきた。
ドンッ、
槍先は、熊の胸を見事に刺突。槍は熊の胸に突き刺したまま、ガムジンは私を引きずって後ろに下がり、剣を構えて警戒しながら様子をうかがう。一方、熊はそのまま倒れて痙攣している。
「やったか!、心臓一突きか!いつもながら惚れ惚れするよ、あんたの槍は!」
熊はしばらく痙攣していたが、じきに動かなくなった。
警戒しながらも死んでいるのを確かめると、オッサン達は手分けして、すぐに血抜き・皮剥ぎ・はらわたの腑分けを始めた。
「こいつは、山森熊と言うんだ。毛皮が高く売れてな、だからできるだけ傷つけないようにやらなくちゃいかん。肝臓と胆のうもいい値段で売れるんだぜ~。肉もうめえんだ。」
そう言って、腸や肺などいらないはらわたを地面に埋めてしまい、肝・胆・心臓を獲物入れの袋の中に収める。
「さあ、今日はこれでおしまいだ。」
・・・、まだ昼飯を食っていかほどにもなっていないのだが、獲物が十分なのでそんなものらしい。
大漁の獲物の入った籠を担ぎ、皮剥ぎにされた熊を棒につるして2人で担ぎ、元来た道を今度は足早に帰る。
根城にしている小屋に戻ると、さっそく獲物の処理を始めだした。
生の内臓や肉はそのままでは腐ってしまうので、ロス:オッサンの盗賊は、横の小さな燻製小屋に持ち込んでゴソゴソと解体やら塩漬けやら燻製やら、色々とやっている。別のオッさんは、採った薬草やキノコを丁寧に干している。
私は早々に手を洗い、言われたとおりに熊の脛肉にどぶろくと塩を揉みこんで鍋に放り込み、囲炉裏の火を起してこれをぐつぐつと煮込んでいる。
鍋の中身は継ぎ足し継ぎ足しして、粥がスープになって、今度はシチューに変るのである。
熊の肩の肉の柔らかいところは適当に塩をまぶして串に刺し、焚火の横で炙り、串焼きの焼き肉となる。例の芋は、最後に放り込んだ。
今晩は、連中なりにごちそうなのだ。
獲物の後処理の作業も終えて、囲炉裏の周りに4人が集まると晩餐が始まる。
もりもりとひたすらに喰い、食事中は静かなものだ。
用意した料理:いや、そんな上品なものではない、喰い物(くいもの)というべきだ、を平らげてしまい、みんな満足したようだ。ご機嫌で食後のどぶろくをやっている。
「オウ、今日はいい日だった、俺たちと居てよかったろう。」
「そろそろ、自己紹介しようぜ。」
そういうと右手の甲を差し出し、ホレッ、と。
じっと見ていると、
「ホラ、身分証明だよ。」
こちらの手を取って自分の手の甲の上に合わせる。
種族 普人族 名前 ロス・ムンバス
職業 盗賊 身分 平民 ウェルシ公国出身
犯罪歴 なし
と、頭の中に出る。
他の3人もそれぞれに、見せてくれた。鑑定で見た結果とほぼ同じだが、身分と出身と犯罪歴が新たに出て、スキルが出ない。戸籍・身分証明のようなものか。
「マズいな、私はどうなるんだ」
と思って躊躇していたが、いきなり、力づくで私の手を取って甲に重ね、身分証明のステータスを見る。
と、驚いて・・・、
「なんだこりゃ」
「ハイエルフって聞いたこともないぞ、それに、名前もない、身分もない、出身もない、何もないじゃないか。」
「お前・・・、一体なにモンだ!」
・・・・・・
次の日は近所で薬草の採集をしたり、これまでの獲物の処理をしたり、小屋の周辺をうろつくばかりだった。ハーフリングのポルテがいつの間にかいなくなっている。その次の日も、そのまた次の日も・・・。
そしてその次の日、小屋の前に馬車がやってきた。
馬車といってもわらの積み上げた荷馬車で、そこにポルテとちょっと眼付きの悪い男が一緒に乗ってきたのである。
目つきの悪い男が、似合いもしない笑顔を作り、野生のおっさん達に語りかける。
「やあ、初めまして。極上の獲物を手に入れたとかで、さっそくやってきましたよ。」
「お~~い、」
と、呼ばれそちらに行くと、私の方をジッと見ている。
そして、右手の甲を差し出し、
「初めまして・・・。」
と。
何者かと思って、鑑定すると、
種族 普人族 名前 ガスパン・ドルチェ
職業 サンドラ奴隷商会 手代
犯罪歴 誘拐未遂 5年懲役
えっ、この犯罪歴は?
疑問に戸惑ったのは一瞬であった。
今度は、いきなり私の右手を握って強制的に身分鑑定をしてしまう。
そして、
「確かに・・・。」
そういってニヤリと笑う。
と、次の瞬間、頭の上から大きな麻袋がかぶさり、その上から縄でぐるぐる巻きにされる。
麻袋の中でパニックになっていると、袋のてっぺんを切り裂いて頭だけを出して、口輪をかませ、そして、ヨイショと担がれて、荷車の上にホイっと積み込まれてしまい、
「確かにハイエルフの上玉、金貨50枚支払いますよ。いい買い物だ。」
・・・・・・・
奴隷商に売り飛ばされた!!
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